大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・栞のセンチメートルジャーニー・4『ふるさと』

2018-07-26 07:11:13 | 小説3

栞のセンチメートルジャーニー・4
『ふるさと』
    


 気がついたら、一面の菜の花だった。

「いったいどこなんだろう?」
「栞に分からんものが、オレに分かるか」

 前回はいきなり、昭和三十一年の秋。それも栞が堕ろされた病院のすぐ側、O神社の近くに飛ばされ、栞が堕ろされる状況を追体験してしまった。
 どうも、この地図と年表は、使いこなすのが難しいようで、栞がフト頭に浮かんだ場所。時代に行ってしまうようだ。げんに今、栞は「いったいどこなんだろう?」と他人事のように言った。

「田舎の話してたんだよね」
 栞は、菜の花を一本もてあそびながら、遠足のような気楽さで歩いている。
「ここ、お母ちゃんの田舎じゃない?」
 そう言われて、周りを見渡すと、母の田舎である蒲生野とは、いくぶん様子が違う。遠くに見える山並みが、幾分いかつく。蒲生野特有の真宗寺院を中心とした、村々が見えない。ところどころに灌木に混じって白樺のような木々が立ち上がり、ちょっとした林になっている。林の彼方には茅葺きの家がたむろした村が見えるが、蒲生野のように、家々が肩を寄せ合うような集村ではなかった。道も畦道ではなかったが、道幅のわりに舗装もされておらず、電柱も……送電鉄塔さえ視野に入らない。
 

 名の花畑に 入り日薄れ 見渡す山野端 匂い淡し 春風そよ吹く……♪

 栞が『朧月夜』を歌っていると、一瞬風が強くなり、ソフト帽が転がってきた。
「お……」
 反射神経の鈍いわたしは、広い損ねた。
「ほい」
 栞は、菜の花で、ヒョイとすくい上げ、帽子は、道の脇を流れる小川に落ちずにすんだ。
「やあ、助かりました。ありがとうございます」
 信州訛りの言葉が追いかけてきた。
「はい、どうぞ」
 栞は、帽子の砂を払って、信州訛りさんに渡した。
「どうもです。いやあ、セーラー服なんですね。ハイカラだ、都会の方なんですね」
 この言葉と、周りの様子、そして信州訛りさんのスーツの様子から、大正時代以前だと踏んだ。
「ええ、東京の方です。素性はご勘弁願いたいんですが、怪しいものじゃありません」
「ご様子から、華族さまのように……いえいえ詮索はいたしません。東京の方が、こんな信州の田舎にお出でになるだけで、嬉しく思います。あ、わたし、永田尋常小学校に勤めております高野辰之と申します」
「高野さん……」
「しがない田舎教師ですが、いつか東京に出て勉強のやり直しをやろうと思っています」
 大人びてはいるが、笑顔は少年のようだった。高野という名前にひっかかったが、調子を合わせておいた。
「あれは、妹ですが、ちょいと脳天気で……」
「失礼よ、お兄様。わたくし栞子と申します。兄は睦夫。今上陛下の御名から一字頂戴しておりますけど、位負けもいいところです」
「それは、それは……いやいや、そういう意味ではなく」
「ホホ、そういう意味でよろしいんですのよ」
「あ、いや、どうも失礼いたしました」
 高野さんは、メガネをとって、ハンカチで顔を拭いた。向学心と愛嬌が微妙なバランスで同居した顔だった。
「高野さん、ここは、まさに日本の『ふるさと』という感じですね。わたくし、感心……いえ、感動しました」
「それは、信州人として御礼申し上げます」
「兎を追ったり、小鮒を釣ったり、名の花畑に薄れる入り日……山の端が、なんとも……」

「「匂い淡し」」

 二人は、この言葉を同時に口にして、若々しく笑った。

 それから、高野さんは、信州の自慢話を、本当に楽しそうに語った。しばらくすると、道の向こうから高野さんのネエヤが、高野さんを呼ばわった。
「これは、とんだ長話をしてしまいました。それでは、これでご免こうむります」
 高野さんはペコリと頭を下げると、少年のような足どりで菜の花の中に消えた。

「栞、どうして栞子なんて言うたんや」
「だって、この時代、華族さまの娘なら、子の字が付いてなきゃ不自然……見て、山の上に朧月が出た!」

 戻ってきてから気が付いた。高野辰之は『ふるさと』や『朧月夜』『春がきた』などの国民的な童謡を作った人だ。

 栞は知ってか知らでか、ずいぶん作詞のヒントを与えたようだが、平気な顔をしてゲ-ム機に取り込んだ童謡を聴いている。ボクは、その印象が薄れないうちに、この短文を書いているが、しだいに朧月のようにあやふやになっていく……。

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高校ライトノベル・秋物語り2017・7『もう一人のサトコ』

2018-07-26 06:58:25 | 小説4

秋物語り・7
『もう一人のサトコ』
        

 主な人物:サトコ(水沢亜紀=わたし) シホ(杉井麗) サキ(高階美花=呉美花)


 完ぺきなプロポーションには威圧感があることを、初めて知った。

 そして、その上に完ぺきな小顔のモテカワの首が乗っかってる。でもって、手を腰に当てて、小首傾げて、口を少し斜めに歪めてんだから勝負にならない。

「あんたたちね、うちと紛らわしい名前の店のバーテンダーは?」
「あ、あの、失礼ですが、あなたは?」
「新顔から名乗るのが、この街のしきたりよ……」
「あ、あたしたち『リュウ』の……わたしがサトコで、この子がサキ、横のがシホです……あの、よろしくお願いします」
「ああ、あんたがサトコか」
「でも三文字は長いんで、三日ほど前からは、トコになっちゃいましたけど……」
「ハハ、長すぎるか。で、トコ。よしよし、ま、いいだろ。あたし『リョウ』のサトコ。よろしくね」

 小顔のナイスバディーが手を差し出してきた。AKBの握手会みたいに、短い握手を交わした。

「あんたたち、東都短大の現役なんだって?」
「え、ええ。夏休み利用して、えと、体験学習です」
「体験学習!?」
「は、はい」
 三人の声が揃って、盛大に笑われた。
「おっちゃん、双左右衛門町に体験学習ってのは、笑っちゃうわよね?」
 店のオッチャンが、どっちつかずの笑い声を返してきた。
「あたしも東都短大なんだ、二年前に卒業しちゃったけどね」
「え~ そうなんだ!」

 正直ヤバイと思った、なんたって、わたしたちは立派なガセなんだから。

「いやあ、学生時代は、あんましいい思いでないから、あたしが話題にしないかぎり、あんまし言わないでね」
 YAHOOで覚えた東都短大の話をすると、意外にも向こうの方から、話を打ち切ってくれた。
「あたし、フェリペから東都、なんか力抜けちゃってさ。渋谷うろついてたらスカウトされちゃって、この道に入っちゃって、もう学校の倍くらいは、この仕事に身い入れちゃってる。去年『リョウ』に移籍して、AKBにとっての乃木坂みたいなもんでね、最初むくれてたけど、任せられちゃってさ。自分で仕切るっておもしろいよ」
「仕切ってるんですか!?」
「うん、マネージャーは、いるんだけどね、若い人相手には、若い感覚がいいってことでね。新人の面接とか、シフト考えたり、この春は、店の改装までやっちゃった」
「すごいんですね!」
「ずっと、この道でやっていこうと思ってるんですか?」
 ガールズバーに一番関心が高いシホが身を乗り出した。
「まだ分かんない。今は、面白いからやってるけど、ガールズバーって業態がいつまで持つか分かんないしね」
「でも、考えてはいるんですよね?」
「あんた、はまりそうな顔してるけど、こういうオミズは、先を読む力がなきゃ、一生の仕事にはならないわよ。あ、ブタタマ焼きすぎ、かえさなくっちゃ。ちょっとテコ貸して……ヨッ!」

 かけ声と共に、器用に三枚のお好み焼きを返していった。

「あたしはね、こういうの経験して、将来は別の仕事やろうかなって、思うわけよ……あ、かえしたら、あんまり触んない。もんじゃ焼きじゃないんだからね」
「別の仕事って?」
 サキが聞いた。仕事に興味があるんじゃなくて、サトコって人に興味を持ったようだ。
「それは、ナイショ。言ったら夢が逃げていきそうでさ。ま、女の盛りは長くなってきちゃったからさ、昔みたいにハカナムこともないんだけどね、その盛り盛りに合ったことしてゴールにつきたいわけ」
「ひょっとして、玉の輿?」

 アハハハハハハハハハ

 サトコさんが、大笑いした。店のオッチャンと、店の仲間らしい女の子たちまで笑い出した。
「サキちゃんて、かわいいね。シホちゃんの背伸びもいいし、トコちゃんのつかみ所のないとこもいい」
 短時間だけど、サトコさんは三人の個性をよくつかんでいる。学校の先生にも、こういうところがあればと思った。
「最初はね、ちょっと警戒したんだ。似た名前でリュウさんてのがガールズバー出すって聞いてさ、スパイも送ったんだよ。で、真っ当な店で、そこそこのとこでさ、双左右衛門町のガールズバー全体の集客に役立ってるって、今のとこ判断してる。共存共栄でいきましょう。さ、焼けたわよ。久々に東京弁同士で話できて嬉しかった。じゃ、またね」

 サトコさんは、お仲間を連れて店を出て行った。なんか迫力負け。あとは、モソモソ三人で食べた。

「オッチャン、お勘定!」
「あ、サトコちゃんにもろてるよ」

 これが、サトコさんからの、最初の借りになった……。

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