愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題356 金槐和歌集  恋3首-2 鎌倉右大臣 源実朝 

2023-08-14 09:21:51 | 漢詩を読む

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遠くに赴いた人に送った歌で、xxまでには帰ると約束しながら、まだ顔を見せない、と詰問している歌である。定家本では “恋”の部に収められている。“遠き国へまかれし人”とは、待ち焦がれている恋人の女性でしょうか。 

 

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 [詞書] 遠き国へまかれし人、八月ばかりに帰りまいるべきよしを申して、

    九月まで見えざりしかば、人の許につかわし侍りし歌 

来むとしも たのめぬうはの 空だにも  

   秋風ふけば 雁は来にけり   (金槐集 恋・425)

  (大意) 来ると約束していない、あてにならぬ場合でも、上空に秋風が吹けば

  雁は来ますよ。貴君は八月には帰ると約束しておきながら なぜまだ 

  帰ってこないのですか。  

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<漢詩> 

  責問違約人    違約せし人を責問(キツモン)す    [上平声一東韻]  

雖希来否正誰通, 希(ノゾ)むと雖も 来るか否(イナ)か 正に誰か通(ツウ)ぜん, 

空際非惟指望中。 空際(クウサイ) 惟(タダ)に指望(アテ)にしている中(ウチ)に非(アラ)ず。 

君該識雁誠実動, 君 識(シ)る該(ベキ)ならん 雁の誠実な動きを, 

無約復來共秋風。 約(ヤクソク)無くも 秋風と共に復(マ)た来る。 

 註] 〇責問:詰問する、なじり; 〇違約:約束にそむく; 〇来否:来る

  か否か; ○通:事情に通じている; 〇空際:天空; 〇指望:

  ひたすら当てにする; 〇該:…する必要がある、…すべきである。  

<現代語訳> 

  約束を違えた人を責める 

(雁が)来ることを望んではいても 来るか否かは 誰も知らない、 

天空でさえ(雁の来るのを)当てにしていない。 

だが君は 雁が誠実な行動をしていることを認識すべきである、 

約束をしていなくとも 秋風が吹けば、雁はまた来るではないか。

<簡体字およびピンイン> 

  责问违约人       Zéwèn wéiyuē rén

虽希来否正谁通, Suī xī lái fǒu zhèng shuí tōng.  

空际非惟指望中。 kōng jì fēi wéi zhǐwàng zhōng.  

君该识雁诚实动, Jūn gāi shí yàn chéngshí dòng, 

无约复来共秋风。 wú yuē fù lái gòng qiū fēng.  

ooooooooooooo 

 

掲歌の第一句について、「こむとしも」、「こむとし(年)も」、「来むとしも」および「来む年も」とその表記が 参考にした書籍により異なる。なお、定家本では「こむとしも」のようである。“来む”、“年も”と、漢字を用いることにより状況が特定されて、歌の解釈も異なってきます。 

 

漢詩化に当たっては、「来むとしも」の表記を採り、古語「……としも」(意味:くるだろうと思っていた)と解釈して進めた。少なくとも、「来む年も」は、「翌年」または「来る年も来る年も」と解釈でき、漢詩化に当たって排除した。 

 

 

zzzzzzzzzzzzz -2 

 

秘めた熱烈な恋、打ち明けることが出来ない と悩んでいる様子で、Platonic love といった趣の歌です。ただ、歌題の「名所の恋」と歌の内容との関連について、違和感を覚えますが 如何?漢詩は すっきりと五言絶句に纏めました。

 

oooooooooo 

   歌題] 名所の恋 

神山の 山下水の わきかえり

        いはでもの思う われぞかなしき (金槐集 恋・433) 

 (大意) 心はわき返りながら口に出さず心の中で恋い悩んでいる自分が

  悲しい。  

  註] 〇神山:題「名所の恋」であるから、地名であろう、大和の雷丘を

  いうか; 〇「神山の 山下水の」は、「わきかえり」の序詞; 

  〇わきかえり:心がわき返ること、「水のわきかえる」と掛詞。 

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<漢詩> 

 隱秘熱烈恋     隱秘せし熱烈なる恋    [上平声五微― 四支通韻] 

神山曲水隈, 神山 曲水の隈(クマ), 

噴出泉水奇。 噴出せる泉水(センスイ)奇なり。 

我忍思澎湃, 我 思いの澎湃(ホウハイ)せしを忍び, 

默然何可悲。 默然(モクネン)たること 何ぞ可悲(カナ)しき。 

 註] 〇曲水:曲がりくねって流れる小川; 〇隈:奥まったところ; 

  〇澎湃:水がみなぎり逆巻くさま、わきかえる; 〇默然:黙って、 

  黙然としている; 〇可悲:悲しい。  

<現代語訳>

 秘めた熱烈な恋 

神山の麓の曲がりくねった小川の奥まったところで、

激しく湧き出す泉水は驚くほどである。 

私は 泉水にも勝る、湧きかえるほどの想いを忍び、

口に出せずにいるが、何と悲しいことか。 

<簡体字およびピンイン> 

 隐秘热烈恋   Yǐnmì rèliè liàn 

神山曲水隈, Shénshān qū shuǐ wēi

喷出泉水奇。 pēn chū quánshuǐ .  

我忍思澎湃, Wǒ rěn sī péngpài, 

默然何可悲。 mòrán hé kěbēi.   

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実朝の歌は、下の歌を参考にした歌であるとされています。 

 

人知れず 思ふ心は あしびきの

  山下水の わきやかへらむ (読人知らず 新古今集 巻十一・恋・1015) 

 (大意) 気づかれないまま あなたのことを思っている私の心は 山の麓を

  流れる水が湧きかえるかのように激しく高まっています。

 

 [詞書] 題しらす 

風すさみ 声よわりゆく 虫よりも 

  いはでもの思ふ われぞまされる 

     (読人しらず 拾遺集 巻十二・恋二・751)  

 (大意) 風が寒く吹くので声が弱ってゆく虫、その虫よりも口出さずに

  思い悩む私の方が 辛さは勝っているのだ。  

 

 

zzzzzzzzzzzzz -3  

 

恋人と離れて 旅にあるのでしょう。恋人に想いを馳せて、熱烈な恋情を抱きつゝ、この恋 この先どうなるのであろう と不安に駆られている様子である。若いのである。若い実朝の純な胸の内が推し量られて、微笑ましく感じられます。 

 

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 詞書] 恋の歌

涙こそ 行方も知らぬ 三輪の崎 

   佐野の渡りの 雨の夕暮れ 

              (金槐集 恋・499)

 (大意) わが恋の将来もどうなることやら 行方知らぬは 佐野の渡しの

  雨の夕暮れと同じである。 

  註] 〇三輪の崎佐野の渡り:紀伊の国にある。和歌山県新宮市三輪崎あた

  りでしょうか。○渡り:渡し場、舟などで対岸に渡るための船着き場。  

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<漢詩> 

 恋情難忍     恋情(レンジョウ) 忍(シノ)び難(ガタ)し  [去声七遇韻]   

三輪崎即佐野渡, 三輪(ミワ)の崎 即(スナワチ) 佐野の渡り, 

踮而瞻望雨夕暮。 踮(ツマサキダチ) 而(シカ)して瞻望(センボウ)す 雨の夕暮。 

纏綿懷抱弥難忍, 纏綿(テンメン)たり懷抱(カイホウ) 弥(イヨ)いよ忍び難く, 

淚溢不知其所赴。 淚 溢(アフ)れて 其の赴(オモム)く所を知らず。 

 註] 〇踮:つま先で立つ、待ち望む; 〇瞻望:遠くをみる、展望する; 

  〇纏綿:まつわりつく; 〇懷抱:胸中の想い、(心に)抱く。 

<現代語訳> 

  忍び難い恋心 

三輪の崎の 佐野の渡りにあって、

雨の中 爪先立って遥か遠くを見遣っている 夕暮れ時である。

胸の想いがますます募って、堪えがたい想いに駆られて、

涙が溢れて来るが、この涙は 何処に行くのか 行方を知らない。 

<簡体字およびピンイン> 

  恋情难忍               Liànqíng nán rěn  

三轮崎即佐野渡, Sānlún qí jí zuǒyě

踮而瞻望雨夕暮。 diǎn ér zhānwàng yǔ xī.  

缠绵怀抱弥难忍, Chánmián huáibào mí nán rěn, 

泪溢不知其所赴。 lèi yì bù zhī qí suǒ

ooooooooooooo 

 

実朝の掲歌は、次の歌の“本歌取り”の歌とされています。なお、第2首目・定家の歌も、第1首目・万葉集の歌を本歌とした“本歌取り”の歌である。歌調の面では、実朝の歌は、定家の歌に近いようである。 

 

苦しくも 降りくる雨か 三輪が崎 

   佐野の渡りに 家もあらなくに 

     (長忌寸奥麿(ナガノイミキオキマロ) 万葉集 巻三・265)   

 (大意) 不本意にも降ってくる雨だなあ、三輪の崎の狭野(サノ)の渡しには

  家もないというに。  

 ※ 「家」とは 雨宿りさせてくれる“家”、また妻が待つ“家”でしょうか。

 

駒とめて 袖うちはらふ かげもなし 

   佐野の渡りの 雪の夕暮れ  

 (大意) 馬を止めて見渡しても 袖についた雪を払い落す物陰影すらない、

  佐渡の渡しの雪の夕暮れである。  

    (藤原定家 『正治初度百首』; 『新古今和歌集』 巻六・冬・671) 

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