大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:194『桃太郎二号』

2021-07-02 09:15:30 | 小説5

かの世界この世界:194

『桃太郎二号』語り手:テル   

 

 

 なんともだらしない桃太郎だ。

 

 鎧は脱いでしまって籠手と脛当(すねあて)だけの小具足姿。

 直垂(ひたたれ)の前ははだけてしまって、汗みずくのTシャツが覗いている。

 Tシャツにはプリントされた文字の一部が覗いている。

 文字は……たぶん『働いたら負け』だ。

 この文字は二行に跨っているせいか、それぞれ右半分左半分しか見えなくても意味が分かる。

 アイマスの幼女キャラが、このTシャツを着ていたので憶えているわたしは……ちょっとオタク?

 

「関りにならない方がいいようだね……」

 イザナギさんが、ソロリ、わき道に入って行こうとして、わたしたちも無言でそれに倣う。

「おい、そこのテメーら! 無視すんじゃねーよ!」

 声だけなら、それでも無視するんだけど、桃太郎はドタドタと駆け寄ってきて、ケイトのシャツの裾を掴んでしまった。

 

「おまえたち、オレのお供決定な!」

「なに?」「なんだ!?」「いやだ!」「断る!」「なんで?」「カサコソ!」

 五人五様プラス背嚢のタングリスが応えるが、桃太郎はかまっちゃいない。

「わき道には、センサーがしかけてあってよ。踏んだら『承諾』のサインが点くようになってんだよ!」

 足元を見ると『承諾』と書いてある。

「桃太郎くん、これじゃ、なんの承諾か分からないと思うんだが(^_^;)」

 イザナギさんが穏やかにたしなめる。

「よっく、見てみろよ」

「「「「ん?」」」」

 四人で見下ろすと『承諾』の文字はゆっくり流れてリピートしている。

 

 ……とみなす……ここを踏んだら 桃太郎のお供になることを承諾したものとみなす……ここを……

 

「さ、詐欺だ!」

 ケイトが唇を震わせながら抗議する。

「ふ、震えんじゃじゃ、ね、ねーよよよ……」

 ケイトの震えが伝染した震え声で桃太郎。

「仕方がない、とりあえず、話だけでも聞いてやりますか」

 イザナギさんが触れると震えは停まって、桃太郎が居た木陰まで行って話を聞くことにする。

「手短にな、わたしたちにも使命があるのでな」

 ヒルデが『使命』と言ったのでイザナギさんは、ちょと感動の様子。

「お、おう(-_-;)……えと……」

 ぞんざいに見えるが、話を手短にまとめようと焦っている。

「オレはな、桃太郎二号なんだ」

「「「「二号?」」」」

「一号はお婆さんに拾われて無事に桃太郎になった。よくできた奴なんで、爺さん婆さんが『蝶よ花よ(^▽^)/』て大事にしてな、鬼退治なんかには行かせねえ」

「おまえが二号っていうのは?」

「一号のあとに、もう一個桃が流れてきたと思え」

「あ、それが、おまえなのか?」

「婆さんは、二つも桃はいらねえ。無視しやがった」

 プ

「笑うな!」

「すまん、続けろ」

「それで、もっと川下の方に流されて、桃は腐りかけてきた。それを見て気の毒に思った別の婆さんが拾って、家に持って帰って、爺さんといっしょに桃を割って、出てきた瀕死の桃太郎がな……おれさま……ってわけよ」

「それでクサってたわけか……」

 プププ(* ´艸`)!!

 ケイトに悪気はないんだけど、二号桃太郎の本質を突いてるので、またも笑ってしまう。

 今度は、抗議する元気もなさそうだ。

「そのお前が、なんで鬼退治?」

「うちのジジババは真面目なんだ……真面目だから、腐りかけた桃も拾ってくれたし、この歳までニートしてんのも文句言わなかったし……世の中が桃太郎を望んでるのを無視することもできねえしな」

「それで……」

「でも、ずっとニートやってたし、二号だし……なかなか、お供のなり手がなくってよ……」

 

 そうか……

 

「よし、お供になってやろう!」

「姫!?」「ヒルデ殿!?」「ええ!?」「ヒルデ!?」「カサコソ!?」

 みんな驚いた。

「ただし、着いていくのは、わたしとテルの二人だ」

「え?」

「あのセンサーを踏み込んでいたのは、わたしとテルの二人。他の三人はわき道に踏み込んでさえいなかった。だから、わたしとテルの二人がついて行ってやる。文句はないだろ」

「姫!」

「タングニョースト、イザナギさんと先に進んでくれ。なあに、さっさと鬼退治を済ませて合流するさ」

「それじゃ、わたしたちも」

「だめだよ、イザナギさん。あなたの使命も重要だ。必ず、黄泉比良坂に着くまでには間に合わせる」

「ヒルデさん……」

 

 我々は、しばらく別行動をとることになった……。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ライトノベルベスト『タータ... | トップ | 鳴かぬなら 信長転生記 1... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

小説5」カテゴリの最新記事