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「SO LONG!」
ユキリンが流行の言葉で「バイバイ」と言った。
「SO LONG!」
軽い気持ちで、同じ言葉を、レジで料金の支払いをしているユキリンにかけた。
鏡に写ったユキリンが手を振っていたようだけど、優香は、もうほとんど夢の中だった。
おとつい、バレンタインで、手作りチョコ……つまり本命チョコを誠司に渡した。
「あさってか、しあさって、空いてる?」
思いがけず、誠司がストレートで聞いてきた。
「あ、あ……」
「空いてるんだね?」
「うん、空いてる!」
「よかった、ホワイトデーまで待つなんて、まどろっこしいだろ。オレも優香がこんなのくれるって思いもしなかったから、優香の気持ちが変わらないうちに予約とらなきゃって思ってさ」
「わたしもよかった。ホワイトデーの次の土日は、お婆ちゃんの一周忌で抜けられなかったから」
「そうか、善は急げで、正解だったな!」
「ほんとだね!」
もう一カ月半もしたら、学年末テスト、短い春休みを挟んで、新学年。三年生になったら、誠司とはコースが違うので、別々のクラスになる。このバレンタインがキッカケと、なけなしの度胸からいって、告白の最後のチャンスだった。それが、こんな両思いで、話がトントン拍子に発展するなんて思わなかった。
「優香、ショートもいいんじゃないかな。なんだか、優香の積極性は、そっちがあっているような気がする」
優香は、物心付いたころからロングヘアーで、時にポニーテールやツインテールやオダンゴにしていた。
――そうか、誠司はショートが好きなんだ!――
そう思って、優香は生まれて初めてショートヘアーにしようと思って美容院ハナミズキに来たのだ。そこで、同じ部活のユキリンに出くわした。
「いいよね、優香は髪質がいいから、ロングが栄えるよ。いろいろヘアースタイルも変化つけられるしさ」
羨ましそうにするユキリンには生返事をしておいた。どうせ部活でバレるんだけど。いま気づかせることもない。どうでもいいけど……優香は、そんなこんなで、明日の誠司との初デートのことで頭がいっぱいだった。
「はい、できあがり!」
美容師の立石さんに言われてハッとした。以前にも増して、お嬢様風にアレンジされたロングヘアーだ!?
「内向きにアイロンかけて、可愛さアップだよ!」
――あ、あの時!――
「SO LONG!」
ユキリンが声を掛けたときに、立石さんはなにか聞いていた……。
「ロングだよね、優香ちゃんは」
で……。
「そー、ロング!」
と……聞こえてしまたんだろうなあ。
立石さんの満足そうな顔、お店の混み具合で、とてもやり直してくれとは言えない優香だった。
仕方なく、優香は三つ編みの先をトップにもってきてショ-トっぽく見えるようにして、誠司との初デートに臨んだ。
映画を観て、イタメシでランチ。そして、少し散歩して、お茶にした。
「……ごめん、ショートにしなくて」
自分をチラ見する誠司の視線に耐えられなくなって、優香は謝った。
「いや、優香は、断然ショ-トだよ!」
意外なほど強い誠司の物言いに、優香は泣きそうになって、ことの次第を説明した。
「ハハハ……」
「そんなに笑うことないでしょ……」
「ごめん、優香は、断然ロングだよ」
「は……?」
優香は混乱した。
「オレが言ったのはポジションだよ。優香ぐらい機敏で、積極性があるんなら、守備はセカンドなんかじゃなくて、ショ-トがいいって言ったんだぜ」
そう、優香の部活はソフトボールで、ポジションはセカンドであった。オッチョコチョイな自分とはSO LONGしたくなる優香であった。