愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題 441  漢詩で読む『源氏物語』の歌  (四十八帖 早蕨)

2024-11-20 10:06:22 | 漢詩を読む

 宇治の里にも春が巡ってきた。父・八の宮、姉・大君ともに亡くなり、中の君はなお悲嘆に暮れている。そんな折、父の法師・阿闍梨から例年通り、蕨や土筆(ツクシ)が届けられる。阿闍梨の心づくしをこの春は、誰に見せようか、と中の君は涙するのである。

 薫は、匂宮の御殿を訪ね、宮が愛している梅の花の枝を少し折り、手にして宮に逢う。宮はうれしく思いながら、次の歌を薫に贈る:

   折る人の 心に通う 花なれや

     色にはいでず 下ににほえる  (匂宮)

 薫は、困ったことだと歌を返すが、仲のよい貴人二人の冗談ながら散らす恋の火花模様でもある。匂宮は、宇治通いが困難のため、二月上旬、中の君を京へ迎えようと決心する。

 薫は、中の宮の上京の準備に心を配る。中の宮の出発前日、薫は宇治を訪ね、心の中では匂宮に中の君を譲ったことを悔いていた。中の君は、尼になり、宇治に残る弁の君と別れを惜しみ、後悔しつつも上京する。宵過ぎに着いた二条院で匂宮は、ご自身で車から夫人を抱き下ろした。

 陽春の花盛りのころ、薫は、二条院の匂宮を訪ね、語り合った。夕刻、匂宮が参内する頃、中の君の居所を訪ね、今や御簾越しの、取次を使った対話であった。周りの女房たち、また奥から顔を出した匂宮も、あれほど親身になって世話された薫に他人行儀ではないかと、対面の会話を促す。

 とは言え、薫には下心があるのでは との匂宮の嫉妬心も感じられ、中の君は、薫、匂宮の心持を煩わしく思っているのであった。

 

本帖の歌と漢詩

ooooooooo     

折る人の 心に通う 花なれや 

  色にはいでず 下ににほえる  (匂宮)

   (大意) 手折る人の心と通じあっている花なのか、外見には出

    ないが、下に匂っている [顔には出してないが、内心では

    中の君を思っているようだ]。  

xxxxxxxxxxx   

<漢詩>   

  祕懐    祕めた懐(オモ)い   [上平声一東韻] 

看花和折者, 看るに 花 和(ト)折りし者(ヒト), 

心意若相通。 心意(ココロ) 相通(アイツウズ)るが若(ゴト)し。 

外観思不顕, 外観(ソトミ) 思い顕(アラワレ)ず, 

胸裏像似烘。 胸の裏(ウチ)には烘(ヤ)くに像似(ニ)る。 

<現代語訳> 

  秘めたる想い

看(ミ)るに 花と花を折った人は、

心に通じ合うところがあるようだ。

見掛けには思いを表に顕わしていないが、

胸の内には、燃える想いを秘めているようだ。

<簡体字およびピンイン> 

  秘怀        Mì huái

看花和折者, Kàn huā hé zhé zhě,   

心意若相通。 xīnyì ruò xiāngtōng

外观思不显, Wàiguān sī bù xiǎn,   

胸裏像似烘。 xiōnglǐ xiàng sì hōng.  

ooooooooo                                                                                                                       

  薫は、ふざけるように「中の君は、私が貰っておけばよかったのですね」との意をこめて、次の歌を返している:

  見る人に かごと寄せける 花の枝を

    心してこそ 折るべかりけれ 

   (大意)ただ見ているだけなのに言いがかりをつけられる

    ようでしたなら、花の枝は心して折るべきでした。

 

【井中蛙の雑録】

○四十八帖・[早蕨]の薫 25歳春。

 

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