大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・121『お祖母ちゃんは時々お香をたく』

2024-08-20 12:11:01 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
121『お祖母ちゃんは時々お香をたく』   




 お祖母ちゃんは時々お香をたく。


 お香は、線香とかもぐさみたいに焚くものから、アロマっていうんだろうか、香水っていうか油っていうかみたいな時もある。

 それが、今朝はお線香だよ。

「いい男が二人も逝っちゃったんでねぇ……」

 そう言って、ソファーに浅く座ってお線香の煙を見ている。

「え、だれが亡くなったの?」

 お祖母ちゃんの視線を追うと、線香の煙が『アランドロン』と『高石ともや』という名前を描いた。

「えと……だれ?」

「ええ、知らないのぉ……」

「あいにく……」

 そう言うと、お祖母ちゃんはめんどくさそうに指を動かす。

 すると、ラックから朝刊が浮き上がり、テーブルの上でパサリと三面を開いた。

 たしかに、アランドロンという人と高石ともやという人の訃報が大きく載っている。

「ええと……映画俳優とシンガーソングライター?」

 ハーー

 ため息をつくと、もう一度指を動かすお祖母ちゃん。

 すると、映画の一コマなんだろうか、すごいヤサオトコが胸の大きなオネエサンと恋人の距離で見つめ合ってる映像が出てくる。背景は海で、ちょっとやるせないギターの曲が流れてる。

 太陽がおっぱい……いや、太陽がいっぱいか(^_^;)。

 もう一度切り替わると、高石ともやっていう人の若いころの映像が出て、陽気な歌を唄ってる。

 おーいでみなさん聞いとくれぇ♫ ボークは悲しい受験生ぇ……(^^♪

「ああ……」

 そういえば、クリスマスイブの集いとかで歌ってた曲っぽい。


 深入りするとお互いギャップにため息つきそうなので戻り橋を渡って写真館に行く。


 ボスの直美さんが晩夏をテーマに写真を撮りたいというのだ。

 いつもは家業の記念写真のために結婚式場とかだったりするんだけど、直美さんはプロの写真家でもあるんだ。

 それで、気心の知れた助手を連れて秋に応募する写真を撮りまくりたい。

 それを企画を練る段階からわたしを参加させ、テンションを上げたいという目論見。

 まあ、もう半分は、こんなわたしでも慰労してやろうという気持ちでもあるんだと思う。

 あ……ああ(-_-;)ゞ

 橋を渡った1971年は、令和と変わらない暑さ。

 でも、やってきた電車はめったに出くわさない冷房車。冷房の設定温度は令和より5度くらいは低くてラッキーだった。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)126・餃子が焼き上がるまで

2024-08-20 08:59:07 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
126・餃子が焼き上がるまで 






 子ども手当というものがあった。


 十五歳までの子どもを扶養する親に月々13000円支給される。子どもたちの経済環境をよくし、少子化対策の狙いも持たせた国の施策だ。

 受給資格に国籍条項はなく、外国人であっても受給できる。

 申請は地方自治体の窓口だ。

 これに、日本に住む外国人の親が申請に来た。なんと、子どもの数が50人!

「これは、ちょっと……(^_^;)」

 役所の窓口は困ってしまった。

「どうして困るの? 法律には人数制限は無いし、50人の子どもたちは全員わたしの子どもですよ、これが書類だし」

 なるほど書類は揃っている、法律で定めている子どもとは親権のことで、遺伝子的に親子である必要はないのだ。

 大お祖母ちゃんから聞いた時――とんでもないことだ!――と腹がたった。

「それは外国人の親が正しいよ」

 大お祖母ちゃんに言われた通り話すと、餃子を焼きながら美麗が背中で答えた。

「えーーどうして!?」

 餃子に目が無いわたしはヨダレを垂らしながら驚く。とうぜん美麗は「それはひどい!」と夕べの自分のように憤慨すると思っていたのだ。

「須磨のヨダレといっしょ。美味しいものがあったら、ヨダレ垂らして食べたいと思うのは人情だし、人間が生きていくために必要なバイタリティーだよ」

「だって、書類をよく見たら、親子関係は子ども手当の支給が決まってからのばっかりなんだよ」

「でも、法律には合ってるんだ。でしょ?」

「だけど」

「お皿は大きいのにして、餃子はチマチマ載っけちゃ美味しくないから」

「え、あ、うん……」

 美晴は素直にお皿を片付け、食器棚から白い大皿を出した。

「あ……っと、その奥にある錦手のがいい」

「こっち?」

「おいしく感じるでしょ」

 なるほど牛丼屋の丼のような柄で、食欲がそそられる。

「で、ぼんやりしてないで、お皿にお湯を張る!」

「へ?」

「お皿が冷たいと冷めてしまうでしょ」

「なるほど……」

 美晴はポットのお湯をなみなみとお皿に注いだ。意外なことにポットのお湯の半分が入る。

「子どもを育てるのは大変なんだよ、中国じゃ子どもっていうのは自分が生んだ子どもばかりじゃなくて、一族みんなの子どもが自分の子どもなんだよ……変に思うかもしれないけど、そうでなきゃ中国は、こんなには発展してないよ」

「美麗の言う通りだよ」

 いつのまにか林(りん)さんがテーブルについて餃子の焼き上がりを待っている。餃子はさっき林さんが皮から作ってくれたものなのだ。

「林さん……」

「ぼくの父親は国で役人をやってるんだ。子どもは、ぼくも含めてみんな外国に行かせてる。母親は去年呼び寄せたから、国には父親一人で生活。なぜか分かる須磨ちゃん?」

「たくましいお父さんですね」

「はは、父親は、いざとなったら捕まるつもり……あ、なんかヤバそうなことしてるんじゃないかって顔」

「え、あ、いや……」

「父親は、さっき言ってた家族手当程度の事しかやってないよ」

「え、じゃ、合法的なことしか……」

「いざとなったら、国はどんな罪でも被せてくる。父親は覚悟してるよ。だから、一族の事はボクが世話をするんだ」

「それが胡同なんですね……」

「そう、でも、須磨ちゃんは分かっちゃだめだよ」

「え、なんで?」

「簡単に分かられちゃ……面白くないでしょ。大お祖母ちゃんのように歯ごたえのある人になってよ。人生は面白くなくちゃね」

「焼けたわよ!」

 ジュワーー!!

 盛大な湯気と匂いが満ちた。わたしは、サッとお皿の湯を捨てて、美麗はすかさず餃子鍋をひっくり返してお皿に盛る。

「ナイス日中合作!」

 林さんは、各自の取り皿にタレとラー油を注いでいく。

「中国の餃子は、元来は水餃子なのよ。こうやって焼くのは余って固くなった餃子の食べ方」

「でも、ぼくは日本の焼き餃子が好き。ぼくも美麗も、こういう焼き餃子のように生きていくつもりだよ」

 林さんの幸せそうな笑顔で昼食の準備は整った。


「おや、ちょうど焼けたところだったんだねぇ」


 大祖母ちゃんが瀬奈さんを従えてやってきた。

「地酒のいいのが入ったからね……」

 瀬奈さんが角樽のお酒をテーブルの上に置いて、手際よく人数分の御猪口を並べて注いでいく。

「お嬢さまはニッキ水になさいますか?」

「あ……」

「まだ制服も着てないし、いける口なんだろ?」

「あ、じゃあ、一杯だけ(^_^;)」

 全員の御猪口が満たされて乾杯すると「では、準備をしてまいります」とお辞儀して出て行こうとする。

「あ、準備なら済んでる。着替えるだけだから」

「松井家の跡取りが出かけるんだ、粗略にはできないさ」

「あ、そんな大げさには(^_^;)」

「もう、年の内は帰ってこないんだろ」

「あ、まあ……」

 夕べ、松井の家を継ぐことだけは了承した。

 でも、それは了承だけで、いつ甲府に来るとは言っていない。

 とりあえず、高校生活は八年で終わりにする。そのあと大学に……まだ微妙に先延ばしだけど、そういう約束を大祖母ちゃんとしたんだ。

 庭の前栽の向こう、甲州の山々は癪に障るぐらいに変化が無い。

 でも、一昨日よりも、いっそう紅葉が進んで。その紅葉ぐらいには意地が通せたかと思った。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

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