大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

シニアライトノベル・栞のセンチメートルジャーニー『おひさしぶり』

2018-07-23 07:14:30 | 小説3

栞のセンチメートルジャーニー
『おひさしぶり』
    


 幾つかの原因がある。


 年末から続いていた寒さが、急に緩み、四月上旬並の上天気になったこと。
 蔵書点検のために、五日間図書館が休んでいたこと。
 カミサンが「ついでに、アタシの予約本も取ってきて」と、図書カードを渡したこと。
 そして、わたしの気が緩んでいたこと。

 最後の「気の緩み」から説明が必要だろう。

 わたしは、五十五歳で早期退職をしてからは、家で本ばかり書いている。書いてはブログのカタチでアップロードしている。
 昨年の秋、六年ぶりに紙の本を出した。これが、あまり売れない。それが、昨晩旧友が「ネットで発見して、楽天に注文した」とメールを寄こしてきた。横浜の高校も、わたしの戯曲を上演したいとメールを寄こしてきた。で、ああ、オレも物書きのハシクレなんだと目出度く思ってしまった。

 本を書くことをアウトプットだとしたら、人の本を読んだり、映画を観たりすることはインプットである。しかし読むのが遅く、戒めとして、図書館で本を借りるときは、二冊を超えないようにしている。
 蔵書点検明けの図書館は混んでおり、カウンターの前は、ちょっとした行列になっていた。行列はバーゲンと同じように勢いがある。
「お願いします」
 カウンターに二枚の図書カードを置くと、「少々お待ち下さい」と言われ、数十秒後には六冊の本が出された。

――あいつ(カミサン)五冊も予約しとったんか!?――

 で、つい、カウンター横の新刊書を、装丁だけで選んで二冊加えた。その時セミロングの女子高生が、数冊の本を返しにきたのとゴッチャになった。
「あ、こっちがわたしのんです」
 女子高生と、司書の女の人は手際よく本を分けて、処理を済ませた。

 家に帰って、袋から本を出し、カミサンのと自分のとに分けた。本に間違いはなかったが、一枚のシオリが混じっていた。
 たまに借りた本の間から、前の借り主のシオリが出てくることがある。カミサンは嫌がって捨ててしまうが、わたしは気にせず使って、読み終わったら挟んだまま図書館に返す。

 そのシオリは、本と本の間から出てきた。

 まあ、同じようなものだと思い、炬燵の上に本といっしょに置いておいた。そして、いつものようにパソコンで日刊と、勝手に自分で決めた連載小説を打っていた。
「どないしょうかな……」
 ささいな表現で止まってしまった。
「『そして彼女は』か……『そのとき彼女は』どっちかなあ……」
 その時、パソコンの向こうから声がした。
「『やっぱり彼女は』だよ」
「ん……?」

 パソコンのモニター越しに、座卓がわりの炬燵の向こうを覗くと、そいつが居た。

「おひさしぶり」
 
 セーラー服のセミロング。その定番の姿で妹がいた。

 この妹は戸籍には載っていない。で、わたし以外には姿が見えない。
 わたしは、三つ上の姉と二人姉弟である。ずっと、そう思っていた。しかし、わたしが高校三年生の時に、父が言った。

「……おまえには、三つ年下の妹がいたんや」

 その日、担任が家庭訪問をして「卒業があぶない」と言って帰った。わたしは、すでに二年生で留年し、修学旅行を二回も行き、五月生まれなもので、わたしは、すでに十九歳であった。
「あのころは臨時工で、収入も少なかったし、先の見通しも立てへんよって、三月で堕ろしたんや」
 父は、わたしの不甲斐なさがやりきれなかったんだろう。だから、こんな痛い言い方をした。
 わたしは、姉によく似た高校一年生の妹の姿が頭に浮かんだ。

 姉は、わたしと違って、勉強も良くでき、親類や近所では評判が良かった。高三のときは、担任から大学への進学も勧められていた。しかし、わたしを大学に行かせるために、姉は高卒で働いていた。
 痛む心に浮かんだ妹の姿は、そんな姉を、少しこまっしゃくれた感じにした印象だった。わたしの生来のずぼらさや、意気地のなさをせせら笑っているような姿形で浮かんでくる。

 こいつが、早期退職して間もないころ現れるようになった。
 今と同様、文章の言葉に悩んでいるとき、炬燵の向こう側に現れた。両手両足を炬燵につっこみ、炬燵の天板にアゴを乗せ、「バカ……」と一言言って現れた。

 若干の混乱のあと、妹であると知れた。知れたとき、また「バカ……」と言った。

 ミカンの皮を剥きながら名前を聞くと、こう答えた。
「栞(しおり)」
 ……人生のここ忘れるべからずのための栞である。

「兄ちゃんばかだからね」

 そう言いながら、気まぐれにヒントやアイデアをくれ、あとは仕事場を兼ねたリビングで遊んでいる。栞にとっての遊びは、乱雑にした本の整理をしながら、気に入った本を読むことである。時に気持ちが入り込んだ時はボソボソと音読になり、突然笑ったり、泣いていたりする。それが面白くニヤニヤと笑って観てしまう。それに気づくと「バカ」と、口癖を言う。
 ある日、車のコマーシャルで、長崎の『でんでらりゅうば』をやっていて、それが気に入ってやりはじめた。役者をやっていたころ、基礎練習で、これをやったので、わたしは容易くできる。それが悔しいのだろう「でんでらりゅば、でてくるばってん……」と続けていた。

 気が付くと『でんでらりゅうば』が聞こえなくなり、居なくなった。で、それがまた現れた。

「おひさしぶり」 今度は、かなり絡まれそうな予感がした……。

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高校ライトノベル・秋物語り2018・4『ガールズバー リュウ』

2018-07-23 06:53:22 | 小説4

秋物語り2018・4
『ガールズバー リュウ』
        


「えー、あんたら、ほんまに来たんか!?」

 これが第一声だった。


「来いつったのは、リュウさんの方だよ」
「……しゃあないなあ」
 お調子者だが、気の弱そうなリュウさんが頭を掻いた。

 で、わたしたちサトコ(わたし=亜紀)シホ(麗)サキ(美花)三人の大阪での落ち着き場所が決まった。
 落ち着き場所とは、二つの意味がある。働き場所と、寝泊まりするところである。

「あ、シゲさん。いま女の子三人スカウトしたよって……むろんゴトやがな。んで、ドヤなんとかしたってえな。え、シゲさん自身来てくれんのん。そら心強いわ!」
 どうやら、ゴトが仕事で、ドヤが寝泊まりするところであると見当がついた。
「そやけど、レイちゃん、よう決心したなあ」
「そりゃ、アゲアゲ気分のときに一気にやらなきゃ、こんなことできないよ。で、ほかにお仲間いるの?」
「お仲間?」
「女の子よ。狭い店だからさ、まあ、シフト考えても五人が限度」
「ああ、まだ一人だけ。夕方には紹介するわ」
「じゃあ、あたしらが来て正解じゃん。あ、この子がサキ、向こうがサトコ。同じ東都短大の一年てことになってる。ほら、学生証、出す出す」
 わたしとサキは、ハーパンの後ろから学生証を出した。
「……ようでけてる。高こついたやろ、保険証は安うできるけど、学生証は高いで」
「坂本興産のリュウさんのアシストって言ったら、二日で作ってくれた」
「え、オレの名前出したんか!?」
「イザってときは、そう言えっていったじゃん」
「これは、イザやない。ああ、またオトンに怒られるわ……」

 と、かくして、わたしたち三人は、どうやらできたてらしい『ガールズバー リュウ』で働くことになった。

    

 お昼は、お店の近所にある、お好み焼き屋さんに連れていってもらった。
 途中ひっかけ橋の異名を持つ戎橋を通った。目の前に名物のグリコのバンザイゴールの看板があった。
「リュウちゃん、シャメ撮ってよ」
「ああ、ええよ」
 リュウさんは、気軽に引き受けたが、なかなかアングルが決まらない。
「早くしてよ、暑いんだからさ!」
 麗……いや、シホがタンクトップの胸をパカパカしながらせっついた。気づくと、橋にたむろってる男の子たちがチラ見しているのに気づく。やっぱ、ビミョーに大阪の女の子とは違うオーラがあるんだろう。東京じゃどっちかっていうとくすんでるわたしは、晴れがましいような、ハズイような、ビミョーな気持ち。

 橋を渡り終えると、ポリボックスがあって、中のお巡りさんが一人出てきた。

「おう、リュウやんけ。昼間からマブイ子三人も連れて、ええ身分やな」
「あ、秋元さん。この子ら、うちの従業員ですねん。今日から働いてもらうんで、昼飯です」
「たしか双左右衛門町のネキやったな」
「ネキちゃいます。ちゃんと双左右衛門町です。あ、お世話になってる秋元警部補さんや、挨拶しとき」
「吉田志穂です。よろしく」
「田中咲です……」
「あ、氷川聡子です……」

 秋元警部補は、恵比寿さんのような、でも光のある目で、わたしたちを見た。

「あんたら、関西の子とちゃうなあ」
「ええ、東京です」
 意外に美花……サキが自然な感じで言った。
「東京か、サミットでかり出されて以来やなあ。で、君ら干支は?」
「あ、みんな子年(ねどし)です」
「十八か……」
「わたしは、もう五月で十九になっちゃいましたけど」
「かいらしい盛りやのう。リュウ、オトンに迷惑かけんなよ。わかっとんな」
「そ、そらもう。ボクはカタギでいきまっさかい」
「ハハ、ほんなら、オトンはカタギやないのんけ?」
「秋元さん、冗談キツイわ。坂本興産は立派な株式会社でおま」
「まあ、風営法守って、あんじょうやりや」
「はい、そら、もう。ほんなら」

「う~ん、ガチ美味いよ!」

 シホ(麗)がマジで喜んだ。シホは食べ物にうるさい。と言っても、セレブじゃないんで、銀座や六本木の高級レストランなどへは行ったことがない。わたしは、お父さんの見栄で、フランス料理に一回いった。さすがにホアグラなんか美味しいと思ったけど、シホはきっと美味しいとは思わないだろ。なんたって、好物は学校の食堂のカレーうどんなんだから。
 そのかわり、B級ってかジャンクってか、そういう食べ物にはうるさい。ハンバーガーのパテの素材が変わっただけで「値段そのままで、味おとした」と言うぐらいである。
 わたしたちが行った時間帯は、いわゆるランチタイム。店が引けた後なんかに来ると、このあたりの風俗の女の子がよく来るそうで、それも、わりとマットーな子が多いらしい。
「これがよ、この『雪月花』 で、こう広げていくと、似たような店がこんなにあるけど、今から言うところは出入りしたら、あかんで」
「なんで?」
「裏のプロが出入りしよる。良くも悪くも目えつけられたらろくなことないさかいな」
 リュウさんは、真剣な目で言った。
「あほ、メモなんかとるんやない。目えで覚え、目えで!」
 メモをとろうとしたサキ(美花)を叱った。

 食後に焙じ茶飲んでたら、リュウさんのスマホが鳴った。どうやらお迎えのシゲさんのようだ。

「いやあ、わりにいいじゃん! ワンルームのすし詰め覚悟してたのにさ」

 案内されたのは、東成区のコジャレたマンションだった。さすがに、新築じゃないけど、内装なんかやりかえて、畳やフローリングまで張り替えてあった。
「いずれ、分かることだから、あらかじめ言うとくけどな。前の住人、ここで刺されて死んだんや」

「「「えー!!!?」」」

 三人同時に声が上がった。
「まあ、まあ、まあ……」
 シゲさんは、ビビるあたしたちを、優しく制した。
「刺されたんは、ここやけど……」
 と、わたしの足もとを差した。
「ヒエー!」
 自分でも分かるほど、ブスな驚き方をした。
「「「エンガチョ、エンガチョ」」」
 あたしは、両手の人差し指と親指で輪を作った。
「エンガチョ切った!」
 シホが、エンガチョを切ってくれた。
「死によったんは、病院やさかいな。安心しい」
「ア、アハハハ……」
 流れる汗は、暑さのせいばかりではなかった……。
「せやけど、エンガチョて、ほんまにやるんやなあ。わしは『千と千尋の金隠し』のオリジナルや思てた」
「うん、東京じゃ、やってる」
「で、金隠しじゃなくて神隠しだから」
「ハハ、シャレで言うてんねんがな、シャレで」
「なんだ、オヤジギャグかよ」
「ハハ、オヤジか……これでも若頭……いや、営業部長や。いちおう名刺渡しとくわな」
 シゲさんは、名刺を渡しながら、真面目な顔になってきた。
「どうかしたんですか?」
「いや、オレから言うのもなんやけどな、リュウぼんのことよろしゅうな。くれぐれも真っ当な素人にしてくれ言うて、ぼんのお父さんお母さんからも言われてるさかい、頼んだで。ほな、おっちゃん夕方に迎えにくるさかい、それまで、昼寝なとしときいや。夜行バスやったんやろ。あ、バス・トイレはあっちゃ」
 と、下手なギャグで締めくくって、シゲさんは行ってしまった。

 わたしたちの、夏が始まった……。

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