図書館で面白そうな本を物色していて、「本所おけら長屋」シリーズを見つけた。
本所とはどこかについてご存知ない方のために申し上げると、JR総武線の両国と錦糸町の間、墨田川のすぐ東の国技館があるあたりである。最近このブログに書いたように、葛飾北斎が住んでいた一角でもある。
登場人物は、店子の相談役でもある大家を始めとして、商家の隠居、呉服屋の手代、左官、畳職人、表具職人、畳職人、魚屋、八百屋、米屋の奉公人、酒屋の奉公人、浪人、後家女といった店子の面々。物干し場、井戸、便所は共用で、長屋の裏手に小さな稲荷神社がある。
登場人物は皆口が悪いが、人情が厚い。べらんめぇ調の話振りは、古典落語を連想させる。始終騒動が絶えないが、その度に全員が協力してなんとか解決する。
長屋の近所に辻斬りが出没した一件を例にとって説明しよう。店子の一人が辻斬りにやられて瀕死の重傷を負う。その容疑者とされたのがやはり店子の浪人。そこで、店子連中がそれぞれ聞き込みして容疑者を割りだし、囮を仕立てて待ち構え、見事下手人である武家のバカ息子を取り押さえる。手柄を立てても、恩着せがましくないところが江戸っ子らしい。
連作に共通するテーマは人情であり、人と人の絆(きずな)である。こうした長屋の現代版はマンションやアパートだが、そこでは住民同士の交流は皆無に等しい。つまり、現代人が失ったものがこの長屋にあり、それが「本所おけら長屋」シリーズの人気の所以だろう。
頑固爺が今読んでいるのは第3巻だが、このシリーズは13巻まで出版されているようだから、これからの10巻が楽しみである。