巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
プップー!
灯台の敷地に入ると同時にクラクションを鳴らす直美さん。
ズシ
ハンドルをきって、男性的にZを停車させると、灯台横の建物から作業服の男の人が出てきた。
「あ、とうとう買ったんだ(゚д゚)!」
作業服が目を丸くし、直美さんが出ていくと二人で笑い出した。
アハハハハハ
「うん、写真屋って、どこかで夢見てないといい写真撮れないからね」
他の人が言ったらぜったいキザか浪費家の言い訳になるんようなセリフをあっさり言う。
「いやあ、雑誌でしか見なかったけど、実物はいいなあ、うん、断然いい!」
「あ、この子助手の時司巡、こっち、灯台守の平賀勲」
「初めまして、時司巡です」
「平賀です、へえ、うちの恵といっしょだ」
あ、間違えられてる。
よくあるんだ「巡」って「恵」とよく間違われる。
あらあぁぁ!
メッグミィ!
建物から、若い女の人がエプロン姿で出てきて、直美さんとふたりでピョンピョン跳ねる。
なんだか女子高生みたい(^_^;)。
どうやら、三人は知り合い……いや、仲のいい友達のようだ。
「こちらは、直ちゃんの助手の時司さん、名前は直ちゃんと同じ……」
「あ、メグミじゃなくてメグリなんです。巡視船の巡と書いてメグリなんです」
「ああ、ごめん!」
「めぐりさん」
「あ、呼び捨てでメグリ、友だちにはリッチとかリッチーとか呼ばれてます」
「そう、じゃあ、リッちゃん?」
「あ、それもありです」
「よろしく、リッちゃん……で、早々と買ったんだ!」
「うん、見せびらかしに来た(^▽^)」
「ちょっと、乗っていいか?」
「うん、あまり遠くにいかないでね」
「岬の周辺だけさ、十分もあれば戻って来る」
「そう、じゃあ恵もいっしょに行っといでよ。あたしたち中で待ってる」
「そう、じゃあ、適当にコーヒーでも飲んでて(^_^;)」
ブィーーン
Zは、陽気な音をさせて岬の付け根の方に走って行った。
「ええ、ここに住んでるんですか!?」
中に入ってビックリした。
てっきり、倉庫か機械室になってるのかと思ったら普通っぽい家で、すぐの部屋は板張りのダイニング。
建物が白いコンクリートで、窓からはカモメの飛ぶ大海原が見えて、なんだか地中海のどこかみたい。
「これだけの灯台だからね、灯台守はいるさ」
「そうなんだ……」
令和の時代、有人の灯台は無いと思う。
「ふふ、ちゃんと使ってくれてるんだ」
コーヒーでも淹れるつもりでホーローのケトルを手にする恵さん。
「結婚祝いにあげたんだよ……豆は……あ、ここだここだ」
勝手に戸棚を開けてコーヒー豆を発見する直美さん。
「お二人とは親しいんですね」
「うん、学生時代からの付き合い。はい、グッチはこれで豆を挽きましょう」
ドカ
「お、おお!」
家にあるのよりも二回り大きなコーヒーミルが目の前に置かれた。
家のは、せいぜい三倍分くらいしか挽けないけど、八人分くらいは挽けそうだ。
「豆は五杯分入れてねぇ」
「ワン フォー ザ カップですね」
「そう、お茶とおなじ要領」
付属の専用スプーンで五杯豆を入れて蓋をする。
ガチャリ……ガリガリ……ガリガリ……
「おお、いい香りぃ……」
三回ほどハンドルを回すとコーヒーのいい香りがダイニングに満ちる。
これは豆から挽かないと味わえない豊かな香りだ。
ガリガリ……ガリガリ……
さすがに五杯分の豆を挽くのは労働だぁ(^_^;)
やっと弾き終えて、サーバーにコーヒーの雫が滴り始めたときにZは帰ってきた。
ひとしきりZの話で盛り上がって、話は三人の少しだけ昔の話になって、わたしは、ちょっとだけ人生勉強をしたような気がした。
☆彡 主な登場人物
- 時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校一年生
- 時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
- 滝川 志忠屋のマスター
- ペコさん 志忠屋のバイト
- 猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
- 宮田 博子(ロコ) 1年5組 クラスメート
- 辻本 たみ子 1年5組 副委員長
- 高峰 秀夫 1年5組 委員長
- 吉本 佳奈子 1年5組 保健委員 バレー部
- 横田 真知子 1年5組 リベラル系女子
- 加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
- 藤田 勲 1年5組の担任
- 先生たち 花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
- 須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
- その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組)
- 灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人