ライトノベルベスト
ガルパンと聞いて何を想像しますか?
ミセパン、ハミパン、ガールズパンツなどを連想する方は期待はずれです。
ガルパンとは、『ガールズ&パンツァー』のことで、大洗の町おこしにも大いに役立ったっていう、スグレモノのアニメです。で、パンツァーとは、ドイツ語でPanzer Kampf Wagenで、戦闘車両=戦車を現します。
可憐な女子高生が、戦車道にいそしむアニメで、その戦車や戦闘の描写などには定評があり、今でもコアなファンが全国各地に生息していて、この冬にはシリーズ最終映画が封切られます。
あたしがガルパン女子高生になったのは、二つのきっかけ。
一つは、スマホの煩わしさ。
ラインなんかやってると、もうヤギさんのお手紙状態。「今なにしてる?」「電車乗ってる」「今は?」「テレビ見てる」「なんのテレビ?」「なまり歌コンテスト!」「なにそれ?」「鉛で歌うたってるの(変換ミス)」「ってか、わけわからん」「アッチャンは?」「前田 敦子かあたしのことか?」「あんたのことに決まってとろうが!」「これからお風呂」「じゃ、しばらくバイバイだね」「うちの、耐水仕様!」「あ、そう」「今から、体洗う」「おお、洗いますか?」「今、どこを洗ってるでしょう?」「え、え、え、どこどこ!?」「ラインじゃ言えません」「この変態オンナ!」などとつまらないこと、この上なし。
で、止めた。てか、ちょうどヒイジイチャンが亡くなったんで、三日ほど止めざるを得なかったのです。
家族葬だったけど、親友のアッチャンは来てくれた。
で、お通夜の晩、シミジミとしてしまった。ヒイジイチャンは97歳だったけど、亡くなる直前まで元気で、あたしのこともよく可愛がってくれた。スマホを買ってくれたのもヒイジイチャン。中学の時、スマホが欲しくて、お母さんにオネダリしたら拒絶された。
「あんなのにハマってどうすんのよ。自腹で払えるようになるまではダメ!」
と、今時の母親としては珍しいことを言った。うちは、お母さんがダメだと言ったらダメなのだ。
で、ヒイジイチャンにグチったら、一発で買ってくれたし、毎月の支払いまでやってくれた。
「人間、やって失敗する後悔よりも、やらなかった時の後悔の方が大きい」
この一言で、お母さん以下家族全員が黙った。
そのヒイジイチャンが、スマホのお礼を言いに行ったとき(なんせ、本人はスマホもケータイも持っていない)ガルパンを教えてくれた。
「人が死ななければ、戦車ほど面白いものは無い。美保も見てみい」
で、あたしはガルパンにはまった。
ヒイジイチャンは、戦時中戦車隊の小隊長をやっていて、戦争がもう一カ月も続いていれば、九州で死んでいたらしい。
戦後は、陸自で戦車に乗っていた。射撃は特一級で、コンピューターの無かった時代に、30キロでスラロームしながら1000メートル先の的をぶち抜いた腕を持っていた。
遺品には、ラジコンの戦車が10台ほど出てきた。ヒイジイチャンは、よくこれで、BB弾を発射して遊んでいた。
子どもみたいなジイサンだと思っていたけど、やってみると案外ってか、すごく難しい。まっすぐに走ることさえ、あたしには出来なかった。
ラジコンはオモチャだと思っていたけど、ヒイジイチャンはこまめに改造して、相対速度、砲塔の旋回、弾の発射の間隔など実物通りにしていた。
「61式が、世界で一番」と、よく言っていた。
ネットやらで検索するとアメリカのM47の縮尺コピーみたいな戦車。ちょっと詳しくなると、車高が高いことや、変速機のカバーを車体前面のネジ留めにしたことで、前面装甲に問題があること。変速のタイミングがデリケートで、世界でも操縦の難しい戦車であることなどが分かった。
でも、日記に、こう書いてあった。
2000年3月30日、61式全車退役。一度も実戦に出ずに退役した世界で唯一の戦車になった。こんなに目出度いことはない。
軍隊ってのは、戦わないためにあるんだ。ヒイジイチャンの言葉を思い出した。でも、ヒイジイチャンの理解は、まだ浅かった。
それは、ラジコンの戦車のメンテをやっているとき、M4戦車の車体の中から出てきたUSBメモリーがきっかけだった……。