大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・156『お土産を渡しに行くと櫛が居た』

2024-12-05 13:38:15 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
156『お土産を渡しに行くと櫛が居た』   




 修学旅行明け、最初のアルバイト。


 写真館に出勤するとお土産の八つ橋を「マスターとコミコミなんですけど(^_^;)」とお愛想笑顔で渡し、公民館に着いてから残りのひとつを式場の采女さんに渡しに行く。

 控室をノックしようとしたら話し声。

『それで、わざわざ……』

『うん、ちょっと特別でね……じつは……』

『……え……え……え、そうなの!?』

『うん……あ、外に人が』

 しまった(;'∀')。

『あ、ちょうどいい。入って来てグッチ!』

 見破られてるしぃ。

「失礼しまーす」


 入ってびっくり。

 采女さんは、いつものように巫女服でお茶を飲んでるんだけど、部屋には采女さんひとりだけ。で、テーブルの上には見かけない櫛が載っている。

「紹介するわ、この式場で写真屋さんのアルバイトしてる時司巡さん、慣れたらグッチって呼んであげて」

 なんと、テーブルの上の櫛にわたしを紹介する。

 すると、横になっていた櫛がカタリと直立すると、お辞儀をして口をきいた。

『先日はお参りにきてくださってありがとうございました、時司さん』

「え、はあ……」

「彼女、八坂神社の御祭神のクシナダヒメさん」

『きちんと書くと櫛稲田です』

「クシイナダ?」

『まあ、どっちでもいいんですけどね』

「じつはね…………ヒソヒソヒソ」

「ええ、そうだったんですか!?」

 産寧坂で時間を取ったこともあって八坂神社では、お参りしただけで時間切れ、慌ただしくお守りを買ったら集合時間れになってしまった。

『……ということで。どうかしら、お願いできるかしら?』

 櫛に頼まれては頭を下げるしかない。

「わかりました、なんとかいたします」

『そう! うれしいわ、恩にきます!』

 そう言うと、櫛はペコリと45度のお辞儀をしたかと思うと、ドロンと姿を消した。

「先月は前の月が神無月だったでしょ。神無月は日本中の神さまが出雲に集まって好き勝手に言うわけでしょ。亭主の須佐之男命は武神で偉そうにしてるだけしか能がなくって、実務はみんな女房の彼女が取り仕切って、もう師走だって言うのに手が抜けない様子でねぇ、ここへも櫛の姿でしか来れなかったのよ」

「あ、でも、綺麗でかわいい櫛でしたよ」

「そりゃあ、ヤマタノオロチやっつける時に須佐之男の髪に隠すために変換したアバターだからね。アイコンみたいなもので、同時に何十体もコピーして、あちこちで仕事をしたりお使いに行ったり」

「あ、そうなんだ」

「日中国交回復とかしちゃったでしょ。人の往来はともかく、神さまとかはビザもパスポートも要らないから、どんどん入って来ちゃう。向こうも多神教で神さまも妖も多いからねえ」

「アハハ、妖怪太陽光パネルとか……」

「え?」

「あ、なんでも」

 頼まれた用件は、こうなんだ。

 八坂神社で、我が担任のハナちゃんこと花園先生は縁結びのお守りを買おうとしたら、わたしたちが賑やかにやってきてトチ狂ちゃって、縁結びの横の学業お守りを指さして「これください(;'∀')」と言って言い直しも出来なかったわけなんだ。

 神さまは、そんなこともお見通しなわけで、あらためて、花園先生に授けたいんだけども、本業が忙しいので代わりに渡してくれないだろうかと采女さん(スセリヒメ)に頼みに来たわけ。

「あ、それから」

「なんですか?」

「あなたたちが拾ったのが、ハナちゃん先生のお守りだから」

「え?」

「校内放送は聞こえてないみたいよ」

「あ、ああ……」

 そう言えば、あの後、若杉先生が校内放送でゴニョゴニョ言ってた、あれがそうだったんだ。昼休みの放送って、たいてい聞いてないもんね。

「さあ、次のお式、そろそろだわよ!」

「あ、いっけない!」

 慌てて、それぞれの持ち場に飛んで行ったよ。


 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 



 
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!82『沈む夕日は朝日に似てる』

2024-12-05 07:48:13 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
82『沈む夕日は朝日に似てる』 




 今夜は、明日のスタジオ撮りの準備のため黒羽は帰ってこねえ。
 
 あらかじめ分かっていたことだけど美優はとても寂しかったぞ。人生の一日一日がこんなに大事なものだと思ったのは初めてのことみてえだ。

 美優は黒羽の下宿部屋になった親父の部屋で一晩過ごしてやがる。ドロシーのお下げを三回叩き『オーバーザレインボー』を繰り返し聞いてやがる。


――三日で、虹の彼方にたどりつかなきゃ――


 そう思っているうちに美優は眠りにおちてしまいやがった(^_^;)。

「まあ、こんなところで寝てしまって……」

 明け方になって気づいたマダムは、美優の手からドロシーの胸像をそっと取りあげやがる。

「よいしょっと……フフ、何年振りかしら……」

 その見かけよりも強い力で美優を抱き上げると、美優の部屋まで連れて行きやがる。


「マダム……」


 黒羽の声が聞こえたのは、美優を抱きかかえたまま、どうやって美優の部屋のドアを開けようかと苦心している最中だったぞ。

「ボクが代わります」

 黒羽は、ドアを開けてからマダムの手から美優を受け取り、ベッドに寝かしつけやがった。

「……可愛い寝顔だ。むかしのまんまだな」

「黒羽さん。あなたスタジオの方は?」

「あ、会長命令で、もどってきました」

「ミツルクンが?」

「あんまり、わたしが働きすぎると、若い者が育たんと言われました」

「そうね、その気持ちは分かるわ」

「マダムだって、美優ちゃんをそうやって育てているんでしょ。昨日のロケの衣装直しは、美優ちゃん一人に任せていたし」

「……黒羽さん、お疲れのところ悪いんだけど、少しいいかしら」

「え、ええ」


「この店は、わたし一代でおしまい」


「じゃ、美優ちゃんは……」

「東の空が明るくなってきた……この朝とも夜ともつかない時間は、墓場の死人でさえ、起きあがって真実を語る」

「シェ-クスピアですか?」

「わたしよ……シェ-クスピアらしく聞こえたら光栄だわ。こう見えても、若い頃は女優志望だったの。オタクの会長さんが、田中米造の本名でフォークやってたころの大昔」

「そうだったんですか、道理で魅力的な人だと思ってました」

「美優のことは、どう思ってるの?」

「そりゃあ……可愛いくて、チャーミングで、見かけによらず働き者……」

「そんな営業用の言葉じゃなく、本当のところを聞かせて……!」

「マダム……」

「あなたのお父さんのために、かりそめの婚約者をやっているけど……美優は本気よ」

「それは……」

「もし、あなたに、その気がないなら、お父さんには悪いけど、もうおしまいにしてやって」

「マダム……」

「実は……あの子の命は、あと三日とちょっとしかもたないの」

「え……治ったんじゃないんですか( ゚Д゚)!?」

「薬よ……新薬なの。末期のガン患者を、その命の灯が消えるまで元気でいさせてくれる。だから、その瞬間まで、あの子の好きなようにやらせようって決心したの。好きなところに行って好きなことやりなさいって、わたしのゴールドカード渡してある。でも、あの子は、病院から、ここに戻ってくるタクシー代に使っただけ。あとは自分の貯金。あの子全額下ろしてる。あの子には、あと三日とちょっとが一生の全て。だから、たとえお父さんのためでも、偽りの恋人なら、もう止してあげてちょうだい。あの子は見た目には昇る朝日だけど、もう日没寸前の夕陽なのよ」


 昇り始めた朝日に照らされた黒羽は、しばらく言葉もなかったぞ。


 マユは、もう少しで二千万個目のガン細胞をやっつけるところだった……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • レミ       エルフの王女
  • ミファ      レミの次の依頼人  他に、ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
  • アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
  • 白雪姫
  • 赤ずきん
  • ドロシー
  • 西の魔女     ニッシー(ドロシーはニシさんと呼ぶ)  
  • その他のファンタジーキャラ   狼男 赤ずきん 弱虫ライオン トト かかし ブリキマン ミナカタ
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 美優       ローザンヌの娘
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 上杉       オモクロのプロディューサー
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
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