大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・239『テムジンと出撃』

2024-08-08 11:04:09 | 小説4
・239

『テムジンと出撃』孫大人 




「あっちの1000騎は?」


「ゴルジンの兄のリムジンとドライジンの部隊だ。跡は継がせんが馬のほとんどは譲った」

「じゃあ、テムジンの馬は、この100騎だけか?」

「十分だ、100%リアル馬だしな」

「リアル馬アルか!?」

 ジャキーン

 東鈴の目がレジスターになって、また百元取られた。

 23世紀の今日、馬の99%はオートホース。100%のリアル馬は動物園かよほどの好事家でなければ使わない。オートホースも仕事や作業に適した調整が必要で、テムジンたちモンゴル人も仕事のほとんどはオートホースの調整だ。

 またも百元ふんだくられた儂などに構わずに、テムジンは1100騎に語り掛けた。

「ロシアと漢明は、この偉大なモンゴルの大地を戦場に変えようとしている。やつらには一かけらの正義も無い! かつての満州戦争で失敗し、漢明は、その実力の全てを戦争に賭けることはしない。ロシアも漢明と全力でぶつかる意思は無い。さきほど、満州の上空で双方のミサイルが激突し、全面戦争の無謀さを知った。そこで、パルス兵器を禁じているモンゴルの地で、その雌雄を決しようとしているのだ! これを座視すれば、モンゴルはかつてのように、ロシアと漢明の門に下らねばならぬであろう! 我ら草原の子らは、モンゴルの歴史に燦然と輝くチンギス・ハーンの末裔である! もとより世界帝国の夢など持たぬ我らであるが、その誇りはこの胸の内にある。モンゴルの地を奴らに許せば、やつらと、その欲望を他国の領土に向けようとしている邪悪な国々は野放図に、その食指を伸ばし世界を、やがては、この太陽系を果てしなき戦争のるつぼに投じるであろう! その野望を挫き、我らの平和を守るために立ち上がるぞ!」

 オオオオオオオオオオオ!

 1000騎と100騎の騎馬隊が雄たけびを上げる。数十秒昂りに任せ、やがて右手を挙げて制してテムジンは命じた。

「リムジンとドライジンは南の漢明に当れ、俺とゴルジンは北方のロシアを制する。かかれッ!!」

 オオオ! ドドドドドドドドドドド!

 蒼天の下、大地に馬蹄を轟かせ、1000騎と100騎は南北に分かれた。儂は東鈴と馬を並べてテムジンの100騎に付いていく。

「ねえ、テムジンは漢明には『当たれ』、ロシアには『制する』って言ったけど。違いはあるの?」

 東鈴が馬を寄せて聞いてくる。

「『当たれ』は、まず交渉しろという意味がある。『制する』は見つけ次第ぶちのめすという意味だ」

「ほう……じゃあ、あたしたちは面白い方に付いてきたわけだ(^▽^)/」

「ふ、不謹慎アル(>◇<')」

 ジャキーン

 東鈴の目がまたレジスターになった(-_-;)



 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)114・12年ぶりのニッキ水

2024-08-08 07:18:38 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
114・12年ぶりのニッキ水 





 一年延ばしにしてきたのがいつの間にか六年、数えて24歳になってしまった。

 車窓から見えるナナカマドの実の赤が際立ち、ダケカンバの黄葉さえ目に痛く――もう、とっくに期限は過ぎている――と責められているような気さえする。

 甲府の駅に下りてロータリーに出ると、まるで昨日の今日という感じで穴山さんが立っていた。

「お迎えにまいりました、お嬢様」

「……ご苦労です」

 ほんとは「お嬢様なんて止してください」と言いたかったんだけど、無駄だと分かっているので止した。

 抗えば、穴山さんは礼をもって「そうはまいりません」から始まってしばらくは喋ることになり、その話の内容は、ロータリーに居る地元の人や観光客の耳に留まり、場合によっては写真や動画に撮られかねない。

 わたしは、ちょっとしたこだわりで学校の制服を着ている。制服姿で撮られては、このネットの時代、検索に掛ける方法はいくらでもある。どこをどう経巡って惣堀高校と特定されてしまうか知れない。内外の関係者に見られたら、すぐに松井須磨と知れてしまう。

 それだけは避けなければならない。

 数日後、無事に大阪に帰ることになっても。このまま死ぬまで田舎に留め置かれることになるとしても……。


「穴山さん、ちっとも変わりませんね」


 ロータリーから車が出て、五分もすると沈黙に耐えられなくなり、自分から声をかけた。

「嬉しゅうございます、ひょっとしたらお屋敷まで口をきいていただけないのではないかと心配いたしておりました」

「穴山さんには何もありません。大お祖母様にもありません、ただ、この身体にも流れている松井家の血が疎ましいだけなんです」

「……それは、この穴山が嫌いと言われるよりも辛うございますね……お嬢様は、お心に留まるような殿方はおいでではなかったのですか」

 あ、と思った。

 穴山さん、家令としては踏み込み過ぎた物言いだ。

 穴山さんは、大お祖母様に会わざるを得ないわたしを哀れに思ってくれているんだ。松井家の宿命に呑み込まれそうな、哀れな高校八年生のわたしを。

「クーラーボックスにニッキ水が入っております」

「え、ニッキ水!?」

 甲府の街も、いま向かっている山梨の自然が目にも心にも痛いわたし。そんなわたしでも子供のころに馴染んだ飲み物、それももう飲めないと諦めていたそれを見せられると心が弾んでしまう。

「もう作っているメーカーも少のうございましてね」

「そうでしょ、わたしも十年以上前に田舎で飲んで以来だもの」

「それが、お嬢様、そのニッキ水は大阪で作っているんでございますよ」

「え、あ、ほんと」

 ボトルという今風が似合わない瓶の側面には大阪は都島区の住所があった。

「不器用なものですから、お嬢様のウェルカムに、こういうものしか思いつきませんで」

「ありがとう、穴山さん」


 わたしは、シナモンの香り高いニッキ水を口に含んだ。


 12年ぶりの大お祖母さまとの再会にカチカチになっていく肩の凝りが、ほんの少しだけ解れていく……。



 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

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