大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベルベスト『SO LONG』

2021-05-23 06:35:18 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

 『SO LONG』 




「SO LONG!」 

 ユキリンが流行の言葉で「バイバイ」と言った。

「SO LONG!」
 軽い気持ちで、同じ言葉を、レジで料金の支払いをしているユキリンにかけた。
 鏡に写ったユキリンが手を振っていたようだけど、優香は、もうほとんど夢の中だった。

 おとつい、バレンタインで、手作りチョコ……つまり本命チョコを誠司に渡した。

「あさってか、しあさって、空いてる?」
 思いがけず、誠司がストレートで聞いてきた。
「あ、あ……」
「空いてるんだね?」
「うん、空いてる!」
「よかった、ホワイトデーまで待つなんて、まどろっこしいだろ。オレも優香がこんなのくれるって思いもしなかったから、優香の気持ちが変わらないうちに予約とらなきゃって思ってさ」
「わたしもよかった。ホワイトデーの次の土日は、お婆ちゃんの一周忌で抜けられなかったから」
「そうか、善は急げで、正解だったな!」
「ほんとだね!」

 もう一カ月半もしたら、学年末テスト、短い春休みを挟んで、新学年。三年生になったら、誠司とはコースが違うので、別々のクラスになる。このバレンタインがキッカケと、なけなしの度胸からいって、告白の最後のチャンスだった。それが、こんな両思いで、話がトントン拍子に発展するなんて思わなかった。

「優香、ショートもいいんじゃないかな。なんだか、優香の積極性は、そっちがあっているような気がする」

 優香は、物心付いたころからロングヘアーで、時にポニーテールやツインテールやオダンゴにしていた。

――そうか、誠司はショートが好きなんだ!――

 そう思って、優香は生まれて初めてショートヘアーにしようと思って美容院ハナミズキに来たのだ。そこで、同じ部活のユキリンに出くわした。

「いいよね、優香は髪質がいいから、ロングが栄えるよ。いろいろヘアースタイルも変化つけられるしさ」

 羨ましそうにするユキリンには生返事をしておいた。どうせ部活でバレるんだけど。いま気づかせることもない。どうでもいいけど……優香は、そんなこんなで、明日の誠司との初デートのことで頭がいっぱいだった。

「はい、できあがり!」

 美容師の立石さんに言われてハッとした。以前にも増して、お嬢様風にアレンジされたロングヘアーだ!?

「内向きにアイロンかけて、可愛さアップだよ!」

――あ、あの時!――

「SO LONG!」
 ユキリンが声を掛けたときに、立石さんはなにか聞いていた……。
「ロングだよね、優香ちゃんは」
 で……。
「そー、ロング!」
 と……聞こえてしまたんだろうなあ。
 立石さんの満足そうな顔、お店の混み具合で、とてもやり直してくれとは言えない優香だった。

 仕方なく、優香は三つ編みの先をトップにもってきてショ-トっぽく見えるようにして、誠司との初デートに臨んだ。
 映画を観て、イタメシでランチ。そして、少し散歩して、お茶にした。

「……ごめん、ショートにしなくて」

 自分をチラ見する誠司の視線に耐えられなくなって、優香は謝った。
「いや、優香は、断然ショ-トだよ!」
 意外なほど強い誠司の物言いに、優香は泣きそうになって、ことの次第を説明した。
「ハハハ……」
「そんなに笑うことないでしょ……」
「ごめん、優香は、断然ロングだよ」
「は……?」
 優香は混乱した。
「オレが言ったのはポジションだよ。優香ぐらい機敏で、積極性があるんなら、守備はセカンドなんかじゃなくて、ショ-トがいいって言ったんだぜ」

 そう、優香の部活はソフトボールで、ポジションはセカンドであった。オッチョコチョイな自分とはSO LONGしたくなる優香であった。


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