大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

馬鹿に付ける薬 009・広場を抜けてギルドに向かう

2024-08-21 12:07:28 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

009:広場を抜けてギルドに向かう 




 活気が無いわけではない。


 伝説の英雄神に胸板を貫かれた魔王の口からは五メートルあまりの水が噴き出て、周囲の魔族や英雄神の弟子たちも互いに刃を交わしながら、それぞれの主神を見上げて水を噴き上げる。
 その噴水のブロンズたちが噴き上げる水は、たちまちのうちにミストになって、広場に集う者たちを潤す。
 集う者たちは、そのミストにびしょ濡れになる前には噴水の周囲を離れ、それぞれの目標の場所に移っていく。

 移っていく者たちは、両手にストックを持ったウォーキング、あるいは散歩の者たち。あるいはマイカートを押した買い物の者たち。
 ミストの届かない木陰では杖に顎をのせたり、大方の体重をベンチの背に預け、UVカットの帽子やサングラス、日焼け防止の腕カバーに身を固めた元冒険者たち。
 彼らは、バザールの安売りや健康法や、かつての話半分の冒険譚に花を咲かせる。元は現役であった彼らは声だけは大きい。

 だから、広場はけっこうな活気ではある。

 活気はあるが、それは沈みゆく夕陽の輝きに過ぎない。若い現役の冒険者たちは待ち受ける初めての、あるいはせいぜい二度目か三度目の冒険の障りになってはかなわぬと足早に通過するか、広場そのものを回避して目的のギルドや素材屋、武器屋、保険の代理店に向かっている。

「夏場の午後五時と言ったところですわねえ」

「え、まだ二時を回ったところだぞ」

「ふふふ、アルテミスは元気いっぱいですね」

「ここは、ざっと見ただけで十分だ。さっさとギルドに行こう、保険ならギルドでも受け付けてくれるだろう」

「すこし、お年寄りの方々とお話してもいいかと思うベロナなんですけど」

『おお、そこのお若いのぉ』

「あ、わたしたちですかぁ?」

『初々しいなあ、初めての冒険かい?』

「はい、これからギルドに向かうところです」

「ち(-_-;)」

 木陰の年寄りたちが一斉にベロナとアルテミスに顔を向ける。

『そうかい、そりゃあいいなあ』

『今からなら、曙の谷ぐらいには行けそうだなあ』

『ダメよ、吊り橋でこじれたら谷底で野営しなきゃならなくなるわよ』

『それも風流なもんじゃないか』

『なに言っとる、最初の野営でションベンちびったのはだれだ』

『それは剣士のなんとかいうやつだ』

『そうよぉ、ヤコブは狼の遠吠えで卒倒しちゃってぇ』

『う、うるせえ』

『あはは、お爺ちゃんたちに付き合ってたらきりが無いわ。行ってちょうだい(^_^;)』

「ありがとうございます。みなさんもお元気で」

『あんたら、ひょっとして馬鹿に……』

 馬鹿の次に来る言葉が気になる二人だったが、老魔法使いの婆さんの注意に従ってギルドを目指すことにした。

 
 ギルドはドイツ風の質実な三階建で、角を曲がって姿が見えた時から特別な感じがする。
 黒ずんだ柱は太々と地面に根を張っているようだし、頑丈そうな窓からは冒険者たちの気炎が溢れるよう、屋根の風見竜は――風向きなど見ていられるか!――と、いまにも戒めを解いて空に舞い上がっていきそうな気配だ。

 建物の前面いっぱいに据えられたポーチには、現役冒険者たちのオーラを浴び、話しかけたり冷やかしたりしようとする年寄りたちがいたが、さすがの二人も、その視線に応えようとはせずに厳めしい金具付きのドアを開けた。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          月の女神
  • ベロナ            火星の女神 生徒会長
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)127・ミッキーのカミングアウト

2024-08-21 09:43:03 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
127・ミッキーのカミングアウト 





 姫ちゃん先生(姫田先生)の授業はよう脱線する。

 四時間目の授業で、誰かのお腹が鳴ったりすると、先生の高校時代の学食に話しが飛んで、高校時代の思い出なんかを語り出すと止まらんようになる。
 この物語も啓介が先生の学食の話しで、うちの髪の毛から冷やし中華を連想して涎を垂らしたとこから始まった(001・ただ今四時間目)。

 今日の姫ちゃんは「うちの両親って、従姉妹同士なんだよ」という話をした。

 今朝は寒かったせいか、いつもはヒッツメかポニテにしてる先生が髪を下ろしてた。これが、けっこうイケてて、ちょっと清楚系のベッピンさん。

 それをセーヤンが「姫ちゃんて美人やってんなあ……」と呟いたところから話が脱線して「あ、じつはうちの両親は従兄妹婚でねえ」という話になった。

「従兄妹同士って、血が濃いから、遺伝子の組み合わせで時々特徴のある子が生まれるのよ。3+3は6だけど、3×3は9みたいな。で、うちの両親が少しだけ持ってた美人とイケメンの遺伝子が掛け合わさってぇ……(n*´ω`*n)」

 他の人が言ったらイヤミになる話でも、姫ちゃんが言うと、なんかホノボノ系の話になる。姫ちゃんは自分が美人やということよりも、ボンヤリした性格なことに悩みがある。人の容姿にあんまり重きを置かへん人なんで、そのボンヤリコンプレックスの枕の話しとして従兄妹婚の話をしたんよ。

 で、昼休のミッキーはお弁当食べながらボンヤリしてる。ボンヤリの机の上にはお弁当と並んで書きかけの航空郵便の便せん。

 サンフランシスコ出身のミッキーの手紙は言うまでも無く英語。

 日本語に慣れ親しんだうちやけど、やっぱり英語の文章はパッと見ただけで大よそのところが分かってしまう。

「へえ、今どき手紙でお便りいうのんは珍しいねえ」

 うちの言葉は、もう半分は手紙の趣旨を理解した上での好奇心の響きがある。うちのハンナリした大阪弁(このごろのミッキーは大阪弁でも話ができる)も功を奏したのか、ちょっと仲間の感覚で返してきた。

「あ、ああ……従妹のキャシーにね……」

「ほう」

 子どもの頃にカンザスから越してきたミッキーは、従妹のキャシーと仲がよくて手紙のやりとりをよくやっているらしい。こまめに書いているんで、ミッキーが手紙を書いているところはよく目にする。

 オハコの歌詞を書くようにリラックスしてサラサラ書く手紙は英語ということもあって、わたしを含めクラスのもんは気にも留めへん。せやけど、今日は数行書いたとこで停まって、それも思い詰めたような顔してるんで目についた。

「従兄妹同士の結婚があるなんて考えもしなかった……」

 うちは、留学四年目やし、日本のことはシカゴの隣のお婆ちゃんからもよう聞いてたんで従兄妹同士の結婚言われても、それほどの驚きはない。

 せやけど、一般のアメリカ人。特に法律で従兄妹同士の結婚を認めてない州の者にとってはビックリする話。

 LGBTQとか流行のアメリカでは、同性婚なんかも普通になってきてる。

 せやけど、血族の結婚は普通やない。州によっては法律で禁止してる。禁止してなくても、その数は日本よりもうんと少ない。

 クレオパトラとかは弟と結婚した言われてるけど、遠い昔の歴史上の話しやし、普通は思わへん。

 めちゃ子どもの頃に「大きなったらパパ(or お兄ちゃん)のお嫁さんになる!」言う子はおるけど、学校行く年頃になったら言わへん。せやから、従兄妹同士は最初から考えの外。

「姫ちゃん先生の話を聞いて、自覚したんだ……」

「ひょっとして……」

「うん、ぼくはキャシーのことが好きだったんだぁ(◎‐◎)!」

 遠い目になってカミングアウトしてしまいよった!

 そして、ホストファミリーの美晴に「明日帰る」と一言言うただけで、今朝の飛行機で帰ってしまいよった。

 美晴は、もともとミッキーを持て余してたとこもあって「あ、そ」の一言でしまいやったらしい(^_^;)。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)



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