大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

馬鹿に付ける薬 004・ブーツに保革油を塗る

2024-08-03 15:20:51 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

004:ブーツに保革油を塗る 




 ザクッ ザクッ ザザ ザ ザクッ ザザ ザクッ ザクッ

「これは荒れ野というよりは……荒れ地だなあ……」

「気を付けていないと……足を挫いてしまうかもしれないわ……」

 荒れ野の道は大小の石が混じっていて、学校の通路や中庭を歩くようなわけにはいかない。

「今のうちにブーツに油を塗った方がいいぞ」

「そうね、始まりの町に着くまでにブーツが破れちゃかなわないわね……保革油はあったかしら」

「……五回ほどスクロールすると出てくる、82番だ」

「あ、うん。あったわ」

 ゴシゴシ キュッキュ ゴシゴシ キュッキュ ゴシゴシ キュッキュ

 油を刷り込みながら振り向くと、荒れ野の灌木林の向こうに学校の屋根が見えている。

「まだ、いくらも来てないわね」

「早く気づいてよかった」

「アイテムは一杯あるけど、アドバイスやヒントとかはいっさい無いみたいねぇ」

「肉の保管袋がある……よし、油を塗ったらウサギでも狩っておこう」

「ウサギいるかしら、もう異世界でしょ?」

「学校の屋根が見えてるんだ、なにか居るだろ。いざとなったらスライムでも」

「スライムって、食べられるの?」

「干せばスルメみたいになる。醤油とワサビもあるみたいだし、刺身でもいけるかも」

「刺身にするなら、よっぽど洗わなくちゃいけないわ……水は、そんなには無いわよ」

「ああ……初心者用の50リットルだ。飲料と煮炊きに使って四日分ほどだな」

「……あ、一番下に予備の水袋があるわ。そっちは?」

「……こっちにもある。学校で入れてくるんだったなあ」

「戻って汲んでくる?」

「それはカッコ悪い」

「フフ、アルテミスらしい。わたしなら平気よ」

「ケジメだ、ケジメ」

「フフ、そうね。マップは無いのかしらぁ……」

「行ったところだけ解除されるシステムだな……この周辺のことしか分からないぞ」

「でも、地面に傾斜があって、これだけの木や草が茂ってるんだから、こっちの方に川か池が……」

 地面が傾斜している右側に注意を向ける。アルテミスは狩りの女神だけあってこういう時の感覚は鋭い。

 ザク ザク ザク ザク……

「誰か歩いてるの?」

「いいや、歩く音じゃない……土を掘っている音だ。見てくる」

「わたしも!」

「ベロナはそこに居ろ、二人で行ったら、元の場所が分からなくなる」

「あ、うん、分かったわ」

 念のため弓に矢をつがえ、身を低くして木の間を拾うアルテミス。

 え?

 直線で20メートル、高低差で4メートルほど行ったところでアルテミスは意外なものを見て、思わず声を上げてしまうところだった。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          月の女神
  • ベロナ            火星の女神 生徒会長
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・116『妖退治・2 晴天のネックファン』

2024-08-03 09:33:06 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
116『妖退治・2 晴天のネックファン』   




 逃げ水ってあるでしょ。

 夏の盛りに道を歩いていると、道の向こうにユラユラと水たまりがあるように見えて、近づくと、近づいた分だけ逃げてしまう。

 あの逃げ水みたいなのが、大屋根の上にいくつも現れる。

 逃げ水と違って、近づいても逃げないで、大屋根の上をチョロチョロ動いている。中には、向こうから近づいてくるものもあるんだけど、だいたい10メートルぐらい近づくと消えてしまう。

 消えてしまうのは、わたしの魔力が退治している証拠だと安倍晴天は言う。

 晴天が妖気の膜を補強してくれているので暑くはないし、一周2.2キロの大屋根の上で見晴らしもいい。少しづつ仕上がっていくパビリオンや会場の施設を眺めているのも楽しい。

 三日ほどたって気が付いた。

 逃げ水の一つが消える寸前に人の形になったんだ。

 注意して見ていると、別の逃げ水は、はっきりと小さな男の子の姿になった後に消えていった。

 え、あれって、人なの?

 動けなくなった。

 わたしが動けば、逃げ水が消えるわけで、それは大阪に巣くう妖を退治していることだったはず?

「さすが応(こたえ)さんの孫だ、見えてしまうんだね」

 晴天が麦わら帽にグラサンのナリで横に立った。

「あれって、人じゃないの?」

「人ではない、人が残した負の感情が地中のメタンガスなんかに反応して形になったものだ」

「え、えと……」

「足下にグッチの影があるだろう」

「あ、うん」

 午前九時の影は黒々と足もとに伸び、当然だけどわたしの形をしている。

「生きてるみたいだけど、その影を生き物だと思う?」

「ううん、ただの影だよ」

「恐怖とか怒りとかの負の感情も同じ、一種の影なんだ。だから気にすることは無い」

「そ、そうなんだ(^_^;)」

 ブ~~~~~~ン

 少しだけ安心すると小さなモーターが回っているような音が耳につく。

「あ、分かってしまったか(¬_¬) ?」

 晴天がジト目でこっちを見ると、首筋に輪っかみたいなのが現れた。

「ネックファン?」

「AMATONで買ったんだ」

「へえ、安倍晴明の子孫でもAMAZONで買うんだ」

 ちょっと親近感。

「似たようなもんだけどね、吹きだす風が並みじゃないんだぞ」

「どれどれ……ヒエエエエエ!」

 指先がドライアイスに触ったみたいになって、慌てて引っ込める。

「黄泉の国の冷気だからね、並みの冷風じゃないさ」

「でも、汗かいてないみたいだけど」

「ああ、舞妓さんと同じでね、目につくところは汗をかかないようにしてるんだ。妖どもに弱みは見せられないからね」

「そ、そうなんだ(^_^;)」

「よし、グッチと喋って元気が出て来た、もうひと頑張りしてくるぞ!」

 ジュ!

 勢いをつけて行ったせいか、寸前まで晴天が居たところの水分が瞬間に蒸発した。

 まだまだ妖退治は続きそうだ。

  

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 

 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)109・衣装合わせ不幸せ

2024-08-03 06:53:44 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
109・衣装合わせ不幸せ 





 うかつにも自分がアメリカ人であることを忘れてしもてた( ゚Д゚)!


 それほど日本に馴染んでしもてた! 女子高生の制服というのは、いかに女子のリアル体形を隠してることか!

 ホストファミリーの渡辺家のお婆ちゃんが、栗東の従兄弟さんとこから取り寄せてくれた純白の単衣。

 これは年代物のシルクの寝間着やそうで、上品な艶があって肌触りが良くて、身にまとうと女の値打ちが2ランクは上がりそうや。

「まぁ、それでも単衣(裏地の付いていない着物)やから、下に、これ着てね」

 お婆ちゃんは長じゅばんを出してくれる。

「着付けは……そうそう、幸子さんに、幸子さ~ん」

 町会の寄合から帰って来た千代子のお母さん、お婆ちゃんからしたら嫁さんに声をかける。

 これは、お婆ちゃんの心配り。

 千代子やお婆ちゃんに比べると接触の少ないお母さんに声をかける。着付けというのは、自然なスキンシップになるので、なるべく家族みんなと関われるようにしようという自然な気遣いなんや。

「はいはい、あたしに出来るかなあ~」

「これで練習して正月の晴れ着の着付けもできるように、勉強勉強(^▽^)/」

 お父さんと健太と千代子はリビングに控えて見物に回る。

 お婆ちゃんは、衣装合わせを渡辺家のイベントにしてしもた(^_^;)。


「よし、これでええやろ!」


 お母さんの着付けにOKを出すと、お婆ちゃんは、わたしをリビングに急き立てる。

「「「おーーーーーー( ゚Д゚)!」」」

 お父さん、千代子、健太が同時に歓声を上げる。

「お人形さんみたい!」

 そーでしょ!

「惚れ直したで!」

 健太に惚れられてもね。

「マダムバタフライみたいや!」

 え?

「ほんまや、バービー人形が着物着たらこんなんやろなあ!」

 ちょっとそれは……

「ボンッキュッボンは、なに着てもええな~」

「ちょ、ちょっと鏡ぃ!」

「はい、どうぞ」

 お母さんが転がしてきてた姿見を見てビックリ!

 着物というのは、ウエストのところで締め上げるさかいに、制服とは真逆、意外に体の線が出てしまう。

 それも、バストとヒップ!

 バスト〇〇ウエスト〇✕ヒップ✕✕という、しばらく忘れてた3サイズ……しばらく計ってへんから、もうちょっとあるかもしれん……が頭の中で点滅した。

 アメリカ女性としては、ごく平均的な体形……やと思うねんけど、この衣装では、それがハッキリと出てしまう。

 これでは『夕鶴』の肝である、あのセリフが言われへん!


――ああ、こんなに痩せてしまって――


 ぜったいギャグになってしまうやないの(>Д<)!!


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

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