大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベルベスト『タータンチェック・2』

2021-07-02 06:26:43 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『タータンチェック・2』 




 まさか、タータンチェックだとは思わなかった……!

 衣替えになって、生徒達の制服は、女子が上下赤を基調とした、男子は緑を基調としたタータンチェックの上下になった。ボトムをタータンチェックにしている学校は多いが、上から下までという学校は見たことがない。イメージとしては、アイドルユニットの制服を、ちょっとトラッドにした感じで、悪趣味の一歩手前でかっこいい。

 登下校のとき、男女入り交じっていると、秋色に染まった動く林という感じ。

 やっぱり講師というのはありがたい。

 事務職補助の二倍近い給料。離婚して、貯金の取り崩しも心細くなっていたわたしは、しみじみ有り難かった。講師、正確には常勤講師というのは、担任をさせられることは無く、授業さえやっていれば、それでいい。分掌も前任者の図書部を受け継ぎ、ラクチンこの上ない。

 で、タータンチェックは、静かに、確実に進んでいた。

 わたしは、自分でいうのもなんだけど、小顔の子どもっぽい感じで、制服なんか着ると、まだ生徒で通りそうだった。

 で、それをやらされてしまった。

 文化祭で、クラス対抗の合唱コンクールがあるのだけど、クラスの中に三つに一つぐらいの割で教師が制服姿で現れる。生徒は、それを見て、何年何組にはナントカ先生が混じっていると投票する。で、全問正解した生徒には、抽選で賞品がもらえる。

 今年は、PTAから、図書券二万円分の提供があったので、熱がこもっている。

 図書券は、本を買うだけでなく、金券ショップで換金が可能だ……というのは、穿ちすぎだろうか。

 で、結果は……正解者はゼロであった!

 なんと、あたしの存在に気づいた生徒が誰もいなかったのである。なんと開校以来初めてのことだそうで、会場の講堂はざわついた。そして、あたしがお下げに制服で現れるとどよめきがおこった。

「かわいい!」「うそだろ!」「わ、乃木坂のナントカみたい!」「こっち向いて!」「タータン!」などなど。

 生徒会長が気の利いた、竹下という子で、宙に浮いた賞品の図書券を持て余している会計の子を制して、こう言った。

「タータン先生が、生徒だったら、絶対コクってる!」

 ウワー、オレも、オレもという声が続く。

「今年は、そんなタータンに、賞品を捧げます!」

 竹下君は、うやうやしく跪いて、図書券を芝居っけたっぷりにわたしにくれた。

「みんな、聞いて!」

 あたしが、叫ぶと、一瞬で注目が集まった。

「これで、もっと面白いことやろう。近くに居る人と二人一組でジャンケンしてくれる! そいで、勝った人同士で、またジャンケン。それをくりかえして、最後に勝った人が、これをもらうの!」

 それで、ジャンケン大会が急遽始まった。

 なんと、最後に残ったのは、竹下君と校長先生だった! もう校長先生は宴会のノリで、頭にネクタイを結び、上着も脱いで腕まくり。

 で、校長先生が勝って、ヤンヤヤンヤの喝采。

「じゃ、わたしがもらったら金券ショップに行って、お金になって、飲み屋に行っちゃうので。これを図書部に寄贈したいと思います。タータン先生どうぞ!」

 ということで、再び図書券は、あたしのところに戻ってきた。

 そのあとは、ノリノリのまま、校長先生とツーショット。ズルイズルイの声が上がって、写真部の田中先生の提案で、全員が舞台や、その前に集まって、大集合写真になった。

 これは、畳二枚分ほどの大きさに引き伸ばされ、玄関ホールに貼り出された。

 そして、タータンチェックは、まだ続いていくことになる……。


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