ライトノベルベスト
「へー、こんなとこから出られたんだ……」
「感心してねえで、メット被って後ろに乗れ」
「うん」
美紀は、素直にバイクの後ろに跨り、俺は背中で美紀の胸のふくらみを感じた。まだ生で見たことはないけど。
おれはメールで学校のごみ置き場の金網の観音開きが開くことを知っていた。美紀の学校の裏サイトで発見し、グーグルのストリートビューで確認しておいた。そのことと時間だけを指定しておいたんだ。
5分だけ待つ、それが過ぎたら今日はNGだ。と……。
美紀の学校から直角に伸びる道に入り、すぐに右折。少しでも美紀の中抜けがばれないための用心。500メーターほど遠回りして鈴木オートに着く。おれの行きつけのバイク屋だ。元族だけど、物わかりのいい鈴木さんに声をかける。
「すんません。こいつ着替えさせたいんで事務所借ります」
「いいよ、散らかってるけど」
「ほれ、これに着替えてこい」
女もののジーパンとトレーナーを渡すと、美紀がウロンな目で俺を見た。
「ばか、姉貴のだよ。洗濯はしてある」
「すみません、じゃ着替えさせてもらいます」
「着替えた制服は、ロッカーの三つめ空いてるから」
「ども」
美紀は、ついでのように頭を下げて事務所に入った。
「で、一時には帰ってくるんだな?」
「はい。中抜けだから、バレないようにやらないと」
「まあ、あんまりこじれないように。とりあえずは話を聞いてやれ。人間てのは、しゃべれば半分がとこ心が開く」
「お見通しなんですね」
「だてに十年も族はやってねえ。亮介が、こんな無茶やるんだ。本気で切羽詰ってんのは分かるよ。エンジンのチューンも女心もデリケートに変わりはねえ……このバイク、フレームが歪んでんな」
鈴木さんが、バイクに熱中しはじめたころ、美紀が着替え終わって事務所から出てきた」
「お、髪も変えたんだな」
美紀はセミロングからポニーテールに変わっていた。
「途中で誰に会うか分かんないからね」
「じゃ、時間厳守な。遅れたら誘拐で警察に電話するからな」
「はいはい」
その時スマホにメールの着信音。
――素直に寝てますか? 声色上手な亮介くん?――
「ヤベ、副担のネネちゃんだ!」
――ありがとうございます。今から医者にいくとこです――
と、返してバイクに跨る。
スカートからジーパンに変わると開放的になる。おれは、そこまで読んでいた。効き目は駐車場に入って一回切れた。
「えー、ここって、いけないホテルじゃないの?」
「誰にも見られずに短時間で、コミニケーショとるのは、こういうとこが一番」
「コミニケーションだけだよね?」
「世界中の神様に誓って」
おれはコミニケーションと言った。話とは言わなかったぜ……。