大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベルベスト『MAX 50% OFF』

2021-09-24 06:43:07 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『MAX 5O% OFF』  

 



 MAX 50% OFF……という赤い看板が緩い坂道の途中で目についた。

 通りがかりの社長は思った。暮れのボーナスは……こんなもんか。
 組合との交渉がむつかしくなるなあ。世間はアベノミクスで景気が良くなってきているから、うちの社員は期待しているだろう。でもな、ウチみたいな中小企業は……社長は、坂道を下った。

 体重100キロのオネエチャンは、こう思った。
 ここまで、減らせたらねえ。あたしの運命も変わるカモね。と、ため息ついて坂道を登っていった。

 ジイサンは思った。年齢がこれくらいになれば……いや、この人生を半分戻ってやりなおすなんてごめんだね。首を振って、坂道を下っていった。

 アイドルは思った、スケジュールがこれだけ減ったら、恋が出来る……でも、それって落ち目ってことよね。そう言って彼女は、坂の上の事務所を目指した。 

 サラリーマンは思った。オレが就職したころは、求人倍率はこれくらいだった。オレは運の良い方だな。そして、目の端に捉えたものに気づかないふりをして坂の下の得意先にむかった。

 サラリーマンにシカトされた失業者は思った。こんな数字でなきゃ、オレだって就職できたのに。あいつが声を掛けてくる確率は、こんなものだと思ったけど、実際シカトされると……下りかけた坂道を上りなおした。

 小さい女の子が通った。
 あ、50さんが、お鈴持って喜んでる! あれ、右手かな、左手かな? 女の子は坂の上で手を振っているお母さんのところまで、スキップしていった。

 非番のお巡りさんが思った。うちのひったくり件数が、ここまで落ちればいいのにな。
 でもいいや。ひったくりの半分を強盗って事にすれば、ひったくりの数は減る。お巡りさんは人相が悪くなって、坂道を下っていった。

 困難校の先生が坂道を登ってきた。
 うちの生徒の、卒業率だな。240人入学して、100人ほどしか卒業しないんだもんなあ。来年こそは……担任が当たらないように願いながら、坂道を上り続けた。

 元総理大臣が、人目に付かないように帽子を目深にかぶり、看板を見た。
 あの時の選挙、せめて、これぐらいの減少なら、政権を手放さずに済んだのに。そう呟いて、坂を下っていった。

 近所の奥さんが通った。うちの亭主の酒、これくらいに減ったらいいのに。

 坂の下から、旦那が会社から戻ってきた。
 女房の器量はこれくらいだな。結婚前に比べて……オレの酒の原因は、ここにあるんだけどなあ。
 夫婦揃って、坂道を登っていった。

 近くの基地に、ジェット戦闘機で戻る自衛隊のパイロットが、その看板をチラ見して思った。
 スクランブルがこれくらいに減ればなあ。あっと言う間にジェット戦闘機は、坂の向こう側に消えた。

 店の主人が出てきて看板をしまいながら思った。

 ここまで、値引きしても誰も買わねえなあ。

 THE END


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鳴かぬなら 信長転生記 33『孤高の剣聖・3・侵入者』

2021-09-23 12:39:04 | ノベル2

ら 信長転生記

33『孤高の剣聖・2・侵入者』  

 

 

 

 端午の節句の鍾馗様みたいな奴が家来を引き連れて森から湧き出した。

 

「お前たちか、この折り紙を飛ばしたのは?」

 鍾馗様が口をきいた。

 言葉が口の動きと合っていない。喋っている言語は日本語ではないけど、英語のアフレコのように耳には日本語に聞こえている。

「意味は通じておるだろう、応えろ」

 グシャ

「ヒ!」

 紙飛行機を握りつぶされ、忠八くんはシャックリみたいな悲鳴を上げる。

「あんたたち、紙飛行機も無いような野蛮なとこから来たみたいね。ここは、そんな野蛮人が来るとこじゃないの。さっさと回れ右して帰んなさい!」

「殿、こいつらの言葉は倭語のようです」

 学者風の冠の男が野良犬を見るような目を向けたまま鍾馗様に告げた。

「倭?」

「はい、東海の海南にある島国であります。一般に背が低く、文化と呼べるものもないくせに生意気な奴らです」

「そうか、ここは倭人たちの居住地であったか。見れば、風水的にも条件の整った良い土地だ。とりあえずは、このあたりに橋頭堡を確保しよう。この二人は捕虜第一号だ。後で尋問にかけるから縛っておけ」

「殿、今日は捕縛道具を持ってきておりません」

 馬周り役みたいなのが注進する。

「ならば、足の筋を切って転がしておけ」

「承知、おい」

 足軽っぽい奴らが刀を抜いた。

「待て、女の方は、ちょっと可愛いから手荒にはするな」

「いかにも。ならば、女は手足の親指だけを縛っておけ」

「承知、おい」

 足軽っぽい一人が刀の下げ緒を外して寄って来る。

「触るな、下郎!」

 下げ緒を持った手を捻って足払いをかける。

「ウオ!」

「おもしろい、こやつ、可愛いだけではないようだな。だれか、こいつの相手をしてみろ」

 ハイ! ハイハイハイ!

 十人ほどのスケベそうな雑兵が手を挙げる。

 少し数が多い(;'∀')

「かかれ! ただし傷はつけるな!」

 オオ!

「忠八くん、逃げて!」

「織田さん!」

「大丈夫、こんな五月人形みたいなやつらの四人や五人やっつけられる!」

 そう、四人や五人ならね……これだけいたんじゃ、ちょっと焦る。

「女一人に十人もかかってきて、卑怯な奴! そこの大将、名前ぐらい名乗りなさい!」

 名乗らせたところで勝ち目はないんだけど、ムザムザやられるわけにはいかない。

 バカ兄貴なら「是非もない」とか「であるか」とか収まりかえるんだろうけど、あいつの真似はするもんか。

「そうか、では名乗ってやろう。聞いて驚け、我は豫洲汝南郡の名族にして江南の太守である袁紹、その人であるぞ……どうだ、恐れ入ったか。今なら助けてやろう、儂の前に跪け」

「だれが!」

「やれやれ、では、致し方ない。よいか、くれぐれも傷をつけるでは無いぞ」

 オオ!

 転がした奴に蹴りを入れて、飛びかかってきた奴を目力で怯ませながら飛び蹴りを食らわせ、空中で足を入れ替えると、次の男の後頭部を蹴り倒す。

「グエ!」

 着地した時点で三人を倒すけど、同時に三人が飛びかかって来る。

 着地しきって勢いがつかず、倒せるのは一人だけ。

 横に駆ける!

 前に二人、後ろに二人、視界の端、進行方向に一人が立ちふさがっている。

 これでは、手足のどこかを掴まえられて引き倒される。同時に五人に乗りかかられては、万事休すだ!

 こうなれば、たとえ一人だけでも!

 

 その時、風が吹いた。

 シュッ! シュシュッシュ! シュッ!

 

 あっという間に五人が倒れた。

「二人とも、わたしの後ろに!」

 言うが早いか、風は、前方で見物を決め込んでいた部隊の真ん中に付き進んで行く。

「押し包んで討ち取れ!」

 学者風がヒステリックに叫ぶが、兵たちは返事をする前に血しぶきを上げた。

 やっと走るのを停めた風は、転生学園の制服を着た二刀流だ。

「宮本武蔵……」

 忠八くんが呟く。

 これが、兄きが言っていた孤高の三白眼!?

 セイヤッ!

 停まっていたのは一秒足らず。切り株を足場に跳躍すると、中央の五人を瞬時に切り倒し、返す刀で学者風の首を切りおとした。

「殿、ここはお引きを!」

 馬周り役筆頭みたいなのが、袁紹に退却を進言し馬首を武蔵に向けたが、袁紹の方を向いていたわずかの間に間合いを詰められ、その近さに驚いたところを真っ向から兜の鉢ごと切られた。

 ズガ!

 二つに割れた兜が宙に舞うと、敵は一気に崩れ、我先にと森の中に逃げていく。

 バサバサバサ

 森の鳥たちが、次々に飛び立ち、その合間に敵の悲鳴があちこちからした。

 数十秒がたって、これで終わったかと思いかけた時、馬首にしがみ付いたままの袁紹が森から飛び出してきた。

「お前たち、あの者を止めろ! 止めたら国の半分をくれてや……」

 最後の一言を言う前に、袁紹の首は飛んでしまい。主の胴体を乗せたまま馬は森の中に消えて行った。

 

 武蔵は振り返ることもせずに学園の方に歩き去っていった……。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  宮本武蔵        孤高の剣聖

 

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ライトノベルベスト『明日から学校だ……』

2021-09-23 06:34:28 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『明日から学校だ……』   

 




「ああ、明日から学校だ……」

 鏡に映った自分が呟いた。

 日ごろ生の感情は表に出さないようにしている咲子だが、年末年始の休暇の最後の朝には洗面台の鏡の自分は嘘をつかない。

 歯磨きを終えて、ショートヘアーの寝癖を直したころには、いつものウソつき咲子のニコニコハツラツ顔に戻っていた。
 教師と言うのは、元気……そうにやっていなければならない。そうでなきゃ授業もクラブ指導も辛いだけになる。
 人相手の仕事と言うのは、元気そうにやっていなければ、余計しんどくなることを咲子は五年の教師生活で知った。

 だから、普段はニコニコハツラツのウソつき笑顔。

 しかし、おせちの残りをアレンジした高級残飯をかっ込んで自分の部屋にもどると、二週間ぶりのウソつき笑顔は消えてしまった。机の上に始末しそこなった辞表を見てしまったからだ。

 咲子は二学期いっぱいで学校を辞めようと思っていた。昨年の十二月には決心し、この辞表を書いた。

 が、出しそびれてしまった。咲子の学校の校長は、いわゆる民間校長……正直迷惑。

 土日に平気で行事を持ってくる。人事は教職員に相談もなく勝手に決める。組合主導のお手盛り人事もごめんだが、イエスマンだけを運営委員に選ぶようなところは、民間で仕事をしくじった証拠。また、教師の大半は新卒で教師になった者が多く、こういう上司にたてつく術を知らない。表ざたになるとマスコミが食いつきそうなことがいっぱいあるが、悪代官の下僚のように、みんな見ざる聞かざるを決め込んでいる。

 咲子は、校長がしてきたことを各種の証拠を付けてUSBに残している。辞表を出したあと、元カレの下元にエンターキー一つで送る算段になっている。

 だが、咲子が辞職しようと思ったのは、この民間校長のせいではない。

 顧問を務める新聞部を筆頭とする生徒たちに幻滅したからである。

 咲子の学校は、評定は中の上で、お行儀はいい。そのことで咲子の学校を選ぶ中学生も多い。
 でも、中には例外がいる。授業中、こそっとスマホをいじる者。弁当を食べる者。大したことではないが誉められたことではない。咲子は、もっと崩れた学校が初任校だったので、この程度のことを「悪い」という認識はない。
 ただ、傍にいる生徒たちは、違法なことをやっているのに見過ごしている教師に不信感を持つ。

 こんなささいなことを教委に電話する生徒や保護者がいることが問題だ。生徒と教師の人間関係は加速度的に希薄になっている。
 咲子は、そううことがあるので早ベンも隠れスマホも許さない。そんなささいなことで、生徒たちは咲子を他の教師よりは信頼している。
 一人だけ早ベンを叱ったことがある。
「あんたが思っているように、ささいなことだよ。だけどみんなはいけないことだと思ってる。そのこと分かってるんだろ? だから電車の中で迷惑行為を平気でしているように思うわけ、だから先生は許さないの!」
「分かりました……」
 その場は愁傷げだった。しかし、すぐに教委に電話されてしまった。
「早ベンやったら、電車の中の痴漢行為のように言われた」と話が変わっていた。

「いつ、痴漢て言ったのよさ!」

 思わず、壁ドンをやるところだったが、今日日は、こんなことでもパワハラに取られてしまう。慎重に言葉を選びながら、延々一時間指導し、泣かせてやった。咲子もドラマのように営業用の涙をこぼした。
 こいつとは、それから心が通うようになった。

 早ベン一つで、これだけの労力がかかるのである。咲子の臨界点が近くなった。

 で、トドメが新聞部であった。今時の新聞部なので、ブログを日刊で出している。
 この新聞部が、戦時中のA新聞のように御用記事しか書かない。学校はパラダイスで、先生も生徒も聖人か天使のようにしか書かない。
「批評もしなきゃ、新聞じゃないよ! アクセスだけ稼いで立派な新聞部だと思ったら大間違いだわよ!」
 批評など、仮名にしたり学校名を伏せたり、一般論にしたり、小説やコラムにしたり、いくらでもできる。

 新聞部全員を泣かせてしまった。

 あくる日からは徹底したシカトにあった。幻滅した。しかし責任上顧問は降りなかった。
 学期末が、いい機会だと思って辞表を用意した。

 咲子は、部屋の手鏡で、もう一度自分の顔を見た。ゲンナリ顔に戻っていた。

 咲子は、あくる日の仕事始めに辞表を出した。まだ、やっと三十歳。出直しは効くだろうと思った。
 そのあくる日、新聞部のブログを開くと、仮名ではあるが咲子の辞職のことが書かれていた。まるで汚職で辞職した議員のように書かれていた。
「ハハ、やっと批評的な記事がかけるようになったか」

 咲子はパソコンのエンターキーを押した。

 学校はひっくり返るだろう。積もり積もった垢を振り落すには、一度ひっくり返ればいい。

 咲子はカウチにひっくり返り、ポテチを一つまみした……。
 

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銀河太平記・068『そのまんま……南』

2021-09-22 14:19:44 | 小説4

・068

『そのまんま……南』 加藤 恵  

 

 

 そのまんま……南としか書いていない。

 

「えと……方角表示?」

「うん、かな?」

 氷室に連れられてやってきたエリアの入り口には、古い車のボンネットの看板が立っていて、達筆だけど、ペンキで書いただけの『南』の表示があるだけだ。

「昔は地磁気が狂って方角も分からなくなることがあって、島には東西南北の標識があるだけだったらしい」

『島の者同士が出会ったら、「オレは東」とか「ワシは南」とか言って、区別していたんだ。今じゃ、それらしい地名を付けてるよ。今でも方角の表示で通してるのは、うちだけですよ』

 グニャグニャ

 制御が効いていない上半身を揺らせながらニッパチが補足する。

「みんな、顔を出してくれ。新しい仲間連れて来たから」

 

 氷室が声を掛けると、あちこちから、いろいろ現れた。

 人間  ロボット  作業機械  ヒュ-マノイド  などなど。

「ヒムロ、そいつはなんだ?」

「言ったろ、新しい仲間だ。ハナから詮索するもんじゃないぞ」

「いまのはギャグだ、みんな笑え!」

 アハハハハハ ワハハハハ

「いま、笑いを強要したのがシゲ。きみに興味を示したのがハナ、いちおう女の子だから。あとのは、おいおい憶えていってくれればいい。みんな、この子はメグミだ。さっきニッパチが故障したのを直してくれた」

 グニャグニャ

「ええ、ニッパチ、壊れたままだぞ」

「だな、まだグニャグニャじゃねえか」

『さっきは身動きもできなかった、上半身の駆動系を下半身に回してくれたから帰ってこれたよ』

「メグミが直したのか?」

「うん、応急処置。ファクトリーに連れてってくれたら、きちんとやり直すよ」

「あとで案内するよ。ヒムロ、マイドは?」

「その様子だと見つけられなかったか……ま、ステルスが取り柄のボートだからな」

「シゲ、お頭に、例のことを」

 後ろの方で声が上がる。氷室はお頭と呼ばれることもあるらしい。

「なんだ、いい話かい?」

「さっき、B鉱区でパルスガが見つかったんです!」

「え、パルスガ鉱床が!?」

 わたしも驚いた。パルスガと言えばパルス鉱石のなかでも最上級で、昔は自然界には存在しないと云われていた。

「いいえ、テニスボールくらいの大きさですが、純度の高い単体鉱石です」

「そうか、まだ可能性の段階だけど、希望は持てるね」

「ヒムロ、宴会にしようよ!」

「ハナ、先々週もやったとこだぞ」

「あれは、水泳大会記念だったじゃないか!」

「酒が飲めるならいいぞ」

「景気づけだ!」

「やろうやろう!」

「ハハ、分かった分かった。じゃ、メグミの歓迎会も兼ねるということで」

「酒のストックが足りませ~ん」

「じゃ、ひとり500までだ」

「500ぽっちすかあ?」

「飲めるだけでも喜べ」

 オオー!!

 

 なんだか分からないけど、いろいろ理屈をつけては宴会をやりたがるところらしいということは分かった(^_^;)

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 

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ライトノベルベスト『使い残しの夏』

2021-09-22 06:30:32 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

 『使い残しの夏』   

 




 十月だというのに、使い残した夏がやってきたようだ。

 南から台風が二個も来て、一つは大陸の方にまっしぐらだったけど、遅れた奴が南下した偏西風に流され、日本海を北東に進んでいる。そのために太平洋の暖湿な空気を反時計回りに連れてきて、記録的な暑さだった。

 なんで、こんな時期に中間テストと恨んでみても始まらないんだけど、ひどく疎ましい。

 窓ぎわの席なので、外の湿気がもろに伝わってくるようでイライラする。暗記物の日本史なので、半分の時間で出来上がってしまった。
 直前までノートと教科書を見て、なんとか際どい積み木を積むように、なんの意味もない言葉や年号をおぼろに覚えた。あとは、その積み木が崩れないように、片っ端に語群から、あるいは働きの鈍くなった頭を絞って答を解答用紙に埋めていくだけ。

 あたしは、他の女子以上に日本史なんかには興味がない。

 何百年も前の日本がドーダって関係ない。鎌倉幕府が1192だろうが1185だろうが、あたしの知ったこっちゃない。それよりも来年から上がるって言う消費税の方が心配だ。

 お父さんの会社は業績が良くない。首になることはないだろうけど、給料が上がるような気配は、まるでない。帰宅部のあたしが、ノラクラ帰るのと、お父さんが帰ってくるのとがほとんど同じという日もあった。駅で目が合うと知らん顔をする。お父さんだって気まずいだろうし、この歳になって、お父さんと女子高生が、仲良く家路につく状況なんて、ラノベでもあり得ない。

 放課後ってのは、部活にいそしんで、ハラペコでカバンと部活用のサブバッグ担いで、商店街の揚げたてコロッケなんかの魅力に負けて買い食い。そこを憧れの先輩にみつけられドギマギの乙女心。去年の一学期までは、そんな夢見る女子高生で、テニス部に居た。
 でも、中学からテニスをやっている子には、はっきりかなわない。高校から始めた子でも、情熱の差なのか才能なのか、梅雨が明ける頃には力の差は歴然。
 揚げたてコロッケは試してみた。憧れている先輩にも夢のように見つけられた。
「あ……」
 そう言ったかと思うと、先輩もコロッケ買って食べ始めた。「アハハ」と笑っていっしょに歩くとかすれば、青春の彩りもちがうんだろうけど。コロッケ食ってる先輩がむしょうに情けなかった。だから、さっさと食べて、家に帰り、その期末にはクラブも辞めてしまった。

 で、中間テスト。

 二年の期末で、だいたいの成績が決まる。

 評定平均3・7は無いと希望の大学に指定校推薦で入れない。

 H大学。別にHな大学じゃない、頭文字がH。友だちの中でもなかなか志望校は言わない。指定校推薦の枠は決まっている。こんな二年の時期からガチンコしたくないから、志望校はイニシャルで言う。
 そのH大学にしたって、死ぬほど入りたいってわけじゃない。自分の力と、卒業後の進路決定の内容。そして、なにより学費の安さ、自宅通学可能の魅力で決めただけだ。うちの経済力も分かってるし、二年後には妹が控えている。

 ほんとのほんとは、学生専用のワンルームなんか借りて、優雅な女子大生やってみたい。まあ、現実と折り合いを付けると、H大あたりになるというだけ。

 おっと、引っかけ問題にまんまと引っかかっていることに気づく。「一所懸命」を「一生懸命」とやらかしている。慌てて消しゴムで消す。

 ビリ……小さな音だけど、テスト中の教室では、よく響く。顔は向けなくても、みんな気づいている。後ろのユッコが「プ」と吹き出しかける。ユッコはいいよな、お父さん銀行だもんね。で、適度に抜けてる天然。あたしみたいな平均的な女子高生の悩みはない。

 教卓の前から二番目の蟹江君が、名前のように蟹が這いつくばるようにして答案を書いている。シャ-ペンの動きから。最後の論述問題に精を出しているようだ。

――鎌倉時代から読み取れる、日本人の生き方について書け――

 あたしは、ハナから満点は諦めて『名こそ惜しけれ』で、四十字ほどでしまい。それを奴は……。

 蟹江君は、一年から同じクラス。

 名前と顔が一致したのは二学期に入ってから。二年になってからも、ああ、いっしょなんだ。その程度の感覚だった。

 二年になって、蟹江君は身長が伸びて大人びてきた。部活はやってないけど、学校の外でバンドを組んでいる。ギターとボーカル半々ぐらいらしい……でも、学校では、そんなことやってるっておくびにも出さない。

 休みの日、たまたま、駅のホームでいっしょになった。

「保奈美、学校には内緒にしといてくれないか」

 真顔で、そう言った。

 詳しい話はしなかったけど、指に出来たタコ、アイポッド聞きながらかすかにとっていたリズム感。そして、クラスメートという距離を超えて近寄ってきたときの迫力。負けたと思った。高校生としての有りようがまるで違う。その時のドギマギが、そういう気持ちなんだと気づくのが遅かった。先月、また駅で見かけた。蟹江君は気が付いていない。あたしはホームの端からチラ見してただけ。

 そこを階段を上がって、ギター背中に、瞬間で「負けた」と思えるようなポニーテールが、わたしの前を通って蟹江君の方に行った。
 そして、あの親しさは、バンド仲間以上のものだと、あたしに感じさせた。蟹江君の白い歯と、彼女の残り香が、あたしの胸を締め付けた。

 あたしは、分相応のあたしでいいと思う。だから蟹江君のことは、遠くから見てるだけ。それでいい……。

 でも、さっき答案が破けたとき教室の空気が一瞬緩んだけど、蟹江君だけは、我関せずと答案に熱中していた。

「一所懸命」を直したあとは、蟹江君意識しながら、ポワポワと頭に浮かぶことをもてあそんで時間を潰した。
 突然殴りつけるような雨が窓ガラスを叩いた。

 あの時も、こんな風な雨風だった……高校最後の思い出にユッコたちと二泊三日で近場の湘南に行った。そこでゲリラ豪雨に遭って、半日泳げなかった。同宿の大学生のグループと一緒に、バカな話をして時間を潰した。常識人で枠からはみ出ない。わたしたちと一緒の時は自分たちもノンアルコールで、けしてあたしたちに無茶はさせなかった。リーダーのトメさんという人がしっかりしていて、メンバーをまとめていた。いつか雨も上がったので、足だけでも海につかろうって、海岸に行った。

 わたしは酔っていた。トメさんの面白い話しに、足だけでもという機転の利かせ方に……。

 気がついたら……うそ、流れは分かっていた。

「人を愛する前に、何がある?」
「え……出会いかな?」
「Hだよ。Iの前はHだ!」
「アハハ」

 そんな軽いノリが大人なんだと思って、気楽な……ふりしてホテルに行った。

 トメさんは、優しかった、けして無理は言わないし、裸にされたときも気の利いた冗談に笑っていた。
 あとで考えたら、トメさんという人は、そういうことに慣れていたんだ。さりげなく、あたしが六月生まれで十八歳になっていることも、トランプの星座占いで確かめていた。でもいい、トメさんはいい人だったから。

 そのわりには、その後二度ほどメールのやりとりがあっておしまい。わたしは三度目のメールには返事打たなかった。トメさんは、それっきり。深追いしない人なんだと思った。

 でも、それから、蟹江君をまともには見られなくなった。気後れ、それとも……。

 夏の使い残しのような、ムッとするような雨上がりの道を、バカだな……あたしったら、駅一つ向こうまで歩いてしまった。
「ヨッコイショ……」
 オバアチャンみたいな声あげて、あたしは無防備にシートに座った。

 そして、電車が動き出して気がついた。

「か、蟹江君……」
「氷室って、ほんと鎌倉的自由人だよな」
「か、鎌倉的?」
 あたしは、トメさんと行った、鎌倉近くのホテルを思い出し、心臓がドッキンした。
「あのころは、女の人も元気でね、氷室みたいな女の人いっぱいいたんだぜ」
 蟹江君は、北条政子とか、鎌倉時代の男女関係の自由さや、大らかさを語ってくれた。
「オレ、そういう氷室って好きだぜ」
「え……」
「氷室、誕生日いつ?」
「あ、えと、六月だから、もう終わっちゃった」
「なんだ、ユッコは氷室のこと蠍座とか言ってたから……」
「あ、ユッコ、そのへんいいかげん。星座って自分の生まれ月の蠍座しかしらないから」
「ああ、勘違いさせちゃったか」
 蟹江君は、カバンの中をゴソゴソし始めた。
「こんなもんで悪いけど、映画館の株主券。夏の使いのこしだけど。遅ればせのバースデイプレゼント」
「あ、ありがとう……」

 あたしは、自分をちょっとだけ見なおしてもいいかと思った……。

 

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やくもあやかし物語・101『鬼の手』

2021-09-21 09:07:11 | ライトノベルセレクト

やく物語・101

『鬼の手』   

 

 

 ゾワゾワ!

 

 それを取り出すと部屋中のあれこれが一斉に身を引いた。

 それというのは、一見ふつうの孫の手。

 ほら、50センチくらいの棒の先にこけしの頭みたいなのが付いていて、自分で肩がたたけるやつ。もう一方の端は小さな手になっていて、こけしの頭の方を握って背中が掻ける。便利グッズのご先祖みたいなの。

「幸運を掻き寄せるっていうから、持って帰るといいよ」

 俊徳丸が勧めるので、持って帰った。

 実は、鬼の手。

 わたしの狙いは正確だった……というか、大魔神みたいに大きな鬼だったから、反動の大きいガバメントでも外しようが無かったんだけどね。

 でも、微妙に左にズレていたんだと思う。

 だって、右手だけが残ってしまったんだからね。

「このままじゃ、気持ち悪いか……」

 そう言うと、JK姿の俊徳丸は制服の胸ボタンを外した。ちょっと嫉妬するくらい形のいい胸が露わになって、胸の谷間に貼ってあるシールみたいなのを剥がして、鬼の手に貼ってくれる。

 シュボン

 アニメのエフェクトみたいなのがして、鬼の手は、ころあいの孫の手になった。

 シールは、玉祖神社のお札だった。

 

 でも、妖の気配いっぱいだったので、部屋のアレコレたちはビビってしまったんだ。

 

 アノマロカリスは縮こまってLサイズの海老くらいになって天井に張り付いて、カメラはレンズだけ出して机にめり込むし、黒電話はひっくり返るし、フィギュアたちは本棚や引き出しの中にガチャガチャと避難してしまうし、ようく見ると、部屋自身も嫌がって、外側に膨らんで、微妙に広くなってしまった。

「あ、大丈夫だから。これからは、福を呼び込むラッキーアイテムになるから(^_^;)」

 ………………………………………………………………

「チカコもなんか言いなさいよ」

 モソモソ

 ポケットから鼻から上だけ出した。

「持って帰ったのはやくもだからね……あたしは関係ないし」

「こ、こら、チカコ!」

 めちゃくちゃ言うやつだ……と思ったら、部屋中のあれこれが「ホーー」っとため息ついて、もとに戻った。

 チカコが無事なのだから、大して害にはならないと納得した様子。

 

 でも、ラッキーアイテムかと言われると、ついさっきまでは狂暴な青鬼の右手だったのを見てるしなあ……。

 

「試してみたら?」

 ポケットの中からチカコの声

「えと……ピザが食べたい!」

 すると、リビングの方で玄関チャイムが鳴る音。お婆ちゃんがバタバタ走って行って、なんだか宅配がきた様子。

『やくもぉ~ ピザが届いたわよぉ』

 え、すごい!

 

「今日は中秋の名月だから、ピザを頼んでおいたの(^▽^)/」

 お婆ちゃんが、あらかじめ注文していたやつだった。

 でも、中秋の名月でピザ?

 不思議に思ったら「やくもなら、お団子よりもピザとかでしょ?」とお母さん。

 今日は、用事で出かけるはずだったお祖父ちゃんも「用事が無くなった」という。

 中秋の名月を眺めながら、家族三人、おいしくピザを頂きました(^_^;)

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手

 

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ライトノベルベスト『The Exchange Vacation』

2021-09-21 06:21:52 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『The Exchange Vacation』  




 三つある「休み」で春休みが一番好きだ。それも一二年生のそれに限る!

 夏休み・冬休み、それに対する春休みは全然違う。そうは思わない?

 だってさ、夏休みと冬休みっていうのは、うんざりする宿題はともかく、単なる休み。
 休みが終わると、また同じ教室で、同じクラスメートで、時間割とか先生とか完全にいっしょで変化がない。せいぜい席替えがあるくらい。基本的に同じ事が始まるだけ。でしょ?

 だけど、春休みは違う。

 だってそうでしょ。

 学年が一個上がって、クラスも教室も先生もクラスメートも変わっちゃう。教科書だって、最初手にしたときは、なんだか新鮮。

「今年こそ、がんばるぞ!」ってな気持ちになる。

 もっともこの気持ちは連休ごろには無くなってしまうけど。年に一度の発育測定なんかもあって、背が伸びた、体重がどうなったとか、なんかウキウキじゃん。それでいて、学校はいっしょ。勝手知ったる校舎、四時間目のチャイムのどの瞬間までにいけば食堂は並ばずに済むかとか、合点承知之助!

 三年生は事情が違う。

 だって、完全に環境が変わってしまう。

 でしょ?

 中学にいく前の春休みは、それほどじゃなかった。だって公立の中学だから、半分は同じ学校の仲間。学校そのものも、ガキンチョのころから、よく側を通っていたし、お姉ちゃんが三年生でいたから心強くもあった。

 高校にいく前の春休みは、最初は開放感。

 でもって、入学式が近づくにしたがって、つのる緊張感。二年生になろうとしている今、思い返せば、良い思い出になっている。

 だけど、高三になったら、きっと緊張はハンパじゃないんだろうなあ。だって大学だよ、大学。でもって十八歳。アルコール以外は大人といっしょ。そのアルコールだって、十八を超えてしまえば飲酒運転でもしないかぎり、大目に見てくれる。車の免許だって取れちゃう! 恋の免許も、なんちゃって……これは、こないだお姉ちゃんに言ったら、怖い顔して睨まれた。

 お姉ちゃんは、この四月から大学生だ。最初は地方の大学を受け独立するとか言ってたけど、お父さんもお母さんも大反対。で、結局、地元の四大で、自宅通学。ここんとこの緊張したお姉ちゃんをみていると、正解だったと思う。

「ねえ、お姉ちゃん、ま~だ!?」

 あまりの長風呂にわたしはシビレを切らし、脱衣所のカーテンをハラリと開けた。

「なにすんのよ!」

「痛い~!」

 乱暴にカーテンを閉め直した拍子に、カーテン越しに右のコメカミをぶん殴られた。
 お姉ちゃんの裸を見たのは、スキー旅行で、いっしょに温泉に入って以来だ。湯上がりに、肌が桜色。出るところは出て、引っ込むところはキチンと引っ込んで、同性のわたしが見てもどっきりだ。

「高校最後の、お風呂だからね、いろいろ考え事してたの」
「卒業式、とうに終わってんのに……案外……」
「案外、なによ!?」
「いやはや、大人に近づくというのは、大変なもんだなあって。同情よ、同情」
「余計なお世話。さっさと入っといで」

 そんなに長風呂した訳じゃないのに、お風呂から上がって、少しグラリときて、脱衣場でへたり込んでしまった。一瞬頭の線が切れたのかと思った。
 時間にすれば、ほんの二三秒なんだろうけど、わたしの頭の中で十七年間の人生が流れていった。そして小学校の終わり頃に、なにかスパークするような思い出があったんだけど、言葉では表現できない。

「どうかした?」
「ううん、ちょっと立ちくらみ」

 お母さんの心配を軽くいなして、リビングへ行った。
 テレビが、どこかの春スキー帰りに高速で事故が起こったニュースを流していた。

「あ~あ、二人亡くなったって……」

 お姉ちゃんが、ドライヤーで髪を乾かしながら言った。

 お父さんは、仕事の都合で、会社のワゴン車で帰ってきた。かわりに自分の車は会社の駐車場。
 代わりに残業がお流れになったので、夜食用のフライドチキンを一杯持って帰ってきてくれた。

「また歯の磨き直しだ」

 そう言いながら、わたしも、お姉ちゃんもたらふく頂いた。

「わたしね、春休みは『 Exchange Vacation』だと思ってるの」
「なに、ヴアケーション交換て?」

 お姉ちゃんが、紙ナプキンで、口を拭きながら聞いてきた。

「なんか、全てが新しくなるようで、夏休みとか冬休みとかじゃない、特別な印象」
「それなら、Vacation for Exchangeでしょうが」
「イメージよ、イメージ!」
「ハハ、美保、英語はしっかりやらないと、大学はきびしいぞ」
「もう、うるさいなあ」

 
 その夜、わたしは寝付けなかった……正確に言えば意識は冴えているのに、体が動かない。金縛り……いや、それ以上。目も動かせなければ、呼吸さえしていない。でも意識だけは、どんどん冴えてくる。

 お父さんが、何かをしょって部屋に入ってきた。お母さんが、大容量のハードディスクみたいなのを持って続いてくる。
 お父さんは、しょっていた物を横のベッドで寝ているお姉ちゃんの横に寝かした。

 ……それは、もう一人のお姉ちゃんだった。

「いつも辛いわね、この作業……」
「真保は、これで終わりだ。あとは義体の調整でなんとかなる」

 お母さんは、ハードディスクみたいなのを中継にして、二人のお姉ちゃんの右耳の後ろをコードで繋いだ。古い方のお姉ちゃんの目が開いて、赤く光った。それは、しだいに黄色くなり、五分ほどで緑に変わると、光を失った。

「起動は五時間後ね」
「ああ、それで熟睡していたことになる。着替えさせるのは、お母さん、頼むよ」
「年頃の女の子ですもんね」

 お母さんは、古いお姉ちゃんを裸にして、新しいお姉ちゃんに着替えさせた。

「じゃ、美保の番だな……」
「真保、きれいに体を洗ってますよ。分かってたんじゃないかしら?」
「まさか、そんなことは……」
「そうですよね。ただ、三月の末日と重なっただけ……明日は入学式ですもんね」

 お父さんは、右耳の後ろとハードディスクみたいなのをケーブルに繋いで、いろいろ数値を入力していった。

「右の記憶野に……」
「なにか、異常ですか!?」
「いや……単純なバグだ。回復したよ」
「来年は、美保の義体も交換ですねえ……あの事故さえ無ければ」
「それは、もう言うな。スキーに行こうと言ったのは、オレなんだから」
「せめて、母星のメカニックにでも来てもらっていたなら……」
「言うなって。もう、真保はシュラフに入れたか」
「はい……」

 お父さんが、シュラフに入った古いお姉ちゃんを担ぎ、お母さんが、跡を確認して出て行った。

 わたしは、全てを理解した……お姉ちゃんが、わたしの右のこめかみを叩いたのは、無意識の意思があった。それは、自分の境遇を知った上での感謝の気持ちだった。

 そして、目が覚めると、夕べの事は全て忘れていた。

「もう、どうして早く起きないかな。入学式でしょうが」

 歯ブラシを加えながら、お姉ちゃんが何か言った。

「訳分かんないよ!」
「美保は春休みなんだから、時間関係無いでしょうが!」
「あ、そか……」

 わたしは大事なものが頭に詰まっているようで、半分ぼけていた。でも、今の遣り取りで飛んでしまった。

 でも、このことは人生の大事な時に思い出しそうな予感もしていた……。
 

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魔法少女マヂカ・234『大和ホテルから試合会場へ』

2021-09-20 14:18:57 | 小説

魔法少女マヂカ・234

『大和ホテルから試合会場へ語り手:マヂカ  

 

 

 高坂薫子ということにした。

 

 震災前の25日に飛ぶのだから本名の霧子でも構わない。まだ学校は夏休み中だしな。

 でも、あとあと調べられては面倒だ。

 じっさい霧子には夭折した薫子という姉がいた。

 ノンコは栗子。

 ――もし、妹ができたらどんな名前にするつもりだったの?――

 父の高坂侯爵に聞いた事があるそうだ。

 父は間を置かず「栗子」と応えた。

「え……薫子 霧子 栗子……お父様、それって『あいうえお順』じゃなくて?」

「憶えやすいだろ」

「まあ」

 呆れたが、あとで考えると、いずれも響きがよく、個性が立ち上がってくる名前だ。

 夭折した姉と、生まれてこなかった妹への想いがあったのか、単なる思い付きなのか。

 ブリンダは、そのまんま。元々が、でっちあげの大使令嬢だしな。

 で、わたしはメイドだ。

 べ、べつにメイド趣味というわけじゃないぞ。

 華族令嬢がお供も連れずに旅行しているのは不自然だからな。それに、低い身分で走り回れる者が一人ぐらいいた方がいいしな。

 

 大和ホテルのフロント。

 

「では、高坂薫子さまと栗子様は、一等のツイン。ミス・ブリンダ様には一等のシングル、真智香さんには三等のシングルをご用意させていただきます」

 恭しくカギを揃えるフロントのおっさん。

「真智香はメイドだけれども、旧家老の娘なので二等を用意していただけるかしら」

 霧子がフォローすると、おっさんは「かしこまりました」と二等の鍵を出した。

 

「なにか、損した気分だ」

 

 お嬢様方の荷物を整理するという名目で霧子とノンコの部屋に。

 入ったとたんに、我ながら愚痴になる。

「いいじゃないか、なんだったら、メイド服用意してやるぞ」

 お邪魔虫のブリンダが面白がる。

「試合までには五日もあるから、観光とかできそうやね(^^♪」

「そうね、わたしは明日が試合でも十分優勝できるわよ」

 確かに、霧子は武道に長けている。剣道や長刀が一流なのは、高坂家にやってきた日に思い知ったからな

「さて、試合の申し込みに行くか」

「締め切りにも間があるでえ」

 確かに受付は30日までだ。

「要項とか申込用紙もらわなきゃだめだろ。ま、これはメイドの仕事だな」

「うう、やむを得ない……」

「腐るな、オレもついて行ってやる」

「わたしも付いて行きたいなあ」

「いまのノンコは栗子だ。栗子は公爵令嬢だぞ!」

「そんな怒らんでもぉ」

「申し込みの時は、自分で行くから」

「そうだな、じゃ、ブリンダ」

「おう」

 

 日米二人の腐れ縁で大連の街に出る。

 大和ホテル前の大通りを東に進むと、学校の敷地ほどの大きなロータリーになっていて、そのロータリーの中央が公園になっている。

 中国と満州の入り口である大連港を抱える港町なので、その造りは、ヨーロッパの中堅国の首都並みの規模と質がある。

「ここが、試合会場になるのだな」

 公園の隅には、試合会場の資材が運び込まれて、公園の入り口には試合を予告する広告が出ている。

「マヂカ、早々と参加者の名前が出ているぞ」

 試合の雰囲気を盛り上げるためだろう、今日現在のエントリーメンバーが張り出されている。

 なんちゃら勇士  怪力なんとか  無双闘士なになに  剛力なにがし  なんとか烈女  ブゥオイナ~(ロシア語で~戦士)  デストロイヤーなんとか  

 まことに国際色豊かだが、ほとんどの出場者が偽名というかリングネームだ。

「なんだか、安物の無双ゲームのキャラみたいだなあ」

 ヤアー トーー トリャー

 エントリー表を見ていると、公園の奥の方から練習だかデモンストレーションだかをやっている声や歓声が聞こえてくる。

「ちょっと覗いてみるか」

「ああ」

 ちょっと楽しくなってきた。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

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ライトノベルベスト『ああ、花の五重マル』

2021-09-20 06:31:48 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『ああ、花の五重マル』   

    


 夏休みの宿題が返ってきた。五重マル。これはいい。でも赤ペンの評でガックリきた……。

 戦争について調べ八百字程度で、作文を書きなさい。これが宿題のタイトル。

 戦争、それも夏というと、太平洋戦争の終戦、原爆……ぐらいしか、思い浮かばなかった。
 お父さんもお母さんも、昭和五十年代生まれなんで太平洋戦争のことは知らない。
 お爺ちゃん、お婆ちゃんも昭和二十年代生まれなんで、せいぜい、三丁目の夕日だ。

 一日延ばしにしているうちに、お盆になった。お盆に施設に入っている大爺ちゃんの、お見舞いに行った。

「太平洋戦争……シュコー……大東亜戦争やな」
「ダイトウワセンソー?」
「シュコー……ダイトウアセンソウや」
「大爺ちゃんは、戦争いってたの?」
「いきそこないや。シュコー……飛行時間二十時間で終戦や。あと十時間も乗ってたら特攻にいってたやろな」
「特攻……?」

 大爺ちゃんは、頭はしっかりしてるけど、体力がない。ダースベーダーみたいな酸素吸入をしながらの話は、それでおしまいだった。
 ただ、あたしに何かを伝えようとして、目の前で、しばらく両手を動かしていた。意味は分からない。

 マユは、パソコンで『戦争に関する感想文』というのをまんまコピーして、ちょこっと言葉を変えるだけで出すといってた。
 あたしは、ダイトウアセンソウと特攻がキーワードだった。で、そこからアクセスしてみた。

 びっくりした。

 はじめて大爺ちゃんの口から聞いた大東亜戦争が正解だった。太平洋戦争というのは戦後アメリカが強制的に呼ばせた言い方で、日本では、戦争に負けるまで大東亜戦争だった。それに、アメリカと戦争をする何年も前から中国と戦争をしていて、それも含めての言い方だと知った。

 特攻は、サイトのどの文章も難しいんで、ユーチュ-ブを見て、そのまま感じたとおり書こうと思った。

 日本の飛行機がアメリカの船につっこんで爆発するのや、飛び交う弾丸の中で空中分解するのや、海につっこむの、なんだか、杯でお酒飲み合って、飛行機に乗っていくとこ。なんだか、画質は悪いけど、ゲームのCGの感覚だった。

 そんな中、二つのショッキングな特攻の動画を見た。

 共通点は、どちらも積んでた爆弾が不発だったこと。でも、結果がまるでちがう。死ぬってとこではおなじなんだけど、違う。そして同じなんだと思った。

 一つは、戦艦に見事に体当たり。でも爆弾は不発で、戦艦の甲板で、飛行機はバラバラになり燃え上がった、積んでいた飛行機の燃料に引火したんだ。そして、かたわらには、飛行機から投げ出された、日本のパイロットの亡骸。乗組員は蹴って海に落とそうとするが、艦長が、それを止めた。
「彼は命をかけて、この船につっこんできて、いま神に召されたんだ。見事な軍人だ、礼節をもって弔え」
 それで、その戦艦では、アメリカ式に乗組員が並び、弔いのため弔砲(ムツカシイ言葉だけど調べた)を撃ち、シーツで作った日の丸に包まれた遺体を丁重に水葬にし、みんなが敬礼で見送った。

 もう一つは、航空母艦に突っこんで不発。飛行機は甲板を滑って海に落ちた。そしてパイロットが生きたまま浮かび上がり、乗組員に手を振って救助を願った。
 で、次の瞬間、そのパイロットは、航空母艦の機銃で撃ち殺された……。
 ライフジャケットを着ているので、遺体は沈まない。ぐったりのけ反ったまま、自分の周りの海面を真っ赤に染めて、遺体は流れ去って行った。

 ショックだった。

 同じアメリカ人が、こんなに違うことをすることを。大爺ちゃんが、当時は同じような若者で、一つタイミングが違えば、同じように死んで、今のあたしたちが存在しなかったであろうことが。

 落ち着いて、もう一度ずつ見た。両方とも同じだということに気がついた。 方や、騎士道精神に則った美しい行為。方や、復讐心がさせた無防備な者の虐殺。

 これは、戦争という異常事態での、異常心理の表と裏だ。わたしは、こんなことが戦場のあちこちで、それぞれの国の中でも、様々な異常心理があったんだろうなと想像した。幼いながら、なにかとんでもないものが背景にあるような気がした。もっと勉強しなければと思った。


 先生の評は、こうだった。

 この悲劇を起こしたのは、当時の日本です。そこを見据えて、戦争の真実をとらえ、勉強しようという思いは立派です。がんばろう!  大東亜戦争は間違いです、太平洋戦争。言葉は正しくおぼえよう。

 延期されてた東京オリンピックが終わって一年がたつ。

 さしものコロナも落ち着いてきたけど、少し日本の経済は冷え込んだ、しかし内戦が起こったり、餓死者がでたりということは、笑っちゃうけど、ありません。今期に入った経済の短観でも、失業率も回復の傾向だ。

 あたしは、W大学のマスターになり、アメリカの留学生といっしょに、大東亜戦争の経済的背景と民族的問題に頭を捻っている。アメリカ人の相棒の口癖は「トルーマンのクソ野郎」である。あたしは、あの夏の日、大爺ちゃんが苦しい息の中、両手で表現しようとした何事かを、時々手だけ真似てみる。分かるのは何十年も先かもしれない。

 電子新聞の片隅に『オリンピックをごり押しし、コロナ不況を呼んだ政府を糾弾!』という前時代的な集会の記事が出ていた。壇上のオッサンが気になって、指で拡大、九秒の動画にして分かった。

 あの、東京オリンピックが決まった秋に、五重マルをくれた中学の先生だった……。

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せやさかい・245『ウルトラマン』

2021-09-19 13:40:13 | ノベル

・245

『ウルトラマン』さくら      

 

 

 それって、お好み焼き?

 

 言うたとたんに『こいつはアホか』いうような顔された。

 遠慮なく『こいつはアホか』いう顔したんはテイ兄ちゃん。

 言われたんはあたし。

 向こうのキッチンで留美ちゃんと詩(ことは)ちゃんが笑ってる。

 

 日曜の朝から、純情なうちがスカタン言うて『アホか』いうような顔されたのは、ウルトラマンのブルーレイディスクのパッケージが原因。

 最初はテイ兄ちゃん。

「やっぱり北米版は安いなあ」

 テレビの前にパッケージが置いてあるのを手にしたテイ兄ちゃんがネットで検索した。

 ネット通販で3200円と出てる。

「日本のんやったら3万とか5万とかするなあ」

 同じブル-レイでも、日本のんは十倍近い。

「なんかちゃうのん?」

「ほとんどいっしょや。仕様が違うから、日本のデッキでは再生でけへんのあるけど、プレステ4とかやったら問題なしやし、まあ、字幕があったりするかなあ」

「プレステで見れるんやったらノープロブレムやんか、それだけ?」

「日本は、メディアミックスやからなあ」

 

 このメディアミックスで「それって、お好み焼き?」のスカタンになったわけ。

 お好み焼きとか焼きそばのデラックスにナンチャラミックスてあるしねえ。

 ここのとこ、キャベツ焼きやらお好み焼きやら粉もんに凝ってるんで、つい、ミックス焼きを連想してしもたんです。

 

「委員会方式のことですね?」

 留美ちゃんと詩ちゃんが人数分のお茶を持ってきてくれる。

「委員会?」

 委員会と言うと学校の『保健委員会』とかが思い浮かんで、ますます分からへん。

「ほら、アニメのエンドロールに出てくるじゃない『鬼滅の刃制作委員会』とか」

「あ、ああ……」

 思い出した。スタッフロールの最後に出てくるやつや。

「せやけど、あれて、なにかのシャレちゃうのん?」

 スタッフとかがイチビって、そういう子どもめいたグループ名付けてんのんかと思てた。

「ちゃうちゃう。出版社とかアニメ制作会社とか放送局とかオモチャ会社とかが一緒になって、作品を管理するやりかたや。そうやって、著作権とかそれぞれの利益を管理するわけや。つまり、それ以外は作品に関するグッズ制作とか販売とかができんようになるから、値段が高くなる傾向がある」

「へえ、そうなんや」

 返事はしとくけど、意味は、よう分かってへん。

「ウルトラマンて、ついこないだもリメイクされてましたよね」

「ああ『シン ウルトラマン』だったっけ?」

 留美ちゃんも詩ちゃんも情報通や(^_^;)

「ちょっと、観てみよか……あ、もう入ってるわ」

 というので、テイ兄ちゃんがプレステのコントローラーを持つ。

「おお、4:3のアナログサイズや!」

 テイ兄ちゃんは感動するけど、両端がちょん切れた画面は、なんや損した気になる。

 なんか、捩じれたマーブル模様がグニグニと回って、出てきたタイトルは『ウルトラQ』……え?

 言うてるうちにテーマ曲。

 

 光の国からぼ~くらの街へ き~たぞ我らの ウル~トラマン(^^♪

 

 ふ、古い(^_^;)

 

 で、なんちゅうか……ショボイ。

 ウルトラマンも怪獣も子どもの粘土細工かいうくらいグレードが低い。

 ウルトラマンの着ぐるみはウエットスーツぽくて、あちこちに皴が寄る。

 家やら飛行機やらが壊されても、いかにもミニチュア壊しましたいう感じ。

「もう五十年以上も前の作品やさかいなあ……」

 え、50年!?

「正確には、55年前です」

 留美ちゃんはすかさずスマホで検索してた。

 55年前て……お母さんも生まれてへん昔。

「なんで買ったの、ネトフリとかでも見られるでしょ?」

 詩ちゃんもテイ兄ちゃんには遠慮が無い。

「え、おれのんとちゃうで」

「「「え?」」」

 ビックリしてると、お祖父ちゃんがやってきた。

「なんや、みんなで観てたんか」

 お祖父ちゃんの手ぇにはソフビのウルトラマンが握られてる。

「「「「ひょっとして?」」」」

 みんなの声が揃った。

「え、ああ、ちょっと懐かしいんで中古のブルーレイ買うたんや」

「お祖父ちゃん、ひょっとして、昔みてたん?」

「うん、中二やったかなあ」

「そのウルトラマンは(* ´艸`)」

 詩ちゃんが笑いをこらえながら聞く。

「ああ、婆さんがくれた奴や。懐かしなって、押し入れから出してきた。よっこらしょっと……」

 そう言うと、ウルトラマンをテーブルに立たせて、プレステを点けた。

「自分らが観ても、あんまり面白なかったやろ」

「うん」

「ハハ、さくらはハッキリしてるなあ」

「あ、でも、役者さんとか、風景とか懐かしいですよね。さっき、横浜の氷川丸映ってましたけど、船体の色が若草色で、あれって『コクリコ坂から』の時といっしょで、時代が出てました」

「留美ちゃんは、よう見てるなあ」

「あ、いえ。コクリコ坂好きだったんで……」

「ウルトラマンの前には『ウルトラQ』いうのんやっててなあ、ワシは、そっちの方が好きやった」

「あ、タイトルロゴがウルトラQやった!」

「うん、最初はウルトラQの新シリーズいう感じやったなあ。そのうち、もとのウルトラQに戻るやろと思てたら、いつまでたってもウルトラマンでなあ。で、婆さんとケンカしたんや」

「え、お祖母ちゃんと?」

「うん、まだ、セーラー服もダブダブの中学生やったけどなあ……ぜったい、ウルトラマンの方が面白い言うて、くれたんが、このソフビのんや……」

 そうなんや……。

 ちょっとシミジミ。

 

 ジョワ!!

 

 ビックリした! 画面で主役がウルトラマンに変身するとこで、お祖父ちゃんもウルトラマン握ってポーズをとった!

「婆さんと勝負して、負けたら変身ポーズやれて言われてなあ(^_^;)」

 勝負?

 なんの勝負やろ?

 聞きたかったけど、子どもみたいに画面に集中したお祖父ちゃんには聞けませんでした。

 

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ライトノベルベスト・『マッチ売りの少女』

2021-09-19 06:24:25 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『マッチ売りの少女』   

 




 ガールズバーかなんかの客引きだと思った。

 まるでマッチ売りの少女だ。

 

 客引きの感じはまるで無く、ラミゼラブルの世界から、そのまま抜け出してきたようなリアリティーがあった。まあ、どこかの弱小劇団か演劇専門学校生のバイトだろう。配っているのはマッチではなく、店のチラシの入ったポケティッシュ……。

 が、近づくと様子が違う。

 その子の周辺だけ粉雪が降っていてひんやりしている。もう初夏と言っていい季節なので、サービスも兼てビルの二階あたりから雪と冷気を吹き下ろしているんだろう。ま、やっている子も、この時期に冬装束。それぐらいやらなければやってられないだろう。

 マッチはいかがですか……

 遠慮がちに少女が言った。手に載っているのはポケティッシュではなく、本物のマッチ。それも高橋が子どもの頃馴染んだ爪楊枝のようなものではなく、その倍ちょっとはあった。そして少女の顔は、どう見ても青い目にブルネットの巻き毛。顔の造作から言っても欧米人の顔である。

 それに聞こえる日本語と口の動きが微妙に合っていない。「どうぞ」は「プリーズ」の口の形をしていた。

「いくら?」

 思わず聞いてしまった。さっき会社の同僚と飲んだアルコールがまわってきたのかもしれない。

「一円です」
「一円?」
「はい、ものの始まりの数字。お金にすると一円です」

 高橋は、無造作にポケットから五百円玉をだしたが、少女は固辞した。しかたなく財布の小銭ポケットから一円を取り出し、マッチ一本と交換した。

「燃えてる間、夢がかなうのかな?」
「わかりません。ただ燃えている間、人生で一番大切だと思った時に戻れます」
「ハハ、じゃ生まれた瞬間だ。オレの人生は、その瞬間から狂っていた」
「それは……やってみなければ分かりません」

 高橋は、カッコをつけて、靴のかかとでマッチをすった。

 

 シュッ

 

 マッチの灯りだけが残って、周りが暗くなった。

 と、思ったら晩秋の、あの駅のプラットホームになった。

 

 オレは、ヨッコの見送りに来ている。ヨッコは東京に見切りをつけて故郷に帰るんだ。ホームの場内アナウンス、行き先指示のパネルがハタハタとかそけき音で新潟行きを示すそれに変わった。

 それまで線路の彼方を見て居たヨッコが不意にオレの方を向いた。

「あたし、高橋君が好き! 高橋君が止めてくれたら、あたし東京に残る!」

 え………あのとき、ヨッコは「高橋君が好き!」で言葉を止めたはずだ。

 おれから、プッと噴き出して「なーんてね」と目線の定まらない俺を笑ったんだ。

 オレには、真由という好きな子がいた。で、紆余曲折の結果真由と結婚、で、今の家庭がある。何かにつけて文句の絶えない真由。それに輪をかけてわがままな一人娘の真央。

 真央が三つの時に、真由が整形していることに気づいた。目・鼻・口のどこをとっても真由に似ていない娘。でも気立ては母親そっくりの自己中で、最近は「万年係長!」などと悪態をつく。
 今日、帰りが遅くなったのも、同僚と飲みたいだけじゃない。たとえ一分でも帰宅を遅らせたかったからだ。
 

 でも、いまのヨッコは「高橋君が止めてくれたら、あたし東京に残る!」と続けた。

「オレも好きだ。ヨッコ新潟に帰るな!」

 !!

 ヨッコが胸に飛び込んできた。

 家に帰ると中年になって愛嬌が出てきたヨッコが元気よく迎えてくれた。

「お帰り、今日あずさが選抜に入ったのよ!」

 いろんなことが思い出すというか、心に湧いてきた。

 オレは真由ではなくて、気立てのヨッコを選んだ。二人とも十人並……ちょっと下だと思っていた。だが生まれた一人娘のあずさは、マイナス×マイナス=プラスのように可愛く、ヨッコ似の気立てのいい子で、中学でAKPの研究生になり、今日十七歳でチームPからの選抜メンバーに選ばれたのだ。

 その後あずさは、AKPのセンターになり、二十三歳で卒業。今は若手女優として力をつけている。

 家は、あずさの収入で十分やっていけるが、ヨッコの主義で自分たちの食い扶持は自分で稼いでいる。仕事はきついが、やり甲斐はある。今日も後輩たちとプロジェクトの成功を記念して飲み会が終わったところだ。

 街角で、マッチ売りの少女を見かけた……はるか昔、あの子からマッチを買ったような気がした……。

 

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鳴かぬなら 信長転生記 32『孤高の剣聖・2』

2021-09-18 16:45:19 | ノベル2

ら 信長転生記

32『孤高の剣聖・2』  

 

 

 

 あいつ(兄の信長)には言わないけど、こちらには、けっこう長く居る。

 

 その長く居るわたしでも、ここは新鮮だ。

「こんなにいい風が吹いているとは思わなかった」

「うん、一年で十日ほど、とってもいい風が吹いてくる」

「不思議だね、麓の方じゃ南風なのに、途中からは北風になってる!」

「あ、またやるの(;'∀')?」

「アハハ、きっもちいい!」

 タタタタタタ…………御山の斜面ををかけ下る。

 フワァァァァ…………南の向かい風に体が持ち上げられるよう。

 クルリと向きを変え、風に背中を押れて斜面を駆け上がる!

 タタタタタタ……ここだ!

 ピョン! クルリン!

 ジャンプと同時に体を捻る、ほんの一瞬なんだけど体が持ち上げられて飛んで行きそうになる。

 フワリ…………ドテ!

 むろん、鳥や蝶々じゃないから、一瞬の浮遊感のあとは、そのまま落っこちる。

 でも、その一瞬の浮遊感が、とても爽快で嬉しくて、さっきから五回もやっている。

「ダメだよ、怪我したらどうするんだよ」

「大丈夫!」

「大丈夫じゃないよ、織田さんになにかあったら……」

「なにかあったら?」

「えと……信長さんに殺される」

「だったら、その前に、あたしが殺す」

「ええ!?」

「やだ、忠くん殺したりしないわよ。あたしが信長殺す!」

「そんなあ~(^_^;)」

「あいつ、信行兄ちゃん殺してるからね、一回くらい兄妹に殺されりゃいいんだ」

「あはは……」

「アハハ、忠くん真面目ぇ~、本気になんないでよ」

 実は本気さ。

 さっさと生まれかわって、もっとましな信長の人生歩んでくれなきゃ、血を分けた兄妹とか身内とか殺さなくていい信長の人生をさ……

「さ、そろそろ飛ばそうか」

「あ、そだね、紙飛行機飛ばす前に、あたしが飛んで行ったら困るもんね」

「いくよ」

「うん……あれ、ここでいいの?」

 二宮忠八なら、もうちょっとタイミングやらベストポイントを探るかと思った。わたしがジャンプした場所で、躊躇なく紙飛行機を構えた。

「うん、織田さんがジャンプしたところがベストだよ。織田さん、ポイント掴む勘が、とってもいい」

「アハ、そうなんだ!」

「はやく、すぐにいい風が来る!」

「うん!」

「待って、あと三秒…………今だ!」

 

 えい!

 フワワァ~

 

 二機の紙飛行機は生まれたばかりの上昇気流に持ち上げられ、斜面でクルリと巻き上げられた追い風を受けて、どんどんスピードを上げて飛んでいく。

 なんだかこみ上げてくるものがある。

 自分が生み出した紙飛行機、それが、わたしが選んだベストの条件で飛んでいくよ。

 いけえ! いけえ! 飛んでけええええええ!

「織田さん、視界没になるかも!」

「ほんと!?」

「追いかけるよ!」

「あ、待ってぇ!」

 日ごろ鈍重な忠八くんが、すごい身の軽さで斜面を駆け下りる。

 地面は、チラッと見たきり。

 上空の紙飛行機にピタリと目を付けて、バランスとるために、自分自身紙飛行機になったみたいに、両の手を横に伸ばして、切り株とか、まるでレーダーで見てるみたいに軽やかに走っていく!

 やっぱり二宮忠八は神さまだ。

 わたしも、視界の端に忠八くんをとらえ、自分の紙飛行機を追いかける。

 野を超え、小川を超えて、それでも紙飛行機は飛んで行き、ここを超えたら未知の領域的な森の手前で落ちた。

「すごいすごい! 国境まで飛んできちゃったよ!」

「ほんとだ!」

 紙飛行機を手に振り返ると、御山が、今まで見たこともないほど小さく見えている。

「『舐めんな、紙飛行機!』って、感じね!」

「うん、織田さんが、ベストのタイミングとポイント見つけてくれたからだよ!」

「エヘヘ、そうかな~(n*´ω`*n)」

 

 カサリ……背後の森で音がした。

 

 え?

 振り返ると、とんでもないやつらが森から出てくるところだった。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  宮本武蔵        孤高の剣聖

 

 

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ライトノベルベスト『次の電柱まで』

2021-09-18 06:26:12 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『次の電柱まで』  



 

 今日も裕子と篤子が休んでる……もう三日になる。

 二人の欠席はプチ家出だって、噂が流れてきた。

 うちは、都立でも限りなく三流に近い二流半と言ったところ。二百四十人入学して、卒業するのは二百人そこそこ。つまり四十人近く、クラスにして一クラス分くらいは居なくなる。

 つまり続かなくなって退学していくのであって、けして……この世の中から消えて無くなるわけじゃない。

 この春の卒業式、いつものようにざわついた中で始まった。

 まあ、予想はしていたけど、来年あたしらの卒業式も、こうなるのかと思うと、気持ちはサゲサゲだった。

 ところが、在校生代表の送辞で、みんなシンとした。

「……ご卒業おめでとうございます(ここらへんまではザワっとしてた)。 僕は、ここにいない三十九人の先輩にも想いをいたします。テストの成績、出席日数、家庭事情、様々な理由はあるでしょう。でも、三年前の春、ここに座ったときは、今日のこの日。みんなといっしょに卒業式に出ることを夢見ておられたと思います。後輩の身として僭越ではありますが、同じ中学の、同じクラブの、同じバイトの後輩として、力になれなかったことが悔やまれます。少し人生を大回りされるかもしれませんが、たとえ周回遅れになっても、最後のゴールに到着されることを願って止みません。ここに卒業される二百一名の先輩の方々と同様に、この人生の門出を祝いたいと思います。在校生代表 市川宗司」

 終わりの方では、シンとして、いつになく真面目な式になったと、先生たちは喜び、あたしたちはシンミリ。

 この送辞は、むろん市川のボンクラが考えたんじゃない。生徒会顧問のヤッキーの手が入っている。

「ヤッキー、うまいこと考えたじゃん。あれなら、みんな大人しくなっちゃうよ」
「でもなあ、日本中一年で十万近い人が行方不明になってんだぞ。そのうち身元不明の仏さんは千体ちょっとなんだぜ。わかるだろ」
「じゃあ、ほとんど見つからないってことじゃん!?」
「さっき言ってた中退者も、五人……もう行方不明だ」
「そうなんだ……」

 だから、裕子と篤子の欠席が気になった。プチ家出ならいいんだけど……。

 学校の帰り道、小四ぐらいのガキンチョが七人ほどで遊んで帰るのに出くわした。

 どんな遊びかというと、電柱のとこでジャンケンし、負けた者が次の電柱まで全員のランドセルをしょったり持ったりして運ぶやつで、あたしにも思い出深い遊びだ。
 その時は、中肉中背の特徴のない子が七つのランドセルを運んでいた。顔を真っ赤にし、それでも「負けるもんか!」という勢いで、小走りで次の電柱へいく。で、みんなが囃し立てる。

――おかしい――

 そう思ったのは、二つ目の電柱だった。

 あいかわらずその子がジャンケンに負けて、もう顔なんか赤黒くしながら歯を食いしばっていた。
 あたしはイジメじゃないかと思った。中肉君はジャンケンに弱く、それを承知で、やらせてるんだ。
 もう少し続くようなら、一発カマしてやろうかと思った。高校生相手ならともかく、こんな小学生ぐらいなら、怖いオネエサンにはなれそうだ。

 でも、もう一つの異変に気づいた。

 数がおかしいのだ。最初は背中に二つ、お腹に二つ両手に一個ずつ、器用に頭の上に一個載せていたように思った。でも、今は、背中の一個と頭の上のランドセルが無い。すなわち、全部で五個っきゃ無い。
 そして、ガキンチョの人数も五人に減っている。

――数え間違えたかな――

 ジャンケンを観察した。あの子は、さっきと同じパーを出して負けていた。他の四人はいかにも「こいつバカ」というような笑い方をしている。

 でも、次の瞬間、その子がランドセルをかついだ拍子に一人消えた。

 だれが消えたかは分からないが、確かに一人消えて、ランドセルは四つに減った。この道は住宅街だけど、誰も家に入っていったところは見ていない。わたしは怖くなってきたけど、目が離せなかった。

 そして……最後の電柱になった。

 やはり、その子はパーで負け、勝ち誇った子のと自分のランドセルを振り分けにして担いだ。
 とたんに、最後の一人も消えて、その子だけになった。

 その子は、自分のランドセルだけになると立ち止まり、ため息一つついて笑い出した。

「アハハハ、見ろ、ボクの勝ちだ!」

 そして、その子は笑いながら、あたしの方を向いた。

「オネエチャン、ずっと見てたんだろ。もう誰も居なくなっちゃったから、いっしょにやろうよ……」

 そういうと、ガキンチョとは思えないスピードであたしを追いかけてきた。あたしは声も出なかった。

「なんだ、今日は刺原も休みか」
 
 そうぼやく担任の姿がリアルに、あたしの頭をよぎって、ガキンチョの手が届きそうになった……。

 

 

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銀河太平記・067『氷室との出会い』

2021-09-17 15:04:06 | 小説4

・067

『氷室との出会い』 加藤 恵  

 

 

 

 眉毛剃ったら人相変わるよ。

 

 火星の仲間には言われた。

 緒方未来の姿が解除できないからだ。

 緒方未来に成りすまして火星に潜入したけど、彼女には強い味方がいたようで、予想に反して火星に戻って来てしまった。

 仕方なく、九分通り潜入に成功した扶桑城を後にして、ムーンベース経由で西ノ島にやってきた。さすがに眉は剃らないで、髪を切って、前髪を変えた。

 

「ひょっとして仕事を探してる?」

 

 振り返ると、旧式の戦闘服が立っている。

 戦闘服だけが立っていたら、24世紀の今日でもシュールすぎる。

 戦闘服の中身は、髭を剃ったら十倍はアドバンテージが上がりそうな男。

 細身だけど、関節とか丈夫そうで、意外に痩せマッチョかも。西南戦争で連隊旗を奪われたころの乃木希典に似ていると思ったけど、こいつは、乃木さんのような泣き顔じゃない。

 一秒で、そう感じたけど、おくびにも出さずに半分だけ正直に言う。

「わけありなんですけど」

「この島の人間はみんなわけありさ。いっそ、島の全員に訳有って苗字に改名させたら、スッキリする」

「ハハ、そうね、で、あなたは?」

「南の方の世話役をやってる氷室だ。きみは?」

「えと……加藤恵」

 どうせバレるから「本名」を言っておく。

「そう、どっちで呼んだらいい?」

「どっちって?」

「苗字か名前か」

「恵」

「じゃ、メグミ」

「あ、それカタカナのニュアンス」

「少しだけ斜めに外した方がおもしろい」

「変な人」

「変な人に変な奴って言われてしまった」

「人って言ったの、変な人」

「うん、だから、斜めに外した方が面白い」

「で、仕事って?」

「知っていたら教えてほしい。さっき、旧式のマイドが下りて来たって通報があったんだけど、知らないかなあ?」

「さあ、わたしは船に紛れてやってきたから」

「そうか、じゃあ……」

 ギッコン ズズー ギッコン ズズー

「わ!」

 岩陰から突然現れたものに、リアルに驚いてしまった。

「おお、ニッパチ、動けるようになったのか!」

 それは、野外作業に特化した旧式の労務ロボットだ。厳密にはロボットではなく作業機械に区分される。機械なので、ロボット保護法の適用は受けない。実数的にはヒューマノイドよりもずっと数が多いと言われている。

『PC容量ノ80%ヲ駆動系モジュールニマワシ……マシタ』

「ああ、ひどい声だなあ」

『コミニケーションヲ モニターダケニスレバ 左足動クカモ……』

 言うと、そいつはマンガの吹き出しのようなバーチャルモニターを出した。

「ベースに帰ってピックアップとってくるよ、しばらく、そこで我慢しろ」

『デモ、マイド見ツケニ行カナケレバ』

「お前の方が大事だよ、ニッパチ、とにかく待ってろ。すまん、ニッパチ見てやってくれないか。誘拐されると困るんでな」

『這ッテ行ケバ、付イテイケマス』

「それじゃ、虐待になっちまう」

『ニッパチハ作業機械、虐待ニナラナイデス』

「そんなこと言うな」

「よかったら、診てみようか、ロボットの事なら少しは分かるから」

「おお、メグミはメカに強いのか!?」

「多少はね」

「じゃ、ちょっと診てやってやってくれ、メカに愛情はあるんだけど、技術はからっきしでねえ」

「じゃあ……」

『オネガイシマス』

 ハンベと繋いで上半身の駆動系PCを腰から下の駆動系にまわしてやる。細かい作業だが、十分ほどで終了。

『おお、直りました! 上半身はグニャグニャですが、普通に歩けます!』

「声も戻ったじゃないか、やっぱりニッパチは温もりのあるアニメ声でなくちゃなあ!」

「えと、応急処置なんで、機材の整ったところでやり直した方がいいと思う」

「よし、メグミ、きみはたった今から、氷室カンパニーの社員だ!」

「あ、やったあ!」

 

 ズドドーーン

 

『あ、社長、マイドです! マイドが逃げていきますよ!』

 岩山の向こうから発射音。どうやら修理が終わったようで、本来の五倍ぐらいの騒音をまき散らしてマイドが上昇していく。

「惜しい、あんな旧型はめったに見られないのに……」

 雲間に上昇していくマイドを見上げる二人と一台の姿は、なんだか長閑で、お伽話の始まりのようにも終わりのようにも思えた。

 

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 

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やくもあやかし物語・100『成敗!』

2021-09-17 09:55:27 | ライトノベルセレクト

やく物語・100

『成敗!』   

 

 

 ごめんね……ごめんね……

 

 遊んでいる長鳴き鳥を避けながら鳥居を出る。

 眼下に黄昏時の高安の郷が広がって、薄闇の果てに一の鳥居が標のように浮かび上がっている。

「この道を上がってきたのね……」

 首だけ出したチカコが意味ありげに呟く。

 一の鳥居までは、白っぽく玉祖神社の参道が伸びている。上ってきた時と全然印象が違う。

「参道を外れたところは妖の気配がする……」

 うん、他の道は黄昏の赤闇に沈んで、一歩踏み込んだら何が出てくるかわからない感じ。

「僕は、一足先に東高野街道に出るよ。やくもは、参道を下っておいで」

 長い参道をまた歩くのかと思うと、ちょっとだけ、気後れ。

「やくもが一の鳥居を出るまで、長鳴き鳥たちが呪をかけてくれる」

「シュ……」

「だいじょうぶだよ、今風に言えば白魔法。鬼からは見えなくなって、攻撃を躱しやすくなる呪だから」

 コケ

 振り返ると、長鳴き鳥が横一列になって見送ってくれている。

「じゃ、お先に」

 フワリ……

 黒髪とスカートをフワリ靡かせたかと思うと、電柱の高さほどに舞い上がって、あっという間に一の鳥居の向こうの東高野街道の方角に飛んで行った。

「じゃ、わたしたちも行こうか」

「あなたたち、しっかり護らなかったら焼き鳥にしちゃうからね!」

 コケ

「チカコ!」

 ムギュ

 チカコをポケットに押し込んで、一の鳥居を目指す。

 自分の体が、ボーっと光っているのが分かる。長鳴き鳥たちの呪が効いているしるしなんだろう。やがて、一の鳥居を出るころには、光は半分ほどになっていた。

 ウォーーン ウォーーン

 気配が道を行き来している。

「妖とか物の怪が通っている……無害なものばっかりだけど、さすがは東高野街道ね、京の都と高野山の行き来が想像以上」

「どっち行く?」

「あっち」

 ポケットから腕だけ出して北を指し示すチカコ。

 真っ直ぐ街道を北に行くのかと思ったら、途中からグニグニ曲がって、いつの間にか川沿いの土手道に出てきた。

 たぶん、こないだ来た恩智川。

 街灯があるので真っ暗じゃないんだけど、なんとも心細い。

 こんな時間でも、歩いたり自転車に乗ったりした人たちがポツリポツリ。半分くらいが高校生、女子がちょっと多いかな。

 途中切れかけの街灯が死にかけの蛍のようにチカチカ。

「ピストルは持ってるわよね?」

「うん」

 カバンの中でガバメントを握りしめている。セーフティーも外してある。

「初弾は籠めてある?」

「あ……いっかい出すね」

 ガシャ

 スライド(遊底)を引いて弾を込め、再びセーフティーをかけて、グリップを握ったままカバンにしまう。

「左に曲がる」

「うん」

 お地蔵さんが見えたところで左に曲がる。

 両側とも、ちょっと広い田んぼになっている。

 チラリと見えたお厨子の中、お地蔵さんは首だけ後ろ向きになっている。

「お地蔵、ビビってる」

「そろそろ?」

「居た」

 道の向こうにJK姿の俊徳丸の後姿、ちょっと青白く光ってる?

「まずい、鬼が狙いをつけ始めてる」

 他の通行人は、闇に溶けている。わたしは長鳴き鳥の呪がかかっていて、ほの白い。

 鬼が狙いを付けると、青白く光るみたいだ。

 

 ゾワ

 

 禍々しいものが追い越していった。

「鬼だよ!」

 それは、俊徳丸の上に来ると姿を現わした。

 青鬼だ!

 ゾワゾワゾワ

 虫のようなものが飛び跳ねる気配。

「妖たちが逃げている、いよいよだよ!」

 フ!

 音もなく、鬼が俊徳丸の背中に飛びかかる!

―― 今だ ――

 振り返った俊徳丸が口の形だけで言う。

 

 ドギュン!!

 

 エアガンだとは思えない音と反動があった。

 アウ!

 尻餅をつきながら、目だけは離さない。

 ボン

 意外にかそけき音をさせて鬼が四散した……。

 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸

 

 

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