鳴かぬなら 信長転生記
猪八戒:「やっぱ、そっちが似合ってるブヒ」
孫悟空:「おまえも、ずいぶん板についてきたぞウキ」
沙悟浄:「敦煌で休んだのは正解だッパ」
俺たちは敦煌を後にして東に進んでいる。NPCの三蔵法師もアップデートが進んで、馬に乗りながらお経唱えるようになって、ますますそれらしくなってきた。
沙悟浄:「しかし、あの仏の化物どもをどうやってやっつけたんだッパ? 宿に戻って来るなり『ただちに出発だ!』と言われて、慌ただしく出発したきりだ。そろそろ話してくれてもいいッパ」
孫悟空:「そうだな、そろそろ話してもいいだろ、ウキ……」
実は、あの場を切り抜けたのは俺が活躍したからではない。
あれは、一言主の働きによるものなのだ。
一言主:『諸君!』
指輪サイズとは思えない声に腰を浮かせた諸仏どもはたじろいだ。
釈迦:「ウ、なんだおまえは?」
一言主:「吾は悪事も一言、善事も一言、言い離つ神。葛城の一言主の大神なり」
釈迦:「ヒトコトヌシ?」
一言主:「そうだ、日出ずる大和の国の神である。故合って、三蔵法師一行の守護を務めておる」
帝釈天:「島国の神の癖に、態度大きいな」
帝釈天の挑発には乗らずに、一言主は淡々と続けた。
一言主:「我は、良きことも悪しきことも、一言の願いならば、どのようなものでも聞き届けてやる」
帝釈天:「ほう、願いを聞き届けると申すか」
一言主:「いかにも。先ほどより聞いて居れば、釈迦牟尼仏を始め諸仏には様々な期待や願い事がある様子」
釈迦:「様々ではないよ、ここでいっしょに居てもらって、敦煌の仏教を盛んにしてもらいたいんだ」
一言主:「盛んとは抽象的に過ぎる。釈迦のように巨大な仏像に成れということか?」
釈迦:「いや、大きいのは、もう三つもあるし」
一言主:「ならば、第57窟の美人菩薩のように見目麗しい仏画か?」
帝釈天:「いや、あれ以上の美人が来ては57窟から不満が出る」
毘沙門天:「ここを守護する軍団こそ必要だろう」
仁王:「なに? 聞き捨てならんぞ毘沙門、我ら仁王軍団では不足と言うのか!?」
毘沙門天:「いや、聞くと、この三蔵の本性は織田信長であるとか。それならば、仁王諸君と並んで、優秀な護衛隊になるだろうし」
毘首羯磨:「それよりも、莫高窟は700も石窟があるんで、ぜひ、工作機械の充実を……」
薬師如来:「それなら、ぜひ病院を。老齢の仏も多いですし、参詣客の中には体調を崩すものも居て、敦煌の町医者だけでは手が回りませんから……」
羅漢:「それよりも、将来を見据えてお賽銭の運用を……」
いやはや、仏と言ってもいろいろあるもんだ(^_^;)
一言主:「やよ、仏たちよ。願いは一つである。早く話し合うなり勝負するなりして、一つにまとめよ」
釈迦:「いや、だから……」
帝釈天:「涅槃仏、あんたも起きて……」
涅槃仏:「いや、わしは……ムニャムニャ……」
釈迦:「いや、だからぁ……」
――いまのうちじゃ!――
孫悟空:「ということで、諸仏が揉めているうちにトンズラしたというわけだウキ」
沙悟浄:「なるほど、そう言う訳だったのかッパ」
猪八戒:「しかし、いろいろ冒険したのは評判になってるみたいブヒ(^_^;)、新聞とかにも出てるブヒ」
沙悟浄:「ああ、この分なら、無事に三国志へ……そして、そのまま洛陽へ! なんとしても兄曹操を思いとどまらせ、戦の無い世の中にしなければ!」
孫悟空:「沙悟浄、素に戻りかけてるウキ!」
沙悟浄:「ああ、すまないッパ(-_-;)」
三人が熱くなった分、馬上の三蔵は悠々と経を唱えている。NPCとは言え、さまになっている。
まあ、我々三人がしっかりしていればなんとかなるだろう。
ん…………?
前方から砂煙……続いて、地を揺るがすほどの馬蹄の響き。
なにか来るぞ!
☆彡 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
- 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生
- 古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
- 宮本 武蔵 孤高の剣聖
- 二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
- 雑賀 孫一 クラスメート
- 松平 元康 クラスメート 後の徳川家康
- リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
- 今川 義元 学院生徒会長
- 坂本 乙女 学園生徒会長
- 曹茶姫 魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
- 諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
- 大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
- 孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟
- 天照大神 御山の御祭神 弟に素戔嗚 部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主