大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・244『お岩食堂でKMミリタリー放送を聴く』

2024-08-30 16:49:29 | 小説4
・244

『お岩食堂でKMミリタリー放送を聴く』 メグミ



 島のクセモノたちがお岩食堂に集まっている。

 西之島最大の食堂はブンカ―の基地食堂なんだけど、みんなお岩食堂に集まりたがる。

 安くておいしいご飯が食べられるだけじゃなくて、アットホームな雰囲気が好まれてる。本来はカンパニーの社員食堂なんだけど、来る者は拒まずで、胡同(フートン)やナバホ村、ちょっと遠いけど市役所のある北区からも人が来る。

 ちなみに西之島はいちおう日本領で、日本の地方自治法が適用され、島は東西南北四つの区になっている。けれど日ごろ〇区と呼ばれるのは北区だけで、あとは旧来の呼称(胡同・ナバホ村・カンパニー)と呼ばれて結びつきが強い。

 食堂の主はお岩さん。

 昔々は月で金融関係の仕事をしていたらしいけど、その後いろんな道をたどって食堂の女将に収まった。西之島戦争の時は部隊指揮も立派にこなして、ほんとうに正体不明の女傑。

 従業員は食堂の近くにある氷室神社巫女のハナ。神主のシゲ老人ともどもカンパニーの鉱山で働いていたんだけど、シゲ老人が神社を造ると巫女を兼ねるようになり、今では食堂の人気ウェイトレスでもある。

 近ごろは北区の街の子たちもバイトで入ってくれるようになった。単に小遣い稼ぎというだけではなく、人間関係や人との接触、付き合い方の勉強になるというので、地味に人気がある。

 かくいうわたしもラボの仕事のキリが付くと自然と足が向く島のホットステーション。

メグミ:「はい、来月のシフト表できたわよ~」

 ハンベで作ったシフトを厨房のPCに送る。

お岩:「ごめんねメグ、ビールでも飲んで帰ってぇ!」

メグミ:「うん、ありがとう!」

 お礼を言った時には、もうシフト表のプリントアウトと張り出し用の指示ををしてカツ丼五人前を作り始めている。

 カツ丼の他に油の爆ぜる音がしたかと思うと、いつの間にかハナが巫女服のまま炒め物を作り、その横でバイトの子がカツ丼のご飯をよそって炒め物の皿を並べている。

シゲ:「こらぁ! 食堂じゃ巫女服脱げって言ってんだろがあ!」

 シゲ老人がビールの泡を飛ばしながら文句を言う。

ハナ:「もう、自分は神主服のままだろがあ! ちょっと頼む」

 バイトの見習いに頼むと、その場で巫女服を脱ぎ始める。

 みんなは慣れっこだけど、バイトの子たちは慣れなくて目のやり場に困ってる。ここに来たころのハナは野生児というか、ほんの子どもだったけど、このごろは一人前の体格になってきた。

 ヒィ!

 バイトの一人が小さく悲鳴を上げる。

 身を隠すと言うことをしないので、体のあちこちの傷跡が丸見えになるんだ。

 顔や手先の見えるところは直してやったんだけど、服で隠れるところは後回しになってる……そろそろ直してやらなくちゃなあ。

 はい、おまちぃ! ハナぁ、あと頼んだよぉ!

 へい!

 隣りのテーブルの客にカツ丼を渡すと、お岩さんが横に座って、それを待っていたかのようにモニターにフーちゃんの軍服姿が映った。

お岩:「ピッタリのタイミングだ」

メグミ:「タイマーでもかけてんのぉ?」

お岩:「フーちゃんは娘みたいなもんだからねぇ、気になって、いつもタイミングが合っちまう」

 この時間はKMミリタリー放送(漢明の軍隊放送)の時間で、近ごろ国内外で評判のいいフーちゃんが担当している。

胡盛媛中尉:「ニーメンハオ漢明軍のみなさん。こんにちは世界のみなさん。胡盛媛がお送りします『KMミリタリー』の時間です。先日マンチュリーへのミサイル攻撃に失敗したロシアは、その攻撃をモンゴルに向けました。ロシアの狙いはモンゴルを勢力下に置いたのち、我が漢明と雌雄を決するところにあると思われます。一昨日ハルハ川河畔で痛手を被ったロシア第三騎兵旅団は西に向かって東より侵入してきた第一第二旅団と合流を目指している模様です」

 画面がモンゴルの地図に切り替わる。

胡盛媛中尉:「西のモンゴル平原では第三旅団に壊滅的打撃を加えたテムジンの息子、リムジン、ドライジンの騎兵部隊が待ち受けている様子です。合流の為に西に向かっている第一旅団ですが、現在はその進撃速度が落ち、待ち受けていたテムジン部隊に痛手を受けたと思われ、一両日にには火ぶたが切られるであろう西部戦線の展開は予断は許さないと、我が統合参謀本部戦略室は見ております……あ、追加のニュースが入ってきました」

 画面の外から原稿が手渡される。なんか大昔のテレビニュースみたいだけど、こういうアナログ感がフーちゃんにも合っていて人気になっている。

 原稿を渡されたフーちゃんが、一瞬、笑顔のまま固まってしまう。

胡盛媛中尉:「ただいま命令を拝受いたしました。本職は、このままモンゴル平原に取材に参ります。つきまして……え、部長?」

 食堂中に怨嗟の声が上がった!

 なんと画面に朱元尚大佐が割り込んできた。

朱元尚大佐:「中央軍広報部はホットなニュースを全国の兵士諸君並びに世界のみなさんにお伝えするべくモンゴル平原に現地取材に向かいます。むろん担当は我らが胡盛媛中尉。むろん中尉ひとりではありません。この朱元尚自らが若干の部隊を引き連れ安全万全の取材であります」

 乞うご期待とばかりの笑顔の前にもう一枚の原稿が送られ、大佐はそのままフーちゃんに渡した。

胡盛媛中尉:「追加のニュースです。モンゴル平原でロシア軍とモンゴル軍の戦闘が開始されました」

朱元尚大佐:「おお、意外に早い展開になってきました。これは、ただちに出発しなければ!」

胡盛媛中尉:「まだです部長」

朱元尚大佐:「なにかね?」

胡盛媛中尉:「ロシア軍の中核には青銅の騎士が含まれており、これにモンゴル軍は苦戦中の模様で……」

朱元尚大佐:「青銅の騎士だとぉ……」

胡盛媛中尉:「はい青銅の騎士……あ、部長!」

 画面から朱元尚が消える、いや、泡を吹いて倒れた?

お岩:「青銅の騎士……ちょっと面白くなってきたじゃない( ,,ÒωÓ,, ) 」

メグミ:「え?」

 お岩さんが目を輝かせて戦闘モードになって、周りを見ると他にも目を輝かせているろくでなしどもがチラホラいた。

 青銅の騎士……Bronze Horseman !?

 英語に変換してやっとわたしもピンときた!

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
  
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)136・温泉旅行本番!・2

2024-08-30 07:43:46 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
136・温泉旅行本番!・2 小山内啓介 




 浴室内の介助の仕方もあれこれ教えてくれる。仲居さんの説明の都合というか説明の義務があるらしい。

 オレが千歳の介助をやるわけやないけど(^_^;)。引率者には介助のアレコレを伝授しておくのが条例とか安全規則とかで決められてんねんやろなあ。そやけど、女子の浴場に足を踏み込むのはなんともなあ(#´o`#)。

 脱衣かごには女子が脱いだ下着やらが入っていて、脱衣棚の前にはタオルで前を隠す女子の後姿というかヒップ、洗面のドライヤー持って髪を乾かす女子からはシャンプーのいい香り……とかが思い浮かんでしまう。

「なに赤くなってんのよ、浴場は日替わりで男女は入れ替わるのよ。今日が女子だから昨日は男子。ちなみに利用者の大半は高齢者だそうよ(´¬_¬) 」

 松井先輩がジト目で真実を伝える。

「え、そうなん(;'∀')?」

 とたんに女子のヒップが弛んだ爺さんのケツに変わる。

 惣堀高校はバリアフリーのモデル校やから、障害を持った生徒の率は他校より高い。同学年には車いすの男子が二人居てる。修学旅行も数カ月後には控えてるし、聞いておいて無駄にはならへんと自分に言い聞かす。

 葛城山を借景にした庭はなかなかのもので、女子たちは陽のあるうちに見ておこうと連れだって出て行った。

 一緒に行こうと誘われたけど、オレは先に温泉に入ることにした。

 船場女学院の発声練習も聞こえへん、庭に出ても彼女らとは行き違いやろなあ。

 それよりも、基礎練の後や。ひょっとして入浴の出入りくらいで会えるかもしれへんしな。

 備え付けの浴衣とタオルを持って浴室への階段を降りる。


 カッポーン……ザザザザ……アハハハ……


 踊り場に差し掛かったところで、浴室のくぐもった音やら声が聞こえてくる。

 話の中身までは分からへんけど、~ちゃんとかの愛称とか、ああ極楽~の声が笑い声と共に聞こえてくる。

 この声は……八人くらいは居そうやなあと想像してしまう。

 女湯の手前の男湯の暖簾をくぐる。

 さっきの下見では気が付かんかったけど、どうやら浴室内の壁は上の所でイケイケになっているようで、脱衣場では楽しそうな声が一段と大きくなってきた。

 女子の嬌声なんか、学校ではしょっちゅうなんやけど、このシュチエーションは興奮するぞ(^△^;)!

 幸い、男湯はオレ一人なんで、遠慮なく顔がデレてしまう。


 キャーーー!!


 ちょ、サワちゃん!

 タオルを巻いて浴室の引き戸を開けたところで異変がおこった!

 女湯に悲鳴があがって、ドタバタ、パシャパシャ、ザブザブと慌てる気配!

 ひ、人を呼ばなきゃ!

 人工呼吸!

 担架持ってきてー!

 事故や! 

 船場女学院の生徒たちが裸でうろたえているイベントが脳内画面に浮かんでドキッと……している場合やない。

 担架の場所は、さっき確認したとこや。他に人はいてへん……それ以上は考える前に体が動いた!

 担架持ってきましたあ!!

 ゲ!?

 浴室に飛び込んで、心臓が停まりそうになった。

 女湯の浴室には、推測した通り八人の裸の女性がいた……が、ひいき目に見ても五十代から八十代という、熟年の方々ばっかり。

「人工呼吸できる!?」

 さっき聞こえた声だ。声質は若いけど、声を発しているのはお袋と同年配。タイルの上で伸びているのは……描写している場合やない!

「や、やってみます!」

「サワちゃん! 今から人工呼吸してもらうからね!」

 中学野球のころから何度も救命救急講習は受けてる。

「気道確保!」

 バスタオルを丸めて首の下に回す。サワちゃんの鼻をつまんで、口を斜めに交差させるように合わせる。

 ああ、オレのファーストキスがあ(;゜Д゜)……。

 オレの救命救急措置がうまくいったのか、サワちゃんは事なきを得て、番頭さんが呼んだ救急車に載せられていった。

 振り返って歓迎札を見ると『船場女子演劇部の会御一行様』とあった。


 なんやこれは?


 スマホで検索すると船場女学院の卒業生で活動してる地域劇団と出てた……。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
 
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