大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・84『忍者は手足、考えてはいけないのだが』

2023-11-13 11:15:38 | 小説3

くノ一その一今のうち

84『忍者は手足、考えてはいけないのだが』そのいち 

 

 

 すごい圧だ。

 

 ジープで疾走しているのだから、当然風圧はあるけど、風圧なんかじゃない。

 なにか、とんでもない事態が起こりそうな、歴史の歯車が大きく動き出しそうな、そんな圧だ。

 アデリヤ王女とサマル王子を引き連れて、A国に潜入している桔梗さんとミッヒのところに行けば道は開ける。

 高原の国王女とB国の王子が先頭に立って、どんなカタチであるかは分からないけど、A国の国王と政府に迫れば切り開ける道がある。ここから先は中忍である桔梗とミッヒの仕事、あるいは指令に従えば良いと思っていた。

 それでは済まない、そんな圧を全身に感じる。

 

 忍者は手足、考えてはいけない。

 

 まして、わたしは下忍だ。下忍は、手足ですらない、指一本、いや、指の先かもしれない。

 いざという時には、本体を救うために手足が犠牲になることもある。まして指の先、判断なんかしてはいけない。

 

 でも、お祖母ちゃんは言った。

 

 あれは、日暮里の駅を降りて内職の真田紐を納めにいく途中だった。

「火傷をしそうなとき、とっさに手をひっこめるだろ。あれは手足が勝手に判断してるんだ」

「え、そうなの?」

「脳みそに判断を仰いでいたら間に合わないときは、そうするようにできている」

「そうなんだ」

「それからね……」

 微妙な間に、思わずお祖母ちゃんの顔を覗き込む。

 その時、足の裏がゾワっとして、小さく横に飛んだ。

 見ると、犬のウンコ。

 あやうく踏んでしまうところだった。

「いま、何をした?」

「え、ウンコ踏みそうになったから、避けた」

「目で見たかい?」

「え……えと、なんとなく感じて、横に跳んだ」

「足が感じたんだよ。で、足は、咄嗟に全身の筋肉に警報を発して跳んだんだ。跳ぶっていうのは全身運動だからね、足一本だけでできる技じゃない」

「う、うん……」

「いまの東京、めったに犬のウンコなんて落ちてやしないけど、そのめったにないことに対処しなくちゃならないことが世の中にはある。憶えておきな」

 

 あの時のことを思い出した。

 

「サマル殿下、あの灌木の群れのとこで停めてください」

「お、おう」

 キーー

「なにかあるのか、ノッチ?」

 アデリヤが友だち言葉で見上げる。

「一分だけ待って」

 返事は木の上からした。

――えいちゃん、30メートルほど上がって下りてこれる?――

――後ろ45度の角度で投げてください。20秒観察して、ここに戻ってきます――

――見える範囲でいい、草原の国の気配を掴めるだけ掴んで――

――了解――

 セイ!

 風は高原の国からの吹きおろしている。えいちゃんは、W字型に広がると20秒間空中に留まって、灌木の5メートルほど先に下りてきた。

――すみません、少しズレました――

――ううん、上出来だ。で、どうだった?――

――A国の向こう、C国とD国の境目をすごい数の軍用車両が……A国の王都目がけて突き進んでいます!――

 C国D国の向こうは草原の国だ。

 事態はA国B国をどうにかするレベルを超えて、動き始めている。

 埼玉県が足立区・葛飾区をシカトして、台東区・荒川区を蹂躙しながら都心に攻め寄せてくるようなもんだ。

 

 なんの成算もないが、わたしは足の裏として、ウンコを避ける。

 避けるだけではなく、避けた先の草原の国の横っ面に回し蹴りをかけるつもりになっていた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女
  • サマル          B国皇太子 アデリヤの従兄

 

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RE・トモコパラドクス・77『聖骸布の謎・2』

2023-11-13 07:27:14 | 小説7

RE・友子パラドクス

77『聖骸布の謎・2』 

 

 

 レプリカながら聖骸布からは、とんでもない情報が読み取れた……。

 

 聖杯の存在とその在りか。そして聖杯の在りかにたどり着くまでの方法と能力に関してである。しかしレプリカの悲しさ、分かるのはそこまでであった。

 聖杯の具体的な在りかはゴルゴダの丘から半径50キロあるいは500キロのどこか。

――50、500、どっちだ?――

 50の横のボヤケたのがシミにも0にも見えてしまう。その程度だ。

 聖杯の在りかにたどり着くための方法と能力については、友子が直接目にした「空を飛ぶ力」しか分からなかった。

 聖杯の力については、皆目分かっていない。

「仕方がない。なにか動きがあるまでは待つしかないわね」

 友子と紀香は、そう結論づけた。

 ゴルゴダの丘の半径五十キロ以内では毎日事件が起こっていた。

 小はカッパライから戦争に至るまで、怪しいと思える事件は数万件もある。中には聖杯がらみのこととはっきり分かるものが何件かあった。

 実際、聖杯の強奪事件というのもあった。だが、自分の分身をテレポさせて調べても、先祖代々「聖杯と信じ」保管されていたものが盗まれ、トレースしていくと、ガラクタ、あるいは単なる骨董品に過ぎなかった。

――そっちは、どう?――

――とても手に負えない。自分の電脳で「聖杯欲しい」で、検索したら、サッカーのワールドカップが出てくるよ――

 紀香もお手上げのようだ。

 

「ちょっと、ハナ連れてお散歩に行ってくる」

 

 気分転換のつもりで日曜の街に出た。

 ハナも少し大きくなった。

 滝川からもらった赤い首輪がかわいい。生後三か月といったところで、人間で言えば五歳ぐらいになる。好奇心も旺盛で、一秒もじっとしていない。あっちの電柱、こっちの生け垣などで匂いを嗅ぎまくり。動くものにはなんにでも興味を示す。出くわす人や犬には、だれかれかまわずに興味を持って追いかける。

 可愛いとは思うのだが、考え事をしているので、いささかわずらわしい。

「ちょ、どこ行くの!」

 ちょっと気を抜いた隙に、ハナは一人で駆け出した。自分としたことが……と、思ったら、友子の手にはリードが握られたまま。リードの先と首輪が外れてしまっている。

――偶然か? こいつの能力か?――

 角を曲がると、ハナは喫茶店の前でお座りしていた。見ると『喫茶 乃木坂』とあった。

 これは、友だちのポチの匂いを……ということは、滝川がいる。入ろうとしたら張り紙が目に付いた。

――ペットの持ち込み、ご遠慮願います――

「どうしろってのよ……?」

 ホワ~ン

――え!?――

 ハナが五歳ぐらいの女の子に変身した。

「トモちゃん、入ろうよ。アイシュ食べたい」

 そう言いながら、ワンピのポケットに首輪をしまうハナ。

「ハナ、ちょっと、あんた……」

「はやくぅ(^▽^)」

 勝手に入っていく。

「おお、ハナ、ちょっと見ないうちに大きくなったな!」

 九歳ぐらいの男の子が後ろの席から声をかけてきた。その子の前には、新聞を読んでいる滝川の背中が見えた。

「ポチ……クンですか?」

「うん、人間の姿してるから」

「すみませーん、アイスとコーヒー、ブレンドで」

「趣味が合うようだね」

 ウェイトレスのオネーサンが二組のアイスとコーヒーを持ってきた。

「どうして、ペットの持ち込み禁止になったんですか?」

「マスターの気まぐれ。たまにはペットの実年齢や、個性をしっかり知っておけってことらしいよ」

 なるほど、人の姿にするとよく分かる。

「でも、なんで人になっちゃうんですか?」

「ペットショップに行った時、迷わなかっただろ?」

「あ、地図見てたから」

「じゃなくて……」

「あ、すぐにハナが目に飛び込んできて決めちゃった!」

「そういうこと」

「でも、なんで……」

「ねえ、トモちゃん(^〇^)/」

 アイスを食べてじっとしていられなくなったハナとポチは公園に行きたがった。

「遠くにいくんじゃないぞ、犬の姿に戻ってしまうからな」

「うん」

「ちゃんと、ハナちゃんの面倒みるんだぞ」

「分かってらい。ハナ、行くぞ!」

「おお!」

 二人は、元気に公園に行った。

「なにか、困っているようだな?」

「ええ……」

 義体同士なので、瞬間で情報が伝わった。

「ゴルゴダ教団で、検索してごらん」

「やりました。ゴルゴダのつくキリスト教系の宗教団体は20ほどありましたけど、どれも無関係でした」

「名前は、仲間内でしか使ってないんだな」

「でも、バチカン大使には名乗っていってます」

「多少の敬意ははらっているのか、ブラフなのか……じゃ、これで検索してみよう」

「教祖の本人または身内が不治の病……」

 

 ポチとハナが泥だらけになって戻ってきたとき、ターゲットが絞り込めた……。
 

 ☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士
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