大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・83『えいちゃんの不幸とそのいちの企み』

2023-11-06 11:41:34 | 小説3

くノ一その一今のうち

83『えいちゃんの不幸とそのいちの企み』そのいち 

 

 

 風に飛ばされてしまいましたぁ(;゚Д゚)

 

 窓枠から解放してやったえいちゃんは、シワクチャになった全身の口のところだけ手で伸ばして説明した。

「あっという間に舞い上げられて、なんとか風を拾いながらここまで……」

「B国の城には戻れなかったの?」

「はい、風が一方通行で……」

「今の季節は高原から吹き下ろす南風だから、こっちに来るしか手が無いだろうが、何者なんだこれは?」

 アデリヤはえいちゃんとは初対面だ。

「実はね……」

 アハハハハ

 えいちゃんのあれこれを説明してやると、アデリヤは初めて年相応の少女の顔になって笑った。

「そんな面白いことがあるのか、さすがはアニメ大国日本だなぁ」

「ちょっと皴を伸ばしてあげるね……忍法スチームアイロン!」

 プシュー

 手のひらをアイロンにしてしわを伸ばしてやると、ホッと溜息をつくえいちゃん。

「しかし、こうやって前から見ている分には普通に見えるんだなあ」

「はい、いつか三次元の女優になれるように頑張っています! 監視哨の屋上では、ちゃんとアデリヤ王女に化けていたんですからね」

「え、影武者はドーカンがジープに載せていたのだけではなかったのか?」

「いろいろ手は打っております……そうだ!」

「……え、ええ!?」

 耳打ちすると目を剥くえいちゃん。

 しかし、女優魂に火が点いたようだ「ま、まかせてください( ๑•̀o•́๑ )!」と胸を叩いた。

 

 サマル王子は足取りも軽く宮殿の駐車場に向かうところだった。

 

 すぐにキャンプに戻るつもりだったが、せっかく宮殿に戻ったのだからと自室でアニメのソフトを選んでいたのだ。

――まあ、100本も持っていけば、当分宮殿には戻らなくてもいいだっちゃ(^▽^)――

 100本の中に虎柄ビキニの鬼娘の円盤も入っていて、これなら何度でも繰り返して観られる。

 サマルは国同士の付き合いなどどうでもよかった。王子の身分が保証され、好きなアニメが見られるなら独立国であろうが草原の国の属国であろうが頓着は無い。

 難民保護のポーズさえとっていれば、周囲の国々も悪いようにはしないと高をくくっている。

 

 ガッシャ!!

 

 門を出たところでジープが跳ねた。

「あ、おまえら!?」

 なんと、後部座席には都合よく捨てたと思ったアデリヤとメグリが乗っている。

「あそこから飛び乗ってきたのか!?」

「そうよサマル、この程度のスタント、アニメのキャラでなくったってできるんだっちゃ」

「ア、アデリヤ(;'∀')」

「このままA国との国境まで走ってください、サマル殿下」

 バックミラーに映る女忍者の目に一言も言い返せない皇太子であった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女
  • サマル          B国皇太子 アデリヤの従兄

 

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RE・トモコパラドクス・70『お座りのさせ方と台風』

2023-11-06 08:37:16 | 小説7

RE・友子パラドクス

70『お座りのさせ方と台風』 

 

 

 ボールを目より少し高いところへ持っていってやる。

 

 たったこれだけ。

 たったこれだけのことで、ハナはボールを目で追って首が上がり、お座りの姿勢になった。で、すかさず「お座り!」という。あとはイイコイイコをしてやると、ハナは昨日一日でお座りを覚えてしまった。

 滝川に教えてもらった方法、こんな簡単にいくとは思わなかった。さすがは歴戦の義体戦士だ。

 それに示唆的でもあった。単にハナの躾だけではなく、これからの友子の生き方も教えられたような気がした。それは、まだ閃きに過ぎなかったが、

「ハ、あたしって犬並みか!?」

 思わず声が漏れて、ハナが「ワン!」と言って喜んだ。

 

 台風が接近している。

 

 中部・東海地方では、突風による被害も出ていた。建築中の家や、うっかり小窓を締め忘れた倉庫などが屋根を吹き飛ばされていた。

 今年は、異常気象で、関東地方でも竜巻が多発して大きな被害を出している。義体になる前の人生の中でも、こんなことは無かった。地球は大きく見て温暖化などはしていないが、いささか異常気象であることに違いはない。

 新聞によっては、北極海の氷が無くなったらどうなるか、などと心配させる記事が載っていたりする。でも、この新聞社は、友子が生身の女子高生であったころ、こんなことを書いていた。

「二十一世紀の初めには、石油は枯渇するであろう。急がれる原発建設」

 石油は、無くなるどころか、技術の進歩により、海底の深層からの採掘も行われ、未だに枯渇の気配はない。論調も変わった。

「原発の廃止を世界の潮流に。再生可能エネルギー発電に拍車を!」
 
 新聞の浅はかさはともかく、この台風による被害はなんとかしなければならない。

 いくら友子でも、台風そのものを消し去ることは出来ない。とりあえず自分の家とご近所だけは守らなければ。一郎も春奈も旅先で心配しているだろう(こんな時に行く方も、行く方だけど)。

 

 友子は、気象衛星や近隣の気象台のコンピューターとリンクした。

 

 どうやら、このあたりで竜巻発生の気配である――ようし、手を打とう!――と決意した。

 物置を探ってみると、古いカッパが出てきた。材料としては、少し少ないので、長いゴムホースも流用し、分子変換をして、ウルトラマンの着ぐるみをつくった。

 ホースが少し余ったので、ハナ用のウルトラスーツも作って着せてやった。

 ジョワ!

 そう叫んで、ハナといっしょに高度三千メートルを目指しワープした。本物(?)みたいに飛んでいっては、すぐに発進地点が突き止められ、大騒ぎになる。
 
 しかし、かけ声が「ジョワ!」なのには苦笑した。

「ウルトラマンさんは、何がお好きですか?」「ジョワ!」

 古いギャグを無意識にかましたからである。当たり前に生きていれば46歳の友子である。

 あちこちに積乱雲が出来ていた。

 すぐに解析して、竜巻を起こしそうなものを選んだ。

 積乱雲は、上空に寒気団が入り込み、地上の空気を吸い上げることでできる。だから、積乱雲を小さなうちに熱して、雨にしてしまえばいいのである。

 友子は、パルス弾の破壊力を全て発熱に転換して積乱雲目がけて撃ち出した。地上から見れば空中で稲光がしたように感じるだろう。

 ピッシャーーン!!

 !?

 近くで、積乱雲の閃光、続いて轟音がして消滅した。

 目を望遠に切り替えると、ウルトラマンメヴィウスが、同じようにプラズマ弾を撃っていた。どうやら紀香も同じことを考えたようだ。

 こうして、首都圏で竜巻の被害は出なかった。何人かのプロカメラマンが、望遠でスペシウム光線を発射するウルトラマンをSNSに送ったが、良くできたCGであるという評価でおしまいになった。一部の映像専門家が「あれは、本物だ!」と、言ったころには、世間の関心は、とっくに別のところに行っていた。

 ただ、ハナだけが、あのときの快感が忘れられず、空が曇るたびに吠えるので、時々ウルトラマンにならなければならない友子であった。

 

――……お……母……さん、敵は……心の中……い出の中……から攻撃……てくる……――

 

 また、栞の切れ切れのメッセージが浮かんで消えた。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士
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