愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題344 金槐集  住吉(スミノエ)の 岸の松吹く 鎌倉右大臣 源実朝

2023-07-03 09:16:07 | 漢詩を読む

歌仲間の皆さんとの和歌会で、「松風に和するように沖の白波が寄せ来る」という歌題で詠まれた一首です。この話題は、古今集に収められた凡河内躬恒(オオシコウチノミツネ)の歌の主題であり、先人の歌を本歌として、作歌を競っている情況が伺えます。

 

ooooooooo  

 [詞書] こえうちそふる沖つ白波といふことを人々の 

    あまたつかうまつりし次(ツイデ)に 

住吉(スミノエ)の 岸の松吹く 秋風を 

  たのめて浪の よるを待ちける (金槐集 566) 

 (大意) 住吉の松に秋風が吹くと波が声を添えるというのだから、岸の松に秋

    風が吹くのを頼みにして波のうち寄せてくるのを待つとしよう。

  註] 〇つかうまつりし:つかまつりし、つくった; 〇秋風をたのめて:秋

    風を頼りにして。

xxxxxxxxxx  

<漢詩> 

 等沖白波   沖白波を等(マ)つ     [下平声五歌韻]

聞道住之吉, 聞道(キクナラク) 住之吉(スミノエ)にて, 

松風白浪和。 松風に 白浪 和(ワ)すと。 

靠岸溜溜発, 岸にて松風が溜溜(リュウリュウ)と発(オコ)るのを靠(タヨリ)にして, 

等来沖白波。 沖の白波の寄せ来るを等(マ)つ。 

 註] ○等:待つ; ○住之吉:住之江のこと、ここでは“吉”を“エ”と読む; 

   〇聞道:聞く所によると; 〇松風:松をわたる秋風; 〇和す:合わせる;

   〇靠:頼る、もたれる; 〇溜溜:松風の擬音語。

 ※ 住之吉について:漢詩では、平仄のルールを整えるために“住之江”を“住

     之吉”とした。その根拠は、末尾 [蛇足] を参照。

<現代語訳> 

 沖の白波の寄せ来るを待つ 

聞くところによると、住之江の浜の辺りでは、 

松を渡る秋風の音に呼応して 沖の白波が寄せて来るという。

岸辺で 溜溜と松風が起こるのを頼りにして、

沖の白波がうち寄せて来るのを待っているのだ。

<簡体字およびピンイン> 

 冲白波    Chōng bái bō

闻道住之吉, Wén dào zhù zhī jí,   

松风白浪和。 sōng fēng bái làng .   

靠岸溜溜发, Kào àn liū liū fā,

等来冲白波。 děng lái chōng bái .  

ooooooooo  

 

掲歌の本歌とされる凡河内躬恒の歌は、

 

住之江の 松を秋風 吹くからに

     声うちそふる 沖つ白波  

    (凡河内躬恒 古今集 賀・巻七・360; 拾遺集 雑・秋・1112)  

  (大意) 住之江の浜の松を秋風が吹くと その松風の音に呼応するかの

    ように、沖の白波が波音を立てながら、寄せて来るよ。 

 

凡河内躬恒は、生没年不詳で、第59代宇多帝(在位887~897)および第60代醍醐帝(同897~930)の頃活躍した下級役人、歌人である。紀貫之らと最初の勅撰和歌集『古今集』の編纂に携わっている。三十六歌仙の一人である。

 

叙景歌に優れた歌人と評されている。この歌は、屏風絵に添えた歌とされているが、松風の音や白波の音、また色彩等々、その情景がよく目に浮かぶ歌である。なお、百人一首歌人の一人である(29番、『こころの詩(ウタ) 漢詩で読む百人一首』参照)。

 

[蛇足] “住吉”と“住之江”について:

 

賀茂真淵評:「“住吉”と書いても“住之江”と読む。後世、“すみよし”と読むのは間違いで、昔は“すみのえ”と言っていた。“吉”は“え”のカナ字であり、“日吉”も“ひえ”である(斎藤茂吉校訂『金槐和歌集』 岩波文庫)。

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