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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

馬鹿に付ける薬 007・ループ道

2024-08-13 16:27:50 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

007:ループ道 




「……聞いておけばよかったかもしれないわ」

「聞かなくても分かるさ、道はほとんど一本道。道しるべも立ってるし、町への道は脇道よりも太いから、よっぽどボンヤリしていなければ無事に着くさ」

「ええ、道に迷うことは無いと思うんだけど……」

「じゃあ、なんだ?」

「馬鹿に付ける薬のことよ」

「え、ああ……」

 思いがけず校長に出会っておはぎをご馳走になって、月と火星の宿命と使命について話し、桃栗三年ではケラケラ笑って、ずいぶん気楽になって旅の道に戻った二人だった。だが、肝心の『馬鹿に付ける薬』の話しは一つも無かった。

「楽しく話ができたから、校長も忘れてしまったんじゃないか? あの畑の道で出会ったのはたまたまだったんだし」

「ええ、それはそうなんだけれど。あそこで出会ったのは、校長先生のタク……」

「校長の?」

「タクマシイ計画だったんじゃないかしら。式場では言えなかったことを伝えるための」

「え、そうなのか?」

「おはぎの用意と言い湯呑の数と言いピッタリだったでしょ」

「あ、ああ……でも、畑はわざわざ用意したようには思えないだろ。桃や栗も昨日今日に植えたものには見えなかったぞ。申し渡し式で言えなかったからといって、簡単に準備できるものじゃないだろ」

「でも、一か月も有れば準備できる」

「あの、ヨタ話みたいなお茶会を一か月も前から準備していたって言うのかあ?」

「ええ、校長先生と話せたことで、ずいぶん気が楽になった。そうは思わないこと?」

「え、ああ……でも、そうやって準備したのなら、肝心の馬鹿に付ける薬のことに触れなかったのは、不自然すぎないか?」

「わたしたちが留年するって決めて、校長先生は気が付いたと思うのよ。使命の事を考えていることを。ふつうの留年じゃなくて旅に出したのも……」

「難しいことは分からねえけどな。オレたちの狙いと学校の方針が一致してラッキーだったってことでいいんじゃねえかぁ」

「あ、まあ、それはそうなんだけれどね。そうよね、馬鹿に付ける薬は想定外だったけど。薬を見つけてうまくいくんなら、とても幸運なことだものね」

「水や食料も足りなかったし、それを補充できただけでもラッキーだったってことでいいんじゃねえか」

「そうよね、ごめんなさいアルテミス。とりあえず、始まりの町に着くことだけを考えて進みましょ!」

「そうだな……あれ、またやっちまったかぁ?」

「あ、ああ……」


 気が付くとさっき通った時に見た道しるべが立っている。


「景色もいっしょみたいだぞ」

「ああ、アルテミスが癇癪起こして蹴とばした石がそのままだわ」

「え、同じだってなんでわかる?」

「三回目だったから、マジックインクでチェックしといたのです。ほら」

 示した石には三回目を現す『3』書かれていた。

「ああ、さっきはオレの方がグチってたんだっけ」

「そう、今度はわたしの方から振ってしまったようですね」

「歩いてるうちに忘れてしまって、交代でグチっては、ここに戻って来ていたんだな」

「今度こそは『始まりの町』に着くことだけを考えて行くことにしましょう!」

「よし!」

 そうやってループすること四回目にして始まりの町を見晴るかす峠に立つことができた月と火星の女神たちであった。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          月の女神
  • ベロナ            火星の女神 生徒会長
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・119『妖退治・5・アキラ 夏の思い出』

2024-08-13 11:39:44 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
119『妖退治・5・アキラ 夏の思い出』   




「ええと……だあれ?」

 質問に質問で返してしまう。ネックファンで余裕ができたのか、結界を張るだけとはいえ警備をやっている自負心からなのかは分からない。

 白の少女は、それにこだわることもなく応えてくれる。

「ええと……アキラ」

「かっこいい名前ね」

 見かけは小柄な女の子なんだけど、白のワンピースにペタンコのサンダル、それに少しワイルドなシルバーのロン毛は「アキラ」っていう、ちょっとボーイッシュな名前が似合ってるので正直な感想になってしまう。

「あなたは?」

「あ、メグリ、時司巡……こんな字」

 空中に大きく『巡』の字を書く。

「ああ、巡洋艦の巡だね」

「ジュンヨウカン?」

 なんだか羊羹の二級品みたいなのを想像してしまう。

「軍艦の巡洋艦、戦艦の次に大きいの。で、メグリは魔女なの?」

「ちがうちがう……魔法少女」

 相手が人間だったらうかつに魔法少女なんて明かさないんだけど、このアキラは工事関係者とかの人間じゃないし、近づいても平気そうだから、悪意のある妖や魔物でもなさそう。

「魔法少女かあ……久しぶりに見たぁ」

「あ、見たことはあるんだ」

「うん、海没処分になるとき見送りに来てくれた」

「カイボツ?」

「うん、海軍の艦だったからね」

「え、アキラは軍艦だったの?」

「軍艦じゃないよ、潜水艦」

「潜水艦も軍艦でしょ?」

「フフ、軍艦と呼べるのは戦艦、巡洋艦、航空母艦とかだよ。それ以外の小さいのは艦艇っていうんだ」

 その時、風が吹いてアキラのロン毛が戦いで首筋の赤いあざが目に留まってギクッとした。

「ああ、ほかにもあるよ、こことかね」

 ワンピをめくった太ももにも大きなあざ。

「裸になると、他にもある。沈められた時に撃たれた痕だよ」

「撃たれて沈んだの?」

「うん、魚雷とかで撃ってくれたら一発で済んだんだけどね、5インチ砲……こんくらい(手で丸を作ってお茶碗の直径ぐらいの示した)ので撃たれたから、合計8発もぶち込まれたよ」

「8発も」

「うん、魚雷は高いし、5インチの弾なんて腐るほどあったしね……あ、終戦の時は、あっちの神戸港に居て、そこで捕まって。このすぐ前の海を通って和歌山の沖で沈められたんだ。ここに居ると両方が見えるんだ、それで、ちょっとお邪魔してる。メグリは?」

 小柄だから膝を抱えて見上げるようにわたしを見るアキラはめちゃくちゃ可愛い。

「あ、安倍晴天ていう陰陽師の手伝いで結界を張ってるの。この大屋根の中にはいっぱい妖とか魔物がいるんだよ」

「ああ、あんたたちだったのか。ここの悪者たちやっつけてたのは」

「あはは、やっつけてるのは晴天ていうボスだけどね。アキラ……」

「なに?」

 ちょっと失礼かもと思ったけど、思い切って聞いてみた。

「アキラって、日本の潜水艦なのに、そのぉ外人さんぽいね」

「あ、ああ。生まれはイタリアだからね」

「え、イタリア人!?」

「アハハ、人じゃないけどね。最初の名前は『コマンダンテ・カッペリーニ』って言うんだ」

「え、男みたい」

「イタリアの提督の名前だよ。イタリアが負けたらドイツに接収されて『UIT24』になって、ドイツが負けて日本に接収されて『イ号503』になった」

「え、じゃあ、アキラっていうのは?」

「途中、臨時にアキラ3号って呼ばれてた時期があってね、それがいちばん気に入ってる」

「そうだね、いちばん似合ってる」

「うん、ありがとう」

「どういたしまして」

 なんだか、昔からの友だちみたいになってきた(^_^;)。

「ねえ、その首にかけているのはなに?」

「あ、ネックファン。暑さは妖気を張って防いでるんだけど、これを掛けるといっそう涼しくなるんで、ボスの晴天がくれたんだ」

「へえ」

「かけてみる?」

「うん」

「どうぞ……」

「うわあ、なにこれ! 気持ちのいい林の中にいるみたい!」

「でしょでしょ、尾瀬っていうところのイメージなんだよ」

「うんうん、いいところだねえ」

 夏が来~れば 思い出す~♪ 遥かな尾瀬~ 遠~い空ぁ♪

「なに、その歌? この雰囲気にピッタリなんだけどぉ!」

「『夏の思い出』っていうんだよ」

「いいタイトルだねぇ……あ、やってきた!」

 ネックファンを付けたまま叫ぶアキラ! 

 顔は、最初のように南の空を見つめ、すぐに両手をその方向に伸ばした。

「アキラ?」

「静かに!……距離5000、方位角20……両舷魚雷戦ヨーイ! 距離4000……3000……2000……テーー!」

 アキラの両の手から8本の泡の槍が伸びて、数秒後に関空の上空辺りで大爆発!

 え、大丈夫!?

 ビックリしたけど、ちょうど着陸態勢に入っていた旅客機は何事も無かったように車輪を出して着陸していった。

「ねえ、いまの……」

 振り返った時には、もうアキラの姿は無かった。


 あ、ネックファン貸したままだった!



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)119・首席家老諏訪甚左衛門

2024-08-13 07:22:00 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
119・首席家老諏訪甚左衛門 





 部屋に戻ると、お寿司屋さんの湯呑みたいなのとオニギリが置いてあった。


「これは?」

「お食事には、お役目の方々や里の主だった方々が同席されます……」

「あ、そか。偉い人が並んでちゃ、うかうかと食べても居られないものね」

 瀬奈さんは、ちょっと困った笑顔で応えた。瀬奈さんの心づくしなんだと思った。

 おにぎりの中はシャケと野沢菜で、湯呑のお茶もたっぷりと飲み頃に冷ましてあって、なんだかホッとした。


 通されたのは、さきほどさんざん待たされた広間だ。


 百人近い人たちが、温泉地の宴会のようにお膳を前にして居並んでいる。

 みんな和やかな顔をしているのだが、醸し出されるオーラはいかめしい。

 須磨の席は上段のすぐ下、時代劇だと御家老さまあたりのポジションで、一人でみんなの方を向いている。

 須磨が収まると、広間の一同は手を付いて平伏した。よく見るとお役目らしい二十人余りの人は、それこそ時代劇のように裃を着ている。里の人たちもフォーマルない出たち、息が詰まる。

――おにぎり正解、こんな席、喉に詰まってしまう――

 須磨の前にも膳が用意されているが、これでは食べるどころではない。

「須磨姫様には、ようこそのお出まし。家老職諏訪甚左衛門喜びに耐えません、役目の者、里の者、みな同じ気持ちでございます」

 お嬢様でも収まりが悪いのに須磨姫様ときた。

「今夕は、ささやかながら宴の用意をいたしました。あいにく御屋形様はご帰還なされておられませんが、よしなにとのお言葉を賜っております。まずは、一同をご引見いただき、お言葉を賜りまする。が、なにぶん大勢でございますので、お言葉は一同の挨拶を受けられたあとで頂戴いたしとう存じます。それでは、次席家老の……」

 穴山さんの家令という肩書でもびっくりしたのに、それより大時代な家老、次席家老には驚いた。

 それから一人二十秒余り、全員で三十分かけての挨拶を受けた。

 いつもなら五分も正座していれば、感覚が無くなるほど足がしびれるのだけど、そうはならなかった。場の雰囲気か、それとも痺れすぎて間隔がなくなったのか……まあ、どっちでもいい。大お祖母さまには会えなかったけど、きちんと気持ちは伝えなければならない。

「みなさん、ご丁寧なごあいさつありがとうございます。本当なら大お祖母さまに直接お話しなければならないことなのですが、このように、みなさんお集まりですので、申し上げたいと思います……」

「それはお控え願わしゅう……みなまで申されますな、姫様」

 家老諏訪甚左衛門が制した。

「姫様は制服にてお出ましになられました。それでお気持ちは察せられます。それは、御屋形様にお会いになられてからで良いかと存じます……これで良いのであろう、穴山殿」

 家令の穴山が無言で頷いた。どうやら穴山さんが一苦労してくれているようだ。

「さ、これからは無礼講じゃ!」

 パンパン

 家老さんが手を叩くと、奥女中のような揃いの矢絣姿のメイドさんたちが、一同の膳に汁物と熱物を添えて、それぞれの盃を満たしていく。普通の宴会なら、取りあえずのビールになるんだろうけど、日本酒のようだ。

 つい今までメイド服で傍に居た瀬奈さんも矢絣になってお酌しているのには驚いた。瀬奈さんは早着替えの名人だ。

 そう思って瀬奈さんを見ていると――大丈夫ですよ――と、控えめに微笑んだ。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
 

 


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