ライトノベルベスト
MAX 50% OFF……という赤い看板が緩い坂道の途中で目についた。
通りがかりの社長は思った。暮れのボーナスは……こんなもんか。
組合との交渉がむつかしくなるなあ。世間はアベノミクスで景気が良くなってきているから、うちの社員は期待しているだろう。でもな、ウチみたいな中小企業は……社長は、坂道を下った。
体重100キロのオネエチャンは、こう思った。
ここまで、減らせたらねえ。あたしの運命も変わるカモね。と、ため息ついて坂道を登っていった。
ジイサンは思った。年齢がこれくらいになれば……いや、この人生を半分戻ってやりなおすなんてごめんだね。首を振って、坂道を下っていった。
アイドルは思った、スケジュールがこれだけ減ったら、恋が出来る……でも、それって落ち目ってことよね。そう言って彼女は、坂の上の事務所を目指した。
サラリーマンは思った。オレが就職したころは、求人倍率はこれくらいだった。オレは運の良い方だな。そして、目の端に捉えたものに気づかないふりをして坂の下の得意先にむかった。
サラリーマンにシカトされた失業者は思った。こんな数字でなきゃ、オレだって就職できたのに。あいつが声を掛けてくる確率は、こんなものだと思ったけど、実際シカトされると……下りかけた坂道を上りなおした。
小さい女の子が通った。
あ、50さんが、お鈴持って喜んでる! あれ、右手かな、左手かな? 女の子は坂の上で手を振っているお母さんのところまで、スキップしていった。
非番のお巡りさんが思った。うちのひったくり件数が、ここまで落ちればいいのにな。
でもいいや。ひったくりの半分を強盗って事にすれば、ひったくりの数は減る。お巡りさんは人相が悪くなって、坂道を下っていった。
困難校の先生が坂道を登ってきた。
うちの生徒の、卒業率だな。240人入学して、100人ほどしか卒業しないんだもんなあ。来年こそは……担任が当たらないように願いながら、坂道を上り続けた。
元総理大臣が、人目に付かないように帽子を目深にかぶり、看板を見た。
あの時の選挙、せめて、これぐらいの減少なら、政権を手放さずに済んだのに。そう呟いて、坂を下っていった。
近所の奥さんが通った。うちの亭主の酒、これくらいに減ったらいいのに。
坂の下から、旦那が会社から戻ってきた。
女房の器量はこれくらいだな。結婚前に比べて……オレの酒の原因は、ここにあるんだけどなあ。
夫婦揃って、坂道を登っていった。
近くの基地に、ジェット戦闘機で戻る自衛隊のパイロットが、その看板をチラ見して思った。
スクランブルがこれくらいに減ればなあ。あっと言う間にジェット戦闘機は、坂の向こう側に消えた。
店の主人が出てきて看板をしまいながら思った。
ここまで、値引きしても誰も買わねえなあ。
THE END