大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・017『木葉隠れのオーベロン』

2023-11-25 14:54:21 | カントリーロード

くもやかし物語 2

017『木葉隠れのオーベロン』 

 

 

「少しだけ後ろめたさはあるみたいだ……」

 

 森の中の獣道を進んで行くと、ネルが呟いた。

「後ろめたい? 誰が?」

「あ、遠くから結界張って見送りに来たやつらか!?」

「そんなこと言うもんじゃないよ、ハイジ」

「ティターニアだよ」

「あ」

「ああん、森の女親分か?」

「獣道とはいえ、ゲームじゃないんだから、こんなに歩きやすい道があるはずがない」

「え、そうなの?」

「かすかに妖力も感じる、ティターニアか、その仲間が作っておいたんだ……そうだろ、オーベロン?」

 ヒッ

 小さくしゃっくりしたような声がしたかと思うと、薮の向こう、木の根元あたりがホワっと光った。

「隠れても無駄だ! 見えてるぞ、オーベロン!」

 シュバ

「「うわ」」

 気が付かなかったのでハイジと二人で驚いてしまった。

 木の葉が舞いあがって……それから何かが現れるのかと思ったら、木の葉は小柄な人の形にわだかまった。

「……やっぱり見えていたかベロン」

 なんか、一昔前の人工音声みたいな声だ。それに「ベロン」てなんだ?

「国は違うがエルフも森の民だからな」

「そうだな、コーネリア・ナサニエルも森の民だったな……ウフフベロン」

「姿を見せたということは、やっぱり後ろめたいか」

「ちがう、めずらしいから見に来たベロン」

「まあ、いいだろ。見に来たのなら、こっちも自己紹介しておこうか」

「あ、それはベロン(;'∀')」

「ヤクモ、おまえから」

「う、うん」

「あ、木の葉の塊に見えているけど、上から5センチくらいのところが目だ、見つめて話してやれ」

「くそ(;'▲')」

 ザワザワザワ

 木の葉が騒いだ。

「下から5センチ、逆立ちしたってダメだからな」

「わ、わかった(;'▢')ベロン」

「元に戻った、上から5センチ」

「あ、えと、小泉やくもです。この度は、森のみなさんにご迷惑をかけて、デラシネのことは責任……どこまで持てるかわかりませんけど、できるだけのことは……」

「よしよしベロン」

「下手に出ることないからね、出てきたっていうことは後ろめたい証拠だから」

「よ、よろしくお願いします(^_^;)」

「お、おう、こちらこそなベロン」

「アルプスのハイジだぞ……で、ネル、あの葉っぱの吹き溜まりみたいなやつはなんだ(ΦωΦ) ?」

「ティターニアの夫のオーベロンだ」

「え、ということは森の王さまなのか!?」

「そうなのだ、エライのだベロン<(`^´)>」

 葉っぱをギュっと寄せ集めて偉そうにすろオーベロン。

「アハハ、なんか蓑虫みたいだぞ」

「み、蓑虫言うな、ベロン!」

「それで、ティターニアじゃなくてオーベロンが出てきたのは、なぜ?」

「お、おう、見届けるためベロン……おっと、もう一人いるだろベロン」

 オーベロンの目(のあたり)が、わたしのポケットのあたりを見ている。

 あ、御息所だ!

『チ……見えてたのぉ、蓑虫ぃ』

 めちゃくちゃ嫌そうに舌打ちしをてポケットから顔を出す御息所。

「ミヤスドコロって言うのか、ベロン」

『六条の御息所よ、憶えといて』

「おまえ、サキュバス ベロン?」

『サキュバスじゃないし』

「……でも、人に夢を観させる系のアヤカシ……ベロン?」

『なによ』

「…………う、ま、まあいい、ベロン。正体もバレたし、少しは助けてやらないこともないベロン。そのかわり、後で一つだけ頼まれて欲しいベロン」

『なんでもってわけじゃ……チ、行ってしまった』

 

 ガサガサガサ……

 

 獣道がいっそう森の奥まで広がっていった……。 

 

☆彡主な登場人物 

  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン

 

 

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ここは世田谷豪徳寺(三訂版):第1話《佐倉さくらの事情》

2023-11-25 05:55:35 | 小説7

ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第1話《佐倉さくらの事情》  

 

 

 五十メートル手前の十字路のところに『車両通行止め』の看板とオジサンのガードマンが立っている。『車両通行止め』ということは自転車とか歩行者は通っていいんだ。

 迂回するのは面倒だし、期末テストの初日だし。

 それで、いつもの通り十字路を左折すると、四メートル幅の生活道路の半分を塞いで水道工事をやっている。

 五十メートル向こうに工事現場。

 

 で、あたしは視線を感じてしまったのだ。工事現場に立っている若者ガードマンの視線。

 

 明らかにルーキーで、誘導のタイミングを計ってあたしの方をチラチラ見ている。

 これがベテランのオジサンガードマンだったら、程よい距離まで視線なんか送ってこない。四五メートルの距離で、少しだけニッコリして赤いプラスチックの誘導灯を揺らし、あたしは、ほんの少し頭を下げておしまい。

 でも、このルーキー君は、角を曲がった時から、ずっとあたしを見続けている(^_^;)。

 チラチラじゃなくて、メットの下の目でガン見。

 あ、ひょっとして、この制服のせい( ゜Д゜)!?

 あたしは、渋谷にある帝都女学院の一年生。

 東京の女子高のベスト5に入るほど、白を基調としたセーラー服は人気がある。『セーラームーン』のモデルになったほど有名なんだ。

 だから、それだけで目をひく。あたし個人じゃなく帝都の制服が。

 初冬なのでカーディガンは羽織っているけど、前のボタンは開けたままだ。余計に白のセーラーが強調されてるぞ。

 きまりが悪い。

 手前の道で曲がっておけばよかったよ(-_-;)。

 でも、今さら引き返すのは不自然。

 忘れ物したふりとか……ああ、演技には自信ない。

 ああ、意識するぅ……向こうもしてるしぃ。

 意識すると怖い顔になるんだあたしって。

 失礼だと思われるかもしれない。思う、思うよね? あたし個人としてではなく帝都の女生徒として、帝都が失礼だと思われる……学校の看板しょってるんだ、この制服を着ているときは。

 

 あたしはタイミングの悪い子だ。

 

 入学して半年以上になるというのに、まだ入部するクラブを決めかねている。仲良しのマクサと里奈は入学と同時にクラブを決めていたぞ。

 性格改造のために演劇部に入ろうと思ったけど、帝都の演劇部は週二回しか活動していなくて、見学に行ったときもショボかった。

 それでも文化祭の出来次第ではではと思ったんだけど、クラス劇の方が面白いというシロモノだった。

 でも、この状況、演劇部なら忘れ物のふりして引き返せる? 

 せめて、怖い顔やめられる? 無理無理無理(;'∀')!

 いっそ、吹部に入って、中学以来のフルートでもやろうかと思った。

 でも、これは文化祭の演奏見て体中で感じた吹部の迫力と実力に尻込みしてしまった。

 あたしは引っ込み思案というほどじゃないけど、人とテンポが合わない。

 たいていの子は、流れに乗って適当に遊んだり、喋ったり。

 あたしは、それが苦手。

 間違っても、渋谷の駅とかビルのトイレで私服に着替えて遊ぶことなんかできない。

 友だちとのお喋りでも、ほとんど聞き役。

 たまに返事しても気のない「あ、そう」と、間の抜けた「そうなんだ」の二つしかない。「でもさ」とか「ところでさ」などと会話を中断して自己主張したりするのが苦手。

「あいつ嫌い」と誰かが言ったとする。「なんで?」と聞くと、相手の思いに反対か賛成の意を表さなければならない。それは別にいいんだけど、必要以上に同調したり、反発したりはしない。女の子の好き嫌いなんて、ほとんど退屈しのぎか、憂さ晴らしのネタでしかない。で、そういうのが、いつのまにか本当めかしくなって、場合によってはイジメっぽくなったりするんだよ。

 聞いたら考えてしまう。なんで「嫌い」って言うのか。なんであたしに言うのか。だから、とりあえずの返事は「ああ、そう」「そうなんだ」になってしまう。
 

 それかと……あたしには名前コンプレックスがある。

 

 さくらって名前はいい。

 でも苗字が佐倉。

 呼んだら「さくらさくら」になってしまう。アクセントが苗字と名前とじゃ微妙に違うんだけど、ちゃんと区別して呼んでもらったのは保育所の卒園式ぐらい。あとはみんな「さくら」のリフレイン。

 そんなこんなで友だちは少ない。

 出席番号で一つ前の「まくさ」、フルネームで呼ぶと「佐久間まくさ」 

 分かるでしょ、この子も名前コンプレックス。

 四月のクラス開きでは、妙な名前が二人も続いたんで、初日から笑いのタネになってしまった。

 もう一人の友だちは山口恵里奈。

 大阪出身の子で、バレー部でセッターをやっている。ボールも人の気持ちを受け止めてセットするのがうまい。学年の最初で隣同士だったこともあって、恵里奈だけは普通に喋れる。

 もっとも恵里奈はセッターだけあって、たいていの人間とはうまくやっているんだけどね。

 多感な年頃であることを差し引いても、あたしのは、やや度を超している。

 親が女子高に入れたがったのがよく分かる。

 共学ではとてもだろう。男の子と喋るなんて、まるで動物を相手にしているようなものだ。
 
 その男の子と言っていい若者ガードマンが目前に……迫ってきたよ(;'∀')。

 その子も緊張しているのが側を通るとよく分かる。

「狭いっす……気をつけ……」

 彼は誘導灯を大きく振った。あたしはカバンを右手で持っていたので、左側にいる彼との距離は二十センチほどになってしまった。で、彼の誘導灯が、あたしのスカートをひっかけてしまった!

「あ!」「う!」「お!」

 三つの感嘆詞がいっしょになった。

「あ!」はガードマンのニイチャン。「う!」はあたし。「お!」は後ろを歩いていた学生風。

「ご、ごめん(#'∀'#)!!」

 o(≧◇≦)o…………!!

 あたしはミサイルみたいになって豪徳寺駅に走った!

 

 グヌヌ……

 

 その日のテストがさんざんだったのは言うまでもない。

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