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美紀をごみ置き場の観音開きの向こうに見送って、ため息ひとつ。
たぶん、これで良かったんだと思う。中抜けというちょっとした冒険。姉貴の服に着替えさせてホテルへ。一通り喋らせると、オレは美紀をベッドに誘った。予想通り美紀は拒絶した。しかし「ごめんね」と言いながら目は潤んでいた。この次は、きっとうまくいく。
そう思って振り返ると、オレのバイクに並んでもう一台のバイク……見覚えのある400CC……。
「ネネちゃん先生ご愛用のホンダの400よ」
視野の外から声がかかった。
「ゲ、ネネちゃん先生!?」
先生は、黒の短パンツナギに肘と膝にプロテクター。長い髪を風になぶらせて、まるで峰不二子。オレはルパン三世並の早さでバイクに跨ったが、バイクはウンともスンとも言わない。
「キーは預かってるわ。ここじゃ目につく、そこの公園にでも行こう」
住宅街の小公園は、昼前ということもあって、人っ子一人いなかった。
「……どうして分かったんすか?」
「最初のメール見たのが失敗。あれ開くとGPS機能が働いて、どこに居ても分かっちゃう。鈴木オートもホテルナントカも。で、美紀ちゃんを学校に戻すの見当ついてたから、あそこで待ち伏せしてたわけ」
「オレの声色どうして分かったの?」
「石橋先生の横にいたのよ。石橋先生、あたしに振りたがってたけど、亮介の情報知りたくって、そのまま横で聞かせてもらった。声紋チェクで亮介だってことは分かってたけど、声色使ってまでのずる休みの動機が知りたくってね。石橋先生早く切っちゃったから、どこか女の子に会いに行くとこまでしか分からなかった。ちょっとややこしいことになりそうだから、ここまでフォローしてきたのよ」
「なんで、そんなことができるの……?」
「だって、あたしは亮介の副担任だもの」
「説明になってない。先生って、なんだか超人的だ……」
「あたしは特殊な先生なの。石橋先生みたいな無責任でもないし、亮介のご両親のようにそつのないベテラン風のマニュアル教師でもない」
「それって……」
遠くで雷の音がした。嵐の予感がした。
「亮介の美紀ちゃんへの関心は、年齢的には相応なものだと思う。ホテルに誘ったのは少し飛躍だとおもったけど、無理押しはしなかった」
「そんなことまで……」
「言ったでしょ、メール開いちゃったから、みんなお見通し」
「無茶してないから、いいじゃん。ちゃんと時間通りに美紀送り返したし。明日はちゃんと学校行くしさ」
「亮介、君は順序さえ踏めば、それでいいって思ってんのよ。亮介の美紀ちゃんへの想いなんて、ただ女の子に対する関心をごまかしてるだけ。あけすけに言えば美紀ちゃんの心と体を自由にして楽しんでいたいだけよ」
「そ、それはあんまりな言い方だ!」
「ほうら、核心を突いたからムキになる」
「そ、そんなことは……」
「あるわ。亮介、あんた一度もあたしから目をそらさにじゃない。普通の人間は、言葉を選んだり、考えをまとめるために無意識に目線がずれるもの。ウソをつく前兆だけじゃないのよ、目をそらすのは……」
オレの心はざわついた。自分でも美紀への気持ちは本物だと思っていたから……でも、オレのウソの核心は突いている。
「試してみよう……」
「え……?」
ネネちゃん先生の輪郭がぼやけたと思ったら、二三秒で姿が変わった……え?
その姿は、美紀そのものだった!