大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベルベスト『ボクは友達が居ない』

2021-09-12 06:46:58 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

 ボクは友達がない   


     

 ボクは男ではない!

 れっきとした、波野高校二年の女子高生だよ。

 一人称がボクなので、いわゆる『ボク少女』にカテゴライズされている。ほんとは女の子らしく「あたし」とか言ってみたいんだけど、そう決められているのだから、仕方がない。ボクの小さな秘密。

「ノラ、また優子と優衣のグループが睨みあっとる!」

 生活指導部長の温水(ぬくみず)先生が額に縦皺を作ってやってきた。

「で、またボクですか……」
「すまん、おれ達の言うことは、まるっきり聞かないんでな」

 ちなみにボクは、二年になって転校してきた変わり者だ。牧瀬ノラというのがボクの名前だけど、親しみと、使い勝手の良さで、みんな「ノラ」と呼ぶ。日本人とノルウェー人のハーフということなので、これも仕方がない。

「また、イサカッテんの?」

 下足室の横でにらみ合っている二つのグループの間に入った。

「あ、ノラ。こいつら話になんないのよ!」
「話にならないのは、そっちでしょう!」
「なんだと!」
「やるっての!」
「まあまあ、あと一言言ったら手が出ちゃうよ」

 そう言いながら、間に入る。先生達は、遠巻きに見ているだけだ。

「いいのよ、今日こそは決着つけなきゃ収まらないのよ!」
「そうだよ、もう勝負するっきゃ、手がないの!」

「それは、分かる」

 そう言うと、全員がズッコケた。

「もう、溜まりに溜まった憎しみだもんね。カタ付けるしかないでしょ」
「おいおい」
「先生は黙っててください。手に負えないからボクにまかせたんでしょ?」
「ああ、でも暴力はいかんぞ」
「暴力なんか使いません。両方ともリーダーが優子と優衣。名前に『優しい』が付いてるんだから、穏やかにいきましょ。今は、お互い熱くなってるから、言いたいこと整理して、放課後視聴覚教室に来て。そこで思いっきり言い合って。ボクが整理するから」

 そう言うと、二人のリーダーは、不承不承頷いた。

 まあ、今は昼休み。放課後までには、少し落ち着くだろう。

 勝負は放課後。

 と、視線を感じた。二階の窓から亜紀がボクのことを見つめている。

「今、そっち行くから!」

 満面の笑みを浮かべて、新館の二階へ。廊下の窓辺にブスっとした亜紀が肘を突いて下の生徒達を見ている。

「優子と優衣のグループがケンカすればいいと思ってたでしょ」
「うん、あいつら、弱いと見たら、集団でイジメやら嫌がらせするんだもん。両方とも消えて無くなればいい」
「まあ、そう言わないで。あれから、嫌がらせ無いでしょ?」
「う、うん……おかげさまで」

 亜紀は、下足室のロッカーにビニテで「死ね」とか「ウザイ」とか貼りまくられ、机の中にも同じようなメモが入れられていた。

 極めつけは、体育が終わって更衣室で着替えようとしたらスカートがなくなり、便器の中から見つかったという陰湿な事件だった。

 ボクは、一目で狂言だと分かった。

 確かに亜紀は、非社交的で表情が暗く、人を見る目が何かを含んでいるようで、みんなからシカトされていた。

 原因のほとんどが自分にあることには気づかず、いろいろ自分でやっては悲劇のヒロインになっていた。

 

 ガシャン!

 で、ボクは、わざとボールを投げて、学校のガラスを割り、名乗り出て罰に早朝登校して校内清掃をすることにした。

 初日は下足室。亜紀のロッカーの近くを掃いていると、ノコノコと亜紀がやってきた。ボクの顔を見ると、サッと手にしたものを背中に隠した。

 白いビニテだということは直ぐにわかったけど「お早う」だけ言っておしまい。亜紀が上履きに履きかえているうちに、温水先生がやってきて、こう言う。

「チャチャッとやっとるか。手抜きしたら日にち増やすぞ!」
「はい、今日のとこは終わりです」

 そう言って、直ぐに亜紀とは反対の階段から二階に上がる。そして、亜紀の教室の前を通り、ノートの千切ったのを自分の机にいれようとしている亜紀に目を合わす。

「ハハ、また会っちゃったね(^_^;)」
「お、おはよう」
「変なの、さっき下足で会ったじゃん」
「あ、そうだったわね(;'∀')」

 おたついたところを後ろに回って、ノートの千切れを自然に見つける。

「ハハハ、自分でやっちゃ、だめでしょう?」

 亜紀は、顔を真っ赤にして大粒の涙を流した。カバンからビニテがはみ出していることにも気づかずに。

「これで、亜紀の秘密知っちゃったから、ボクたち、友達だね!」
「ノラ~!」

 顔をクシャクシャにして抱きついてきた。それから、亜紀は、そういうことをしなくなったし、ボクのことは友達だと思っている。

「ノラ、そこで三宅が、女の子ぶってる! 暴力事件だよ!」

 峯岸がいうので、しかたなく、ボクは渡り廊下へ行く。

「あ、今のはちがうんだ!」
「見りゃ分かるわよ。痴話ゲンカのはてでしょ。あんたたちのは夫婦ゲンカみたいなもんだもん」

 ホッペを赤くして、しばかれた千晶が照れた顔をしている。

「でも、人が見ちゃったから、あいこにしとこ。三宅君、歯を食いしばって……はい、千晶は一発かましましょう」

 千晶は、蚊も潰せないほどの可愛いビンタをくらわせる。

「ハハ、千晶、惚れた弱みだね!」
「もう、ノラは、そうやって、いつもからかうんだから!」
「そういう照れた千晶って、可愛いよな!」

 で、夫婦ゲンカは収まる。二人とも、ボクを友達と思っている。

 放課後になった。視聴覚教室の二グループのところに向かう。

「はい、双方、持ち時間は十分。相手の発言中は口出ししない。発言の順番はコイントス……はい、裏か表か!」

 で、順番を決め、言いたい放題言わせる。予備に五分とって、言い足りないところを補足させる。

「お互い様でしょ。言ったことに具体性もないし、言った、やられた時期もはっきりしない。はっきりしてんのは、もう、お互いに仲良くはやれないってこと。無理だね仲直り。でしょ?」

 互いのメンバーが頷く。

「じゃ、これからは、互いにシカトしよう。いわば冷戦だね。握手したって欺瞞だしね。それでいいね!?」

 ボクは、ムリヤリ善悪を決めない。女の子の睨み合いなんて、それこそ箸の上げ下ろしまで気に入らないところから始まっている。割り切るっきゃない。

 で、二つのグループのイサカイは無くなり、優子と、優衣のグループからも友達と思われる。

 でも、ボクには友達がいない。

 僕のシリアルは、NORA A007 

 対人トラブルシューティング用ガイノイド(女性タイプアンドロイド)のプロトタイプ。

 ボクにとって波野高校は実用試験の場でしかない。だから友達はいない。みんな検体にすぎない。ボクは、この四月にデータ分析された後、初期化されて他の実用試験にまわされる。

 じゃね!

 

 


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