愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

からだの初期化を試みよう 36 アローン操体法 余話-3 運動と認知能-1

2016-04-15 17:05:31 | 健康
数年前に『脳を鍛えるには運動しかない』 (2009、野中香方子 訳、NHK出版)という衝撃的な書名の本が出版されました。ジョン J. レイテイー(米国・ハーバード大、医学部臨床精神医学准教授、医学博士)の著書『SPARK The revolutionary New Science of Exercise and the Brain』の翻訳書である。

これまでも運動と脳活動の関連について、興味がないわけではなかった。しかし巷間で語られる断片的な話題の域を出るものではなかった。

たとえば、ジョギングを楽しんでいると、しばらく走った後、フンワリと気分が快く感じられる時期が来る。これは運動により血中にモルヒネ様物質が増えるためである とか。またはピアノ練習をやっている子、あるいは、運動をしている子は、学業成績が良いようだ、とか の類であった。

上記の書物の出版を機に、運動と脳活動の関係が、一般人にとってもより具体的な形で想像できるようになったのではないでしょうか。筆者もその一人である。近年は特に、高齢人口の増加に伴い、世の認知能に関する関心も高まっています。運動を積極的に勧めている者の一人として、これは避けては通れない話題であると言える。

脳の働きについては、筆者にとっては、やはりブラックボックスであることに変わりはない。しかし、少なくとも、運動と脳活動、特に“認知能”との関係が、身近に語らなければならない話題となったことは確かである。

これまでは運動を、主に“フィットネス”、すなわち、“身体を鍛える”あるいは“体調を整える”という肉体的な面での健康の維持・向上に目を向けてきました。これからは“認知能”を高める という視点も、「頭の片隅に」ではなく、常に念頭に置いて運動を実践していく必要があるように思われる。

詳細な専門的事項は専門家に委ねて、運動とその結果、脳で起こっているであろう変化、特に認知能との関係を、上記書を参考に、先人たちの研究成果を基に、素人なりに思い描いてみたいと思います。

ここでは “運動”と“認知能”との関係を整理しやすいように、仮に“脳”を描画用のキャンバスに例えます。絵を描くには、さらに絵の具や筆等々、多くの材料が必要です。どのような絵を描くか決めるのは“本人”の意思であり、“運動”は、キャンバスの状態を整え、また必要な材料を調達するのに一役買っていると想像します。

一方、認知能を考える上での鍵となる事柄は、“学習・記憶”であり、さらには“蓄えた記憶の呼び出し”であろう。これらの鍵となる事柄が綾をなして一幅の絵ができる と想像をたくましくして、思い描いていきます。
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からだの初期化を試みよう 35 アローン操体法 余話-2 ウオーキング-5

2016-04-06 15:07:04 | 健康
散歩は、最も身近で、時間に縛られることなく、いつでも実施できる運動として多くの人に親しまれています。普段の運動不足の解消に、有酸素運動の一つとして、「一日一万歩」以上を目標に歩数を増やすとか、または歩行速度を上げるなど、各個人の意思で、自由に対処されています。

一方、高齢化が進む中で、歩行時に足先で物に“つまずく” ことが心配されています。足先を挙げる前脛骨筋が弱っていることも“つまずく”原因の一つでしょう。しかし先に触れたように、普通の歩き方では、前脛骨筋が十分に鍛えられているとは思われません。

そこで散歩を、有酸素運動としてだけでなく、物に“つまずく”機会を減らすことにより健康運動としての意義を高めることはできないか と思いを巡らしているところです。その第一歩として、前脛骨筋を意識的、かつ積極的に鍛えることを念頭に、二つの新歩行法を前回提示しました。

ただし、現在、新歩行法の実践者は、筆者のみである。読者も試行して頂き、それらの利点、欠点など聞かして頂けると有難く思います。以下、ご参考までに、両新歩行法について、筆者の体験から気のついた点を挙げます。

§ “つまずき”の可能性
通常の歩行で、遊脚相で足を運ぶ際、足底と地面との距離が意外と小さいことは、筆者自身驚きの発見であった。アスファルト舗装の平坦な道路であることに助けられて、ほとんど“つまずく”ことなく、無事に過ごすことができているようです。

前脛骨筋を鍛え、足の爪先が地面からできるだけ離れるような工夫が必要であろうことが痛感されます。

新法1でも、体軸の点に来るまでの遊脚相では、足の爪先が十分に上がっているとは言えないようです。しかし体軸を過ぎた後、爪先は踵着地まで高く保たれており、“つまずき”の機会を減らすであろうことは期待できます。

新法2は、全遊脚相を通じて、足部が地面から十分に離れており、“つまずき”を防ぐという点では最良の歩行法と言えます。

§ 有酸素運動として
歩行時に動員され、主として働く筋が多くなり、また積極的に動きが大きくなれば、仕事量が増えて、有酸素運動としての効果は大きくなる筈です。したがって、本項で提示した歩行法について言えば、「通常の歩行<新法1<新法2」の順に効果は大きくなることは想像されます。

新法1では、長距離を歩くと、下腿の前方に負荷が掛かっているとの感じがある意外、からだ全体として、さほど負荷が高まったということは感じられません。あとで触れるように、同距離を歩くに要する歩数は通常の歩行とほぼ同等でした。比較的容易に散歩を継続することができます。

新法2について、写真で示したような、足をかなり挙げる歩法では、軽いジョギングとほぼ同等のエネルギー消耗ではないかと考えられます。たとえば、真冬の早朝、寒冷の中でも、10分ほど歩行を継続すると、全身がかなり汗ばんできます。

ただし、新法2とジョギングでは明らかに違う点があります。軽いジョギングとは言え、踵着時の際、踵に対する衝撃はやはり大きい。しかし新法2では、さほど衝撃を感じません。その点、新法1で歩行の途中に、時に数分間新法3を差し挟んでいくことで、運動量を増やしていくことは有用と考えられます。

§ 姿勢との関連
散歩の際、合わせて“前かがみ”/“腰曲がり”の姿勢を矯正することも目標に掲げています。その点から見ると、新法1で問題はないようであるが、新法2は注意が必要と思われます。

新法1では、自然に上体を後方に反らそうとする力が働くようです。蹴り出した後、足先を直ちに前方へ前進させようとする“意図”があるためであろう。サッカーボールを蹴ろうとするとき、上体を後方に反らして、足を蹴り出す補助の力とすることと同じ理屈と考えてよいでしょうか。

一方、新法2では、蹴り出した直後に足を上に挙げる動作があり、その際に上体が“前かがみ”となる傾向が感じられます。特に、緩やかな傾斜とは言え、登りの続く箇所ではその傾向が強く、上体を直にする意識を強く持つ必要があるように思われます。

§ 歩行歩数
同じ距離を走破する歩数についてみれば、新法3については、いまだ検討していませんが、新法1では、通常の歩行とほとんど変わらないようです。たとえば、通常の歩行で4,145歩の距離を、新法1の場合、4,121歩でした。

§ 理想的な歩行法
目標は、有酸素運動としての効率を高め、さらに“つまずき”の危険性をできるだけ低くした歩行法を考え出すことにあります。

提示した新法3は、写真では足の運びがやや強調し過ぎです。その歩法の趣旨は活かしながら、遊脚相の期間中、足の高さを路上の障害物を跨ぐに十分な高さに保つよう工夫を重ねるならば、目標は達成できるでしょう。足を挙げる適切な高さは、日常の散歩で経験を積み、体得していくことが“王道”と言えるでしょうか。

高齢化が進む中、 “脳を活性化し、認知能を高める” という面からの散歩の意義がよく話題に上がります。続いてその点を考えてみたいと思っています。
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からだの初期化を試みよう 34 アローン操体法 余話-2 ウオーキング-4

2016-03-23 14:37:50 | 健康
前回触れたように、歩行運動にあっては、大殿筋、腸腰筋、大腿四頭筋、腓腹筋および長拇趾屈筋などが主に働いていることを示しました。これらの筋が特に鍛えられていることを意味しています。さらに言い換えれば、これらの筋に掛かる負荷は大きく、疲労の程度も大きいことを意味しています。

これに対して、下腿前面にあって、足が踵着地に近づくにつれて足首を背屈させ、足先を挙げる働きをしている前脛骨筋は、さほど負担が掛っているようには見えません。

実際上、前脛骨筋は抗重力筋の一つとして、身体を安定した直立姿勢に保つのに重要な役割を果たさなくてはならない筋です。また前脛骨筋が弱くなると、足先を挙げる働きが弱まり、歩行時に物につまずく機会が増える危険性があります。

これらの点を考慮に入れて、前脛骨筋の鍛錬に、また有酸素運動としての意義を高めるのに役立つような歩行法を検討しています。二つの歩行法を紹介しますが、記載の便宜上、以下、新法1および新法2とします。

結論を先に言うなら、一般的な運動目的の歩行では新法1を、さらに有酸素運動としての意義を高めた運動としての散歩では、新法1を基本にしながら、歩行の途中に、新法2を適宜挟んで行くとよいのではないかと考えています。

新法1の趣旨は、大地を蹴って前進する際、足が地を離れるとすぐに、意識的に前脛骨筋を働かせて、足首を背屈させることにあります。以下その様子を写真で見ていきます(写真1)。

写真1 通常の歩行法(上列)と新歩行法1(下列)

写真1では、上の列に通常の歩行、下の列には意識的に前脛骨筋を働かせた場合の新法1を、ほぼ同時点で両者対比させて示してあります。右足の蹴り出しから踵着地までの一歩の歩行運動の過程です。

いずれも普通の速度で歩いています。右足の足首の背屈の具合、地面と足底のなす角度、足先の地面からの距離などに注意して、上下の写真を比較しながら見てください。

足を蹴り出したのち、早い時期の足の部分の状態(写真1-b)は、両歩行法で見かけ上大きな差はありません。しかし下列の新法1では、上列に比べて、下腿に対する足の部分の角度がやや直角に近くなっているように見えます。前脛骨筋が働き出した時期に当たるでしょう。

足が体軸の位置に来たとき(写真1-c)、通常の歩行では踵はなお高く、足先が下方に向いています。新法1では、足底が地面とほぼ平行となっています。以後は、踵着地に至るまで(写真-d, e)、新法1では、足先の上向きの程度が明らかに高く維持されており、また下腿と足部とのなす角度を見ると、前脛骨筋が働いていることがよくわかります。

写真2は、新法2を示しており、やはり右足の蹴り出しから、踵着地までの一歩の過程です。足を蹴り出したのち、すぐに膝を大きく曲げて足を高く挙げます。さらに足部を高く挙げつつ、足首を背屈させて、足部を前に運び、踵着地点に至るような歩行法です。遊走期の足の運びが大きくなり、放物線を描くようにして踵着地点に達します。

 写真2 新歩行法 2

足の軌跡を見る限り、新法2では、ちょうど自転車のペダルを踏んでいる状況に近い足の運びです。しかし両者での下肢の筋の働き具合は、まったく違います。

ペダル踏みでは、ペダルに置いた右足が地面を離れて上がり、頂上(写真2-cの地点に相当する)に達するまでは、左足が力を入れてペダルを踏み込んでいるので、右足は力を抜き、ペダルの上で休憩している状態です。その後、右足に力がいっぱい入り、ペダルを踏み込んで自転車の前進を促進します。

下肢筋の実際の働き具合について、ペダル踏みと新法2、また新法2については、新法1とも比較しながら見ていきます。

写真2-aから2-cに相当する期間では、ペダル踏みでは、先に述べたとおり、右足はほとんど仕事をしていません。新法2では、足を蹴り出すために、腓腹筋と長拇趾屈筋が働き、また足をより高く挙げるために、膝をかなり曲げます。すなわち、大腿部後方のハムストリングが強く働きます。続いて下肢全体を前方に進めるために、腸腰筋が働きます。

足が頂上(図c点)に達したのちに、ペダル踏みでは、右の下肢筋が最も強く働き、ペダルを踏みこみます。すなわち、大腿部前方の大腿四頭筋の働きで膝を伸しつつ、下腿部後方の腓腹筋が働いて、ペダルを強く踏み込みます。一方、新法2では、大腿部前方の大腿四頭筋が働き出して膝を伸ばし、踵着地に備えますが、特に腓腹筋は働くことはなく、むしろ緊張をゆるめていきます。

足首を背屈させる前脛骨筋の働き具合はどうでしょう。ペダル踏みでは、さほど働いているようには見えませんが、ペダルが頂上を過ぎるなり、直ちに前脛骨筋の働きで足首を背屈させて踏み込む態勢に入ります。

新法2では、蹴り出した直後から意識的に働くようにします。すなわち、蹴り出した直後から、c点を過ぎ、さらに踵着地に至る間働くことになります。その間の足先の動きは、ペダル踏みでは頂上で急に上向きに変えますが、新法2では、遊走期を通じて足先が徐々に“輪を描くような感じ”で変わっていきます。

大殿筋はいずれの歩行法でも、重要な働きをしているでしょう。

以下にペダル踏み、通常の歩行法、新法1および2について、比較的に大きな働きをしていると考えられる筋を整理してみます。

ペダル踏み:大殿筋・腓腹筋・大腿四頭筋
通常の歩行法:大殿筋・腓腹筋・長拇趾屈筋・腸腰筋・大腿四頭筋
新法1:大殿筋・腓腹筋・長拇趾屈筋・腸腰筋・大腿四頭筋・前脛骨筋
新法2:大殿筋・ハムストリング・腓腹筋・長拇趾屈筋・腸腰筋・大腿四頭筋・前脛骨筋

最も身近で、多くの人が実施している散歩ですが、歩行法を工夫するならば、比較的容易に、有酸素運動としての効率を高め、またより安全に抗重力筋の鍛錬に役立たせることができるのではないか思われます。その試みを紹介しました。

続いて、これらの新歩行法で、実際にどのような効用が考えられるか、当初に記した結論に至った根拠を含めて、経験を踏まえて、気のついた点を述べることにします。 

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からだの初期化を試みよう 33 アローン操体法 余話-2 ウオーキング-3

2016-03-11 16:07:29 | 健康
本論に入る前に、“拮抗筋”と“相反神経支配”について触れておきます。

身体各部で、前後または左右のそれぞれ反対側にある筋群は、収縮して働く方向が逆となります。例えば、脚の大腿部で、前側の筋が収縮する場合は膝が伸びるのに対して、後側の筋は膝を曲げるように働きます。このような関係にある筋群を“拮抗筋”と呼んでいます。

“拮抗筋”では、一方が収縮する場合は、反対側が弛緩するように、神経中枢で調節が行なわれています。このような調節を行う神経の働きを“相反神経支配”と表現しています。この調節機能は歩行運動に限らず、スムースな身体の動きを達成するよう、全身で働いています。

一方、立位姿勢を保っているような場合は、拮抗筋同志がバランスを取りながら同時に収縮している状態と言えるでしょう。

コメント子から、図があって分かりやすい とするコメントを頂いています。今後もふんだんに図を入れていくよう心がけて行きます。ただ図が鮮明でない点はご容赦ください。

本論に入ります。なお、同じ方向に働いている筋は、必ずしも一個ではなく、複数の筋の協同作用である場合が多い。以下、図では主な筋(群)を示し、また本文では代表的な一筋名または筋群の総称名で話を進めています。その点を念頭において見てください。

ここでは右脚の動きを中心に見ていきます。写真1は、実際の歩行過程を、写真2は、右脚の外側(左)及び内側(右)から見た図で、腰および下肢の前面と後面にあって、各関節の伸展・屈曲に関わっている筋群を示したイメージ図です。写真2で、前側と後側にある筋群は、それぞれ拮抗筋の関係にあります。
  写真1 歩行運動

 写真2 下肢の主要な筋群

歩行運動について、ここでは下腿部後方にある長拇趾屈筋などの働きによる右足の‘蹴りだし’から始めます(写真1 a)。長拇趾屈筋などの詳細は後で今一度触れます。


蹴りだされた足は、大腿部後方にあるハムストリング(写真1 b及び写真3a)の働きで、膝を曲げて地面を離れます。続いてハムストリングの緊張は保って膝を曲げたままで、下腿全体を前に進めるように骨盤前面にある腸腰筋(写真3 b)の収縮が始まります。(ハムストリングとは、大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋の総称; 腸腰筋とは、腸骨筋と大腰筋の総称)]。
 写真3 大腿部後方および骨盤前面の筋群

写真3以下、図の左側は、実際の筋の様子を、右側は、それぞれの筋の走行(黒太線)と骨面への付着部位(赤表示)を示しています。

右足が遊脚相の中間点を通る前後(写真1 c)から、大腿部前面にある大腿四頭筋(写真1 d及び写真4 c)が収縮を始めて、膝関節を伸展させ、下腿部を前に振り進めます。(大腿四頭筋とは、外側広筋、中間広筋、大腿直筋、内側広筋の総称; 中間広筋は、他の筋に隠れて見えない)。
 写真4 大腿部および下腿部前面の筋群

膝関節が伸びつつ、着地地点に近づくにつれて、前脛骨筋など(写真4 d)下腿部前面にある筋群が徐々に収縮していき、足首を背屈させます。着地直前には、前脛骨筋などの収縮が最大となり、膝が伸びきり、足首を背屈させた状態で踵着地します(写真1 e)。

踵着地の時点では、踵が地面に対して衝突することになります。歩幅が広くまた歩行速度が高ければ高いほど衝撃は大きくなるでしょう。踵着地と同時に前脛骨筋などの緊張は、徐々に和らぎ、足首が底屈していき、衝撃を緩衝するように働きます(写真4d)。

着地以後の立脚相については、写真1で、左脚の動きを参考に見てください。

右足の踵着地後、右脚の前脛骨筋などはさらに緊張を緩めます。足底全体が一様に地面に着き、身体の重心が体軸と一致した時点(写真1 c左足の状態)以後、腓腹筋や長拇趾屈筋など(写真5 e、f)が収縮を強めていき、踵が上がり、身体の重心が足先側に移動していきます。その間、それらの筋群の働きで身体の前進が促進されます。
 写真5 下腿部後面の筋群

それとともに、この立脚相の脚の踏ん張りをもとに、下肢とは反対方向への上体の回旋運動、さらに遊脚相にある脚の前方移動を促進します。終には長拇趾屈筋などの働きで、足の蹴りだしに至ります。

上体の回旋運動には、脊柱起立筋など腰背部および上半身の筋群の働きが大きく関わってきます。上半身の筋群については、別の機会に見ていきたいと考えています。

ここで大殿筋(写真6)の役割について触れておきます。
 写真6 大殿筋

先に触れたように、ヒトは、四足歩行から二足起立・歩行に移行した経歴を持つことから、筋骨格系の構造上、立位では潜在的に骨盤、ひいては上体が前傾する傾向にあります。その上、青壮年の頃から、上体が前かがみとなる傾向にあり、上半身の重みが骨盤を前傾するように働きます。

加えるに、歩行や走行時には、腰の前方にある腸腰筋は、それが付着している骨盤上部および腰椎部の前面を基点にして、下肢を前進させるように作動します。すなわち、骨盤を前傾させる方向へ作動することにつながります。

それらの骨盤および上体を前傾させようとする力に抵抗して、直立時、運動時ともに、骨盤上部を後方に引っ張り、直立姿勢を安定に保つように働いているのが、大殿筋なのです。骨盤部をして身体の礎たらしめているのは大殿筋の働きによるということができるでしょう。

以上、直立あるいは歩行運動で、安定した姿勢を保ち、また前進移動を推進するに際して、大殿筋、大腿四頭筋および腓腹筋などが特に大きな負荷を強いられていることが解ります。それを反映して、それらの筋が強大であることが納得できます。

続いて、より積極的な健康運動としての散歩について考えていきます。
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からだの初期化を試みよう 32 アローン操体法 余話-2 ウオーキング-2

2016-02-18 10:34:06 | 健康
‘歩く’ことは、本来ヒトに備わった能力の一つです。今日、健康増進を目して、積極的に歩く‘散歩’が推奨され、また広く親しまれています。本項では、まず‘歩行’について概観し、さらに健康体操としての‘散歩‘の意義を少しなりとも高めることができれば と一工夫を加えた歩行法をも提起します。

まず、通常の歩行での下肢の大まかな動きを見てみます(写真1)。写真1は、歩行運動の1全歩行周期を示しています。通常の歩行運動では、一方の片足が踵を地につけ(踵着地)、その足が次に踵着地するまでの動きの期間を1周期とします。都合、2歩の歩数に相当します。

写真1:全歩行周期


写真1で実際の歩行運動を見ていきます。右足は踵着地(右:踵着地)後、体重を支えつつ身体を前に進めていきます。その間、その足は‘立脚相’にあります。その途中、他方の左脚は、地面から足先を蹴りだし(左:蹴りだし)、‘遊脚相’に入ります。

左足の踵が地に着き(左:踵着地)、‘立脚相’に入り、体重を支えながら前進する間に、右足は地面を蹴りだし(右:蹴りだし)、‘遊脚相’となります。最後に右足踵が着地(右:踵着地)して、1歩行周期を終えます。

歩行運動で、身体の前進移動を推進する主な力は、足の‘蹴りだし’により生じた力、遊脚相での下肢の前方への振れによる慣性力、立脚相にある脚の推進力、さらに全身が前進移動する慣性力などである。

前進移動の推進力は、下肢の働きのみによるのではありません。下肢の動きに歩調を合わせて、全身の各部も前進を推進するように規則的な動きをします。

まず、歩行中は、前進移動を促進するように、上半身が前傾姿勢となります。この点については、余話-1 背伸び(12)の稿も参照して下さい。

さらに、例えば、右足の踵着地後の立脚相では、着地した足部を基点にして、上半身が反時計方向に回旋するよう右腕・右肩を前方に、一方、左腕・左肩を後方に振って、遊脚相にある左脚の前方への振れを加速・促進しています。すなわち、上半身と骨盤以下の下半身は逆方向の回旋運動をして身体の前方推進を助けています。

他方、踵着地の際、踵と地面との衝撃により、前方推進にブレーキが掛かることも忘れてはなりません。その際の衝撃を緩衝する機能も働きだします。

歩行周期のうち、約20%の時間は、両足が同時に地に着いている時期です。しかし残り80%の時間では、左右それぞれ40%宛、一方が遊脚相にあり、他方の立脚相では片足で立つことになります。その間、重心の左右移動を伴い、姿勢が不安定で、身体は左右に揺れます。そこで姿勢を維持するよう平衡機能が働きます。

立脚相での片足立ち期間のほぼ中間で、前方へ移動する重心が体軸と重なる時点では、重心および頭頂が最も高くなります。それはまた片足で身体の重み(‘体重’そのものではない)を最大に受けている時点でもあります。

以上のように‘歩行’運動においては、身体の前進移動の推進、地面との衝撃の緩衝、上下・左右の揺れの抑制等々、総合的な神経・筋活動により、それぞれの機能が統合されて、より平滑な歩行運動が達成されていることになります。

ただ、‘歩行’運動からなる‘散歩’では、身体に掛かる負担のほとんどが身体下部に集中していることが容易に想像できます。特に、一万歩を超すような、運動量の大きい散歩の場合、健康的な「からだのケア」を考える時、念頭に置いておくべきことでしょう。

次回、歩行運動の各相で具体的に動員される筋群・負担の軽重について見ていきます。
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