通勤電車の中で読む文庫本が切れたので、妻の書棚から取り出してきました。
先年のNHK大河ドラマは「平清盛」ですが、本書の主人公はその妻時子。武家としての平氏というより、公家としての平氏の盛衰を清盛の妻の目線で辿る物語です。
著者の語る「歴史の綾」の深遠さ、平治の乱の後、頼朝が許されて配流される日のことです。
(p98より引用) それにしても、誰もが経宗、惟方に心を奪われているうち、頼朝がそっと舞台をすりぬけてしまったとは何という皮肉さか。歴史という巨人は時折こうした皮肉をもてあそぶ。してやったりと、「歴史」が白い歯をむきだして嗤っているのに、時子は全く気づいていない。
清盛を中心とした平家興隆も、以仁王の令旨を受けたこの罪人頼朝の挙兵を機に後退・転落の一途を辿ります。
清盛亡き後、平家の棟梁は時子の息子宗盛でした。しかし、この宗盛、技量は父清盛に比べるべくもありません。
(p348より引用) -清盛どのはこうではなかった。
またしても頭に浮かんでくる思いを、時子は、しいて払いのけようとした。もう、この運のなさ、要領の悪さをかれこれ言っている場合ではないのである。せめて最悪の道を逃れるべく、この息子を支えてやらねばならない。そして、その後は、息子の不運に、とことん付き添ってやるほかはない。
なぜに? それはわが子だから・・・
このあたりのくだりは、いかにも永井氏らしい感性の表現ですね。
実は、著者の永井路子さんと初めて邂逅したのは、もう今から40年ほど前になります。私が中学校のとき、学校主催の講演会においでになったのです。
何のお話をされたのか、残念ながら覚えてはいないのですが、穏やかさの中に何か凛々しさようなものを感じた記憶があります。
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波のかたみ―清盛の妻 (中公文庫) 価格:¥ 940(税込) 発売日:1989-02 |