愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題 221 飛蓬-128 小倉百人一首:(後徳大寺左大臣)ほととぎす

2021-08-02 09:50:18 | 漢詩を読む
81番 ほととぎす 鳴きつる方を 眺むれば 
    ただ有明(アリアケ)の 月ぞ残れる 
          後徳大寺左大臣(『千載和歌集』夏・161) 
<訳>ホトトギスが鳴いた方角を眺めやると、その姿はなく、ただ有明の月が残っているだけだよ。(板野博行) 

ooooooooooooo 
夏の訪れを告げるホトトギスの初音を聞かんものと、夜を徹して休まずに待っていて、やっと想いを果たした。即座に声の方向に目を向けたのだが、すでにホトトギスの姿はなく、ただ西の空に明け方の月が残っているだけであった。 

後徳大寺左大臣、本名・藤原実定(サネサダ)(1139~1191)は、平安後期~鎌倉初期の公卿・歌人。右大臣・徳大寺公能の長男、官位は正二位・左大臣。藤原俊成(83番)の甥、定家(97番)の従兄に当たる。漢詩も能くし、詩歌管弦に優れ、教養豊かな文化人だったと伝わる。

七言絶句とした。

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<漢字原文および読み下し文>  [入声六月韻] 
 暁聞杜鵑初吟  暁に杜鵑の初吟(ハツギン)を聞く  
新緑萋萋涼気勃, 新緑 萋萋(セイセイ)として涼気 勃(オコ)り,
杜鵑噭噭初音発。 杜鵑 噭噭(キョウキョウ)として 初音 発す。
立時回首朝声処, 立時(タダ)ちに声せし処に朝(ム)けて頭を振り向けるに,
惟見黎明下弦月。 惟(タ)だ見るは黎明(レイメイ)下弦(カゲン)の月。
 註] 
  萋萋:草木が茂るさま。  勃:盛んに起こるさま、おこる。 
  杜鵑:ホトトギス。    噭噭:鳥の甲高い鳴き声。 
  立時:即座に。      回首:頭を振り向ける。 
<現代語訳>
 暁に杜鵑の初音を聞く
新緑の木々が繁茂し、山から涼気が盛んに起こってくる、
ホトトギスは甲高い声で初の鳴き声を発した。
即座に鳴き声の方に頭を振り向けて見遣ったが、
ただ目に入ったのは、有明の下弦の月だけてあった。

<簡体字およびピンイン> 
 晓闻杜鹃初吟 Xiǎo wén dùjuān chū yín  
新绿萋萋凉气勃, Xīn lǜ qī qī liáng qì , 
杜鹃噭噭初音发。 dùjuān jiào jiào chū yīn fā. 
立时回首朝声处, Lìshí huíshǒu cháo shēng chù,
惟见黎明下弦月。 wéi jiàn límíng xiàxián yuè. 
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ホトトギスは、新緑の深まる初夏に日本に飛来し、夏の訪れを告げる鳥、時鳥と呼ばれるが、その他多くの呼び名がある。一声発すると、すぐに飛び去ってしまうらしい。当歌は、正にその情景である。声を聞いて即座に見遣ったが姿はない と。拍子抜けの感がないでもないが、むしろ一層気になり、余韻を感じさせるようだ。

ホトトギスは、平安時代には、その初音を朝一番に聞くのを楽しみにして、夜明けまで待機することが流行っていたようだ。またその年に初めて聞く鳴き声を忍音(シノビネ)といい、初音を誰よりも早く聞こうと競っていたと。

日本では、古今ホトトギスの和歌が多く詠われ、『万葉集』では153首、「古今和歌集」では42首、「新古今和歌集」では46首あると。平安時代以降も、和歌ばかりでなく、俳句の題材としても多くの歌人に好まれている。

当歌の作者・実定は、3歳で叙爵、18歳に左近衛権中将に任じられ、従三位に叙され公卿に列し、以後順調に昇進を重ねていく。保元・平治、治承・寿永の内乱等々、さらに源・平の争いなど、乱世の中、零落を経験しながらも正二位・左大臣(1189)に至った。

左大臣就任後は、病気がちとなり、1190年、左大臣を辞し、翌年病により出家、法名は如円。同年に薨ずる、享年53。実定の‘後徳大寺左大臣’は、祖父・実能(サネヨシ)が‘徳大寺左大臣’と呼んだのに対する名称である。

実定は、俊恵(85番)の歌林苑歌人をはじめ、俊成、西行(86番)ら多くの歌人と交流を持った。「住吉社歌合」(1170)・「広田社歌合」(1172)・「建春門院滋子北面歌合」(1170)・「右大臣兼実百首」(1178)など多くの歌合や歌会に出詠している。

『千載和歌集』以下の勅撰和歌集に73首入集。家集に『林下集』がある。漢詩も能くし、漢詩と和歌両方が詠じられた『和漢兼作集』(鎌倉中期成立)には漢詩が載る。著書には、治承-寿永年間(1177-85)の行幸に関する記録の抄録『庭槐抄』(別名『槐林記』)がある。
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