愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題352 金槐和歌集  足引きの 山より奥に 鎌倉右大臣 源実朝

2023-07-31 09:16:02 | 漢詩を読む

山の奥に宿があって、そこで隠れ棲んでいると、“時の流れが止まってしまう”、このような棲家に住んでみたいものである と。一見、子供じみた空想の世界であるように思えるが、人間の本質に触れる根源的な想いの歌ではなかろうか。

 

oooooooooo   

 (詞書) 老人憐歳暮 

足引きの 山より奥に 宿もがな 

  年退(ノ)くまじき 隠家(カクレガ)にせむ  (金槐集 冬・583) 

 (大意) 山の奥に宿があるとよいなあ。そこでは年が過ぎ去って行くことがなさ

  そうだから、隠れ住みたいものである。 

  註] 〇足引きの:“山”の枕詞; 〇宿もがな:宿があって欲しい; 

  〇年退(ノ)くまじき:年の去って行きそうもない。 

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<漢詩> 

 歲暮懷     歲の暮に懷(オモ)う    [下平声九青韻]

足曳深山裏, 足曳(アシビキ)の深山の裏(ウチ), 

子欲隠野亭。 子(シ)は 野亭(ヤテイ)に隠(カクレ)住まんと欲す。 

寧為心好独, 寧(イズ)くんぞ 心 独(ドク)なることを好む為(タメ)ならんか, 

直据想年停。 直(タ)だに年の停(トドマ)るを想うに据(ヨ)る。 

 註] 〇足曳:“山”の枕詞; 〇野亭:粗末なあずまや; 〇年停:年が去り

  過ぎていくことなく、止まっていること。 

<現代語訳> 

 歳の暮に思う 

深山の奥で、 

私は、棲家があったなら 隠れ住みたい思っている。 

独りになりたいということではない、

そこでは 年の去りゆくことがなく、止まっていると想えるからである。 

<簡体字およびピンイン> 

 岁暮怀       Suìmù huái

足曳深山裏, Zú yè shēn shān li,  

子欲隐野亭。 zi yù yǐn yě tíng.    

宁为心好独, Níng wéi xīn hǎo dú,  

直据想年停。 zhí jù xiǎng nián tíng.   

oooooooooo   

 

実朝は、“人の老い”とか“時の流れの速さを実感させる歳の暮”の頃を主題にした歌を比較的多く詠っている。掲歌はその一つで、ここでは、時の流れが止まる世界、恐らくは“不老不死・永遠の生命”が叶えられる世界が山の奥にあるなら と。

 

“不老不死・永遠の生命”を保つことは、人間の根源的な願望と言えよう。叶えられるか否か の論はさておき、誰しもが胸の奥に密かに仕舞い込んでいる“想い”ではなかろうか。このような“想い”を率直に歌にする、実朝の真骨頂でしょう。  

 

下記の歌は、実朝の歌の本歌であるとして挙げられている。実朝の歌の世界は本歌に比して、途方もなく広く深いように思われる。 

 

み吉野の 山のあなたに 宿もがな 

  世の憂き時の かくれ家にせむ 

     (読人知らず 『古今集』 巻十八・雑下・950)  

 (大意) 吉野の山の向こう側に宿があったらいいのに、世の中が嫌になった

  時の隠れ家にするのに。 

コメント
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