知識ベース経営という観点から「組織」を捉えると、従来とは異なった意味づけがされます。
ここでのキーコンセプトは「場」です。野中氏によると、「場」とは、「知識が共有され創造され、活用される共有された動的文脈」であり、「時空間における環境・組織・個人の相互浸透プロセス」であるとされています。参加者が共有・共感・共鳴(相互主観性)する動的な知識創造の場所なのです。
(p73より引用) 経済学起源のこれまでの経営学においては、組織はつまるところ、契約や資源の集合体であると見られてきたが、知識創造理論においては、組織は互いに重なりあう多種多様な場の有機的配置と捉えられる。・・・企業を組織的構造ではなく場の有機的配置と捉えることにより、組織を組織図ではなく知の流れによって把握することが可能となる。
この組織の捉え方と「スモールワールド・ネットワーク」の考え方を連結すると、知識創造の拡大のヒントが見えてきます。
(p75より引用) たまにしか会わない人など「弱い紐帯」で結ばれた人々は、強い紐帯と呼ばれる緊密な関係性を持つもの同士とは異なり、相手が持っていない情報を保有している可能性が高いため、弱い紐帯を通して得た情報のほうが有用性が高い場合がある・・・強い紐帯は暗黙知の伝達に適しているが、形式知の伝達や新たな情報を探索するには弱い紐帯を使ったほうが効率的であり、遠く離れた場を弱い紐帯でつなぐことにより、組織の知識創造能力を高めることができる。
スモールワールドの世界では「Hub」になるキーマンの存在が肝になります。このHubを通して遠い組織との連携を図るのです。まさに、プロセスを分断した機能別組織を有機的に駆動しようとするための重要なヒントです。Hubがトップひとりだとそれは階層的なピラミッド型組織と同値になります。適度に点在するミドルマネジメント層がHubとしては最適でしょう。
となると、ミドルマネジメント層の活性化が、組織としての成果拡大の重要なポイントとなります。
野中氏は、「トップダウン」「ボトムアップ」に対する概念として「ミドルアップダウン」マネジメントの重要性を説いていますが、現実の企業内の実態において、このミドル層の活性化すなわちモチベーションの向上の実現にはなかなか難しいものがあります。
さて、組織についての考察は、「場」という概念を用いて深化していきます。
本書では、その説明にあたっていくつかの企業の実例が紹介されていますが、その一つが「前川製作所」です。前川製作所では、「独法」という場を有機的に結合して一つの企業体として機能させているとのこと。元社長の前川正雄氏のことばです。
(p238より引用) 「企業が市場と一体化すれば、自ずから企業は重層的になり、重層的な体質と多様な単位集団を有した共同体になります」
この「独法」は、稲盛和夫氏のアメーバ経営にも似たコンセプトですが、アメーバ経営は「生産工程」を細分化しそのユニットに自律性をもたせ、他方、独法は「個社ニーズ」に対応した個別チームに独立性を持たせているという点に違いがあります。
時間軸でとらえると、この「独法」もそれが自己目的化することにより、いわゆる部分最適・分割損というデメリット面が表出してきます。自律分散型の組織のよさを維持しつつ、その弊害を極小化していく営みは、同じく時間軸の中で止揚された形態に組織変遷を続けることにより実現されていくのでしょう。
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