愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題354 金槐和歌集  天の戸を 明け方空に 鎌倉右大臣 源実朝

2023-08-07 09:17:11 | 漢詩を読む

夕月夜に月影と雁の群れ、秋の定番でしょうか。此処では明け方の月です。“天の戸”に引っ張られて、“明け方”になったのでしょう。時を問わず、群れを為す雁の翼に置く露に月影が映る情景は、想像上の情景ながら、印象的である。

 

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  [歌題] 月前の雁 

天の戸を 明け方空に 啼く雁の 

  翼の露に 宿る月影   (金塊集 秋・221) 

 (大意) 天の戸が開く明け方の空に 鳴きつゝ群れをなして北に帰る雁の群れ、

  翼に置いた露に月影が美しい球のようにきらきらと輝いている。 

  註] 〇明け方空に: “明け”は、天の戸を「開け」と夜の「明け」との掛詞;

  〇翼の露:露にぬれたつばさの上に月が光っているのである。 

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<漢詩>

 月前雁    月前雁    [上平声一東韻]

月西拂曉空, 月は西に 拂曉(フツギョウ)の空,

邕邕雁如弓。 邕邕(ヨウヨウ)と啼きつつ雁の群れ弓の如し。

翅膀降珠露, 翅膀(ツバサ)に降(オ)く珠(タマ)の露,

輝輝月影籠。 輝輝(キキ)として月影 籠(コ)む。

 註] 〇拂曉:明け方; 〇邕邕:雁の鳴き交わす声; ○弓:群れて飛ぶ

  雁の隊形を言う; 〇翅膀:翼、羽; 〇珠露:真珠のような玉の露; 

  〇輝輝:きらきら輝くさま。 

<現代語訳> 

 月前の雁 

月が西の空に傾いている明け方、

雁の群れが鳴き交わしつゝ 弓のような隊形をつくって飛んで行く。 

翼には珠のような露が降りて、

月影を映してきらきらと輝かしている。 

<簡体字およびピンイン>  

 月前雁    Yuè qián yàn  

月西拂晓空, Yuè xī fúxiǎo kōng,   

邕邕雁如弓。 yōng yōng yàn rú gōng.  

翅膀降珠露, chìbǎng jiàng zhū lù,  

辉辉月影籠。 huī huī yuèyǐng lóng

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藤原良経(1169~1206)は関白九条兼実の子、『新古今集』の編集に関与した。同集の“序”を書き、またその巻頭歌の作者でもある。良経のその歌を本歌とした本歌取りの歌を、実朝は『金槐集』で巻頭歌にしている(閑話休題308)。

 

下に挙げる歌は 良経の歌である。実朝はこの歌にも注意を惹かれたのではないでしょうか。実朝の歌の出だしにその影響が窺えます。 

 

    [詞書] 春日社歌合に曉月のこころを  

天の戸を おし明方の くもまより

  神代の月の かげぞのこれる 

    (摂政太政大臣 藤原良経 『新古今集』巻第十六 雜・上・1547)  

 (大意) 天の戸を押し開けると、明け方の雲間から神代のまゝの月影が

  なお残り輝いている。 

 

コメント
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