大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ひょいと自転車に乗って・22『もうこれは街だよ!』

2019-04-06 06:19:23 | 小説6

ひょいと自転車に乗って・22

『もうこれは街だよ!』     
 

 

 八尾市の面積は尾道市の1/6もない。
 

 八尾市:41.72km2 尾道市:285.09km2

 だから自転車に乗れれば、すぐに回りきれると、なんとなくだけど思っていた。

 ところが、グーグルで見ても、わたしの足跡が付いているのはほんのわずかにすぎない。 自転車に乗って広がった世界はまだまだ狭い。だけど、歩きだけだったころに比べると確実に広がっている。 いかに、それまでの自分の世界が狭かったかと、ため息が出てしまう。

 尾道は90%が森林や農地だけど、八尾は80%が市街地なんだ。人の生活圏という点では、八尾の街の方が圧倒的に広い。
 

「みっちゃん一人でも行ける?」
 

 京ちゃんが席にやってきて済まなさそうに言う。 今日は二人で八尾カリオに行く約束をしていた。もちろん自転車で。

 だけど、たった今終わったホームルームで京ちゃんは卒業式実行委員に選ばれてしまった。放課後さっそく委員会があるので、京ちゃんは行けなくなってしまったのだ。
 

「大丈夫、八尾の街にも慣れてきたから十分行けるよ」
 

 明るく応え、かっとびで家に帰って私服に着替える。 さっさと着替えてゲートの前で自転車に跨る。

 何気に見た畑中園芸店のアルミドアの中に輝さんの姿が無かった。

 ここんとこ日中の店番は輝さんなので「あれ?」って気がした。

 時間が無いので、八尾のカリオを目指す。

 カリオのある近鉄八尾駅まではノープロブレム。あっけなく着いてしまったので拍子抜けがするくらい。

 でも、八尾駅の北側に出てびっくりした。 尾道の感覚では、大都会の感じ。駅前のロータリーだけで学校の敷地くらいの広さがある。
 

 えーと……自転車に跨ったまま完全なお上りさん。
 

 巨大な歩道橋の下には、バス停だけでも七つもあり、グルっと見渡すと銀行だけでも四つある。 道路は四車線が六方向に伸びていて、どれがカリオに行く道かも分からない。 人に聞けば、すぐに分かるんだろうけども、まだまだ尾道少女を引きずっているわたしは気後れしてしまう。

「あ、交番がある」

 並の交番の倍ほどの大きさがあるので、バスの営業所なんだろうと、目に入った時はスルーして、二度目で気づいた。

 お巡りさんに聞く勇気はない。わたしは幼く見えちゃうんで、なにか言われるんじゃないかと思っているわけ。

 交番横の地図を見ようとしたら、交番の向こうにカリオの大きな看板が目に入った。

 ――ほんとに駅前なんだ――  

 信号を渡って、K銀行の角を曲がると、また驚いた。

 交番から見えていたカリオはほんの一部で、カリオは北に向かって遥かに続いている。
 

 どこから入るんだろう……。
 

 見渡しただけで三か所の入り口がある。 ま、いちばん近くでいいや。 自転車の鍵を二回確認して自動ドアに向かう。
 

 ウワーーーー!!
 

 声になるのを、なんとか堪える。

 入った右側は広い通路を挟んで巨大なスーパー。 左側を見ると、同じ幅の通路……ていうか、ほとんど二車線の道路くらいある。買い物客のみなさんがゆったりと歩いている。

 足の向くまま道なりに進む。

 広場みたいなのを二回通る。休日なんかにはイベントとかあるんだろうなあ。

 あ、スタジオまであるではないか。

 ブースの中にはDJのお姉さんが居て、なにやら本番中。ブースの前には100程の椅子があり、お年寄りやオバサンたちが放送を聞きながらリラックス。 放送は面白そうだったけど、座っちゃたら根が生えそうなので先に進む。  

 突然いい匂いが集団で襲ってきた。
 

 お、食堂街!
 

 足を踏み込むと、何十件もの飲食店が競っている。 昼ごはんには遅すぎ、晩御飯には早すぎる時間だけど、どのお店にも行列ができていた。 ――え、この上にもあるの?――  食堂街の真ん中にエスカレーターがあり、上がってみると同じ規模の食堂街が広がっている。 ――すごいところだ――  気が付くと、またエスカレーターに乗っていて、これがたぶん三階?
 

 わ、映画館!
 

 なんと、三つも映画館が入っている。 去年人気ナンバーワンだったアニメがかかっている。見損ねたアニメだったので、とっても観たかったんだけど、ぐっと堪える。
 堪えたところで方角が分からなくなった。
 カリオって、京ちゃんに聞いた時には大きなデパートかと思っていたけど、もうこれは街だよ!
 

 あれ?
 

 上演時間が終わったんだろう、奥まった映画館からお客さんが吐き出されてきた。 お客さんは、みんな満足そうな顔をしているのに、一人浮かない顔で出てきた女の人がいる。
 

 あ、輝さん!?


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