大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・159『伊勢半配送センターでバイト』

2024-12-15 15:04:49 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
159『伊勢半配送センターでバイト』   




 というわけで、大浜線谷口(やとぐち)駅で降りて、伊勢半デパート配送センターを目指して歩いている。


 というわけと言うのは、おとついの帰りのホームで十円男と出くわしてバイトの助っ人を頼まれたから。

 谷口は大浜市に三つある駅の一つで大浜高校に通う生徒の半分はここで乗り降りするらしい。配送センターは大浜市の東の外れ、令和の谷口に足を踏み込んだことのないわたしは「ああ、大浜市の田舎なんだ」という感想。

 大浜市は近在では大きな街だけど、東京や横浜とは比べようもない地方都市。だいいち大浜に伊勢半デパートは無い。地価の高い京浜地方を外して物流センターを持ってきたというのが正直なところなんだろうね。

 でも、名にし負う天下の伊勢半、五階建てのビルの上には営業店と同じ『伊勢半』のロゴマークが掲げられ、マークの下の『配送センター』の文字に気づかなければ買い物客が入って来そう。

「ああ、それは無いなあ」

 昨日事務所に連れて行ってくれた10円男はあっさり言う。

「デパートというのは、都心とか繁華街にあるだろ。ここは、そうじゃないから、看板に気づいても――ちょっと違う――と思う。建物も色気が無いから、すぐに営業店じゃないことに気づく」
 
 色気が無いというところで、わたしの顔を見たけど、それには触れないでおいてやる。

 ブロロ ブロロ ゴゴ ゴゴゴゴ ブィーン ブブブ 

 角を曲がって建物の搬送口が見えてくると、出撃前の軍事基地かと思うような騒音と車の臭い。

「ガソリン臭~い」と言ったら「トラックはディーゼルだからガソリンじゃない」と奴は訂正する。女子にはどっちもいっしょ、ただただやかましくて臭い。

 ガッチャン

 タイムレコーダーがカードに刻印する時の音と手ごたえは面白い「おう、たしかに確認したぞ」ってベテラン守衛さんが言ってる感じがする。

 ブワアアアアアアアー

 車の音が中にまでぇ……と思ったら、ごっつい空調の音。それに、機械や油の臭い、紙や梱包材の臭いが混ざって、いかにも昭和の職場って感じ。

 青春の全てをここに掛けろと言われたらごめん被るけど、一週間限定のバイトだと思えば面白い。

 パンパン! パンパン!

「さあ、始業時間やでえ、みんな、チャッチャと持ち場に付けよー!」

 元気よく手を叩きながら関西弁のオッサンの声が響く。

 いちおう会社のロゴの入った作業着は着てるけど、頭にねじり鉢巻き、耳にボールペン、手には指先ちょん切った軍手、腰に手拭いぶら下げた姿は伊勢半のイメージからは程遠い。

「おう、メグリィ、仕事は覚えたかあ!?」

「はい、ボチボチ!」

「さよか、はよ慣れて小包の方に来いよお~」

「はい、そのうちに~!」

 適当に返事しておく。

 大阪弁のオッサンは、正規の職員じゃないけど、郵便小包のセクションを任されていて、事実上、二階の発送場のボス。さっきの号令でも分かる通り、フロアの仕事の差配をやっている。本物の課長は別に正規の社員のおじさんがいるんだけど、このおじさんは事務所の方に居るらしくて、現場にはあまり顔を出さないんだとか。

 わたしの持ち場は、貨物と呼ばれていて、大型の商品や梱包や取り扱いにコツがいる酒類なんかを扱っていて、わたしは、そこでひたすら伝票を書く仕事。

 伝票を手書きなんて、令和じゃ考えられないんだけど、ここで扱う商品のほとんどは手書き。それで、一般的に男よりは字の綺麗な女子があてがわれる。

「三枚の複写だから、強いめに書いてね」

 日ごろは三人で伝票書きをやっているおばさんが最初に注意してくれる。

 なるほど、四枚つづりの伝票の三枚は裏にカーボンインクが付いている。

 建物の上の階はよく分からないんだけど、納品された商品を包装してコンベアでうちの二階に下ろしてくる。近隣の湘南や京浜地方はそのまま一階に送られて、それぞれの営業所に送られる。それ以外の地方便をうちで引き受けて、郵便や小包に仕立てて、二階の発着場から地方に送り出すという仕組みになっている。

『アホンダラ! どこに目ぇ付けとんねん、そんなとこ置いたらけ躓くやろが!』

 また関西弁が怒鳴ってる。

 実は、この関西弁の当たりがきつくて、伝票係りの女子がみんな辞めてしまって困っていたらしい。

 高校生らしい男の子がビビっちゃってるけど、それをオッサン込みでなだめに行ってるのは、なんと、あの10円男だった。


 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!90『スパーク!』

2024-12-15 10:43:21 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
90『スパーク!』 




――美優、聞こえってっか?――

――え、だれ?――

――ええと……ワ、ワクチンの精だ! おめえも、さっきお礼を言ってたじゃねえか(''◇'')――

 正体ばらすわけにはいかねえ、かと言って神さまとか、神の使いとか言うのは利敵行為だしな。悪魔なんて言ったら腰を抜かすかもしれねえ、いや、ショックで即死かもしれねえ。で、もともと一週間だけ命を伸ばすワクチンを注射したってことにしてたから、ワクチンの精ってことにした。文句あっか!

――ワクチンの精?――

――ああ、すっげえワクチンだから、こうやって話もできんだ。おめえも、さっきお礼とか言ってたからよ。そ、そのぉ、以心伝心ってやつだ(''◇'')――

――そ、そうなんだ――

――ああ、薬とかワクチンはよ、何百何千て人間の努力と実験動物の命を使った結果に生まれるものなんだ。だからよ、そういう情熱や命が凝って妖精みてえになるんだ。文句あっか!?――

――ううん、信じる。それで、なんの御用かしら、もうじき死ぬから、あんまり時間がないわよ――

――美優の気持ちと、みんなの励ましとか好意で、マユ、あ、あたしの名前な。マユは超絶進化しちまって、ガン細胞をやっつけられるようになったんだ。スゲエだろ<(`^´)>!――

――そうだったんだ、どうもありがとう――

――それで……ごめん。ガン細胞が一個だけ残っていやがって、魔法の効き目がきれたとたんに増殖し始めやがった。がんばってやっつけてるけど……ううん、がんばってやっつけるからな――

――…………――

――美優?――

――もういいわ、マユさん。本当は、夕べで尽きる命だったんだもん。たった一日だったけど、十分に満ち足りていたから――

――弱気になんな! マユもがんばるからよ!――

――うん。じゃあ、痛みと苦しさだけ、なんとできるかなあ。この番組が終わるまででいいから……――

――わ、分かった!――

 悪魔ってのはよ、自分の怒りとか想いで動くもんでよ。あんまり人からお願いされるもんじゃねえ。だ、だからよ、思わず力が入っちまったぜ!

――エ! エロイムエッサイムッ(``>▭<``)!!――

 そのとたん、美優の痛みと苦しさが無くなり、顔色ももどってきやがった。

――な、元気になっただろがあ!――

――ほんとだ、楽になった……死んで楽になったってことじゃないでしょうね――

――だったら、ほっぺたでもつねってみやがれぇ(´⚰︎` )――

――あ、だいじょうぶみたい――

――って、つねってねえじゃねえか――

――いま、英二さんの温もり感じたから――

 あ、そういや、黒羽Dの奴、肩に手を回して密着してやがる!

――ありがとうワクチンさん。オモクロ対決の結果だけは見て逝けそう――

 よし、これでいい。

 そんで、ここまでだ。

 落ちこぼれ小悪魔、限界を突き抜けて美優の痛みを取ってやったけど、命そのものを助けてやることは……ひょっとしてできるかもと思ったけどよ、やっぱり無理だ。

 イテテテ……こういう人間的な反省も違反なんだろーな、カチューシャがギリギリ締め上げてきやがるぜ。

 分かってるよデーモン先生、もうこれ以上はやらねえよ、力も残ってねえし……やりたけりゃ、一気に締め上げて、マユを締めつぶせばいい。文句なんか言わねえからよ……

 ピカ!

 その時、目の前が真っ白になって、消えかけの美優の心に光るものがあったぞ。

 いいや、光じゃねえ。スパークだ、気がかりのスパークだ。

 超ご先祖のサタンがルシファーって大天使だったころ、神の逆鱗に触れて天界から堕ちる時、天界や神の事を心配した時に全身からほとばしったスパークみてえだ!
 
――お義父さんは……?――

――あ、元気だよ――

 グロッキーだったし、平然と言ったつもりだったけど、美優には分かっちまった。

――お亡くなりになったのね……――

――……昨日、黒羽Dが電話した直後。お父さんの言いつけで、この番組が終わるまでは、言っちゃいけないって、みんなには言ってるみてえだ――

 夕べも病院に行こうかと、黒羽は妹の由美子に電話した。持ち直して元気になったそうで、「今夜は二人で居ろ!って言ってる」と由美子は明るく言っていた。けどよ、スマホから漏れてくる由美子の声が、少し明るすぎるように聞こえやがった。でも、自分たちの幸せの明るさにひっぱられて、すぐに忘れた。それが、自分が、こういう状態になって、また気になりだしやがった。

 そんなことで自分を責めんじゃねえ!

――そう……――

――でも、二人のことは本当に喜んでたみてえだぞ。このこと、旦那にはナイショだぜ――

 旦那の親父のことを思いだしただけで、少し持ち直しやがった。

 美優ってやつは……

――うん……あ、足の感覚が……立てない――

――ちょっと待って――

 マユは、大急ぎで脊髄のガン細胞をやっつけた。全部じゃねえけど、慣れてきて、どこから攻めたらいいか分かるようになってきたみてえ。我ながらがんばれるもんだぜ。

 ギリギリギリ……

 カチューシャが締まってきて、マユの頭は瓢箪みてえにくびれてきやがった。根性で声は出さねえぞ!

 それで美優は歩けるようになって、化粧室に行きやがる。身を整え、メイクをやり直そうと思いやがったんだ。

「ちょっと化粧室行ってくる」

「すぐ戻ってこいよ。もうじき本番だからな」

「うん」


 化粧室から戻って、席についたとたん、また足の感覚がなくなっちまいやがる。


 で、ぞいよいよ本番が始まった。


 スタジオの左右にひな壇が組まれ、それぞれAKRとオモクロのメンバーが陣取る。センターには、大きなステージが組まれ、その奥が審査員席になっている。観覧席の者にも、審査ボタンが渡され、曲ごとに投票できる仕組みになっている。そして、視聴者もテレビのリモコンで投票できる仕組みにもなっているぞ。

 二曲ずつのメドレーで、トークが入り、投票することになっている。

 八曲目までは、伯仲のシーソーゲーム。

 九曲目、オモクロの『秋色ララバイ』で998点のポイントがついた。1000点満点なんで、ほぼカンペキだ。それまで、AKRはオモクロに2点の差を開けられていたので、苦しいところだぜ。

 緊張とむき出しの闘志で、メンバーがステージにあがった。

――力みすぎてる――

 黒羽は、ディレクターの勘で、トチリを予感しやがる。

 そして、予感は曲が始まる前のMCとの会話のところで現実になったぞ。

 キャ!

 張り切りすぎた知井子がジャンプしてバランスを崩し、ステージから落ちてしまいやがった。それも、助けようとした矢頭萌を巻き込んで……で、結局、この知井子のドジでスタジオは爆笑になり、メンバーはリラックスして『コスモストルネード』を歌い上げることができた。知井子もただでは転ばなくなったみてえだ。

 得点は999点。オモクロとの差は1点にまでつまった。

 そして、いよいよラストの曲。

 オモクロは再結成のときの『この道を行け!』をぶつけてきた。オモクロは、この曲で路線を変更、おもしろクローバーから想色クロ-バーにグループ名を変えた大ヒットした記念の曲だぜ。
 
 点数は998点。AKRは次の曲で満点を出さねえと優勝できねえ。999点で、かろうじて同点。AKRは最後に、この曲を選んだ!


『オーバーザレインボウ』


 むろんアレンジしてやがる、古さは否めないけどよ。思い切った選曲だぜ。この選曲は、会長が黒羽から、美優の父のオルゴールの話を聞き、急遽ラストに加えたんだと。

 前奏はオルゴールそのまま。美優は、頭の中が、懐かしさと、愛おしさで一杯になりやがる。

 曲の主題に入ると、とたんに曲はビビットになりやがる!

 振り付けも激しさの中に、品の良いチャーミングさがありやがる。振り付けの春まゆみは会長にドヤ顔、それを受けて会長は、方頬で笑いやがった。

 得点は……998点……しかし、観覧席のボタンが一人だけ押されていねえ。そして、ほんの一秒遅れて、それは押されたぞ。

 999点、総合で同点。AKRからも、オモクロからも、スタジオのみんなからも歓声が上がった。黒羽も思わずステージにあがり、メンバーのみんなとハイタッチ、カタキのオモクロのディレクターの上杉とも肩を叩き合って握手した。


 ……そして観覧席……笑顔のまま美優は息絶えていやがった。


 美優は、最後の力を振り絞ってボタンを押しやがった。

 一秒かけて全身の最後の最後に残った力でよ……。

 マユは、美優の中で慟哭したぞ。とうとう美優を、やっぱり美優を、助けることができなかった……。


――よくがんばったよ、マユ――
 

 その思念は、突然飛び込んできた。

 それは……オチコボレ天使の雅部利恵のだ。そして、スタジオの隅にいる利恵の手の上には、今肉体から離れたばかりの美優の魂が乗っていやがった。
 
 それは美優らしい上品なエメラルドグリーンに輝いていやがる……おいしいところを持っていきやがるぜ、天使ってやつめえ!



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • レミ       エルフの王女
  • ミファ      レミの次の依頼人  他に、ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
  • アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
  • 白雪姫
  • 赤ずきん
  • ドロシー
  • 西の魔女     ニッシー(ドロシーはニシさんと呼ぶ)  
  • その他のファンタジーキャラ   狼男 赤ずきん 弱虫ライオン トト かかし ブリキマン ミナカタ
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 美優       ローザンヌの娘
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 上杉       オモクロのプロディューサー
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする