泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
お祖母ちゃんは思い立ったらすぐの人だ。
若いころに、お好み焼きのお店に入って「めちゃくちゃ美味しい!」と大感激。お勘定をしてもらいながらバイトを申し込み、三か月働いてノウハウを覚えると、直ぐに自分の店を出したらしい。
買い物に行って、人さまのムームーやアロハがダサいと感じて、あくる日には衣料品の店を出してしまったこともある。
お祖父ちゃんと出会ったら「この人だ!」と猛烈にアタック。一か月後には結婚し、十一カ月後にはお母さんが生まれている。
あたしが生まれた時も「神さまの啓示があった!」と叫んで飛行機に乗り、生まれた病院に直行し「孫娘を抱っこしたい!」と詰め寄った。新生児は24時間はガラス張りの新生児室から出せないので、ガラスに貼りついてスリスリしていたとか(^_^;)。
「お母さん、明日には抱っこできますから」
お父さんが言うと。
「義男さん、この子の名前!」
「え、あ、それはまだ」
「ミコになさいな、響きがいいし、縁起もいいの。字はね……」
電子辞書を出して検索し「美」が気に入って、その押し出しのまま、あたしに美子という名前を付けてしまった。
美子ってのは普通「よしこ」って読まれる。
以前は、名前を伝えるたびに「ミコって読みます」と注釈していた。
でも中学からこっちはシグマで通っているので、まっいいや。
今回は何を思い立ったかというと……。
「ミコ、この写真に写ってるのはなんという?」
うちに来るなり写真を見せた。ウインドブレーカーの下には、あのTシャツを着てるけどスルーしておく。
「えと、皇居?」
見たマンマを答える。
「んーーーーーミコもそうかぁ(-_-;)」
お祖母ちゃんは、まるで外人を見るような目であたしを見る。
てか、お祖母ちゃんこそ外人なんだけどね。
日本語はペラペラだけど、髪はブロンドで目は青い。
名前はミリー・ニノミヤ。お祖父ちゃんはとっくに亡くなったけど、お祖父ちゃんの苗字を大事にしている。
「写真に写ってるのは橋だろ?」
「え、ええ?」
確かに写っているのは皇居前広場から見た二重橋だ。
「不思議だよねーーーー」
ということで、先輩との約束をキャンセルして皇居前広場に行くことになった。
「ちょとスミマッセーン」
わざとカタコトの日本語になって皇居前広場の人たちに聞くから恥ずかしい。
お祖母ちゃんとあたしには共通点がある。
お祖母ちゃんの口もΣなんだ。
でも、お祖母ちゃんのΣ口はチャーミングだ。
チャーミングなΣ口をアヒル口とも言う。グニュっと尖がったところに愛嬌がある。
子どものころ、ディズニーランド(アメリカのね)に連れて行ってもらって、ドナルドダックに初めて会って、親類に違いないと思いこんだこともあるんだって。
普通の口でもアヒル口はできるけど、わざとらしくなる。お祖母ちゃんのは天然だし、アヒル口に見合った活発さと愛嬌がある。
わたしのアヒル口も天然なんだけど、肝心の活発さと愛嬌が無い。だから、ただ尖がってるとのみ認識されてΣと呼ばれる。
お母さんはΣでもアヒル口でもない普通。どうやらお祖母ちゃんの形質的隔世遺伝。
「お祖母ちゃんと比べっこしよう」
中学の時、鏡に映して比べたことがある。
「ハハ、ミコとお祖母ちゃんはいっしょだね。口元がとってもチャーミング、そうだ! これTシャツにプリントしよう!」
藪蛇で、お祖母ちゃんは、あたしとのツーショットをイラスト化してしまった。
「これ、お店でも良く売れてるよ!」
でもって、皇居前広場に来たあたしはおソロのTシャツ。肌寒いからと言い訳してカーディガンを着てるんだけどね。
とにかくエネルギッシュなお祖母ちゃんにはかないません。これで、先月は心臓発作で死にかけたんだけどね。
そんなお祖母ちゃんと、昨日と今日はアキバに来ている。
アキバはあたしのお庭みたいなもんなんだけど、久々にアキバでノビてしまった。
いろいろ話題を提供してくれるお祖母ちゃんなんだけど、またいずれお話します(^_^;)。
☆彡 主な登場人物
- 妻鹿雄一 (オメガ) 高校二年
- 百地美子 (シグマ) 高校一年
- 妻鹿小菊 中三 オメガの妹
- 妻鹿由紀夫 父
- 鈴木典亮 (ノリスケ) 高校二年 雄一の数少ない友だち
- 柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉
- ヨッチャン(田島芳子) 雄一の担任