つれづれ

名古屋市内の画廊・佐橋美術店のブログ

冨田渓仙 

2023年03月09日 | 冨田渓仙
冨田渓仙のお軸を仕入れさせていただきました。

絹本、共箱 「洛西 花能寺図」

各季節、「花の寺」と呼ばれるお寺は京都には沢山ありますが、桜といえば、洛西 天台宗 勝持寺。

鳥羽上皇に仕えていた北面の士、佐藤藤兵衛義清が保延6年西暦1140年、この寺に於いて出家し、西行と名を改めて庵を結んだのも
この場所です。

西行は、隠遁の生活の慰めとして一株の桜を植えて吟愛したと言われ、世人はその桜を西行桜と呼ぶようになりました。

西行の桜好きはご周知の通り、また「西行桜」というお能も大変有名です。


都の外れ、西山にある西行の庵は桜の美しいことで有名でした。毎年、花見の客が訪れ、にぎわうのですが、庵主の西行は、静かな隠遁生活が破られることを快く思わず、能力(従者)に花見を禁止する旨を周知させるよう命じます。ところが、禁止令を知ってか知らずか、都の花見客が訪れ、案内を乞うてきました。西行も無下に断れず、庭に入るのを許します。

しかし静かな環境を破られてしまったという思いから、「花見んと群れつつ人の来るのみぞ、あたら桜のとがにはありける(花見を楽しもうと人が群れ集まることが、桜の罪だ)」と歌を詠みました。

その夜、西行が桜の木蔭でまどろんでいると、夢の中に老人が現れました。老人は、草木には心がないのだから、花に罪はないはずだ、と先ほどの西行の詠歌に異議を唱えてきます。西行は納得し、そういう理屈を言うのは、花の精だからであろう、と老人に語りかけました。老人は、自分は老木の桜の精であり、花は物を言わないけれど、罪のないことをはっきりさせたくて現れたのだと明かします。桜の精は、西行と知り合えたことを喜び、都の花の名所を紹介し、春の夜の一時は千金に値すると惜しみながら、舞を舞いました。

やがて時は過ぎ、春の夜が花の影から明け初めるなか、西行は夢から覚め、桜の精の姿は、散る花とともに静かに、跡形もなく消えていきました。











お軸の向かって右側に描かれた桜の大木が、西行桜。






勝持寺の鐘楼堂の横の西行桜は現在、三代目に当たるそうです。



渓仙の才能は、横山大観をして「千人に一人の逸材」と言わしめたことで良くわかりますが、
この「花の寺」という作品では特に、渓仙の思想、世界観を十二分に楽しむことができると思っています。


禅画、仏画にもその研究を広げ、旅にその生涯を費やしたとされる渓仙が、西行桜、つまり出家した西行の心境について
想像できなかったことはないだろうと考えています。

「桜に託す西行の思い」に寄り添うということです。


けれど、渓仙はあえて「桜を植えた西行の心」にはここでは触れず、

どちらかというと、先ほどの能の「西行桜」に現れた老木の精の心境に近い立場でこの作品を描いたように思えるのです。

夢に現れた老木の精は西行に

「非常無心の草木に浮世の咎はなし」と言い、「煩わしいと思うもまた人の心」と伝えます。


桜という春の花に、人の一生を重ねてみてしまうのも独りよがりな人の心。

人が人の世を煩わしいと思ってしまうのも、また独りよがりな人の心。




(冨田渓仙)



冨田渓仙の答えはいつも明快です。





桜の季節にもまだ咲く「椿」の赤の明るさと可愛らしさ。






ただひたすらに咲いて、次々に散っていく桜の季節はまだ肌寒く、
その大木の元には小さな焚き火を囲んで、子供と母親(今の私の心境からすると
これは孫たちとおばあちゃんであってほしいのですが)が微笑ましく描かれています。


桜は桜。

何千年を生きる大木のもとにあって、結局人は小さな小さな営みを繰り返し、
ほのかに温かい情愛を交わすのみ。

けれど、その微かな愛情、温かみこそ、人を人たらしめる答えそのものなのではないでしょうか。








軸の上方から下方へ。


西行はここに?と思えるような、幽玄な春の空と月。

遥かな山の優しい稜線。

西行桜の逞しい枝振り。

リズムを持って描かれる寺の屋根と塀。

そして、椿と桜並木。

人。




渓仙の作品の世界に触れ、心を奪われてしまうと、もう他の作品を持とうという気にはなれないというのが
本当のところのような気が致します。

喉から手が出るほど、私の欲しい作品ですが、これを持ってしまうともう全く仕事をしなくなってしまいそうなので
我慢をしなくては!と思っています。

ソメイヨシノのちり急ぎ〜5月にかけて、また展覧会ができれば良いと思っています。

渓仙の作品もいくつかご覧いただけるように頑張ります。





冨田渓仙 軸 「洛西 花能寺図」 絹本 共箱 
東京美術倶楽部鑑あり  ☆彡

大きさ 127.4×35.4㎝
軸全体 212×54.5(軸先)㎝






















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冨田渓仙 軸 

2023年01月27日 | 冨田渓仙
店内の展示も少し移動させました。







まず新しい作品のご紹介を。

何度かご紹介させていただいています冨田渓仙の「三雅」と同時期に仕入れました同作家の作品ですが、初見のこの作品に対する印象が薄く、店内での展示は控えておいた方が良いかな?と二人で話しておりましたが、今日きちんと見る気になって、箱から出してギャラリーに飾ってみますと、とても良い作品でびっくり致しました。

水墨画らしい、水墨画。
渓仙の懐の深さがよくわかる作品だと思います。













ザ!渓山人 









しばらく眺め、楽しませて貰おうと思っています。




冨田渓仙 軸 上賀茂雨ノ図 絹本 共箱 

作品サイズ 51×45.5㎝
軸全体   134×134㎝





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冨田渓仙

2022年12月10日 | 冨田渓仙
冨田渓仙の新しい作品のご紹介を致します。









「三雅」






鑑定は渓仙の奥様の芳子。

箱書きは、珍しく小林古径がしています。

「三雅」は梅の枝と籠の中のゆずのような柑橘類と後は多分筍ではないかと思うのですが、
ちょっと縮尺が合わないかな?と思ってみたりもしています。











どなたかお分かりの方がいらしたらぜひご意見をお聞かせください。








それにしても、この籠の形といい、取手の部分といい
そして何と言っても梅の枝ぶりといい、画面の緊張感と脱力感というのでしょうか?
力の抜け具合が抜群にいい感じです。

⚽️アルゼンチンのメッシのコロコロって転がるあのシュートのようです。
「あぁ〜」と納得してしまう、あの余裕です。




渓山人という画家の当時の評価を証明するような中村鶴心堂の二重箱に入った作品です。


やはり渓仙作品がいくつか手元にあるととても豊かな気持ちになれる私たちです。

お安くなってしまったことを嘆くより、できるだけ多くの皆様に冨田渓仙の作品をお楽しみいただけるよう
ご紹介を続けていきたいと存じます。





冨田渓仙 軸 「三雅」 絹本 芳子鑑 古径箱 東京美術倶楽部鑑定書
385,000

画面サイズ  37.5 ×41.5㎝
軸全体のサイズ 135×59㎝











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冨田渓仙 軸 2点

2018年12月20日 | 冨田渓仙


今年は冨田渓仙の作品を多く集めさせて頂きました。

かといって、まだまだ皆さまにお求め頂く機会は少ないのですが、まさに「自己満足の世界」で大変満足致しております^^;

今回は「雪」を二題。

竹林残雪 と 兎道春雪図 です。

雪を描き分ける。

しかもこの早い筆の運びの中に構図、墨の濃淡、余白、色彩に色々な配慮、技法を取り入れ、日本の冬から春の季節の移り変わりを見事に表現しています。

 






竹林残雪 では、山々にまだ雪を深く残しながら、空に高く伸びようとする竹が決して積雪を許さず、雪を次々に溶かし、それを川に勢いよく流していく印象を..

 

 

 






兎道(うじ)春雪図では、、京都宇治の山深い寺院の屋根を、春の水分を多く含んだ雪が少しづつずれ落ち始めている様子を

紙の素地の白を活かして表現しています。

画面の一番下、川の薄い青はとても綺麗で、竹林図の川と比べ、その流れは穏やかです。

 

 

 



空の明るさ、雲の流れ方、山の高さ、植物の植生、建物の美しさ、川の傾斜、水量、雪の質感、働く人の命、
全てを教え、私をこの場に誘ってくれる作品たちです。




特に春雪図の表装は、中村鶴心堂さんによるもので大変美しく、重厚感があり、56歳という若さで他界した渓仙という画家が、その短い生涯にいかに立派な境地に辿りつき、広く画壇で活躍をされていたかをよく伺える手当が施されています。



こうした作品を眺めることの楽しみ、ウキウキ感を、お若い世代の皆さまにお伝え出来れば私たちも画商として一人前であろうと思いますが、まずこうして事あるごとにギャラリーに作品を飾り、小窓の外から、またお立ち寄りくださる皆様に作品をご覧に入れることが大切だと感じています。

クリスマスのイルミネーションの美しい名駅、栄辺りのお散歩のあとに、どうぞ東区高岳の小さなギャラリーの小窓を

少し覗いていただけましたら幸いです。


※納品のため、竹林残雪図の画像を削除させていただきました。



 

 

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