大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・067『ポンプで水を入れる』

2024-08-19 13:05:47 | カントリーロード
くもやかし物語 2
067『ポンプで水を入れる』 




『あっちに水があるーーー(>〇<)!』


 デラシネの手袋に入れて放り上げると、校舎の屋上ぐらいの高さで御息所が叫んだよ。

「行ってみましょうか(^▽^)!」

 オリビアが元気に前に出て、二人で御息所が指差したところに向かった。

 そこは、草むらが少し高くなっていて、丘というほどじゃないんだけど、遊園地の広場なんかで人工的に作られた山ぐらいの感じ。
 浅間山のカルデラを1/100ぐらいにしたら、こんな具合という感じで、カルデラの中にはきれいな水が漲っている。

「火山みたいだから濁っているかと思ったら」

「けっこうきれいですねぇ」

『ほれ、これを使って水を汲め』

 御息所が、キャンパス地の布バケツを放って寄こす。

「ありがたいけど、これだと何十回も往復して、お風呂入る前にくたびれてしまう」

『わたしも手伝うぞ!』

 えらそうに差し出したのは、デパ地下でジュースの試飲に使うような小さな紙コップ。

「お気持ちは嬉しいのですが(^_^;)」

 オリビアも笑顔のまま困ってるし。

『う~ん……じゃあ、あれはどうだ!』

 御息所の後をついていくと、カルデラの縁の草むらにポンプとホースが置いてある。

「看板になにか書いてありますわよ」

 オリビアが倒れた看板を起こすと――水を使う時は、これを使用してください――と書いてある。

「なかなか行き届いているわね。でも使い方は……」

「ええと……」

 オリビアが操作するとパイロットランプが数回点滅して、その横の赤ランプが緑に変わった。

 ブィーン

 ポンプが動き始めた!

『オリビア、慣れてるみたいだな』

「ええ、プリンスエドワード島に住んでいたころに、使ったことがあるの」

 プリンスエドワード島、どこかで聞いたことがある。

『あ、ダメだ、ホースに穴が開いていて水がダダモレだぞよ!』

「あらあら」
 
「ちょっと見てみる!」

 ホースを伸ばして、先の方からチョロチョロ出てくる水を確かめてみる。

『どうだぁ?』「どうかしらぁ?」

「うん、勢いは無いけど、いけるみたい。水もきれいなままだし」

「じゃあ、ちょっと時間はかかるけど、このままお風呂に入れてみましょうか」

「うん、そうだね。バケツで汲むよりはウンとましみたい」

 カルデラからホースを伸ばして風呂桶に先っぽを入れる。水の勢いでホースが暴れてはいけないので、しっかりと押さえたよ。

「ヤクモさんも、慣れてらっしゃるみたいですねぇ」

「あ、実家で庭掃除とお風呂掃除は、わたしの仕事だったし。オリビアは?」

「わたしもお風呂を沸かすのはやりましたけど、掃除や片づけは通いのメイドさんがしてくれましたので」

「あ、やっぱりオリビアはお嬢さまなんだぁ」

「いえいえ、父や母が心配性なだけで(^_^;)」

 いや、ぜったいお嬢さまだよ。でも、こういうことを深入りして聞くのは下品だからね。

 わたしも、中学を卒業して、今の学校に入って、ずいぶん賢くなったと思うよ。

『じゃあ、もっかい水を流すぞよぉ』

 御息所がスイッチを入れて、ホースが生き物のようにピクピクして水が流れ始める。

 プシューー

 数秒して水がやってきたけど、あちこち何十か所も水漏れ。

 でも、漏れた水は盛大なミストみたいになってクッキリと虹を映した。

 ウワァ!

 少しの間、三人で見とれてしまったよ。

 
 
☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)125・大お祖母ちゃんの腰を揉む件 

2024-08-19 09:48:58 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
125・大お祖母ちゃんの腰を揉む件 






 そこが難しんだよ……


「このへん?」

 松井の家の話になりかけていたけど、気づかないふりをして揉むポイントを仙骨の少し下にずらした。

「あーーーそこそこぉ、意外にうまいじゃないの」

「自分が凝るのもこの辺だから……」

 風呂上りに大お祖母ちゃんに呼ばれ、かれこれ十分もマッサージしているのだ。

「凝るところがいっしょだなんて、やっぱり遺伝なのかねえ……」

「あ……うん」

 胸にこみ上げたものを静かに呑み込んだ。

 大お祖母ちゃんの言葉には裏が無い。マッサージの上手さが血族であることの証であることにシミジミしているだけなんだけど、よけいに大お祖母ちゃんの希望に添えない痛みが胸に走る。でも、口に出して言ってしまえばズルズルになりそうなので、黙々とマッサージを続ける。

 三年生を六回もくりかえし、府下でもただ一人という高校八年生をやっているのは、甲府の松井本家の跡を継ぐ決心がつかないからだ。


 鎌倉時代に甲斐の守護になった武田家に付いてこの地にやってきた松井家は、武田家滅亡の後も田畑をほとんど持たない、幕藩体制の基準で云うところの小大名として残った。

 しかし田畑を持たぬ小大名とは言え、その支配する山林は甲斐の国の四半分を超え、その規模と実力は十万石以上だと言われてきた。 

 甲斐の国の山林資源を保全するために信長も秀吉も、幕府を開いた徳川も松井家を残した。山林経営の安定は山林資源の一つである金鉱山の経営のためにも重要であったからだ。
 明治になると子爵に列せられ、終戦まで日本有数の山林地主として残り、その経営は江戸時代以前の秩序のまま受け継がれた。
 戦後の農地改革でも、山林地主は山林資源の保全と効率的な経営のために手を付けられることは無く残されて今日に至っている。

 松井家の他にもいくつかの山林地主は残っていたが、令和の現代になっても昔のままの姿と秩序を維持しているのは岡山の谷坂家と甲府の松井家だけだと言われている。

 祖母の美乃(よしの)も母の美代も、江戸時代がそのまま続いているような松井家を嫌って家を飛び出した。
 大祖母ちゃんは、祖母の美乃と母の美代を名目上の跡継ぎに指名しただけで、家と山林の経営は自分でやってきた。数年に一度、半日だけ帰省し儀式に加わるだけの義務しか娘と孫には負わさない大祖母ちゃんだったので、ひ孫のわたしは本家の風呂にも入ったことが無かった。

 跡継ぎを親類筋から迎えるのが順当であるんだけど、大祖母ちゃんは半世紀の長きにわたって堪えてきた。だが卒寿を目前にして、いよいよ腰を上げ、ひ孫の須磨に、たとえ本人がどうあろうと跡を継がせようと決心してるんだ。

 須磨は、高校生で居続けることで、その決定から逃れてきた。

 生徒であるうちは後嗣に指名してはいけないという不文律が松井の家にはある。跡継ぎの資格を持つ子どもたちが大勢いたころの名残。本人の資質と覚悟を自他ともに確かめ覚悟するには、それほどの時間が必要とされた。単に血筋の問題だけではなく、甲斐の国の四半分を治める資質も見極めなければならないからと言われている。


 さすがに卒寿の大お祖母ちゃんには言葉が出てこない。そうだね……という相槌だけは出てくるのだが、たった四文字の言葉でさえ口にしてしまえば、一気に気持ちが傾斜してしまいそうなのだ。

「さっきの難しいは、美麗ちゃんのことさね」

「美麗が……?」

「というか、美麗ちゃんを取り巻く身内がさ……中国人が日本の山林や水資源を買いあさるのは、正直たいへんな脅威なんだよ。このまんまにしておくと、山林のおいしいところはみんな中国人に持っていかれる。それを防ぐのが、このお婆の仕事なんだがね。買いにくる中国人は身内のためなんだ……林さんたちは国を信じちゃいないからね、一族身内の未来は自分が保障しなきゃならないと思ってる。林さんたちが邪まな気持ちだけなら戦えば済む話なんだけどね……林さんたちにも、きちんと正義があるんだ」

「そんなことって、政府の偉い人の仕事じゃないの」

「そうとばかりは言っていられないところまで来てるんだよ……須磨が美麗ちゃんと仲良くなってくれたことは良かったと思うよ。お互い厄介な一族の跡取り、これからも仲良しでいておくれ」

「うん、仲良くする」

「このお婆は、お父さんの林(りん)さんとガチバトルになるだろうからね……ここだけの話し、美麗ちゃんは須磨よりも一つ年上なんだ」

「え、ええ( ゚Д゚)!?」

「あの子はアメリカの国籍も持っていてね、ほんとうは林の家から逃げ出したい。それで、あちこちの国に何年も留学して逃げていたんだけどね」

「そうなんだ……」

「今は、東京の乃木坂学院の三年生」

「留年はしてないの?」

「武蔵野女学院で二回、アメリカの高校で二回、イギリスで一回」

「おお……」

「須磨は、ずっと惣堀の留年で通してるから偉いって言ってたよ」

「あははは……」

「いくら年齢を誤魔化しても留年は二回が限度だってさ……」

「わたしの場合は……」

 そこまで言って言葉に詰まる。

 校内ではハイパー留年生であることを隠そうともしないわたしだけど、学校を出た商店街などでは悟られないようにしている。制服も三年前に買い替え、表情や歩き方まで普通の現役生に見えるように気を配っている。

「大祖母ちゃん……須磨はね……」

「………………………………」

 意を決して言葉を継ごうとしたら、大祖母ちゃんは気持ちよさそうに寝ていたよ。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
 






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