ライトノベルベスト
「先輩、これは誤解しますって!」
あたしはスマホの画面を、来栖先輩の鼻先に突き付けた。
「アハハ、だよな。うけるな、これは。今度の飲み会で言ってやろ」
「もう、並の女の子なら、これ見ただけで来ませんよ」
「まあ、これだから人生はおもしろい!」
そう言いあっているあたしたちの足元を生後三か月のラブラドール・レトリバーが尻尾を振りながらチョロチョロしている。
そう、先輩は「ラブラドール」と打つところを「ラブドール」と打ってしまったのである。
「この子の名前は?」
「MAME」
「プ」
思わず噴きだした。
「ラブラドールって、大きくなるんですよ。今はいいけど大きくなってからマメって、なんだか変」
「いや、うちに来る前から付いてた名前だから変えるのもかわいそうに思ってな」
「あ、これお土産」
コンビニ特製のお結びを袋ごと渡す。先輩はそれをローテーブルの上にぶちまけた。渡す方も渡される方も色気なしを通り越して、いささか乱暴。
マメは、梅干し入りのお結びを咥えて、自分のエサ皿まで持っていくと、器用にラッピングを外してハグハグと食べだした。
「器用なんですね」
「ラブラドールは、賢いからね」
意味が分かるんだろうか、梅干しのシソの葉を口に付けたまま、嬉しそうに「ワン」と吠えた。
それから二時間ばかり、お結びとワインで盛り上がった。
あのプラスチックのフィギュアは大いに当たり、モデルもアイドルグループの選抜メンバーも加え、ファンの中には選抜メンバー全部や、研究生の子たちまで入れて百体以上コレクションする者も居た。
「ポップから出た駒」
「それいける、今度のCMのコピーに使おう!」
などと話題が営業のアイデアになったところで失礼することにした。
マメは名残惜しそうに尻尾を振って玄関まで送ってくれる。
この子なら、盲導犬などになったら優秀な子になるだろうと思ったが、あれは犬自身には、かなりのストレスになることを思い出し、頭をなでて外に出た。
来栖先輩との話は有意義だ。
こんなプライベートな訪問でも、はじけたアイデアが出てきて、仕事なのに学生時代の部活のように楽しくなった。
で、楽しくなってスマホを置き忘れてきたことに気が付いた。
出てきたばかりなので、気楽に「すみませーん!」とだけ、声をかけて鍵もかけていないドアを開けてリビングに入った。
え!?
で、あたしは立ちつくしてしまった。ソフアーには、どう見てもハイティーンの女の子のラブドールが裸で座らされていた……。