大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・014『交換手さんの電話と王女さまの呼び出し』

2023-11-04 12:39:50 | カントリーロード

くもやかし物語 2

014『交換手さんの電話と王女さまの呼び出し』 

 

 

 明日は日曜でお休み。

 前の晩はハイジたち気の合う仲間同士で遅くまでお喋りしてグッスリ。

 だったのに、夜中にふと目が覚めた。

 

 うっすら開けた目の端がほのかに明るい。

 チロリと目を動かすと、机の上の黒電話がうっすらと光ってる。

 ほら、RPGのゲームやってると、キーアイテムとかが光ってる、あんな感じ。

 よく見ると、光り方には強弱があってホタルみたい。

 ホワワ……ホワワ……ホワワ……

 ん…………このテンポは……電話が鳴る時の間隔。

 マナーモード?

 相棒のネルは口を半開きにして寝息を立てている。

 ひっそり起きると、膝立ちして受話器をとった。

――あ、やっと通じたぁ!――

 それは、懐かしい交換手さんの声だった。

 

 あくる朝、ダイニングでトレーを持ってカウンターに並ぶ。

 わたしの前が食いしん坊のハイジ、後がまだ目の覚めきらないネル。

 ハイジがパンを三つも取って、サラダもスクランブルエッグも山盛りにして、わたしの番がきたところで、食堂のおばちゃんがこっそりと言った。

「王女さまがお呼び、食べたら三人で王宮に行って」

 !?

「え」「あ」「はい」

 いそいで食べなきゃ!

 ガツガツガツ  ムシャムシャ  モソモソモソ

 ゆっくり食べるネルとお代わりをとりに行きたがるハイジを急き立ててダイニングを出る。

 

「ウンコ!」

 

「ええ?」「なに?」

「間に合わせっから……(;゚Д゚)!」

 ピューー

 返事も聞かずにトイレにダッシュのハイジ、ネルは、ようやく血圧が平常値になり、とっとと先に行く。

「あ、待ってぇ(;'∀')」

 マイペースなエルフを追いかけて、王宮のエリアゲートに着くと、ハイジが砂煙を上げて駆けてきた。

「スッキリしたぜ(^▽^)」

「手は洗ったのかぁ?」

「おお、ケツも洗ったぜ!」

 そういうと、制服の裾で手を拭いた。

 

「実は、お願いがあるのよ」

 

 王女さまはサバゲーにでも行くような姿でお待ちになっていた。

「え、どっか戦争にでもいくのか?」

「ちょっと黙ってろ」

 さすがにハイジをたしなめて、王女さまに正対するネル。

「露天風呂にデラシネが現れた、知ってるわよね?」

 知っているも何も、出くわしたのはわたしだよぉ。

「デラシネは露天風呂に惹かれて現れたの、露天風呂はデラシネに活力を与えるようで、この先、危険な存在になるってティターニアから申し入れがあったの」

 ティターニア?

「森の女王よ、女王は『露天風呂を作ったのは人間だから、人間たちでケリをつけて欲しい』と申し出てきたの。ケリをつける人間は、向こうから指名してきたわ」

「ギョエ!」

「それが、あたしたち三人というわけですか?」

 ハイジが目を剥きネルがピンと耳を立てた。

「それに、露天風呂を作ったのはわたし。わたしも行きます」

「「「ええ!」」」

 そうか、それで、このサバゲーなんだ。

「それはなりません!」

 いつの間にか来たのか魔法学のソフィー先生がやってきた。

「ソフィー」

「殿下を危険にさらすわけにはいきません。ティターニアの指名も、この三人です」

「でも、事の始まりはわたしよ。大丈夫、ソフィーに付き添ってもらってだったけど、無名の島から魔法石を取ってくることもできたし(せやさかい408『ヨリコ王女、無名の島で初めての国事行為に臨まれる』)大丈夫よ」

「殿下! ティターニアから指名があったのは、あくまでも、この三人。違えてはなりません」

 う……こんなに厳しい目のソフィー先生は初めてだよ(;'∀')。

 ネルもハイジも息を呑んでしまった。

 

「だ、だいじょうぶです! 三人で行きます!」

 

 口走ってしまった。

 

 夕べ、交換手さんの電話が無かったら、この決心は言えなかったと思う。

 

☆彡主な登場人物 

  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学)

 

 

 

 

 

 

 

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RE・トモコパラドクス・68『シオリクライシス・終焉』

2023-11-04 08:56:15 | 小説7

RE・友子パラドクス

68『シオリクライシス・終焉』 

 

 

 空はまだまだ綿雲だけれど、綿雲の隙を突いて吹く風は微かに川面をさざ波だたせ、土手にはチラホラと曼殊沙華。

 

 秋は、もうすぐそこまでやってきている。

 

 ハナは、そんな季節の移ろいをものともせずに、ポチはその保護者のつもりでハナの側を離れず、二匹仲良く河川敷を走り回っている。

 渋谷の大惨事のあと、学校にいても街を歩いていても気が休まらない。敵は、友子の意思にかかわらずワープさせることが出来る。一昨日は乃木坂に着いたつもりが、渋谷だった。また第五世代の義体は、攻撃してこない限り人間と区別がつかない。さすがにバテて、今日は学校の帰りに現れたカフェ『乃木坂』に入って息をついた。

 最初、滝川は居なかったが、足許にポチの気配を感じて顔を上げると目の前のシートに座っていた。

 思わず安堵の笑みがこぼれ、気がつくと、この荒川の土手に座っていた。子犬のハナも現れて、こうして、ポチと遊んでいる。

「当分は安心していいよ……」

「大丈夫なんですか……?」

「ああ、敵もかなりの無理をしている。一般の人たちを巻き込めば、トモちゃんを仕留められると踏んだ。それでハンパな改造も含めて、第五世代の義体をかき集めて送り込んで失敗した。当分はやってこない」

「でも、敵は、まだいるんでしょ?」

「第五世代の義体は、作るのに時間と金がかかる。あいつらはプロトタイプだ、改良も考えると、相当かかると踏んでいい」

「でも、好きな時代にリープできるんでしょ。だったら、いつでも来られるんじゃ……」

「大規模なタイムリープには、条件がいる。太陽と地球と月の位置が揃わないとできないんだ。経験から得た予測だけどね」

「そうなんだ」

「それに、トモちゃんには第五世代を感じる感覚が育ってきていると思う」

「え……」

「ポチを、よく見てごらん」

「……あ、犬の義体だ!」

「そう、試験的に作られた第五世代の義体犬なんだ。最初は敵だったけど、オレに懐いてしまった」

 ワンコだ!

 幼稚園ぐらいの女の子と男の子が、二匹の犬を見つけて歓声をあげた。ポチもハナも子供たちが大好きで、二匹と二人は、河川敷を走り回っている。子供たちは犬を掴まえようと必死。ハナは直に女の子に掴まえられて喜んでいる。ポチが吠える。相手にして欲しいのだ。

 ハナも気まぐれで、すぐに女の子の手から逃げると、ポチを追いかけ始めた。

 二人と一匹に追いかけ回され、ポチはご機嫌。傍らで見ているお母さんたちも安心な犬だとわかったのだろう、子供たちと同じように笑っている。

 ポチは、巧みに身をかわし、なかなか掴まえさせない。

 一瞬だった。

 男の子がジャンプしてポチを掴まえようとし、ポチは、たちまち身を翻させた。すると男の子は勢い余ってバランスを崩し、すぐ下の川に落ちてしまった。

 ドップーン!

「あ、あいつ、昔のクセ出しやがった!」

 滝川は、土手を駆け下り、川に向かおうとした。

 ポチは、一瞬で状況を把握し、川に飛び込んで滝川が駆けつける前に男の子を助け上げた。

 男の子は、水浸しになったが、泣きもせずにポチをもみくちゃにしている。お母さんが、男の子を裸にして、タオルで拭いている間、ポチは申し訳なさそうにうなだれている。

「一応、飼い主も謝っとくか……」

 ポカン

 キャン

 滝川はポチの頭を一発張り倒し――これからは、きちんとリードを付けます――と並んで頭を下げる。

 女の子のお母さんは目を三角にしていたが、男の子のお母さんは――ワンちゃんに悪意は無いわ、うちの子が勢い余って落ちたんだから(^_^;)――と理解があった。

 頭を掻きながら戻ってきた滝川は、困った顔で友子に説明する。

「ポチの奴、ちゃんと計算しているんだ」

「計算?」

「ああ、男の子の体重、スピード、重心の置き方、靴のグリップ、そして瞬間吹いてくる風は川面に波をたてるだけじゃなくて、つんのめった男の子の背中を押して、98%の確率で川に落せるって」

「ほんと!?」

「第五世代の戦闘用ロボットだから、それくらいの計算は条件反射でやってしまう」

 クゥ~ン

「敵意があってのことじゃないけど、つい本気になっちまった。再教育だな」

「「ワン」」

 ハナとポチがいっしょに――了解!――と言った。

「フフ、すっかり仲良しだね」

「あ、その前に」

 滝川は、バッグの中から紙飛行機を取りだし、こう言った。

「飛ばすから、ずっと見てて、落ちたところが分かるように。ホレッ!」

 紙飛行機は、スッと空に飛んでいった。そして肉眼では見えない視界没になった。友子の目は自動追尾して……一瞬紙飛行機が消えた。

 

「え……」

 

 声が出ると、そこは友子の家の前だった。カバンは足許に。紙飛行機は尻尾を振ってハナがくわえていた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士

 

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