大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・241『敵襲・草原に土色の草が萌える』

2024-08-18 11:04:02 | 小説4
・241

『敵襲・草原に土色の草が萌える』孫大人 



 モンゴル平原の一帯はAP(アンチパルス機)の波動によってパルス兵器が使えない。むろん満州戦争のころと違って、APとて絶対的な効力があるわけではない。

 しかし、誇り高いモンゴル人たちがAPを設置している以上、それを無視して近代兵器を使いまくれば、世界中から不信の目で見られる。モンゴル人たちは、たとえ占領されても抗い続けるに違いなく、結局は勝利の実を採りにくくしてしまう。

 ロシアは、はるか千年の昔にはチンギス・ハーンとその息子たちに国を取られ、タタールの軛(くびき)と呼ばれる苦難と苦渋の時代を過ごさなけれならなかった。

 その雪辱を晴らすためにも、ロシアは騎兵でやってくる。

 騎兵と言っても20世紀以来、機甲部隊を指す。非パルス戦車、装甲戦闘車、誘導ミサイル、各種誘導弾。無人機にドローン兵器。

 はてさて、どんな展開になるのかと窪地に身を伏せる。

 前方には、同様に窪地に身を伏せたテムジンの兵たちの背中が見える。

「10騎足りない」

 春鈴が呟いた時、地平線の少し手前で仕掛け花火のように連続して火花が散った。

 ピシュピシュ ズドン ズコン ズドド ピシュピシュ ズドン

 遅れて各種携帯兵器が目標を破壊する爆発音や衝撃音が伝わって来る。

「10騎、別動隊になって、敵をブチノメシテるわ……移動しながら次々に……」

「すごい腕だな、戦車やミサイルは屁でもないんだなぁ」

「人も馬も義体化されてるんだろうけど、尋常な能力じゃないわねえ」


「これで、敵も普通の騎兵でやってくる」


 突然の声にビックリしたら、テムジンが儂たちの後ろに来ている。

「( ゚Д゚)!?」

「え、わたしでも気が付かなかった( ゚Д゚)!」

「これで敵は純粋の騎兵で攻めてくる。相当の激戦になるから少し後退してくれ。危ないと思ったら退避してくれ、悟兵の筋斗雲なら逃げ切れる」

 そこまで言うと、返事も聞かずに戻った。

「あら?」

 首を戻すと、前方の窪地に居たテムジンの部下たちの姿が消えている。

 ビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシ

 そこに百を超える弾着の土煙。敵の射撃も見事で、土煙は、あたかも土色の草が一斉に芽吹いたかのようだ。

「少し下がるわよ」

「おお」

 移動した二秒後には、二人でいたところにも土色の草がいっぱい芽吹いたアル。

 春鈴がチラッとジト目になるが、声に出した「アル」ではないのでノーカウント(^_^;)。

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……

 地平線の向こうから優に千を超える馬蹄の響きが地を揺るがして迫ってきた。



☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)124・美麗とお風呂に入って溺れかけた件

2024-08-18 09:04:02 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
124・美麗とお風呂に入って溺れかけた件 





 林さんと書いて「りん」さんと読む。

 お父さんの方が林評(りんぴょう)、娘さんの方が林美麗(りんびれい)。

 韓国の人みたいに向こうの読み方はしなくていい。

 毛沢東なんて、向こうの読み方だとマオツォートンだけどモウタクトウでOKだ。

 
「ほんとうに日本の音読みでいいのかしら?」

 勢いよく素っ裸になった美麗の背中に声をかけた。

「うん、中国と日本は昔からそうだし」

 素っ裸のまま、こちらを向いて言われるものだから、たじろいでしまう。

「わたし、日本で生まれて、中国には通算で二年ほどしか帰らなかったから、音読みの方が馴染んでるし」

 愛くるしく笑って美麗はカラカラと浴室のドアを開ける。


 
 カッポーーーーーン



 かかり湯の桶を小気味よく響かせて美麗が湯に浸かったころに入っていった。

「須磨って一人っ子でしょ?」

「え、分かるの?」

「そりゃ、脱ぐのゆっくりだし、今だって……」

「ん?」

「ふふ、そろりそろりとお湯に浸かって……」

「だって、美麗ったら……この浴槽は熱い方から二番目だよ。ひょっとして、美麗って兄弟多かったりするでしょ」

「ううん、一人っ子だよ。中国って最近まで一人っ子政策だったしね」

「あ、そうだったわね……グヌヌヌ(熱っついーーーーー)」

「ふふ、一人っ子だけど家族というか、親類が多いからね。それがいっしょに住んでるから、イトコトかハトコとか、日本だけでも五人いっしょに住んでるんだよ」

「え、なにそれ?」

「うちの家は古いから、昔からの習慣が残ってるのよ。お父さんは胡同(フートン)だって喜んでるけどね」

「フトン?」

「フートン」

「なんだかフワフワしたお布団みたいね(^▽^)」

「あ、云えてるかも。お布団の温もりってフートンに通じるよ」

「で、フートンて?」

「下町の道のこと。中国じゃ大通りを大街、その次を小街、もっと狭い通りを胡同て言って下町の意味。で、胡同と言うだけで下町付き合いという感じかな」

「そうなんだ」

「胡同には四合院(スーフーユェン)ていう家があってね。敷地の四方に建物があって……あ、ここのお風呂に似てる。四方に湯船がって、真ん中が共通の洗い場でしょ。湯船を家、洗い場を中庭だと思えば四合院のイメージ」

「あ、裸の付き合いって感じ?」

「あ、そうそう(^▽^)。住んでるのは、みんな親類でさ、うんうん、まさに、このお風呂だよ。ここも、夕方とかになったら近隣の人たちでいっぱいになるんでしょ?」

「うん、まだ、その時間帯に入ったことないんだけどね(^_^;)」

「え、ここ、須磨の実家でしょ?」

「あぁ……お祖母ちゃんの時に家を飛び出して、ずっと別に住んでたからね。ここは、子どもの頃にたまに来るだけだったし。それも、いつも日帰りだったし」

「いろいろ事情があるんだね……うちは、親類ぐるみで何十人も住んでてさ、真ん中に庭があって憩いの場所になってんの。中国人のアイデンテティーはその胡同と四合院の中にあるんだよ」

「なるほど」

「中国って昔から何度も国が替わってるじゃない、大きくなったり小さくなったりしながらさ」

「そうだね……」

 世界史で習った歴代中国王朝の表が頭に浮かんだ。

 夏 殷 周 秦 漢 魏・蜀・呉が三国で、隋 唐 宋 元 明 清……だったっけ?

「ふふ、声に出てるわよ」

「はは、暗唱して覚えたから」

「中国人でも、そんなにきっかり覚えてる人は少ないわよ、お見事でした!」

 拍手されて照れてしまう。

「王朝が替わるたんびに国は乱れるでしょ、だから、中国人は国の事を頼りになんかしてないの……頼りになるのは自分たちしかない。だから、中国人は鬱陶しいほど親類を大事にするのよ」

「聞いたことがある、だから中国の苗字は少ないって……少ないってことは一族の人数が多いってことなのよね」

「うん、林だけでも数百万人いるでしょうね。お父さんが今の会社作った時、二百年前は兄弟だったって人が来たわ」

「信じられない!」

「中国に汚職が多いのは、そういう途方もない身内意識があるから……けして、みんな悪党だってことじゃないのよ」

 ちょっと考えてしまった。

 自分は数少ない親類の大お祖母ちゃんの希望も受け入れていない、もっとも受け入れて松井宗家の家督を継ぐ気なんかない。ないんだけども、美麗の話を聞いていると、ちょっとだけど後ろめたくなってしまう。

 美麗の話しは続く。

「その林一族の未来を守るために、お父さんは必死にやってるの。そうなのよ、お父さんが日本の山林を買うのは中国のためなんかじゃない、林の胡同を守りたいからなのよ。脂ぎった親父は嫌いだけど、そこんとこは理解してるのよ、須磨……須磨? ちょ、須磨ぁーーーー!!」

 わたしは熱い湯に浸かり過ぎ、美麗の横で沈み始めていたのであった……。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
 


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