かの世界この世界:128
灌木林の獣道を進む。
灌木とは言っても人の背丈の何倍もあって、その灌木たちはノンノンと葉を茂らせているので薄暗い。
おまけに低木の枝とか蔓とかも手で避けられる量ではないのでアイテムフォルダーから出した鉈を振り回して道を広げなければならない。
えい!……えい!……せい!……それ!……
いちいち掛け声をかけて鉈を振りかぶるが、タングリスはほとんど無言で道を切り開いていく。
「力を入れていては直ぐにバテるぞ」
「ああ、分かるんだけど、声をあげないと力が入らない……せい!」
「そうか、なら、わたしがペースを合わせよう。ひとまず汗を拭け」
「あ、そうだな」
言われて気が付いた、顎の先から汗がしたたり落ちている。ざっくり拭いてから首にタオルを巻く。ほんとうなら腕まくりをしたいところだが、蔦や小枝で手を傷つけるので我慢する。
「人間は図体が大きくてたいへんだね(^^♪」
ポチのやつが喜んでいる。
ポチは1/6フィギュア程度の大きさしかない。枝や葉っぱの隙間をスイスイと飛んでいける。
「ポチの基準で道というのは、こういうのも入るんだ」
「獣道だから仕方ないよ」
言うことはもっともだ。獣道でないところは下草がハンパでは無くて鉈を振り回しても進めるものではない。
ブイーーーーーン!!
突如、斜め後ろで派手な音がした。
「これだとラクチンであろう🎵」
ブリュンヒルデがチェ-ンソーを使いだした。
「姫、それはいけません」
「どうしてさ」
「音が大きすぎます、ヤマタに気取られてしまいます」
「気取られて、姿を現してくれたら勝負が早くなるのではないか?」
「こちらから仕掛けるのと、相手から奇襲をかけられるのでは勝率が全然違います」
「そんなものなのか?」
「はい、地味ですがコツコツとお願いします」
「ブリュンヒルデのツィンテールをぶん回せばいいじゃないか。いつだったかのプレパラート戦のときなんか大活躍だった」
「か、髪が汚れるだろ! 葉っぱとか湿ってるし、訳の分からない虫とかもいるし、そんなの付いたらあとの手入れが大変だ」
「口ではなく手を動かして!」
タングリスのこめかみに青筋が浮く。ポチの力では鉈は振り回せないので、これはブリュンヒルデ一人に言ったのと同じである。
「ンモーーー」
クリーチャーとの戦いでは大人びた口で冷静に戦闘指揮もできるブリュンヒルデだが、お姫様然とした我儘が出てくる。自分より年下のロキやケイトが居ないこととタングリスというおもり役がいるからこそのことなんだろう。
「ほら、しっかりやれー! フレーフレー! ブリュンヒルデーー🎵」
「ポチも手を動かせ! タングリスも言っただろーがあ!」
「動かしてるもん、ブリュンヒルデ応援するのに手を振ってるよ🎵」
「叩き落すぞお!」
「おっかなーーーい🎵」
「姫!」
「うい」
「ポチも、しっかり進路を警戒しろ」
「らじゃー……まだ百メートルも進んでないよ、まだ五キロはあるよ」
「いつまでかかるか分からんなあ」
みんなの手が止まってしまった。
「ブロンズフラッシュを使ってみる」
わたしはスキルを使うことにした。スキルはHPとMPを馬鹿みたいに必要とするが、回復系アイテムもふんだんにある。
「試してもらおうか……」
わたしは「ブロンズフラーーッシュ!」と詠唱しながら勇者の剣を振った。
ブリュン!
ザザっと頼もしい音がして、枝やら木の葉やらが盛大に舞い散った。
半径三メートルほどの灌木がきれいに薙ぎ払われた。しかし、たったの三メートルでしかない。もう少しいけると思ったのだが。
「ダメだ、我々の進路を暴露するだけだ」
そうだろう、百回使って六百メートルほどは進めるが、同時に幅三メートルの空白を灌木林に着けてしまうことになって我々の存在を暴露してしまう。
「わかった、わたしがやろう……」
ブリュンヒルデが俄然大人びた口調になって、ツィンテールのリボンを解いた。
「いくぞ……スプラッシュテール!」
ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク!
解かれたテールが数百の枝切ばさみになり人一人が通れるほどのトンネルを灌木林の中に穿って行ったのだった。
☆ ステータス
HP:11000 MP:120 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
持ち物:ポーション・180 マップ:10 金の針:50 福袋 所持金:350000ギル(リポ払い残高0ギル)
装備:剣士の装備レベル45(トールソード) 弓兵の装備レベル45(トールボウ)
技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
白魔法: ケイト(ケアルラ)
オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
タングリス トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
タングニョースト トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属
ロキ ヴァイゼンハオスの孤児
ポチ ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
―― この世界 ――
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長