大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・191『ロールケーキのチョコクリーム』

2023-11-22 15:42:51 | 小説4

・191

『ロールケーキのチョコクリーム』胡蝶 

 

 

ツナカン:「もー、飯食ってる最中に呼び出さないで欲しいっす!」

 

 むくれながらオカモチをぶら下げてきたのは副長のツナカンだった。

アルルカン:「おお、ツナカン、オカモチとはしぶいぞ。てっきりウーバーイーツ風に背負ってくると思ってたぞ」

ツナカン:「なに言ってんすか、カサギを引き上げる時に『いいものメッケ(^▽^)!』って喜んで、以降は艦内の配達に使おうって言いだしたのは船長っすよ。はい、ケーキセット五つ」

ココロ:「あら、一つ多いですよ?」

ツナカン:「自分のっす、むろん船長のツケっす」

アルルカン:「抜け目のない奴だ」

ツナカン:「仕事熱心だからっす、周温来殿と内親王殿下をお引き受けするわけっすから、こういう機会に仲良くって思うわけっすよ」

アルルカン:「なんかサボリの言い訳くさいぞ、飯食ったらブリッジの二直だろーが」

ツナカン:「二直は臨時でシャケカンっすよ、もうじき冥王星っす」

アルルカン:「そーか、じゃ、いっしょに寛げ」

ツナカン:「言われなくっても」

ココロ:「フフフ、相変わらずですね、お二人は」

 文句は言いながらも慣れた手つきでケーキセットを配膳するツナカン。セットのケーキは大き目のロールケーキ、ドリンクはカフェオレ、シュガースティックが人数分。

ツナカン:「ゴチャゴチャ持ってくるのはめんどうなんで、全員船長と同じっす。烹炊に言えば以降は好みのを出してくれるっす」

アルルカン:「ええ、これがいちばん美味しいんだぞ」

 甘すぎるのではと思ったが、カフェオレのシュガーをひかえるとなかなかのものだ。ロールケーキも挟んであるチョコクリームの微妙な歯応えと甘さがが絶品で、上様の好みに近いと思った。

主席:「助けられて言うのもなんだが、船長、これからどこに行くんだろうか?」

アルルカン:「それを伝えに行くところだったんだ。内親王……もとい、ココちゃんと周温来という二人のVIPを引き受けたんだ。地球からも火星からも干渉を受けない安全なところに向かうつもりだ」

主席・ココロ:「安全なところ?」

アルルカン:「プロキシマB(ベータ)」

 ちょっと驚いた。

 殿下のガードという立場上控えようと思っていたがプロキシマBと言われては訊ねざるを得ない。

胡蝶:「それは、プロキシマ・ケンタウリの惑星ですか?」

アルルカン:「いかにも、地球から4光年、太陽系からもっとも近い地球型惑星だ」

サンパチ:「少し遠すぎではござらぬか、ヒンメルでも5年以上かかるのではござらぬか?」

アルルカン:「亜光速ならばな」

 みんなの手が停まった。

アルルカン:「このロールケーキの中身、チョコクリームだと思っているだろ?」

ココロ:「え?」

サンパチ:「チョコクリームではないのでござるか?」

アルルカン:「羊羹なのだよ、これが! クリームでは味わえない上品な甘さと香りと歯ざわり。むろん、烹炊科のレプリケータが作るんだがな、クリームを変更してプログラムすると、この風味と味わいが出る」

ツナカン:「船長の趣味なんで、まあ、つきあってやってくださいっス(^_^;)。よかったっすね、こないだの納豆チョコは不評だったっすからぁ」

アルルカン:「アハハ、まあ、それと同じような要領でヒンメルの動力系は数世紀の先をいっているのだ!」

ココロ:「ひょっとして、パルスギを使っているんですか!?」

 パルスギは西之島で発見された最新のパルスエネルギー、確かにパルスギなら光速も可能だと言われているが、まだ実用には至っていないと聞いている。

アルルカン:「ワハハハ、最新のエネルギー技術はパルスギばかりとは限らんのだよ、胡蝶君」

 ムムム……やはり、アルルカンというのは底知れぬところのあるやつだ(-_-;)。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

 

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RE・トモコパラドクス・86『追い詰める』

2023-11-22 09:10:43 | 小説7

RE・友子パラドクス

86『追い詰める』 

 

 

 念のためにバリアを張って広場に向かう。ポチとハナには「離れるんじゃないよ」と念を押し、二人で一つのバリアに包まれている。

 奥の岩の広場では、大勢のT町の住人が亡くなっていた。遺体のそばにはいろんな杯が転がっている。

 そうだ……ここは聖杯の広間なんだ。

――聖遺物……によって神はその御業を示され……光が満ちるであろう――

 聖骸布の切れはしからは聖遺物の言葉が読み取れたが、それが何を指すのかまでは読み取れなかった。だいたい、聖骸布そのものも聖遺物――光が満ちる――も比喩に過ぎて何を指すのかは分からなかった。

 千に余る聖杯が並んでいたのだろう。その中に本物はただ一つ。他の聖杯はフェイクで、それに満たされた水を飲んだものは……ことごとく血反吐を吐いて死んでいたのだ。

「お、お前達は天使か……二千年にわたり、世の人々を苦しみの底に追いやった、禍々しき神の僕(しもべ)どもか!」

――天使?――

――バリアでそう見えるんだろう――

――混乱しているのね――

――このままでいこう――

 聖ガブリエル  聖ヨハネ  聖ラファエル

 司教は、その知識と恐怖心から勝手に思い込んでいる。よく見ればラファエルは上半身と下半身にズレがあるのだが(ポチの背中にハナが乗っている)思い込んだ司教には分からないようだ。

 司教の傍らには、まだ十数人の人間が残っていた。

 一人は、あのモーテルのオヤジ。他は町の最後の生き残りの人たち。マインドコントロールされているのだろう、みんな目には生気が無かった。そしてその手には、それぞれ聖杯が……。

 そして、二人と司教の間には車椅子に乗った少女と、その母親がいた。この三人は聖杯を手にしてはいなかった。

「みなさん、その聖杯は、捨てなさい。いずれもニセモノです」

 ミカエルが言うと、町の人たちは動きを止めた。しかし目の光は、まだ戻ってこない。

「司教、その子が、あなたの娘ですね。そして横の女性が、あなたの妻だ」

「違う! この子は神の子だ。この女は、その神の子の母。新しきマリアだ。この神の子は病んでいる。放っておくと、あと一月と肉体はもたない。この子は、この現世で肉体を成長させ、永遠の若さと命を授かり、本当の神の御教えを、人々に伝えなければならない。その為には真の聖杯に満たされた聖水を飲まねばならない」

「そのために、町の人たちに試させたのですね……」

「聖骸布の全てが手に入っていれば、こんな手間はいらなかった。手に入らなかった聖骸布を取り戻すのには時間がない。そこで、こんなに大勢の信者が犠牲にならなければならなかった」

「司教、あなたは聖職の身でありながら子をもうけた。それを罪と感じ、その子を神の子と思いこんでしまった」

「違う。この御子こそが神の子なのだ。わたしは神の子が生まれる手助けをしたに過ぎない。この神の子を護持する僕(しもべ)にすぎない」

「ならば、残った人々と共に盃をあおるがいい、神の恩寵があれば、その願い聞き遂げられ、御子一人だけが無事であろう。さあ、司教、迷うことはない、どうぞ飲みなさい」

「グヌヌ……」

「ならば、このヨハネが音頭をとってやろう」

 ヨハネの友子も調子に乗ってきた。

「ガブリエルもラファエルもいっしょに……」

「「「ワン……ツー……スリー……」」」

 

「ええい! 聖水は後だ、みな、あの天使どもを贄にせよ!」

 

 司教が目を血走らせて叫ぶ!

 住人たちは盃を台に戻し、光に包まれたかと思うと一斉にクリーチャーに変身し、死んだ住人たちは血反吐を垂らしたままアンデッドとして蘇った!

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士

 

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RE・かの世界この世界:216『イザナミは神々と交渉に、我々は任務分担した』

2023-11-21 10:48:27 | 時かける少女

RE・

216『イザナミは神々と交渉に、我々は任務分担した』テル 

 

 

 頼んでみます!

 

 涙でグチャグチャになった顔を上げてイザナミさんが言い放った。

イザナミ:「幽世と現世は裏と表です。裏あってこその表、表あってこその裏です。黄泉の国の神々に頼んでみます。黄泉の国が黒々と影をなしておられるのは一筋一点の日の光も漏らさぬほどに堅牢な現世があってこそ。そのためには、いま一度戻って夫とともに励まなければなりませんと。少し時間がかかるかもしれませんが、イザナギさん、それまで、ここにいるみなさんと一緒に、どうぞお待ちください!」

イザナギ:「イザナミ!」

 ハッシと抱き合う二人。

 ジュッ!

 焼けたアイロンに水を垂らしたような湯気が立って、いっしゅんのけ反ってしまう。

イザナギ:「もう、こんなに体温にも開きが出てしまったんだね。火傷しなかったかい?」

イザナミ:「はい、だ、だいじょうぶです」

 垣間見えたイザナミさんの手は、すこし赤くなっていた。

イザナギ:「苦労を掛けるね」

イザナミ:「一つお願いがございます」

イザナギ:「なんだい?」

イザナミ:「わたしが中に戻っている間、けして中に足を踏み入れて覗いたりなさいませんように。互いに触れ合えばジュッと湯気が立つほどに隔たってしまったのです。黄泉の国の神々の相談にも、いささかの時間がかかると存じます」

イザナギ:「大丈夫だよ、オノコロジマから、みんな頑張ってきたんだ。わたしも仲間も待つことには慣れている」

イザナミ:「それは言わずものことを申し上げました。それでは、我が君、供の方々、行ってまいります!」

 

 健気に笑顔を見せてイザナミさんは黄泉の闇に消えていった。

 

イザナギ:「みなさん、付き合わせてしまって申し訳ありません」

テル:「頭を上げてください、みんな自分の意思で、ここまでやってきたんです」

ケイト:「うん、最後までつきあいますよ、なあ、桃太郎二号」

桃太郎二号:「おうよ!」

ヒルデ:「長丁場になるだろう、食料と水の確保、それに野営の準備だな」

与一:「では、自分は水場を探しながら狩りに出ます。ケイトも着いてきてくれるかい?」

ケイト:「うん、あたしもアーチャーだからね!」

ヒルデ:「では、わたしはタングニョ-ストと野営の準備にかかろう」

雪舟ねずみ:「車の中にブル-シートとポリタンクがあります、取ってきます」

ヨネコ:「緊急事態なんだから、ここまで車持って来ちゃダメなの? ポケットの中に圧縮してるんでしょ」

雪舟ねずみ:「黄泉の国とは言え、神域です。憚らなくてはなりません、取り出すのは結界の外です」

ヨネコ:「じゃ、わたしもついていく」

雪舟ねずみ:「それは助かる。戻ったら野営のお手伝いします」

テル:「わたしは、薪を拾ってくる。桃太郎二号付いて来てくれ」

桃太郎二号:「おう!」

 

 テキパキと任務分担がなされ、みんなそれぞれの任務につき、わたしは桃太郎二号と共に山の中に分け入った。

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

  

 

 

 

 

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RE・トモコパラドクス・85『再びカッパドキアに』

2023-11-21 07:08:38 | 小説7

RE・友子パラドクス

85『再びカッパドキアに』 

 

 

 

 ポチとハナは昨日テレポした最初の渓谷に居た。

 

 それも、マイクとミリーの姿では無く、日本にいる時の姿。それも、少し歳をとっている様子だ。

 ポチは中学生ぐらい、ハナは小学6年生ぐらいの姿で、抱き合って寝ている。

「寝たままここに来たんだな」

「でも、なんで姿が……」

「ここを捜索しているうちに活性化してしまったんだ」

「目を覚ましたらビックリするでしょうね」

「ああ、服のサイズも合わないだろうし……犬に戻してやろう」

「どうやって?」

「ハナの頭に手をやってイメージしてやるんだ」

「うん」

 滝川の真似をしてやってみると、数十秒で二人は犬の姿に戻った。

 犬としても成長が進んでいて、四カ月だったハナは二回りも大きくなってポチとそう変わらない大きさになっていた。

『おまえ、急に大きくなったなぁ』

『え、ポチが縮んだんじゃないのぉ?』

『うっせえ!』

 あまり気にしていない様子なので、簡単に食事して出発することにした。

 

 司教たちの居所は、すぐに分かった。最初に居た崖庇の数キロ北で血の臭いがしたのだ。

 発見したのはポチとハナ、やはり犬の嗅覚は鋭い。

 

 臭いは渓谷の崖の洞窟のあたりからしてきた。

 この洞窟にたどり着くことも出来ずに渓谷に落ちたT町の住人が二百人ほど谷底に落ちて死んでいた。

 構っている暇はない、二人は手を合わせ、二匹はお座りして首を下げるだけで先に進んだ。

 洞窟の中に入ると、様々なトラップがあった。

 洞窟までたどり着いた住人たちも居るには居たが、あるものは落とし穴に落ちて亡くなり、ある者は壁から突き出した無数の槍で串刺しにされ、体中に開いた穴から血を流し朱に染まって命の灯を消していた。そして、その先には、地獄の番卒でも目を背けたくなるようなトラップと、その犠牲者たち。

「この人たちが居なきゃ、トラップの解除に時間がかかるところだったな」

 歴戦の戦士にしては感傷的な無駄口だが、あえて口にすることで友子の神経を労わっている。

 人が無残に殺されるのは渋谷の大惨事で経験済みだが、戦闘以外で見るのは初めての友子だ。

 トラップが機能しなくなるまで死体の山が築かれ、さらに、その奥、犠牲者の死臭に隠れて人の気配がした。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士

 

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RE・トモコパラドクス・84『ドッコイショ』

2023-11-20 09:22:33 | 小説7

RE・友子パラドクス

84『ドッコイショ』 

 

 

 もう一度T町にテレポする。

 テレポの瞬間、小さく「ドッコイショ」と掛け声が出てしまう。
 

 そして……発見した。

 

 二人のミイラ化した遺体だった。肉屋の冷凍庫に入れられていたので、空気中の臭い粒子はごく微量で、しかも拡散していたので、発見に時間がかかった。

「ひどい……まだ十代の女の子よ」

「勘が鋭いというだけで殺されたんだな、居場所を感知させないためだけに。奴も焦っているんだろう。ここに隠すまでに迷っている。だから臭いの粒子が飛び散ったんだ」

「また、カッパドキア……」

「少し休もう、力を使いすぎてる」

「でも、ほとんど追い詰めてる気がする。時間を置くと、司教も対策を立ててくる」

「奴も、それほどの力は残っていないと思う。聖骸布が完全ならともかく、トモちゃんに尻尾を掴まれているんだからな」

 友子は聖骸布の端を千切り取ったことを思い出す。まさに尻尾を掴んでいるのだ、敵も万全ではない。

「それに、ここにテレポする時『ドッコイショ』って言ってただろ」

「あ……(聞かれていた)」

「態勢を万全にするのも戦闘の内だ」

 このままテレポしても、向こうじゃ半分の力も出せない。

 水道局では「くそ、どこもかしこも一歩先をいかれてる!」とイラだっていた滝川だが、歴戦の勇士は修正も早い。

 

「車は使わないの?」

 

 住人の居なくなった町のいたるところに車が残っている、拝借しても文句は言われない。

「少しでもクールダウン……トモちゃんの内部温度75度もあるぜ」

「え?」

 確かに自分で確認すると75度、滝川のそれを計ってみると85度もあった。

「こういう回復の遅さが退役の一番の理由さ……」

 

 モーテルに戻ると、布団を被った子どもたちのベッドの上では、カッパドキアを明示したまま地球儀が回っている。

 二人は、それを視野の端に認めるだけでくずおれるように眠ってしまった。

 

「起きて! 二人が居ない!」

 床で眠ってしまっていた滝川は、友子の声に跳び起きた。

 ベッドの上では、相変わらず地球儀が回っていたが、布団の膨らみを残したままポチもハナも居なくなっていた。

「しまった、俺たちを追ってテレポしていたんだ!」

「服が残ったまま!?」

「未熟なテレポだから、体だけで行ってしまったんだ」

 

 子供二人の衣類と、バッグに入るだけの食料を詰めると、再びカッパドキアにテレポする二人であった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士

 

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くノ一その一今のうち・85『桔梗のプランB』

2023-11-19 18:42:18 | 小説3

くノ一その一今のうち

85『桔梗のプランB』桔梗 

 

 

 中忍は戦略的な判断はしない。

 

 戦略とは、攻めるか攻めないかという大局的な判断。これは上忍の仕事、いや責任。

 中忍は、その決定に従って具体的な戦術を決める。

 日本最大の忍者組織である徳川物産においては、この中忍の仕事は服部半三と、総務二課秘書のわたし(桔梗)と樟葉が当たっている。

 いつ、どのように、どんな規模で攻めるかを決めて下忍に命じ、時に、その先に立って戦いの指揮を執る。これが戦術。

 下忍は集団として、時には個人として登録されていて、任務に応じて指名され戦闘や諜報の任にあたる。本社直属の下忍集団も今年から発足した。

 百地芸能事務所。

 この春まで、百地は独立した忍者集団だったが、社長同士の話し合いで、神田の事務所を引き払って、丸の内の本社ビルに移転してきた。

 その下忍たちの中で、密かに社長が好んでいるのが風魔その。

 身分は下忍集団である百地事務所のアルバイト。すでに世襲名の『そのいち』を戴いているが、良くも悪くも女子高生気質が抜け切れておらず、俗名の『その』や『ソノッチ』あるいは『ノッチ』で呼んでも機嫌よく返事する。

 忍者の棟梁は世襲名にこだわる。うちの服部半三、百地三太夫、敵の猿飛佐助など。

 あ、うちの服部半三は別に三村紘一を名乗っているが、あくまでも任務上の偽名の一つ。

 天然なのか、企みあってのことなのか、社長も半三もそのの呼び名にはこだわりがないようなので、わたしも時と場合と気分次第でファジーに接している。

 そのは下忍だから、判断していいのは戦闘術の範疇にあることだけだ。

 盗めと命ぜられたら、殺せと命ぜられたら、どうやって盗むか殺すかの判断だけだ。

 

 半三とわたしで決めたのは、A国B国の行動を遅らせることだ。

 

 草原の国がA・B両国を抱き込んで、あるいは恐喝して高原の国を滅ぼそうとしている。

 高原の国が落とされれば、草原の国の力は中央アジア全域に広がり、ロシアや中国に並ぶ勢力になる。

 草原の国の背後には木下豊臣家がいる。

 木下豊臣は、その力の根源を海外に求め、その勢力を持って鈴木豊臣家を滅ぼし、さらには日本を支配しようと目論んでいる。

 

 当面の障害、それは高原の国のアデリヤ王女。

 

 まだ17歳だが、国を想う心は国王のそれを超えている。

 頭脳も明晰で、いささか未熟で跳ねっかえりではあるが、その行動力と統率力には目を見張るものがある。

 敵ならば、殺すか排除すれば済む。

 しかし、将来においては高原の国の優れた指導者になる逸材だ。

 彼女の祖母は日本人で、その血の1/4は日本の血だ。

 アデリヤ王女の保護と教育、うがった見方をすれば、それが本作戦のキモと言っても差し支えない。

 おっと、これは、中忍の分際を超える。

 

 トントン

 

 合図のノックを天井裏で聞いて、わたしは筋向いの部屋から廊下に出る。

「もう、ビックリするなあ!」

「部屋に入って」

「うん」

 ミッヒを部屋に入れて、わたしは隣の部屋に入る。そして、二人とも床下に潜り込んで、出会うのは二つ隣の、そのまた裏の空き倉庫。

 旧ソ連時代の地下道の図面が役に立った。

 

「ドローンを二つ飛ばして注意をひいておいた。五分もすれば墜とされるだろうけど、これでみんなの注意は空に向く」

「その間に、ミサイルを破壊するのね」

「ああ、草原の国の細胞が予想以上に入っている。時を稼ぐのにはこれしかない。これは中忍の判断でいいんだよな」

「ええ、予定通りでは無いけど、プランB、わたしの権限の内よ。草原の国の浸透は予想より進んでいる、荒事で阻止するしか手は無い」

「10分で爆発する、そろそろ行こう」

「仕掛けは?」

「日差しが傾いてブツに影が伸びたら爆発する」

「そう、じゃあ、ここからは別々にね」

「了解」

 言い終った時には、もうミッヒの姿は無かった。

 ここからは別々に脱出する。

 では、なぜ、わざわざ待ち合わせたか。

 直に顔を見て、事の成否を見極めるため。

 わたしの特技は、人の目とオーラを見て、人物と事の成否を見極めること。

 ミッヒは、急な変更にもかかわらず、きちんと任務を果たしたようだ。

 

 ドオオオオオオン!

 

 変装してゲートを抜けたところで大爆発。

 ゲートの兵士たちは、警備どころではなくなり、銃を構えてゲートを閉鎖。

 振り返ると――早く行ってしまえ――とジェスチャーしている。

 

 やれやれ、次善の策でなんとか任務終了。

 

 彼方を一台のジープが疾走していく。

 三人乗っている、二人は女性兵士…………まさか?

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女
  • サマル          B国皇太子 アデリヤの従兄

 

 

 

 

 

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RE・トモコパラドクス・83『絶崖の聖杯・1』

2023-11-19 09:01:37 | 小説7

RE・友子パラドクス

83『絶崖の聖杯・1』 

 

 

 かすかに気配が残っている、T町三千人のテレポの形跡が……。

 

 人間の中には、超能力と言うほどではないが、例えば、道を歩いていて――向こうから誰かがやって来る――程度の勘の働く者が1/1000ほどの確率で存在する。その二三人の思念が、テレポさせられた先を暗示していた。

 T町からははるか東方、地球の裏側、トルコのカッパドキアの一点を意識の最後に残していたのだ。

 他の人間は、どこに行くのかも分からずに、なにが起こったのかも分からないままテレポさせられていた。

 むろん、それもゲームのバックログを読むようなわけにはいかない。滝川と友子の電脳、それにポチとハナ二人の能力をシンクロさせて、ようやくのことだった。

「ちょっと、きつかったみたいだな……」

 ポチとハナは、手をつないだままベッドの上で寝てしまっている。

「地球儀回ったまま」

 二人の上には、意識を集中させるために使った地球儀が、カッパドキアを示して回ったままになっている。

「あれをどけると、疲れが取れないまま目を覚ましてしまう。いずれ、自然に停まる」

「そうね、カッパドキアには二人で行きましょ」

 

 滝川と友子は、カッパドキアのそこにテレポした。

 

 カッパドキア……古代のカルスト大地に作られた、古代交易の中継点として栄えた都市の跡である。

 背の低い灌木の群れがチラホラあるだけで、住居に適した木材が無く、古代のカッパドキアの人々は、石と日干し煉瓦で家や城壁を作っていたが、ペルシアの進出と共に寂れ、岩山に穴を穿ち、それをもって住居としていた。

 それは、古代的というよりは、宇宙の別の星にある遺跡を思わせるものがあった。実際にスペースファンタジーのロケに使われることも多く、そういうところは観光地化され、様々な国の観光客で賑わっていた。

 二人がテレポしたのは、そんなカッパドキアの辺境で、日ごろは人の立ち入ることも希な渓谷地帯であった。

「地質的に不安定なところね」

「カルストだからな。石灰岩が多くて浸食がすすんでいる……あ、危ない!」

 友子も同時にジャンプして、隣の岩山に着地した。滝川だけが上空を漂い、崩れたばかりの岩庇を見つめている。

「なにしてんの、こっちにきたら?」

「おかしいと思わないか。いくらカルストとは言え、あんなに大きな岩庇が、いきなり崩れたんだ……」

「……かすかに感じる。あの岩庇の上に大勢の人間が乗っていたんだ」

「その重みで……トラップ?」

「そこまでは、分からないわ。気配を徹底的に消している」

「三千人分もの気配を?」

「多分、聖骸布の力ね」

「こう痕跡もなにもなくっちゃ、分からないなあ……」
 
 ……二人は途方にくれた。

 感覚を研ぎ澄まし、あたりの気配を伺ったが、ウサギなどの小動物や昆虫の気配まで拾ってしまい際限がなかった。

「……微かだけど、カツブシみたいな微粒子を検知したわ」

「こんなところに乾物屋があるはずもない……」

 二人はカツブシの正体をさぐりに、岩山をいくつか飛び越えた。

「なんだ……」

 それは、カラカラに乾き、ミイラになったヤギの死体だった。

「今日は、ここで野宿だな」

「待って……T町では、ここへの残留思念が残っていたわ。それは感覚の鋭い人が何人かいたからよ。それが感じられないということは……追跡できないように始末した?」

「殺せば、死臭がする。おれ達の嗅覚はハゲタカの百倍はある」

「あ……」

「水道局長の殺され方……」

「ミイラ化すれば、死臭はしないわ!」

「でも、水道局長とヤギのミイラじゃ、微妙に成分が違う」

「そうね、服や持ち物も同時に乾燥させるから、その成分が違うのよ!」

 二人は、水道局長のデータを基に、あたりを検索した。

「あった、三時の方角!」

 行ってみると、ワンピースを着せられたヤギとキツネのミイラだった。

「敵も読んでいるなあ」

「こうなりゃ、中型動物のミイラ、全部当たるしかないわね」

 五体目でビンゴだったが、ミイラがない。

「ミイラをテレポさせたんだ!」

「だとしたら、手の打ちようがないわね」

「もし、おれ達が、これをやるとしたら、どうする?」

「原子分解する。それだと絶対に分からないから」

「聖骸布は、トモちゃんが一部を引き裂いたんで、完全な力がないんだ。だとしたら……」

「テレポさせやすいのは……」

「元の場所よ!」

 

 二人は、もう一度T町にテレポし、それを……発見した。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士

 

 

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鳴かぬなら 信長転生記 152『敦煌の災厄を切り抜けられたわけ』

2023-11-18 15:52:34 | ノベル2

ら 信長転生記

152『敦煌の災厄を切り抜けられたわけ信長 

 

 

猪八戒:「やっぱ、そっちが似合ってるブヒ」

孫悟空:「おまえも、ずいぶん板についてきたぞウキ」

沙悟浄:「敦煌で休んだのは正解だッパ」

 

 俺たちは敦煌を後にして東に進んでいる。NPCの三蔵法師もアップデートが進んで、馬に乗りながらお経唱えるようになって、ますますそれらしくなってきた。

 

沙悟浄:「しかし、あの仏の化物どもをどうやってやっつけたんだッパ? 宿に戻って来るなり『ただちに出発だ!』と言われて、慌ただしく出発したきりだ。そろそろ話してくれてもいいッパ」

孫悟空:「そうだな、そろそろ話してもいいだろ、ウキ……」

 実は、あの場を切り抜けたのは俺が活躍したからではない。

 

 あれは、一言主の働きによるものなのだ。

 

一言主:『諸君!』

 指輪サイズとは思えない声に腰を浮かせた諸仏どもはたじろいだ。

釈迦:「ウ、なんだおまえは?」

一言主:「吾は悪事も一言、善事も一言、言い離つ神。葛城の一言主の大神なり」

釈迦:「ヒトコトヌシ?」

一言主:「そうだ、日出ずる大和の国の神である。故合って、三蔵法師一行の守護を務めておる」

帝釈天:「島国の神の癖に、態度大きいな」

 帝釈天の挑発には乗らずに、一言主は淡々と続けた。

一言主:「我は、良きことも悪しきことも、一言の願いならば、どのようなものでも聞き届けてやる」

帝釈天:「ほう、願いを聞き届けると申すか」

一言主:「いかにも。先ほどより聞いて居れば、釈迦牟尼仏を始め諸仏には様々な期待や願い事がある様子」

釈迦:「様々ではないよ、ここでいっしょに居てもらって、敦煌の仏教を盛んにしてもらいたいんだ」

一言主:「盛んとは抽象的に過ぎる。釈迦のように巨大な仏像に成れということか?」

釈迦:「いや、大きいのは、もう三つもあるし」

一言主:「ならば、第57窟の美人菩薩のように見目麗しい仏画か?」

帝釈天:「いや、あれ以上の美人が来ては57窟から不満が出る」

毘沙門天:「ここを守護する軍団こそ必要だろう」

仁王:「なに? 聞き捨てならんぞ毘沙門、我ら仁王軍団では不足と言うのか!?」

毘沙門天:「いや、聞くと、この三蔵の本性は織田信長であるとか。それならば、仁王諸君と並んで、優秀な護衛隊になるだろうし」

毘首羯磨:「それよりも、莫高窟は700も石窟があるんで、ぜひ、工作機械の充実を……」

薬師如来:「それなら、ぜひ病院を。老齢の仏も多いですし、参詣客の中には体調を崩すものも居て、敦煌の町医者だけでは手が回りませんから……」

羅漢:「それよりも、将来を見据えてお賽銭の運用を……」

 いやはや、仏と言ってもいろいろあるもんだ(^_^;)

一言主:「やよ、仏たちよ。願いは一つである。早く話し合うなり勝負するなりして、一つにまとめよ」

釈迦:「いや、だから……」

帝釈天:「涅槃仏、あんたも起きて……」

涅槃仏:「いや、わしは……ムニャムニャ……」

釈迦:「いや、だからぁ……」

 

――いまのうちじゃ!――

 

孫悟空:「ということで、諸仏が揉めているうちにトンズラしたというわけだウキ」

沙悟浄:「なるほど、そう言う訳だったのかッパ」

猪八戒:「しかし、いろいろ冒険したのは評判になってるみたいブヒ(^_^;)、新聞とかにも出てるブヒ」

沙悟浄:「ああ、この分なら、無事に三国志へ……そして、そのまま洛陽へ! なんとしても兄曹操を思いとどまらせ、戦の無い世の中にしなければ!」

孫悟空:「沙悟浄、素に戻りかけてるウキ!」

沙悟浄:「ああ、すまないッパ(-_-;)」

 三人が熱くなった分、馬上の三蔵は悠々と経を唱えている。NPCとは言え、さまになっている。

 まあ、我々三人がしっかりしていればなんとかなるだろう。

 

 ん…………?

 

 前方から砂煙……続いて、地を揺るがすほどの馬蹄の響き。

 

 なにか来るぞ!

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主

 

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RE・トモコパラドクス・82『S市Bブロックから』

2023-11-18 09:35:45 | 小説7

RE・友子パラドクス

82『S市Bブロックから』 

 

 

 Bブロックとは、名前の通りB級の住宅街だった。

 50坪ほどの敷地に、30坪ほどの似たような住宅が並び、半分近くが長引く不況で売りに出されていた。遠目には閑静な住宅街だったが、中に入ってみれば、荒廃しかけたアメリカそのものだった。

「「あの家!」」

 ミリー(ハナ)とマイク(ポチ)が指差す通りにケント(滝川)は勢いよくハンドルを回した。

 その家には生活感があった。庭の芝生は伸び放題だが通りから玄関までは踏みしだかれて日常的に人の出入りがあることが知れる。アプローチや玄関前には枯れ葉やゴミが散見され、ここの住人が、あまり、ここでの生活に熱意がないことが伺われた。

「中に人は居ないな」

「でも、ついさっきまで居た気配がするわ」

「「ワケあり……」」

 かけられた鍵を難なく開けて、四人は家の中に入った。

 一階のリビングは、義体の力でなくとも分かる。

 テーブルの上には飲みかけのコーヒーがあるし、半ば開かれた新聞は今日の日付だ。

「三人居たな……ほんの5分ほど前までだ。二階に一人。いったん、ここで話して、この玄関から出て行っている」

「でも、残留思念は希薄……」

「探ってみる!」「ミリーも!」

 クンクン

 マイクとミリー鼻をひくつかせた。

「待って……!」

 ジェシカは両手で二人の鼻を押えた。

「「フガ!?」」

「そうだ、なにか怪しい。これだけの痕跡を残しながら、読まなければ分からない残留思念……おれたちなら、読まなくても見えて当然だ……」

「……トラップかも」

 ジェシカは、ソファーを一撫ですると玄関を指差した。

 
 
 四人は、家を出てブロックの端まで戻った。

 

「じゃ、読んでみるわ」

 ドッカーーーーーン!!!!

 とたんに、その家は前後左右の空き家を巻き込んで吹っ飛んでしまった。

「バリアーを張れ!」

 直後、大量の中性子の洪水が襲ってきた。

「……今の、まともに受けていたらやられていたわね」

「今のは、何をダミーにして読んだ?」

「ソファー……下手に義体のコピーなんか置いてきたら、リンクしているオリジナルまで影響を受けるところだった」

「どの程度の影響?」

「電脳が破壊されていただろうな」

 読み取れたわずかな情報を開いてみた。

 あの家に住んでいたのは、中年の女と少女……親子のようだ。

 父親は……なんと、あの司教!

 しかし、司教は自分の娘だとは思っていない……なんと神の子であると思っている。四人の電脳は司教が強烈なパラノイアであるという結論を出していた。

 その司教が聖骸布を持っている。

 出てくる結論は……何が起こるか分からないということだった。

「水道局。テレポで行くぞ!」

 司教は、もう、このS市には居ない。義体であることを隠す必要もない……というか、とうに四人の正体は分かってしまっている。擬態している必要はない。

 

 まず局長室に行ってみた。

 

 局長は瞬間にフリーズドライされたように死んでいた。

 ポロポロ……

 ジャックが腕を持ち上げると朽ち木のように崩れてしまった。

「ひどい、実の弟を……」

「……司教の力は計りしれんなぁ」

「T町への水道管を!」

「そうだ、水の成分を見極めなきゃ!」

 浄水装置のある建物に行き、送水管を調べた。何も出てこなかった。

「おかしい、確かに、あのモーテルの水はおかしかったのに」

「送水管を調べろ」

「もう調べた。平均的なアメリカの水道水よ。洗濯には使えても飲み水には適さない」

 ポチもハナもイヌ耳イヌ鼻を出して調べている。

「こっちも!」「こっちも!」

 報告すると、ピョンと尻尾まで現れた。

「T町のは純粋な水。東京の水道よりきれい……ん……だんだん水質が悪くなる……他のといっしょになった」

「証拠を隠滅した直後だったのね」

「T町に戻るぞ!」

「「ワン!」」

 T町は、たった今まで人が居た気配。モーテルのオヤジの部屋で、電子レンジが任務終了の「チン」を鳴らしてビーフの良い香りがした。ジョッキの中のビールは、まだ盛んに泡を立てている。

「くそ、どこもかしこも一歩先をいかれてる!」

 滝川が、珍しくいら立ちを顕わにした……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士


 

 

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やくもあやかし物語2・016『森へ!』

2023-11-17 14:06:18 | カントリーロード

くもやかし物語 2

016『森へ!』 

 

 

 お…………大きい。

 

 道が曲がって森が見えてくると、すこしビビってしまう。

 

 いつもより森が大きく見える。

 

 分かってる。これまでは外から見るだけだったけど、これから中に入るんだ。

 それも、デラシネをやっつけるため……少なくともワルサをさせないくらいに話をつけなくちゃいけない。

 露天風呂で出くわしたデラシネは生徒と間違えるくらいに普通の女の子なんだけど、キレると猿だ。

 白目が無くなって黒目だけになって、尻尾が出てきて、牙も爪も伸びてくる。

 シャーーって牙向いて跳びかかられた時は怖くて目をつぶってしまった。

 あの瞬間、鬼の手が現れて振り払ったから無事だったけど、次もうまくいくとは限らない。

 少しばかりは有った自信がしぼんでいく…………大きな森がさらに大きくなって、とてつもなく巨大な怪物のよう。ポッカリ開けた入り口は――これから吸い込んでやるぞぉ!――とすぼめた怪物の口みたいだ。

「……ハイジ、まだ来てない」

「いや、来てる」

 サササササ……

 ひとこと言うと、風の妖精みたいに突き進んで、草むらを蹴り上げるネル。

 ポン!

 軽い音がしたかと思うと、スナイパーみたいに全身草の迷彩をまとったハイジが飛び上がった。

 

「イッテー! なにすんだ(>д<)!」

 

「そんなことをしても、妖精たちには丸見えだぞ」

「で、でも、ここまで来るのに、なにもなかったぞ」

「面白いから、みんな見てただけだ」

 サワ

 ザワザワザワザワザワ……

 ネルが拭うように手を振ると森のあちこちに目玉が現れては消えていった。

「ヒエエエエ(;'∀')」

「もう飽きたってさ。あいつらは飽きっぽいからな。それより、うしろ……」

「「え?」」

 ネルに言われて振り返ると、来た道の曲がったところにクラスのみんなが心配そうな目で見送ってくれている。

 ちょっと離れたところには王女さまとソフィー先生。

「おお~、みんな見送りにきてくれてたのかぁ(^▽^)/」

 ハイジが飛び上がって喜ぶ。

「単純に喜ぶな。真剣に心配してくれるくらいに大変なんだよ、この任務は」

「そ、そうなのか(;'∀')」

「ああ、だから、あんな後ろに居るんだ……」

 もう一度ネルが手を振ると、みんなの周囲に薄い靄のようなものがかかっているのが見えた。

「念のため結界が張られている」

「ええ、結界張るほどなのか!?」

「念のためなんだろうけどね。立場が違ったら、わたしもやってるかもしれない」

「さ、いこっか」

「ヤクモ、おまえ、なんか落ち着いてんじゃん」

「あはは……もう、なんでもかかって来なさいよ!」

 

 見え透いているけど強がりを言ってしまう。

 あはは……のあとは「✖〇△◇#!””✖▢!」と、わけの分からない叫び声になりそうだったんだけどね。

 わたしの取り柄は、妖や精霊とかに敏感なことだ。

 それが、森の入り口まで来て、ネルに言われるまで気づかなかった、精霊にも見送りに来てくれていた仲間たちにも。

 やっぱりガチガチに緊張してるんだ。

 スーーーハーーー

 期せずして、三人揃って深呼吸。

 ゆっくりと森の中に踏み込んでいった。

 

 バシャ!

 

 背後でなにかが閉じるような音がしたけど、もう振り返ることはしなかった。

 

☆彡主な登場人物 

  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所

 

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RE・トモコパラドクス・81『S市司教の秘密・2』

2023-11-17 08:51:11 | 小説7

RE・友子パラドクス

81『S市司教の秘密・2』 

 


 司教は涙を流していた……わがことのように。

 本来なら州都の大教会と司教館に収まっているはずの司教なのだが、州内各地の教会・教区を応援するために、一年の半分以上を費やしている。今年は、すでに三か月以上もS市に留まってS市と、その周辺を精力的に周っている。

 レストランから司祭館に移動しても、教会や司祭館の中には入らず、玄関前の階段に記者たちを上げ、自分は階段の下で助祭一人を控えさせただけで「この方が話が通りやすいですから」と、実に腰が低い。

「海を越えたドイツとはいえ、わたしと同じ司教が、このようなことをしたとは信じられません」

「現時点での、司教としてのお言葉が伺いたいのですが?」

 記者の質問には、こう答えた。

「このドイツの司教の話は、まだ、みなさんたちからの情報しかありません。バチカンでは独自に調査中であります。わたしとしては……これが誤解であり、ドイツの司教の試練であればと願います」

 記者達は、しばし黙り込んだ。このS市は敬虔なカトリックの街であり、大方の市民がこの司教の言葉を待っている「カトリックは揺るぎない」と。

 なんせ『ハリーポッター』でさえ、反キリスト教的であると上映が自粛されたほどの街である。また司教が言葉少なに述べた言葉にも、悲しみとバチカンへの信頼しかなかった。一瞬今度の事件の犯人は、そのドイツの司教ではないかと、友子でさえ思ったほどだ。

 ベテランの記者が、締めくくるように最後の質問をした。

「では、このS市に留まられて、司教として、できることはなんでしょう?」

「S市の平和を祈ることだけです。法王様のように世界の平和を祈るのには、まだ修行も試練も足りません」

「正直なお言葉に感銘を受けます。では、司教様は何をお祈りになりますか?」

「わたしという小さな穴を通して神の光が人々に届くように、そして人々の平穏と救いを祈ります」

「それでは、もう一つ……」

 今の言葉は立派な覚悟を示していると言えるのだが、これだけでは記事にならないと記者たちは質問を続ける。

――見えた?――

――大勢の市民の顔が……なにか?――

――ひっかかるの。今あの司教の頭に浮かんだ人たちの……――

――顔が?――

 驚いたことに、司教は数秒間の間に十万人近い人の顔を思い描いていた。そして、その一人一人から情報を読み取ることができた。むろん司教はコンピューターではないので、司教自信は意識はしていないが、一度頭に入ったものであるなら、友子の電脳はそれを読み取ることができる。

「なかなかの人格者のようだな」

 ケント(滝川)でさえ、そう思った。

「ま、弟の水道局から当たってみましょうか」

 ジェシカ(友子)が提案する。もう思念でなく、声に出している。

――まって、もうちょっとでわかる――

 ミリー(ハナ)は、一見脈絡なしに並んでいる市民の人たちが気になっていた。

 普通、人間は人や物事を関連づけて覚えていく。例えば家族毎、友人のグループ、地域、職業別に。個人の情報を何万通りにも組み合わせ、関連性を導き出そうとしたが、いくらやっても出てこない。同じことをマイク(ポチ)もやっているようで、妹の隣に立って手を握っている。

 そこに夕暮れ時の秋の突風が吹き、街路樹の葉が一斉に舞い散った。

 あれ?

「ハハ、一瞬枯れ葉の流れが鳥に見えた。ちょっと疲れたかな」

 ジェシカが小さく笑う。

「分かったぁ!」

 ミリーは思わず声を上げた。

――情報を分析しても、なにも出てこないはずよ。あの司教が思い描いたひとたちの映像情報を、そのままロングにしてみて!――

――うん…………あ、これは!?――

 沢山の人の姿が、ただのドットになり、その集合が一人の少女の顔になった。

――強い愛情を感じるわ――

――神の子……?――

 司教のイメージは神の子であった。

――もう一つ分かった!――

 それは四人同時だった。文章化した個人情報をロングで見ると、S市のBブロックの地図になり、一軒の家が赤くマークされていた。

――ここだ、いくぞ!――

 ケントは、司教に悟られないようにレストランまで戻り、車で戻ってきた。

「さあ、乗って」

 糸口の先が見えてきた。車はプラタナスの枯れ葉を巻き上げながら、Bブロックへと急いだ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・062『油断したロコ』

2023-11-16 12:05:53 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

062『油断したロコ』   

 

 

 ちょっと油断してました……

 

 自習時間の図書室、広げた新聞のバックナンバーに首を落とすロコ。

「……どうしたのよ?」

「『あしたのジョー』と『巨人の星』をずっと読んでいて……ちょっと新聞はご無沙汰だったんです」

 1970年にもだいぶ馴染んだわたしだけど、リアルなカルチャーにはあまり触れられてない。

 家に帰ったら2023年だからテレビとか見ないし。ネットで調べりゃテーマ曲ぐらいは動画で観られるけど、さすがに『あしたのジョー』とか『巨人の星』はネトフリでもAmazonプライムでもやってないよ。いや、たとえやっていても、半期で60本も新作アニメが発表される二十一世紀、アニメ評論家でもリアルタイムで全作品は観てないと思う。

 わたしが家で観てるのは『葬送のフリーレン』と『薬屋のひとりごと』ぐらいだ。過去の名作アニメなんて見てるヒマ無いよ。

「この三月に力石徹の葬式を本当にやったじゃないですか」

「りきいしとおる?」

「ええ、知らないんですかぁ!?」

「あ、声大きいよ」

 司書の先生が、こっちを睨んでるし。

「矢吹ジョーの運命のライバルですよ。それが、めちゃくちゃ人気で……ほら、これですよ!」

「あ、声……」

 ロコのスクラップの最初の方に、なんか暗い表情の男のイラスト……これが人気ぃ?

「マンガの登場人物の葬式を本当にやっちゃうって凄いですよ! 参列者もいっぱいで……ほら、お花も、こんなに届いてて……」

 切り抜きを読むと、出版元の講談社で大々的にやったらしい。

「よど号の犯人たちも『われわれは明日のジョーである』とかネタにしてて、ちょっと全巻……といっても出てる分だけですけどね、読んでみたんですよ。同じスポコンもので『巨人の星』があるじゃないですか、星飛雄馬は清く正しく真っ直ぐにボール投げてて、力石徹とかは、人生投げてる感じで、ボクシングさえ眼中にあるのかよって感じで矢吹ジョーとの戦いに命までかけるじゃないですか。十年もたたないのにヒーロー像がぶっ飛んでしまったって感じで、つい読み比べて、それで現実の世界には、ちょっとご無沙汰して……(-_-;)」

「えと……万博が終わったってぐらいしか思いうかばないけど……なにかあった?」

「ありましたよぉ。ドゴールは死んじゃうし、エレキのジミー・ヘンドリックスもロックの女王ジャンス・ロブリンも死んだし、日本のロバート・キャパって言われた沢田さんも死んじゃったし、沖縄で初の国政選挙、なんで、返還もされてないのに国政選挙ができたのか? 銀座のホコ天は一度も行ってないのに、もう三回目になってるしぃ……ダメだ、時代に取り残されてますぅ(-_-;)」

 ロコは生まれる時期を間違ったと思う。ネットやスマホのある時代に生まれたら、なかなかのジャーナリストになったんじゃないかと思う。

 だから、励ましてあげなきゃと思って、彼女のスクラップ帳を覗き込む。

「あれ、なんで缶コーヒーの切り抜きなんかがあるの?」

 それは、新聞の片隅から切り抜いた、なんの変哲もないレギュラーサイズの缶コーヒー。

「ああ、9月に発売されたんですよ。コーヒーを缶詰にしようっていうのは新しい発想なんで、取りあえず切り抜いたんです」

 なんの解説もコメントもないので、ほんとうについでだったんだ。

「……これって、将来はあたりまえになる……かもしれない」

「そうですかぁ……コーヒーって喫茶店で飲むでしょ、雰囲気のものだから、自販機で買って飲みますかねえ。自販機と言えばコーラかジュースでしょ」

 いやいや、自販機売れ筋のトップは……

「お茶とか売ったら伸びると思う」

「え、お茶ですか?」

「自販機の飲みものって、みんな甘いじゃない。甘いもの飲んだら喉乾くじゃない、口の中ネチャつくしさ。のどを潤そうって思ったら、ノンシュガーでしょ」

「ノンシュガー、うまいこと言いますねえ。でも、お茶って、学食のテーブルにもヤカンでおいてますしねえ」

 そうか、この時代はお茶でお金を取るって発想が無いんだ。

「あはは、まあ、思いつきだし(^_^;)」

「あ、思い付きは大事です。インスタントラーメンだって、最初は思い付きだったっていいますからね」

 そうだ、大阪の池田のオジサンが思い付きと執念で作ったんだった。50周年とかで、5個パックの包装に印刷してあった。

「あ、そろそろチャイムだね」

「四時間目の自習って最高ですね、よそより先に学食にいけます(^▽^)/」

「そうだね、行こうか」

 

 他の子も同じで、みんな学食に足を運ぶ。

 でも、今日の自習も現国の杉野先生だった。

 大丈夫かなあ……一瞬思ったけど、ランチのいい匂いがしたら吹っ飛んでしまった(^_^;)。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  

 

 

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RE・トモコパラドクス・80『S市司教の秘密・1』

2023-11-16 07:12:37 | 小説7

RE・友子パラドクス

80『S市司教の秘密・1』 

 

 

 ドイツの司教が贅沢三昧で非難されている。

 S市に向かう車の中で、そのニュースを聞いた。自分の住居に何十億円も使い、インドの貧民街視察のための飛行機にファーストクラスを使うなど、司教にあらざる振る舞いにバチカンは対応に追われているという内容だった。

 東京の法王庁大使館では、大使はじめ秘書の司祭や受付の平信徒の女性に至るまで、穏やかで真摯な人たちばかりだったので、とても意外に思う友子である。

「中世ヨーロッパじゃあるまいし、こんなのが今時いるんだな……」

 ケント(滝川)は、S市へのルート66を走りながら呟いた。

「……あ、他の放送局でも同じことを言ってるよ」

 マイク(ポチ)がチューナーを回しながら呟く。ミリーは後部座席で寝ている。本性は、やっと生後四か月の子犬なので、ポチの倍は眠くなるようだ。

「このあたりはカトリックが多いから関心が高いのよ」

 ジェシカ(友子)は、そう言いながら、少し違和感を感じていた。

 

 S市に入って、最初に見つけたレストランで食事をする。ナビで調べると、アメリカでもポピュラーになってきたのか寿司バーもあるのだが、八マイルも走ればカンザスという町で寿司を食べようとは思わない。料金は回転寿司の十倍近くするし、カラフルでポップな寿司ネタは話のタネにはなるだろうが、そんなことが目的の旅ではない。

 そこの駐車場は学校の校庭ほどもあって日本の感覚ではドライブインなのだが、アメリカの中西部ではこんなものなのだろう。駐車場には8台の車が停まっているし、この界隈では並以上の店ではあるのだろう。

 

 奥の席で聖職者の略服を着た老人が、助祭一人を相手につつましく食事をしているのに気づいた。

 

「今まで気づかなかった」

「静かに食事をされているんだ、邪魔しちゃいけないよ」

「そうよ、マイクもミリーも静かにお上がりなさい」

――でも、あの二人、なんの思念も感じない――

――聖職者だ、そういう人もいるさ――

 食後のドリンクが運ばれたところで、十数人のマスメディアと思われる男女が、ドカドカと入ってきた。

「デイリーSのトンプソンです。司教、シカゴの大司教座での様子はどうだったんですか?」

 これを皮切りに、各メディアがそれぞれに口を開いた。

「みなさん、ここはレストランです。他のお客さんもいらっしゃいます。どうか教会の司祭館でお待ちください、あと……五分でみなさんのお相手をいたします」

 穏やかに司教が言うのでメディアの人間は、ゾロゾロと教会に向かった。少しあって食事を終えた司教と助祭は、ミリー(友子)達にも頬笑みを残して、教会へと向かった。

「ドイツの司教とは大違いだな、マスコミの連中も大人しい」

「人徳のある司教さんのようね。お供もひとりだけだったし」

――でも、少し変。平穏で澄み切った心しか感じない――

――聖職者としても?――

――メディアの人から読めたけど、司教の弟は、このS市の水道局長――

――水道水の成分がおかしいって言ってたな?――

――T町の水は100%このS市から買ってる――

――少し調べてみるか――

 四人はレストランを出ると、プレスの人間に擬態して教会の司祭館を目指した……。

 

 ☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士
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銀河太平記・190『ヒンメル左舷プロムナードデッキ』

2023-11-15 15:40:12 | 小説4

・190

『ヒンメル左舷プロムナードデッキ』胡蝶 

 

 

 全長1200メートル 基準排水量600万トン

 

 これが亜光速で飛ぶというのだから信じられない。

 サイズ的には。地球でも大型の客船や貨物船で近いものはあるが、とても亜光速で飛ぶことなどできない。

 おまけに、戦闘能力は伝説の宇宙戦艦の4倍もあるというから恐れ入る。

「まだまだです、容積比で言えば、かの宇宙戦艦の90倍の戦闘力が無いと釣り合いません」

「90倍ですか( ゚Д゚)!?」

 素直に内親王殿下は感動しておられる。

 今日はアルルカン船長自らの案内で、プロムナードデッキを艦尾方向に散歩に出ている。

 広い艦内なので、それまで動いたのは艦首側からの100メートル余りの区画でしかない。

「まるで客船のプロムナードデッキですね!」

 殿下が疑問に思われるのは無理もない。

 左舷の舷側を前後に貫くデッキは、幅が4メートル余りもあって、左舷側の壁と天井の半分が透明なっている。

 要所要所には観葉植物や絵が掛けてあり、まさに客船のプロムナードといった風情なのだ。

「同じものが右舷にもあって、艦尾と艦首で連結されていて、一周すると2キロになります」

「まあ、ちょっとしたジョギングコースですね!」

「はい、年に一回運動会を開くんですが、最上甲板の周回コースを入れて10周走って42.195キロのマラソンコースになるんです」

「まあ、運動会、楽しそうですねえ(^0^)」

「長い航海になります、一度や二度は開くことになるかもしれません」

「ふふ、楽しみができました」

「しかし、戦闘艦で、こんなに長い通路を設けていては防御的に問題があるのではないですか?」

 ウフフフフ

 横を歩いているサムライ少女が笑う。

「人の質問を笑うのは無作法ですよ、サンパチさん」

「これは失礼。拙者も同じことを思ったでござるよ。桔梗殿、ここは、戦闘時には隔壁とシールドがかかる仕掛けになっておるのでござる」

「可動式?」

「シールドは外側に。隔壁は、ほら、ジョギング用に距離が刻んでござろうが、あそこから隔壁が立ち上がる仕掛けのようでござるぞ」

「ムム……」

 聞きしに勝る戦闘艦のようだ。

 しかし、そろそろ艦の半ばまでは来ていると思うのだが、乗組員を一人も見かけない。

「日常の艦内移動には、両舷の中央寄りにある通路を使うのです。特に規則にしているわけではないのですが、乗員たちもオンとオフを使い分けているようで、交代の時間には、ジョギングで走っている者も見かけます」

「この艦には、何人ぐらいが乗り組んでいるんですか?」

「はい、ざっと300名です。300名が三交代で任務に付いているので、常時配置についているのは100名といったところです」

 大したものだ、600万トンの艦を100人で動かすとは。

「お、艦尾の方から誰か走ってくるようでござるぞ」

 艦尾の方は湾曲した艦腹の向こう側、まだ視認はできないのだが、サンパチ殿は探査能力が高く分かってしまうようだ。

「あ、まだ走っちゃダメだろ!」

 アルルカン殿が顔色を変えて艦尾方向に走りだし、我々もその後を走る。

「あ、シュセキさん!?」「シュセキ殿!」

 殿下とサンパチ殿も驚いて、ジャージ姿で走って来る男に駆け寄っていく。

 シュセキ? 

「まだまだ安静だとドクターに言われてるだろ周温来!」

 周温来……西之島三傑の一人、胡同の主席と呼ばれた周温来か!?

 たしか、西之島紛争の最中に忽然と姿を消したと外事方隠密から聞いている。

「いやあ見つかってしまった(^_^;)。起きられるようになると、じっとしていられなくて……というか、ココちゃんとサンパチじゃないか! え? どうして二人が?」

「もおぉ! 今から温雷の部屋に行ってビックリさせるつもりだったんだぞ! 台無しじゃないか(ꐦ°᷄д°᷅)!」

 アルルカンが本気で怒ってる。

「いや、申しわけない。乗組員の会話から、この時間帯のプロムナードは人気(ひとけ)が無いと踏んだんだ、いや、しっぱいしっぱい(^_^;)」

「トリャー!」

 アルルカンが投げ飛ばした!

「ニャンパラリン!」

 投げられた勢いを空中回転でいなして、見事に着地を決める周温来……微妙に顔が引きつっている。

「まあ、普通には動いて差し支えないようだな」

「アハハ、平気平気……(^△^;)」

「なら手間が省ける。ちょうど800mのラインだ」

 ハンベを操作するアルルカン。

 壁の一部が変形して三人掛けのベンチが二つ現れた。

「士官食堂か、船長のアルルカンだ。左舷プロムナードの800mに居る。ケーキセット五つ頼む。え……人手がない? 誰か食事してる者は……よし、そいつに出前させろ。いやあ、楽しみは半減だが、こうやって顔を合わせられたのはめでたい」

「あのう、船長、どうして主席さんがヒンメルに……」

「いやあ、それがあ……まあ、聞いていただきましょうか(^▽^)」

 得々と、実に楽しそうに周温来捕獲のエピソードを語るアルルカン。

 この人の三枚目ぶりやおかしみは自己演出と見定めていたのだが、存外、ただのオモシロガリなのかもしれない。

 

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

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RE・トモコパラドクス・79『アメリカA郡T町・2』

2023-11-15 08:37:21 | 小説7

RE・友子パラドクス

79『アメリカA郡T町・2』 

 

 

『ママ~お湯が出ないよ~』

 

 スマホででキャンピングカーレースの途中経過やら明日の天気予報やらを確認していると、シャワーに苦情を言うミリーの声。 

「あなた、お湯が出ないって」

「こんな田舎のモーテルだ。もう少し流してごらん」

『だって、もう三分も流してるよ~』

「しかたないなあ……」

 グシャ

「うわ!」

 潰れそうな音をさせてケントが腰を上げると、カウチの端でスマホゲームをやっていたマイクがひっくりかえりそうになって声を上げる。

「あ、すまん」

「キャ、黙って入ってこないでよ!」

 ミリーは慌てて胸を隠して父に抗議した。

「呼んだのはミリーだろ。で、隠すんならバスタオルにしな。丘の上しか隠せてないぞ」

 ミリーは慌ててバスタオルを身にまとい、バスから出た。やっとエレメンタリースクールに入ったばかりのミリーが一人前に抗議するのは笑える。カウチに座りなおしたマイクは笑って妹を冷やかし、それにプンスカのミリーをジェシカがなだめている。まあ、これも一家の平和の徴と背中で聞きながら、ケントはコックやらダイヤルやらをカチャカチャ捻る。

「……こりゃ、元がいかれてるな」

「他の部屋のバス使えないかしら」

「他の部屋もいっしょだよ。ちょいとオヤジと掛け合ってくる」

「トレーラーのシャワーは使えないの?」

「修理が終わらなきゃ無理だ。もっとも修理屋のシャワーを使わせろって、手はあるけどな」

 無駄口を叩きながら、ケントは事務所に行った。

 

「こないだ修理したとこなんだけどなぁ……」

 

 モーテルのオヤジは、太った腹を揺すりながら、給湯器に向かった。

「修理って、オヤジさんがやったの?」

「ああ、車の燃費が良くなっちまってさ。こんな田舎のモーテルに泊まる奴は、そうそう居ないもんでな……こりゃ、またプラグがいかれたかな……」

「ちょっといいかな……あ、こりゃ、規格が合ってないよ」

「そうかい、ちゃんと規格の奴を発注したんだがね」

「給湯器、昔は部屋ごとにあったんだろう?」

「ああ、効率が悪いんで、十年ほど前に替えたんだ」

「こいつは、その部屋ごとだったころのしろもんだ……」

「そうかね……」

「ねえ、ケント。早く直らないかしら。ミリー風邪ひいちゃうわよ」

 ジェシカが様子を見に来た。娘をダシに、自分も早くシャワーを使いたいのだろう。

「ああ、今なんとかするよ」

「そう、じゃ、お願いね」

「……奥さん、美人だね」

「いやあ、怒ると手が付けられない。ちょっと触るけどいいかい?」

「あんた、直せんのかい?」

「一応、電子部品のエンジニアなんでね……このサーキットを殺して……ま、一応は使えるかな」

「え、もう直ったのかい?」

「温度センサーを殺した。お湯の温度設定が出来なくなるが、水と調整すりゃ、なんとかなる」

「昔のアナログだな」

「ま、それを売りにするのもいいんじゃないか。ただし、温度管理はお客様の責任において設定してくださいって書いとかなきゃ。訴えられるかもだけどな」

「そりゃ、かなわん」

「ま、うちはオレがついてるから。部品は早く発注しとくんだね」

「ああ、そうするよ。ミスター」

 自然にミリーは鼻風邪をひいて、声がおかしい。日が傾く前に、となりのS市に夕食をとりにいくことにした。給湯器の件があったので、モーテルのオヤジがワゴンを貸してくれた。

「昔は、晩飯ぐらい出したんだけどね、客が減っちまってからはね。まあごゆっくり……ガス代はいいよ。元々うちはガス屋が本業だからな」

 朴訥だが、人なつっこく、オヤジは手を振った。

――なにか、掴めたかい?――

――水の成分が変だった。微量だけど精神安定剤に近いのが……これがデータ――

――そっちは?――

――ケータイの電気のパルスが、ちょっと。変化が早いんで解析しきれてないけど――

――ちょっと大がかりな仕掛けがあるかもなぁ、紀香は?――

――東京は平和みたいだけど……――

――まだ予感がしてるんだな――

 今回、紀香は東京に残った。目だった兆候があるわけではないが、学校や仲間に万一のことがあってはいけないので残留している『型落ちの取り越し苦労』と本人は笑ったが、気にはなっている。

――栞からは?――

――なんにも――

――そうか……――

――回線は繋いだままにしてある――

――よし、こっちはこっちで集中しよう――

 この間の三人の会話は「風邪がどうの」「トレーラーレースがどうの」ということでしかない。盗聴されている恐れもあるので、滝川、友子、紀香の会話はあくまでも親子三人の会話に潜ませてある。

 まだ、聖骸布の真実に至るには時間がかかりそうだった。後部座席では頭から毛布を被ってマイクとミリーが本来の姿に戻ってしばしの仮眠に入っている……。

 

 ☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士
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