ちょっと前、ブレイクし始めたあたりの池上彰氏の本です。
最近目に見えてプレゼンテーションが雑で下手になってきたと自覚していたのですが、そんなとき、ちょうど図書館の返却棚で目についたので手に取ってみました。典型的な“How To”ものです。
紹介されているアドバイスのかなりの部分はさほど目新しくはなく至極当然のものですが、とはいえ、改めて初心に戻って押さえておくべき指摘もいくつもありました。
本書では、そういうアドバイスが、池上氏の実体験にもとづくエピソードとともに紹介されていくので、よりリアリティを持って受け取ることができます。
たとえば、NHKの「イブニングネットワーク」という番組で、フリーランスの女性アナウンサーと出演してあるニュースを取り上げた際のこと。池上氏は「在宅起訴って何ですか?」という彼女からの質問を受けてショックを受けたといいます。これがNHKのアナウンサーなら、仮によく知らなくてもスル―して知っているフリをしていたんでしょうね。
(p74より引用) いわゆる「世間の人」にとって、何がわからないのか、それがわからなくなっている自分に気がついたのです。いわば「無知の知」を知ったのです。・・・
わかりやすい説明の準備は、相手が何を知らないか、それを知ることから始める。肝に銘じることにしました。
こういうことをきっかけに、池上氏はさらに「わかりやすい説明」のための工夫を重ねていきました。“模型”を使うというのもそのひとつです。
(p84より引用) わかりやすい説明というのは、複雑な物事の本質を、どれだけ単純化できるかということでもあるのです。
そうですね、「単純化」しないと“模型”を作ることはできません。逆に“模型”を作ろうとすると、必然的に「本質は何か?」を追究することにもなるのです。
さて、本書では、こういった「本質的」な内容の指摘に加えて、解説マイスター池上氏ならではの「文章」や「語り」における極めて具体的How To も数多く紹介されています。その中で特に私がなるほどと思ったのが、
「使わないことでわかりやすくなる言葉」「要注意の言葉」
でした。
(p172より引用) 「そして」はいらない
わかりやすく伝えるうえで大事なこと。それは「接続詞」を極力使わないことです。
安易な接続詞の多用は、一見、話が“論理的”に見えるのですが、その実、その話の立論内容を突き詰めてみるとまったく論理的ではない場合が多いとの指摘です。逆説的ではありますが、「接続詞」を使わないように努めてみると返って「論理展開」を明確にすることができるというのです。
そのほか、いろいろなことを話そうとしてつい使ってしまう「ところで」とか「話は変わるけど」といった言葉やそれによるストーリーの迷走、それまでの話を踏まえてまとめに入ろうとして口にしてしまう「こうした中で」とか「いずれにしましても」といった論理の不明確さを露呈するような言い回し・・・、こういった指摘も、まさに池上氏ならではという気がします。
ちょっと古い本ですが内容は陳腐化していませんし、軽いエッセイ感覚でサクッと読めます。お手軽・お得な本だと思います。
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わかりやすく〈伝える〉技術 (講談社現代新書) |
池上 彰 | |
講談社 |