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ネネちゃん先生の輪郭がぼやけたと思ったら、二三秒で姿が変わった……その姿は、美紀そのものだ!
「ほうら、心拍数と脳波が変わったわ」
姿かたちと声は美紀だったけど、喋り方はネネちゃん先生だった。悔しいけど、美紀の見た目に心中穏やかではない。
「このグラフを見て」
美紀が、いやネネちゃん先生が空中で指を動かすと、公園の鉄棒と、その支持棒で区切られた空間にグラフが現れた。
「これが心拍。赤いのが亮介。緑が発情したサルの心拍。重なるでしょ」
「オ、オレってサル並?」
「そう。大そうなこと言っても、人間とサルって、変わらないのよね。それから……」
グラフが切り替わった。
「これが脳波。亮介の線は赤。独占欲と好奇心が、こんなに強い。で、この点滅してる線が独占欲。この薄い色が今朝の、学校に電話してきたころのね。濃い色が今。ホテルで未遂に終わった後ね。で、この棒グラフが、心理的満足度。今は80だわ。亮介は、ちょっと複雑で、段階を経て目的を達することで満足度が上がるの。無意識でしょうけど、お父さんとお母さんの影響が出てる」
「なんで、オレが親の影響受けんだよ。おれ、親のマニュアル的な仕事っぷりって、大嫌いなんだぜ!」
「先生としての仕事ぶりには、そうなんだろうけど、色恋については完全に、親のやり方を踏襲してる。これで次回、美紀ちゃんとうまくいったら、自分のことを、とても人間的だと誤解するわ。マニュアル踏んで生徒を退学までもっていった時の教師の心情といっしょ。でも、それって破たんするのよ。生徒は退学させたら、それでしまいだけど、恋は、そこから始まるんだもん」
「オ、オレって、そんな下衆野郎なのか……?」
「亮介若いから、そこから悩んで改善する可能性はある。ただ、それは美紀ちゃんの二三人後に付き合う彼女だろうけど。でも、それじゃ美紀ちゃん可愛そうでしょ。あたし、今から完全に美紀ちゃんそのものになるから、もう一回ホテル行って試してみよう」
「ちょ、待って、なんでネネちゃん先生、こんなことができるんだよ。オレのあとを正確につけまわしたり、美紀そっくりに変身したりして!?」
「まだプロトタイプだけど、あたしは人間の代わりに教育をするガイノイド(女性型アンドロイド)教師。いま実用試験の最中なのよ。じゃ、美紀ちゃんの心にシンクロさせるわね……」
「ちょ、ちょっと……」
顔を上げたネネちゃん先生は、目の輝きまで美紀といっしょになった。
「亮介、さっきはごめん。もう一度やり直そう……」
混乱した。
近寄ってくるのは完全に美紀だ。でも、中身は……そう思うと、オレは後ずさってバイクに跨って逃げ出した。美紀姿のネネちゃん先生も400のバイクに乗って後を付いてくる。
――これは間違ってる――
パニクッて理論的には言えないけど、感覚が「間違っている」と叫んでる。
――亮介、待って!――
美紀の想念が飛び込んでくる。いや、これは美紀じゃない。ネネちゃん先生だ。しつこいんだよ先生!
50メートルほど先の交差点に大きなトレーラーが曲がりこんできた。スピードは80を超えている。間に合わない。
しつこいんだよ、先生ええええええええ!