愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題345 金槐和歌集  旅3首-1 鎌倉右大臣 源実朝

2023-07-06 10:21:09 | 漢詩を読む

 

zzzzzzzzzzzzz -1 

 

行脚している雲水を思わせる侘しい歌である。実朝の旅と言えば、恐らくは二所詣の旅以外にはなく、独行、ましてや草枕の独り寝は考えられない。想像上の、なりすましの歌であるにしても、青年・実朝の精神生活が言い知れぬ強い孤独感に苛まれているよう思わせる。

 

oooooooooo 

  [詞書] 旅の心      

旅衣 袂(タモト)かたしき 今宵もや 

  草の枕に われひとり寝む 

(金槐集 旅・514; 玉葉集 旅・1192) 

 (大意) 旅にあって、今宵もまた 片方の袂を敷いて 草を枕に独りで寝るのだ。

   註] 〇袂かたしき:片方の袂を敷き 独り寝して; 〇草の枕:草を枕に旅寝すること。

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<漢詩>

  枕草旅寢      枕草(クサマクラ)の旅寢(タビネ)    [上平声十一真‐下平声一先通韻]

超遙遊子頻, 超遙(チョウヨウ)たること 遊子(ユウシ)頻(シキリ)にして, 

今夜亦露天。  今夜も亦た露天に寝(ヤス)む。

在下舖只袖,  在下(シタ)に只袖(カタソデ)を舖(シ)き,

枕草而独眠。  草を枕にして独(ヒトリ)で眠(ヤス)む。

 註] 〇超遙:遥か遠く; 〇露天:野外; 〇只:片方の、対になっているものの一つを数える。

<現代語訳> 

 旅での野宿 

遠く旅に出ること度々あり、

今夜も亦 野外で寝(ヤス)むことになった。

下に袂の片方を敷いて、

草を枕に 独りで寝(ヤス)む。

<簡体字およびピンイン> 

  旅枕草寝     Lǚ zhěn cǎo qǐn   

超遥游子频, Chāo yáo yóuzǐ pín,  

今夜亦露天。 Jīn yè yì lù tiān

在下铺只袖, Zài xià pū zhī xiù,  

枕草而独眠。 zhěn cǎo ér dú mián

ooooooooo 

 

心に染み入る歌ではある。掲歌の作歌に当たって参考とされたであろう“本歌”は特に挙げられていない。この歌は後に玉葉集に撰されている。賀茂真淵は、この歌に○しるしを付している。

 

zzzzzzzzzzzzz -2 

 

やはり草枕で独り寝の歌である。降りた夜露は、孤独な鹿の涙なり と一層の寂しさ、無常観さえ感じられる歌である。実朝の旅行きの歌は、全体的に少なく24首ほどですが、その中で独り寝を含めて、侘しさを主題にした歌が多いようである。 

 

ooooooooo 

  [詠題] 羇中鹿 

ひとりふす 草の枕の 夜(ヨル)の露は 

  ともなき鹿の 泪(ナミダ)なりけり  (金槐集 旅・520) 

 (大意) 旅に出て草を枕に独りで寝(ヤス)んでいると、枕の草に夜露が降りてきた。これは友のいない鹿の涙なのだ。

  註] 〇草の枕:旅枕; 〇ともなき:友のいない孤独な。

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<漢詩> 

   鹿淚         鹿の涙              [下平声十一尤韻]

客人在遠遊, 客人(キャクジン) 遠遊(エンユウ)に在り,

草枕而独休。 草を枕にして 独(ヒト)り休む。

身辺夜露宿, 身辺 夜露(ヤロ)宿(ヤド)るは,

是淚孤鹿流。 是(コ)れ孤鹿(コロク)の流す淚ならん。

 註] 〇客人:ここでは作者本人; 〇遠遊:遠く旅をしている; 〇孤鹿:連れがなく孤独な鹿。

<現代語訳> 

  鹿の涙 

私は遠く旅に遊んでおり、

草を枕に独り横になっている。

身の回りには夜露が降りているが、

これは孤独な鹿が流した涙に違いない。

<簡体字およびピンイン> 

   鹿泪        Lù lèi

客人在远游, Kè rén zài yuǎn yóu

草枕而独休。 cǎo zhěn ér dú xiū

身边夜露宿, Shēn biān yè lù sù,

是泪孤鹿流。 shì lèi gū lù liú

ooooooooo 

 

掲歌では、自らを孤独な鹿に譬えて詠っていると想像されます。さすれば、一見治まりつゝあるように見える世の中にあって、トップに位しながらも、時代に翻弄され、一人彷徨っている青年・実朝像が浮かび上がってくるようである。

 

掲歌は、下記の歌を本歌とした本歌取りの歌とされています。作者・大宰大弐長実こと藤原長実(1075~1133)は、鳥羽上皇(第74代帝 在位1107~1123)の后・美福門院得子の父である。

 

夜もすがら 草の枕に おく露は 

  ふるさと恋ふる 泪なりけり (大宰大弐長実 千載集 巻七・恋385) 

 (大意) 旅の草枕に降りている露は、夜通し、故郷を恋しく思って泣いている私の涙なのである。 

 

zzzzzzzzzzzzz -3 

 

旅に出て草枕で休んでいます。結んだ草枕に降りた露に月影を認めました。きっと爽やかに澄んだ、美玉を思わせる月影で、心が洗われる思いに浸っているよう想像できます。先の沈んでしまいそうな歌2首を読んだ後、救われる思いです。 

 

oooooooooo

  [詞書] 旅の心を 

旅ねする 伊勢の濱荻 露ながら 

  結ぶ枕に やどる月影 

        (金塊集 雑・525; 続古今集 ) 

 (大意) 旅寝をして 伊勢の浜荻を露がおいたまゝ結んで草枕とする その枕の露に 月が映っているよ。

   註] ○伊勢の濱荻:伊勢の海岸に生えている葦(アシ); 〇露ながら:露をおいたまゝ; 〇結ぶ枕:寝る枕の意、草を結んで枕とするところから このように言った。“むすぶ”は“露”の縁語。○やどる月影:枕が露に濡れているから,月光が宿るのである。

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<漢詩> 

   露宿     露の宿     [下平声二蕭韻]

旅夜伊勢地, 旅夜 伊勢の地, 

傲露葦慢搖。 露に傲(オゴ)る葦 慢(ユルヤカ)に搖(ユ)れてあり。 

結茲為旅枕,  茲(コレ)を結んで 旅枕と為(ナ)すに,  

枕上月光瑤。  枕上(チンジョウ)の月光 瑤(ヨウ)たり。  

  註] 〇露宿:草枕; 〇傲:おごり高ぶる; 〇瑤:美玉、すばらしい。

<現代語訳> 

  旅の野宿 

旅の夜を伊勢の地で迎える、 

露を宿した芦 そよ風に緩やかに揺れている。 

その葦を結んで枕にして休むに、 

枕の露に映った月光は美玉となる。

<簡体字およびピンイン> 

   露宿        Lùsù 

旅夜伊势地, Lǚ yè yīshì dì,     

傲露芦慢摇。 ào lù lú màn yáo.   

结兹为旅枕, Jié zī wéi lǚ zhěn, 

枕上月光瑶。 zhěn shàng yuè guāng yáo.  

oooooooooo 

 

掲歌は、実際に旅に出て、その経験を基に詠われたものではなく、次の歌を参考に詠われたとされています。

 

神風の 伊勢の浜荻 折りふせて 

  旅ねやすらむ 荒き浜辺に 

(碁檀越 万葉集 巻四 500; 新古今集 巻十羇旅 911) 

 (大意) 神の風の吹く伊勢の浜の荻を折り束ねて枕とし 旅寝しているのでしょうね、荒々しい浜辺で。

 ※ 妻が旅先にいる夫に 無事を願って詠んで送った一首のようである。

 

 

 [詞書] 荒屋月といへる心を 

やま風に まやの葦ぶき あれにけり 

  枕にやどる よはの月影 (覚延法師 千載集 巻十六 雑上・1019)

 (大意) 山風により荒廃してしまった葦葺きの庵で 枕に夜半の月影が宿っているよ。

コメント
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