大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)・21「もちろんよ!」

2020-01-26 05:52:43 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)21
「もちろんよ!」                     

 
 
 たいていの学校がクラブの存立要件を部員5人以上としている。

 でも、この「5人以上」というのは全校生徒が1300人以上いた大昔の話で、半数ほどに減ってしまった今日では厳しすぎる。
 ここに思い至り、生徒会を凹ました須磨はたいしたものだと、啓介も千歳も思った。

「……でも、これが、あの須磨先輩なの?」

 そうこぼしてしまうほど、須磨の寝姿は無防備だ。
「あ、また……」
 持ったマイクをテーブルに置いて、啓介は寝返りで落ちてしまったブレザーを、須磨の下半身にかけてやった。

 あれから演劇部の3人は、近所のカラオケにくり出して凱歌を上げた。
 所属する目的は三者三様。共通しているのは演劇などには何の関心もないこと。
 その3人の意見が一致して、初めて行動をともにしたのが、このカラオケであったのだ。
「このへんにして、もう帰ろうか」
「そうね、もう充分発散したわよね」
 ほんとうはこれからという気持ちが強かったが、もう一度須磨を起こすのは気の毒……というよりは興ざめなので制限時間を20分ほど残してカラオケを出ることにした。

「ごめんね、寝てばっかりで」

 やっと目を覚ました須磨謝ったところで、千歳の迎えがやってきた。
 
「おお、これはスゴイ!」
「なんか、サンダーバードの世界やなあ!」
 迎えに来た千歳の姉への挨拶もそこそこに、啓介と須磨は、ウェルキャブに収納される車いすに見とれてしまう。
 ウェルキャブは、さらに改良されていて。千歳が助手席に収まると、車いすは自動で車のハッチバックまで移動し、せり出したスロープを上って車内に収まった。
「それじゃ、これからも千歳のことよろしくお願いします」
 姉の留美は、深々と頭を下げて運転席に戻った。

「いい先輩たちじゃないの」

 手を振る2人にバックミラー越しに頭を下げて留美が呟いた。
「え、あ、うん。今日だってね、部室明け渡しを迫る生徒会に乗り込んで、先輩たちがんばってくれたの!」
 千歳は、数時間前の顛末を熱っぽく語った。
「ふーん、松井先輩って美人なだけじゃなくて、頭も回るし度胸もあるのね」
「うん、ダテに(高校6年……と言いかけて)その……美人やってないわよ」
「そうね、人数が多いばかりが演劇部じゃないわよ。3人いればお芝居なんて、どうにでもなる。先輩に恵まれたんだから、千歳もがんばってね」
「う、うん、もちろんよ!」

 そう答えながら、千歳は自己矛盾におちいった。

 自分は、演劇部が潰れることを前提に入部した。部活にがんばったけど、潰れてしまったんじゃしかたがない……そういうことで、一学期の終わりには空堀高校を辞めるために。

 でも、まあ、ちょっとは頑張ったというアリバイにはなったよね。そう、アリバイなんだ。

 自己矛盾は簡単に消えてしまった。

 
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