愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題 445  漢詩で読む『源氏物語』の歌  (五十二帖 蜻蛉)

2024-12-10 14:01:55 | 漢詩を読む

 浮舟の失踪に宇治の人々は大騒動である。右近や侍従は浮舟が入水したものと想像する。周囲の人々は、姫君の真相が暴露されないよう、亡骸もないまま姫の衣類や手道具などを川向の原で焼いて、普通の火葬に見せかけ、葬式とした。匂宮は、貰った文から異常を感じ、使いの者を宇治に送ったが、実情を知ることはできず、また薫は、母宮が病気で、石山寺へ参籠中で、葬儀に立ち会うことはできなかった。

 匂宮は、二、三日失神状態となり、病に伏す。薫は落胆し、不用心な所に住まわせた、自分の非常識に原因があると胸を痛め、家族の後見を約束する。翌月、薫は、宇治を訪ねようと思っていた矢先の夕方、ホトトギスが二声ほど啼く声を聞いた。ちょうど二条院へ匂宮が来ている日であったから、橘の枝を折って歌を付けて、宮に届けた:

  忍び音や 君もなくらん かひもなき 

     死出(シデ)の田長(タオサ)に 心通はば   (薫) 

 匂宮は、意味ありげな歌である と思いながら読み、返歌する。

 蓮の花の盛りの頃、明石の中宮が法華八講を催した。薫は、その5日の朝、几帳の間から氷の一塊を持った女一の宮を見掛けて、その美貌に強烈に惹きつけられる。翌日、妻の女二の宮に同じ装いをさせたりするが、心は慰められない。さまざまな女君との恋の有り様に無常を感じ、薫は、儚く別れた宇治の姫君たちに思いを馳せる。そんな夕暮れ、蜻蛉(カゲロウ)の飛び交うさまを見て、まさに蜻蛉の如き姫君たちであったなア、と薫は独り言つ。

 

五十二帖の歌と漢詩 

ooooooooo     

 忍び音や 君もなくらん かひもなき 

    死出(シデ)の田長(タオサ)に 心通はば 

    [註]〇死出田長(シデノタオサ)または田長鳥(タオサドリ):ホトトギスの異名、“亡き

    人”をも意味する。

   (大意) 君も忍び泣きしているのでしょう、泣いても甲斐のない亡き人に心を通

     わせているのなら。 

xxxxxxxxxxx   

<漢詩>   

 恋恋不舍      恋恋(オモイ) 舍(ス)てられず      [上平声十一真韻]

爾尚偷偷泣, 爾(ナンジ) 尚 偷偷(シノビ)泣きしているか, 

胡為已故人。 胡為(ナンスレゾ) 已故人(ナキヒト)に。 

何其真白費, 何ぞ其れ 真に 白費 (カイナキ)こと, 

倘若尚通神。 倘若(モシ)も尚 神(ココロ)を通(カヨ)わせているとすれば。

 [註]〇恋恋不舍:後ろ髪を引かれる想い; 〇偷偷:こっそりと、人に知られない

  ように; 〇白費:甲斐ない、無駄である; 〇倘若:もしも…なら; 〇神:

  こころ。

<現代語訳> 

  未練 

君はなお忍び泣きしているのか、

どうして 今は亡き人に対して。

何と甲斐なきことか、

もしも猶 心を通わせているとしたなら。

<簡体字およびピンイン> 

  恋恋不舍  Liànliànbùshě 

尓尚偷偷泣, Ěr shàng tōutōu qì,

胡为已故人。 hú wéi yǐ gùrén.    

何其真白费, Héqí zhēn báifèi, 

倘若尚通神。 tǎngruò shàng tōng shén.   

ooooooooo                                                                                                                                   

  薫の意味ありげな歌に対して、匂宮が返した歌:

橘の 匂うあたりは 時鳥 心してこそ 泣くべかりけれ (匂宮)

(大意)昔の人を思い出させる橘の薰る辺りでは ホトトギスよ気をつけて鳴くもの                              ですよ(亡き人を偲ぶかと気を廻す人もあるから)。

 


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