大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

馬鹿に付ける薬 010・ギルドの扉はめちゃくちゃ重い

2024-08-25 11:45:22 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

010:ギルドの扉はめちゃくちゃ重い 




 ギイイイイ……


 ギルドの扉は思いのほかに重く、でも、重そうに開けては中に居る冒険者やギルドの受付たちに軽く見られてしまうと思って、ポーカーフェイスで押し開けるアルテミス。

 半ばまで開けると視界の端にベロナも押しているのが分かる。

 ザワ

 昼時の学食を思わせる殺気だった賑わいの中、冒険者やクエストの依頼人、ギルドのスタッフたちの視線が集まる。

 半ばは意外そうな、半ばはバカにしたような目だ。

 一瞬たじろぐ二人だが、みんなかかずらってはいられないという感じで、クエストの張り紙、ステータスアップの手続き、ドロップアイテムの査定や買取、苦情の処理などに忙しい。

「目がキョドってますわよ(^_^;)」

「そう言うベロナも手が震えてるぞ(-_-;)」

「ええと……」

「フーー まずは登録だな」

 一つ深呼吸をして登録の窓口に向かう。

「窓口、二つあるわ」

「あ……初回登録の方かな」

「でしょうね」

 自分たちと歳の変わらない若者や自分たちの不向きを悟って転籍したい中年たちが並んでいるBの列に並ぶ。
 隣りのAの窓口は遠くからやってきた冒険者たちで、すでに持っているランクやステータスをこの街の表記に切り替えに来ているベテランたちだ。

 窓口から一メートルほどは仕切りを兼ねた観葉植物が置いてあるが、A列からの圧はハンパではない。ベテランとルーキーの違い以外にも、この街の冒険者たちへの侮蔑や揶揄が感じられる。

――クソ、こいつら舐めてやがる――

 ムカつくアルテミス。

――でも、保険やら年金があって、インフラやら老後の生活に目が向いているんだから、外からは軟弱に見えるんでしょうねえ――

 こないだまで生徒会長をやっていたベロナは冷静に分析する。

「お次の方ぁ」

 眼鏡っこの受付が笑顔で応対してくれる。

「初めての方ですね、スキルとステータスを伺ってもよろしいですかぁ」

「ええと、学生証でいいか?」

「ええと……卒業証明書と単位取得証明などはお持ちではないのでしょうか?」

「あ、それは」

「あ、まだ在学中なんですかぁ?」

「うん」「はい、そうです」

「少々お待ちください」

 眼鏡っこは後ろの課長に伺いに行った。

「次の方、先におうかがいしまーす」

 バレッタで髪をまとめたのが次の受付を始めてしまう。

――学生?――わけありか?――段取り悪ぅ――弱そう――生意気そう――

 揶揄やら馬鹿にしたのやら物珍しげな眼が突き刺さって来て居心地が悪い。

「クソぉ」

「ここは辛抱ですよアルテミス(^_^;)」

 なだめるベロナの目も引きつっているが、さすがにアルテミスは突っ込まない。

「お待たせいたしましたぁ」

 眼鏡っこがバレッタの横から体を斜めにして書類を見せる。

「ええと、曙の谷のあたりに初級のモンスターが出ますので、取りあえずそれを狩ってきていただけますか? その成果でスキルとステータスを決定する運びになります。よろしいでしょうかぁ?」

「あ、ああ」

 曙の谷は広場でも聞いた。大したところではなさそうなので小さく頷く二人。

「それでは、魔石とかドロップアイテムがありましたらぁ、必ずお持ち帰りください。それを元に査定いたしますのでぇ」

「おお」「承知しました」

「ええと、前衛はどうなさいますかぁ?」

「前衛?」

「お見かけしたところ、アーチャーとメイジ(魔法使い)のようにお見受けするんですが?」

「ああ」

「だとしたら、近接防御の戦士とか剣士が必要だと……あ、腕に覚えがおありなら構わないんです。まあ、曙の谷ですからぁ(^_^;)」

 聞こえたのか眼鏡っこの応対で想像がつくのか、フロアーの半分ほどがクスクス笑う。

「お、おう、なんとかする」「はい」

「そうですか、では向こうの窓口で冒険者保険をおかけになってからお出かけください……」

 もう少し話したそうにしていた眼鏡っこだが、バレッタと次の登録者に押されて消えてしまった。

「そうだ、学校で用意したガードがいるって教頭先生がおっしゃってなかったかしら?」

「あ、そういや……ギルドに行って登録のついでに確認しなさいとか言ってたなあ」

「登録のついでなら、ここだなあ……」

「どこに居るんでしょう……」

――ここだ――

 直接頭の中で声がして、振り返ると柱の横にドアーフの戦士が見えて、ビックリする二人だった。



 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          月の女神
  • ベロナ            火星の女神 生徒会長
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)131・谷六のホームにて

2024-08-25 08:27:14 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
131・谷六のホームにて 松井須磨 






 けっこう大変なんだ。

 気軽な温泉旅行だと思っていた。

 南河内温泉は、学校からの直線距離で十キロもない。車だと三十分、電車を乗り継いでも一時間あれば楽勝だ。

 ところが、念のために学校に届け出ると意外な反応。

「……下見に行くから」

 ちょっと間をおいて顧問の朝倉さ……先生が宣言した。

「個人的な旅行だからいいですよ」

「わたしも行きたいから、ね(^_^;)」

「でも、景品のクーポン券は四人分しかないし」

「いいわよ、自分のは出すから! 赴任してから温泉なんか行ったことなかったし。ね(^▽^)/」

 他の子の手前もあるので「じゃ、よろしくお願いします」お礼を言っておしまいにした。


 帰りの地下鉄、八尾南行きが先だったので、ひとりホームで大日行きを待つ。


 そして、一本見逃す。

 予想通り、朝倉先生がホームに降りてきた。谷六の駅は島型のホームだから、上りも下りも同じ。

「あら、いま帰り?」

 自然なかたちで話しかける。

「あ……」

 ちょっとビックリしたような顔になる先生。いや、朝倉さん。

「無理してるんじゃない?」

「え、あ、ううん、そんなことないわよ(^_^;)」

「遠慮しないで言ってね」

 学校を出ると昔に戻る。

 だって、朝倉さんとは同級生だ。

 わたしって、過年度生で入学して6回目の三年生をやってるからね。ま、事情を知りたかったらバックナンバー読んで。

「うちって、バリアフリーのモデル校でしょ、部活とかの校外活動にも気を配らなくちゃならないのよ」

「あ、そか……(千歳のことか……分かってるけど声には出さない)」

「温泉だったら当然入浴とかもあるし、その辺のバリアフリーの状況とか、必要な介助のこととかね」

「なるほどね」

 その辺は、すでに調べてある。ホームページも見たし、疑問のある所は事前に問い合わせて確認も済ませた。

 伊達に高校八年生をやっているわけじゃない、それなりに大人なんですよ。朝倉さんへの返事も、いま気が付いたようにする。

「でも、福引で当てるってすごいわね」

「あ、それはダメもとでね。ま、部員を見渡したら、一番運がよさそうなのは小山内くんだから」

「小山内くんて、運がいいの?」

「いいわよ、五月で潰れるはずの演劇部残っちゃったし、こんな美少女にも取り囲まれてるしさ(^▽^)/」

「ああ、そうね!」

「アハハ、真顔で受け止められると、ちょっと辛い」

 高校生の制服を着ていても、もう『美』はともかく『少女』の範疇に入る歳じゃない。なんせ、朝倉さんは高一と高三の時の同級生だ。

「でも、福引十回も引けたのよね、ずいぶん買い物したのね」

「ああ、あれはね、薬局のオッチャン。四月のミイラ事件のお詫びだって」

 そう、あれは連日警察やらマスコミが来て、惣堀高校は『美少女ミイラ発見!』とか『惣堀に猟奇殺人事件!』とか大騒ぎになったけど、結局は、二十年以上昔に演劇部が作った小道具だったって話。そのミイラを作ったのが現在は薬局をやっている先輩だったというわけ。

 わたしたちには楽しい出来事で、演劇部の存続を間接的に助けてくれたんだけど、本人のオッチャンは気にしていたというわけ。

「下調べ、わたしも付き合おうか?」

 朝倉さんは無理してる。

 公式の合宿とかじゃないんだ、たまたま当たった近場の温泉。生徒同士の個人旅行に付き合う必要なんかない。
 でも、事前に報告に行ったことが朝倉さんにはプレッシャーなんだ。いま、待ち伏せみたいにしてるのも軽い気持ち。電車が来る数分の間だけでも昔に戻って話ができたらって、半分はいたずら心。彼女は大日方面だし、わたしは八尾南方面だしね。
 この半年の部活と、甲府で大お祖母ちゃんや林美麗と話せたことで、少しアグレッシブになった。

「いいわよ、ちょこっと行っておしまいだから」

「いつ行くの?」

「あ、近場だから今から」

「今から!?」

「あ、明日は土曜だし、ゆっくり温泉に浸かってくるわ」

「あ、えと……だったら、八尾南方面じゃないかなあ」

「え、あ……つい、いつもの調子で、こっち立っちゃった(^_^;)」

「あ、もう来るわよ!」

「あ、ほんと! じゃね!」

 慌てて反対側の八尾南方面の停車位置に移る朝倉さん、頭上の電光案内板を見る。わたしの下宿先も八尾南方面だけど、さすがに一緒に乗るのは躊躇われる。

 まあ、ここだけ話を合わせて次の谷九で朝倉さんは乗り換えるだろう。その邪魔をしてはいけない。

 八尾南方面行は谷四を出て間もなく着くと電車のマークが点滅している。大日方面も点滅しだしたし(^_^;)。

 

☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
 







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