大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・120『妖退治・6・京橋空襲』

2024-08-16 11:42:18 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
120『妖退治・6・京橋空襲』   




 ああ、抜かっていたぁ……(-_-;)


 アキラのことを報告すると、晴天は頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 頭を抱えても晴天にはすごいオーラがあるようで、眼下の工事現場に隠れていた妖が五六匹ビックリしたように顔を出し、晴天は指先をちょっと動かしただけで電磁波みたいなのを出してやっつけてしまう。猫や犬が微かな音にも反応するようなもので、本人には――やっつけた――という自覚も無い。

「そんなにショックなことなの?」

「グッチは知らない方がいい。いやあ、安倍晴天としたことがぁ……」

「で、アキラがやっつけたのは何だったの?」

「それも知らない方がいい」

「あ、そうなんだ……」

 わたしもお祖母ちゃんの孫、正体や名前を知ってしまったら厄介なことになることがあるのを知っている。ほら、西遊記の話で名前を呼んで、返事をしたら壺の中に吸い込んでしまう魔物の話があったよ。

「これを見てごらん」

 五六匹の妖をやっつけたばかりの指を動かすと、B5くらいのチラシが浮かんだ。

 わたしの方が、もうちょっと上手いぞという字で――私たちは本日、爆弾を投下しに来たのではありません。日本國民のみなさん、我々の敵は日本国の軍隊と日本政府です。連合国は日本政府と戦争終結についての交渉をしているところです……――ということが書かれている。要は、戦争の終結が近いから、むやみに爆撃して日本人を殺すことは控えるという内容だ。

「終戦の二日前に米軍が撒いていったビラだよ。日付は8月13日」

「ああ、終戦の二日前?」

「お、えらい、終戦の日を知ってるんだ」

「失礼ねえ、それくらいは知ってるわよ」

「怒ると応(こたえ)さんに似てるなあ」

「あんまり誉め言葉にはならないんですけど」

「明日は京橋に行ってみよう」

「京橋ぃ?」

「うん、うまい焼き鳥屋とかがあるしね」

 アキラがやっつけてくれたからいいようなものだけど、留守中に攻められたのに大丈夫という気持ちはあったけど、暑さしのぎは大賛成。


 こないだの玉造からは駅三つ北にあるのが京橋。例の砲兵工廠の南口が玉造、北口が京橋になるらしい。

 環状線と学研都市線、それに京阪電車も乗り入れていて、大阪市東部の一大ターミナル。

「あれぇ、終戦記念日は明日でしょ?」

 例のトンネルを出て着いたのが京橋駅の南口。高架の下に二張り白いテントが張られ、大勢の人たちが黙祷している。
 人々の前にはお地蔵さんが仰ぎ見るように立てられ、横には『南無阿弥陀仏』の石碑と少年少女がハトが停まった花輪を掲げてるブロンズ像。

 これは宮之森でも終戦の日にやっている慰霊祭といっしょだよ。

「終戦の前の日に大空襲があったんだ」

「え?」

「主目標は砲兵工廠だったんだけどね、ターミナルの京橋駅も狙われて、環状線と学研都市線の交差するこの場所に一トン爆弾が落とされたんだ」

「ええ……( ゚Д゚)」

 見上げると真上とその上に交差して線路が走っている。

「ちょうど、通勤ラッシュの時間帯で、千人近い人が犠牲になった。半分以上の人たちは身元も分からないまま火葬にされた」

「あ、ああ、真夏だもんね……」

 万博の建設現場でも、時どきハトやコウモリが死んでいて、半日もしないうちにカラカラになってる。人間は大きいから……その、すぐに腐っちゃうしね。

「それもあるけど、身元確認ができないくらいにバラバラになってるからなあ」

 あ、そういう意味か(;'∀')。

「でも、13日の宣伝ビラには……」

「ボクもがんばって爆弾を、ほら、そこの寝屋川やら大阪城の堀なんかに誘導したんだけどね……」

 そうだ、晴天は日之出通商店街の大正屋を爆撃から救ったんだ。

「なんせ、145機も来たからね、それに陰陽師や魔法少女は、あくる日はポツダム宣言受け入れて無条件降伏するって分かってたからね。油断もしていたしね……」

「そうなんだ……」

 
 それから、みんなと一緒に黙祷して、並んでお焼香。


 爆撃の話を聞いた後で、焼き鳥や焼き肉は無理……と思ったけど、駅近のいい匂いを嗅ぐと、一瞬で食欲の方が勝って、しっかりゴチになった(^_^;)。

 一日休みにするのかと思ったら、昼過ぎには戻って警備にあたった。

 そして、残りは「やっぱり自分でやる」と晴天が覚悟を新たにして、半月ぶりに宮之森の自分の家に戻った。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)122・大お祖母ちゃん・2

2024-08-16 08:04:05 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
122・大お祖母ちゃん・2 






「どこまでが家の山か分かるかい?」


 ハーー ハーー ハーー

 まだ息も整わないわたしは声も出せない。

 知ってか知らでか、大祖母は答えを急かせもせず、上りきった松井山の頂で巌のように立っている。

 年が明ければ米寿という大祖母松井美(よし)はまるで山の精霊の長ようだ。

 夕べは、この大祖母に気圧され、言いたいことの半分も言えなかった。

 予想していたことなので制服を着てきたのだ。古いだけしか取り柄のない惣堀高校だけど、わたしが松井家四十六代目当主である松井美に対抗するには、この制服しかない。

「児童、生徒であるうちは須磨自身に決断させることはしない」

 大祖母の言葉があったから、わたしは些細な事件を起こして停学になり、以後卒業することもなくタコ部屋で留年を繰り返してきた。

 大祖母に須磨が寄って立つ場所は学校しかない。

 いずれ、大祖母の方から折れるか諦めるかして母や祖母のように自由にしてもらえると思った。

 しかし、大祖母は諦めていなかった。

 母も祖母も須磨の年頃に瀬戸内の家を捨てた。大祖母も若かったので娘と孫のわがままを許した。二人とも松井の名前を捨てようとしたが、大祖母は、それだけは許さなかった。松井の姓から逃れられないということは松井家嫡流としての責務からは逃れられないということを示している。

「継体天皇は応神天皇の五世孫であった」

 十余年前、甲州の屋敷に行った時、祖母と母と三人並んだところで言われた。

「だけど、五世の末まで待てるほどの長生きはできないよ。いま直ぐにとは言わないが、ゆくゆくは須磨に松井家当主の座を譲りたい」

「それなら、お祖母ちゃん、わたしが家に戻ります」

 母の美代は、それまで俯いていた顔を上げて宣言した。いつも軽すぎるくらいに陽気な母がNHKの女性アナウンサーが皇室に関わるニュースを言うような穏やかさで言った。

「美代は俗世間に馴染みすぎている、素養にも乏しいし、これから磨くには歳も取り過ぎている。美乃(よしの)は言わずもがなだ」

 わたしの横で、母も祖母も畏まるしかなかった。

「須磨の目には光がある、松井家棟梁の光が、須磨なら、まだわたしが育てられる」

「お母さん!」「お祖母ちゃん!」「…………!」

「松井家には信玄公以来、武田家から託された甲州の山々を守る役目があるんだよ。甲州は日本の真ん中、甲州の山を守るということは、とりもなおさず日本を守るということでもある。年端もいかぬ須磨には可哀想だけれど、親子二代にわたって逃げてきたツケなんだ。そうだろ好美、好乃」

「申しわけありません、お母さま……」

 祖母は平伏したまま固まってしまった。あんなに苦しそうな祖母は初めてだった。いつも母以上に陽気な祖母が痛ましくて、まともに見ることができなかった。

「まあいい、今すぐにどうこうなるわたしでもない。だが、今度使いを出した時は猶予はないと思っておくれ」

「それはいつ?」

「五年先か十年先か……わたしも人間だ、ひょっとしたら明日になるかもしれないね。ま、それまでは須磨に公に生きることの意味を覚えさせておくれな。朝に道を聞けば夕べに死すとも可なりというからね」

 そして一昨日、甲州の使いがやってきた。母も祖母も付いていくと言ったけど、わたしは一人でやってきた。

 十余年前の、あの惨めな思いを二人にはさせたくなかったし、大祖母の前で畏まるしかない二人を見たくなかった。

「本来ならお嬢様のご卒業まで待つとおっしゃっていたのですが、もう猶予が無いご様子でして」

 使いにやって来た穴山さんの息子は静かに言った。

 甲府には制服でやってきた。家を出る前に姿見に映した姿は、ハイス薬局の先輩が作った人騒がせな人形に似ていた。

 この姿に大祖母は、さぞかし眉を顰める、あるいは叱り飛ばすか……覚悟はしていたけど、大祖母は着替え用の新品の制服さえ用意していた。三年前に買い替えたとは言え、並みの三年生の制服よりはくたびれている。そこまで見透かされたわたしは、あの人形以上にミイラだ。

 あの人形はミイラのまま、いまだに部室のトランクの中だけれど、目の前の大祖母は、このわたしを無理やりにでも蘇らせる意志と力を持っている。


「富士のお山を除く全てです」


 やっと息を整えて答えた。

「では、存在の危機に瀕している山は……分かるかい?」

「え、えと……」

「富士のお山を含むすべてだよ」

「え…………」

 ゆっくり振り返った大祖母は憂いを含んだ眼差しでわたしの肩に手を置いた……



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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