やくもあやかし物語 2
フッ…………………あ、あれ?
デラシネはスピードを緩めることもなく突撃して来たかと思うと、わたしとハイジをすり抜けて走り去ってしまった!
なんかVRゲームをやっていて、キャラやオブジェが手応えなくすり抜けていくみたいだ。
ただただ、呆然としてデラシネの後姿を見送ってしまう。
「あ、ひょっとして!?」
ハイジがなにかに気づいて、焚火の跡に手を伸ばす……生焼けの木切れを掴むと、二つになった。
「「え?」」
掴んだ方は、ちゃんとハイジの手の中にあるんだけど、同じものが薪の跡に残っている。
ガチャガチャ
ハイジが焼け跡を足でかき回すと、木切れはあちこち飛び散ってしまうんだけど、もう一つの焼け跡はそのまま残っている。
「なんだこれえ!?」
「次元がズレてる……」
「なんだ、それ?」
あやかし慣れしてるやくもはピンときた。だけど、ハイジはまだ腑に落ちない。
「走ってるうちに、次元が微妙にズレた。この焚火と散らばった焚火は別の次元なんだ。見てて!」
木切れを拾って砂浜にへのへのもへじを描く。
「なんか、切れ切れだぞぉ?」
「あっちの砂浜とこっちの砂浜が重なってるんだ。わたしらとデラシネが走って、砂が蹴散らかされた状態で重なってるから、向こうの次元の砂浜には描けないんだ。だから切れ切れになるんだ!」
「ええ……じゃあ、どうすんだよ?」
「どこかに切れ目があるはず、そこを超えれば……」
言ってはみたけど、それがどこだか見当もつかない。
フフフ( ´艸`)……ウシシ(*`艸´)……
あいつらの笑い声がするけどムシムシ。
日本にいたころ『合わせ鏡のあやかし』にやられたことがある(やくも・03『フフフフ』)。左右に果てしなくやくもが居て、同じやら左右逆やらに動いて抜け出すのに苦労した。
ポケットに手を突っ込んで御息所たちを引っ張り出す。
力尽きて寝てるけどかまっちゃいられない。
「ちょっと、起きて、大変なのよ!」
『ムゥ……まだ無理ぃ……』
目をつぶって、赤ちゃんみたいに丸まってしまう御息所。
ミチビキ鉛筆も思いやりもピクリともしない。
「こいつら、ダメなのかあ?」
「うん、さっき激しく戦ったからね……」
仕方がない、無理を言ってるのはヤクモの方だ。
優しく掴んでポケットに戻そうとしたら、御息所が、弱々しく自分のポケットを指さす。
ポケットからマチ針の頭みたいなのが覗いてる。
「あ、受話器だ!」
「ちっちぇ」
そうか、これは交換手さんの黒電話!
激しい戦いで壊れたり無くしたりしないように、御息所は自分のポケットにしまっていてくれていたんだ!
一センチほどの受話器を、ちょっと迷ったけど、とりあえず口のところに持っていって呼びかけたよ。
もしもし……もしもし……
☆彡主な登場人物
- やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
- ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
- ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
- メグ・キャリバーン 教頭先生
- カーナボン卿 校長先生
- 酒井 詩 コトハ 聴講生
- 同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ ヒトビッチ・アルカード ヒューゴ・プライス ベラ・グリフィス アイネ・シュタインベルグ アンナ・ハーマスティン
- 先生たち マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
- あやかしたち デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) トバル(魔王子) トバリ(魔王女)